表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨウカイ荘へようこそ!  作者: 雨の日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

CASE4 ①ぼくのおかあさん


クスクスと子供達の笑い声が聞こえる。

夜中にトイレで目が覚めて部屋を出ていた男は、子供部屋に目をやった。


(こんな時間に…?)


あの部屋には複数の子供が寝ているが、ヤンチャ盛りの子供が集まれば、深夜に起き出して遊んでいても不思議ではない。


子供たちを一喝するべく、男は子供たちの部屋のドアを勢いよく開けた。



――――そして





「あれ?今日の私、めっちゃ盛れてるくない!?」

朝から賑やかにアンがはしゃいでいた。


「やはり、アンさんもそう思います?私も昔から、この鏡で見ると自分が不思議と可愛らしく見える気がするのですわ」

ヒョッコリと横から鏡に顔を映してミランダが言った。


食堂に不釣り合いなアンティークの鏡台が来てから数日。

ミランダが快諾した為、この鏡台はヨウカイ荘の女性陣の身だしなみの場になっている。

といっても、ミランダもアンも椅子に座って髪を梳かすくらいだが。

お妙も時々、椅子に座り髪の乱れがないか確認しているようだ。


「付喪神の仕業かもな。ここに置いてもらう感謝のつもりだろう」

興味なさそうに本を読んでいた蓮が口を出した。


「そんなことが可能なんですの?凄いのね」

「そうなんだ!ありがとね、ツクモカミちゃん!」


キャイキャイと嬉しそうな女性陣の方をを見つめてジョンが

「美しく見える…だけで、実際に美しさが増す訳ではないのでは…?」

と小声で蓮に聞く。


「そうだな。まぁ、喜んでる2人に水を差すのも面倒だ。放置しておこう」

といって、再び興味なさそうに本を読み出した。





「今日から本格的に助手として働くんだろう?ほら、オマケだよ。これを食べて頑張っておいで」


朝食の後、お妙がミランダにこっそりとチョコを一粒渡す。

「アンに見つかったら、全部食べられちまうからね。あの子には仕事から帰ったら渡すから、今は内緒だよ」

そう言って、シーッと人差し指を口に押し当てて言うお妙に

「まぁ、ありがとうございます。いただきますわね」

と言って、ミランダは口にチョコを放り込む。

口の中で、トロリとカカオの香りと優しい甘さが広がった。




ミランダが助手になる決意をしてから1週間。

初めての依頼がヨウカイ荘に持ち込まれた。

依頼主はなんと、この地域を担当する騎士団の警備隊。


「どうしても、通れない道があるのです。この様な怪異を解決してくれると聞いたので…。頼みます。警備隊が見回りを怠ると、地域犯罪の増加の可能性が…」


と、若い騎士が頭を下げたのだ。




「夜にだけ出るヨウカイ?」


太陽も沈んだ薄暗い路地を2人で歩きながら、ミランダが蓮に聞いた。

今回の現場は近場なので、歩いて向かっている。


「むしろ、夜の方が妖怪は活発に動き出す。“夜は墓場で運動会”なんて歌があるくらいだ」

「そうなんですの?お恥ずかしながら存じ上げませんわ。有名な歌なんですの?」


ミランダがそう聞くが、蓮は返事もせずに前を見つめながら歩みを進めた。




蓮は、怪異討伐と銘打って仕事の依頼を受けているが、今のところ“討伐”なんて仰々しい行いはしていない。

起こる事象の原因を解明し、問題を解消することで怪異を収めるのが基本だ。

本人曰く、“討伐”と言った方が受けがいいから言っている、だけらしい。


なので、ミランダもあまり気負わずに蓮の後に続く。

初めて蓮の仕事に同行した時は見学と言われていたし、2度目と3度目は成り行きで着いていっただけだった。

なので、助手として働くのはこれが初めて。


(そういえば助手って、具体的に何をするのかしら?必要な道具を渡すとか?レンさんは、いつも1人でも困ってらっしゃらないわよね?)




