表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の探索者  作者: ニート無職
一章
3/47

永久喪失

ステータス画面。


 半透明のウィンドウが、視界の前に浮かび上がる。


 名前。


 レベル。


 基礎能力。


 そして。


 【職業:《勝負師》】


 その文字だけが、

 妙に黒く見えた。


 喉が渇く。


 視線を下へ落とす。


 【固有スキル:《BET》】


 指先が、わずかに震えた。

 初めて見るスキル名だった。

 なのに、嫌な予感だけが強かった。


「確認できましたか」


 管理局の男が静かに聞く。


 私は小さく頷いた。


「……《BET》です」


「BET……?」


 男が小さく繰り返す。


 聞き慣れない名称だったのか、

 保健医の先生も眉を寄せていた。


「効果は」


 短い問い。


 逃げ場のない声だった。


 私は息を飲む。


 ステータス画面へ意識を向ける。


半透明の文字列が、ゆっくりと視界へ浮かび上がった。


 ――【《BET》】


 ――自身が所有するあらゆる要素を“賭け対象”として指定可能。


 ――勝利時、賭け倍率に応じ対象を増幅。


 ――敗北時、賭け対象を永久喪失。


「……っ」


 呼吸が止まった。


 永久喪失。


 その四文字だけが、異様に重かった。


「どうした」


 管理局の男の声。


 私はすぐに答えられなかった。


 視線が説明文から離れない。


 その下に、さらに文字が続いていた。


 ――倍率上昇に応じ、敗北確率変動。


 ――現在使用可能倍率:1.5倍


 ――初期賭け対象設定:


 【運命】


 意味が分からない。


 運命?


 スキル説明に出てくる単語じゃない。


「水瀬さん?」


 保健医の先生が不安そうに声をかける。


 私は乾いた唇を舐めた。


「……敗けたら、失うみたいです」


「何を?」


「……賭けたものを」


 その瞬間。


 空気が変わった。


 管理局の男の目が細くなる。


「詳細を」


 声が低い。


 私は説明をそのまま読み上げた。


 静かな保健室に、自分の声だけが響く。


 読み終わる頃には、

 保健医の先生の顔色は少し青くなっていた。


 でも。


 一番変わったのは、管理局の男だった。


 無表情だった顔から、

 わずかに感情が消えていた。


 いや。


 違う。


 これは。


「……一致した」


 小さな呟き。


「え?」


 男はすぐには答えなかった。


 代わりに、

 胸ポケットから黒い端末を取り出す。


 画面へ何かを表示し、

 数秒だけ視線を落とした。


 そして。


「水瀬零さん」


 初めて。


 男が私の名前をはっきり呼んだ。


「あなたを、探索者管理局特別監視対象に指定します」


 背筋が冷えた。


「……監視?」


「危険性判定です」


 淡々と告げられる。


「《勝負師》は、国家指定危険職業に分類されています」


 保健室から、音が消えた気がした。


国家指定危険職業。


 言葉の意味が、すぐには頭に入ってこなかった。


「……危険職業?」


 かすれた声が出る。


 男は静かに頷いた。


「現在、指定されているのは七職のみです」


「七……」


「その大半は、確認例が極端に少ないユニーク職業です」


 淡々とした説明。


 まるで天気予報でも読むみたいな口調だった。


 けれど。


 内容だけが、異様に重い。


「理由は?」


 気づけば聞いていた。


 男は数秒だけ黙る。


 その沈黙が、

 逆に答えを物語っていた。


「被害事例が存在するためです」


 空気が冷える。


 保健医の先生が小さく息を飲んだ。


「《勝負師》に関しては、記録の大部分が封鎖指定となっています」


「……なんで」


「詳細閲覧権限がありません」


 即答だった。


 その言い方で分かる。


 知っている。


 でも話さない。


「ただ」


 男の視線が、

 真っ直ぐこちらへ向く。


「一つだけ、確定している情報があります」


 嫌な予感がした。


 心臓が妙にうるさい。


「初代《勝負師》は、東京第一ダンジョン消失事件の中心人物です」


 理解が、一瞬遅れた。


「……消失事件?」


 聞いたことがない。


 ダンジョン災害の授業でも、

 そんな名前は出てこなかった。


 男は続ける。


「ダンジョン出現から半年後。東京駅地下に存在していた第一ダンジョンは、内部ごと消滅しました」


 雨音が、遠く聞こえる。


「探索者三百二十一名、死亡」


 思わず息が止まった。


     三百人。


 災害級ダンジョンでも、そんな数字は滅多に聞かない。


 喉が詰まる。


「うち、生存者は一名」


 男の目が細くなる。


「職業、《勝負師》」


 背筋に冷たいものが走った。


 偶然じゃない。


 そんな空気だった。


「……その人は、今」


「消息不明です」


 即答。


 けれど。


 そこで男はわずかに言葉を止めた。


「ただし」


 初めて、

 男の声に迷いが混じった。


「当時の記録映像に、奇妙な点がありました」


「奇妙な点……?」


 男の視線が、私の髪へ落ちる。


 静かに。


 ゆっくりと。


「……生存確認後、髪が白く変色していたそうです」


 保健室の空気が凍った。


白髪くらい、もう慣れていた。


でも。


これに“意味がある”と言われるのは、少し違った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