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白の探索者  作者: ニート無職
二章
32/47

観測

 翌日。


 私は管理局の会議室に呼ばれていた。


「嫌な予感しかしません」


「私もです」


 黒城が即答した。


 珍しく意見が一致した。


 扉の向こうから声が聞こえる。


「だから面白いんですよ!」


「面白いで済ませないでください!」


 天宮だった。


 そして黒城のこめかみに青筋が浮いた。


「帰っていいですか」


「だめです」


 即答だった。


 扉が開く。


「来ましたか!」


 天宮が勢いよく立ち上がる。


 机の上には資料が山積みで、管理局員たちが疲れた顔をしていた。


「水瀬さん!」


「はい」


「最高です!」


「何がですか」


「《残雪》です!」


 やっぱり。


 私は少しだけ遠い目をした。


 天宮は構わず続ける。


「《白虹》は隠されたものを見るスキルです!」


「はい」


「では《残雪》は?」


「消えた可能性を再現する」


「そう!」


 天宮が机を叩いた。


「ここです!」


 何がだろう。


 全然分からない。


「普通の探索系スキルは情報取得で終わります!」


「はい」


「でも《残雪》は違う!」


 天宮がホワイトボードへ書き始める。


 白虹。

 残雪。


 矢印。丸。謎の図形。


 五分後。


 誰も理解できなくなった。


「天宮」


 黒城が低い声を出す。


「結論を」


「つまり!」


 天宮が振り返る。


「水瀬さんのスキルは“可能性”に干渉している可能性があります!」


 会議室が静かになった。


「可能性?」


「はい!」


 天宮は嬉しそうだった。


「《白虹》は隠れた情報を見る!」


「はい」


「《残雪》は失われた可能性を見る!」


「そうですね」


「共通点があります!」


「何ですか」


「どちらも“見えないもの”を扱う!」


 黒城が額を押さえた。


「最初からそう言え」


「言いました!」


 言っていないと思う。


 たぶん。


 会議は一時間ほど続いた。


 結論として、分かったことは少ない。


 ただ。


 《残雪》が偶然ではないこと。


 そして。


 今後も新しいスキルが開放される可能性が高いこと。


 それだけだった。


「ということで!」


 天宮が最後に言う。


「もっとダンジョンに行きましょう!」


「それが目的でしたね」


「もちろんです!」


 知っていた。


 午後。


 会議が終わって部屋へ戻る途中に中庭で、ベンチに座っている夢喰いを見つけた。


「何してるんですか」


『空見てる』


 隣に座る。


 青い空だった。


 雲が流れている。


「何か見えますか」


『見えない』


 少し間が空く。


『でもいる』


「そうですね」


 私にも見えていた。


 《白虹》を使わなくても。


 気配だけは分かる。


 遠く、空の向こうに何かがいる。


「近づいてますかね」


『分からない』


 夢喰いは首を傾げた。


『でも前より近い』


 同じ感想だった。


 少しだけ、本当に少しだけ、近づいている。


 その時。


 端末が震えた。


 黒城からだった。


「はい」


『水瀬さん』


 声が硬い。


「どうしました」


『至急、解析室へ来てください』


「何かありましたか」


 数秒の沈黙。


 そして。


『空の観測データに変化がありました』


 私は立ち上がった。


 夢喰いも立つ。


『来た?』


「たぶん」


 黒城が続ける。


『天宮が発狂しています』


「それはいつもでは」


『今回は本当に発狂しています』


 それは大変かもしれない。


 私は夢喰いと顔を見合わせた。


 そして、二人で解析室へ向かった。


 解析室へ入ると、天宮がうるさかった。


 天宮がモニターを指差す。


「見てください!」


 画面には空の観測データ。


 私には意味が分からない。


「何ですかこれ」


「ノイズです!」


「はい」


「空にだけ発生してます!」


「はい」


「問題はそこじゃない!」


 天宮が机を叩く。


「昨日まで存在しなかったんですよ!」


「観測衛星、気象レーダー、管理局の監視網」


「全部です」


「同じ位置に微弱な異常反応が発生しています」


 私は窓を見た。


 空は普通。


 でも《白虹》を使うと見える。あの存在、前より少し大きい。


「近づいてる」


 天宮と黒城が同時に振り返る。


「見えるんですか?」


「昨日より近いです」


 天宮が沈黙。


「最悪です」


 天宮の顔から笑みが消えていた。


「どうしてですか」


「昨日まで人間にしか観測できなかったものが、今日は機械にも映っている」


 天宮がモニターを見る。


「向こうも現実へ近づいている可能性があります」



 煙草の匂いがした。


 振り返ると、いつの間にか男が立っていた。


「よう」


 煙が揺れる。


 白い煙が体全体から流れていた。


「嬢ちゃん」


 私は少し警戒する。


「煙草吸う?」


「吸いません」


「そうか」


「誰ですか」


 男は笑う。


「喫煙家」


 その瞬間。


 解析室が静かになった。管理局員の何人かが顔を上げる。


 天宮が露骨に嫌そうな顔をした。


「ここで吸わないで」


「酷いな」


「煙草臭い」


 黒城が小さく息を吐いた。


「国家滅亡級災害指定対象」


 私は思わず男を見る。


「……え?」


「そんな顔するなよ」


 煙が揺れる。


「今日は大人しいぞ」


 そう言って、喫煙家が窓の外を見る。


 数秒。


 煙が止まった。


 喫煙家の表情が変わる。


「……ああ」


 小さく呟く。


「そういうことか」


「何がですか」


 喫煙家は答えない。


 ただ。


 空を見たまま笑った。


「面白ぇな」


「知ってるんですか」


「いや」


 喫煙家が煙を吐く。


「俺が覚醒した日にはもういた」

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