「すみません。貴方たちはもしかして怪異討伐の…?」


そう言って、騎士団の制服を着た若い男に呼び止められた。

依頼に来た男とは違うが引き継ぎがあったらしく、蓮とミランダを現場へ案内する係らしい。


「この先に孤児院があるんです。そこを通り過ぎた辺りがおかしくて…」

現場へ向かう道中に、騎士が詳細を説明してくれる。


「おかしい、とは具体的に?」 

「なんて言えばいいか…。透明な壁があるみたい、と言うのかな…?進もうとすると、柔らかい壁にぶつかるみたいな…身体全体がぬかるみに深くハマって抜け出せないみたいな…?」

「場所はいつも同じ?」

「そうッス。俺と今日相談に行った奴が日替わりで巡回担当なんですけど、毎回そこで詰まって…。結局諦めて引き返すんですよね」


おかげで、巡回がままならなくて隊長にゲンコツくらっちゃいましたぁ~。

と若い騎士は頭を撫でて苦笑いをした。




「あっ、ここです」


古びた教会の様な建物を過ぎた辺りの十字路の手前で騎士は止まった。

すっかり日も落ちて、手持ちのランタンの灯りが唯一の光源になっていた。


「この十字路の少し手前が、これくらいの時間から通れないんです。見ててください」


そう言った騎士はランタン片手に前に進む。

そして、強風で前に進めない様な前傾姿勢でグググッと固まる


「ほら!こんな感じになるんです!」


そう言いながら戻ってくる騎士を、ミランダは無視した。

いや、正確には戻ってくる騎士に気づかなかったのだ。


何故なら、騎士が進んで行った先の道が、半透明の壁のような物で阻まれているのに釘付けだったからだ。

その半透明には、短い手足があり、小さな目と口の様な物も付いていたから。

ミランダは驚きでそれから目を離せなかったのだ。


「ほぅ…ヌリカベだな」

蓮が言うので、これは妖怪なんだなとミランダは思った。

「怖い妖怪ですの?」

「基本的には大人しい妖怪だ。こうやって、道に現れて行く手を遮る以外には何もしない。まぁ、迷惑には変わりないが」


なら話は簡単だ。

お仕事の時間である。


「レンさん。どうしますの?ヌリカベさんに道を譲っていただくようお願いしてみますか?」


口があるのだし、話せるのだろう。

そう思いミランダは提案した。


「いや、難しいだろうな。ヌリカベは無口だし、何より頑固だ。ここに現れた理由を探ろう」

「まぁ…それなら仕方ありませんわね」

そう言いつつも、ヌリカベの元へ向かい


「ヌリカベさん、ごきげんよう。私ミランダと申しますの。訳あって、ヌリカベさんにこの道を退いてもらいたいのですわ。何か理由があるご様子ですので、そちらを解決したら立ち退き願えます?」


と宣言した。

蓮は、ヤレヤレと溜息をつき、若い騎士は何もない空間に話しかけるミランダの行動に首を傾げる。

ヌリカベの小さな瞳が、ミランダの姿を捉え、スッと目を閉じた。



その瞬間

「おい!ウルセーぞ!ひとの家の前でコソコソ長話してんじゃねーよ!」

と、古びた教会らしき建物から男が出てきて文句を言う。

それなりに小綺麗な格好に不釣り合いの、顔色の悪い貧相な男だった。


「よぉ。ジャック!すまんなぁ!すぐ行くからよ!」

どうやら騎士の顔見知りらしく、そう声をかけるとジャックと呼ばれた男の怒声も治まった。


「なんだお前だったのか。いや、騎士の巡回なら文句はねーよ。すまなかったな、最近寝不足でイラついちまってさ…」

ポリポリ頭を掻き、そう言ったジャックに

「もしかして、この前のアレがまた…?」

と騎士が聞く。

それにジャックは軽く頷いて

「そうなんだ。ここの所毎晩でよ…参っちまうぜ」

と沈んだ声で言った。


そこで騎士はハッと蓮を見てから、明るい声でジャックに

「なぁ、ジャック!このお方は怪異討伐の仕事を生業にしてる、レン・シラカワさんだ。お前も相談に乗ってもらえよ!な?」

と蓮の背中をバシバシ叩いて紹介した。


「いや、安請け合いはしないんだが…」

と蓮が言いかけ、思案してから続けた。

「一応話は聞こう。さっきの道を阻む怪異と関連があった場合、請求は騎士団に回すぞ」

そう言った蓮に、若い騎士は

「経費で落ちるように、いい感じに報告してくれれば問題ないっす!」

と元気に答えた。



ジャックの出てきた建物に入ると、キャアキャアと元気な子供達の声が聞こえた。


「ここは元教会で、今は孤児院として使っています。元々は教会で孤児を受け入れていたのが、派閥争いの関係とかで司祭が出ていって…。今は残された孤児を俺一人で面倒見てるんです」

「まぁ、お一人で?大変ではなくて?」

思わずミランダは声をあげた。


「アハハ!大変じゃないと言えば嘘になりますが…俺もここの孤児院出身でしてね。子供の扱いは慣れてるんですよ。それに、きちんと申請すれば国から援助もありますし…有難いことに貴族の方からの寄付もそれなりにありますので、何とかなってるんです」

そう言って、応接室の様な場所に通された。

「個室はここしかなくて…すみません」

と言ったジャックに促され席に着く。


「それで?何があったんです?」

「はい。それが……おい!オマエら静かにしねーか!もう寝る時間だろうが!」


話そうとしても、子供達の元気な声は薄い壁をやすやすと突き抜ける。

ジャックの怒鳴り声に、一斉にシーンと静まり返った。


「あの…よろしければ、私が寝かしつけに付き添っていてもよろしくて?子供だけではなかなか寝つけないでしょう?」

居た堪れなくなり、ミランダはそう申し入れた。


「いや、そんな、悪いです」「いえいえ、お気になさらず…」

とやり取りしながら、ミランダは一人部屋を出る。


ヒョッコリと、隣の部屋から子供が一人顔を出す。

ミランダはニコリと笑い

「もうお休みの時間と聞きましたわ。私も疲れてしまったので、ベットのお部屋で休憩してもよろしいかしら?」

と聞いた。


「いいよー」「こっちのお部屋」「一緒に寝るの?」「お姉ちゃん誰ー?」

ミランダの言葉に一斉に飛び出してきた子供達。

見た所4〜8歳くらいの6人の子供達。

孤児院とすれば数は少ないが、一人で面倒を見るには多い数だと思った。


「…そうして、2人は末永く幸せに過ごしました。めでたし、めでたし」

寝物語として、在り来りな童話を話し出すと、最初は訪問者にテンションの高かった子供達も、一人また一人と夢の世界へ旅立って行った。


「もっと、お話ききたい」

寝静まった静かな部屋で、ただ一人寝付けなかった男の子―トムという最年長8歳の子だ―がミランダにねだった。

「あら。ではほかの子が起きないように小さな声で…」


そう言いかけた時、静かに子供部屋の扉が開く。

ジャックが部屋に入り

「すみませんでした、お嬢さん。話が終わりましたので、交代しますよ」

と小声で伝えてきた。


「わかりましたわ。ごめんね、トム。またお話は次の機会に…」

「ヤダ!」


トムが突然大声で拒否した。

その声に、眠っていた数人が目覚め、小さな女の子が愚図り出す。


「おい!ワガママいうな!お嬢さんはお仕事でいらしてんだよ!」

ジャックが、少し声を荒げる。

「ヤダ!もっとお姉ちゃんとお話する!」

「うぇぇぇーん」

「うーん…なに?」

眠っていた子たちも、ジャックとトムの言い争いや女の子の泣き声で起き出してしまっていた。


「おい。何してる」

扉の隙間から様子を伺うように蓮が聞いてくる。

「まだ私と話したいと怒ってしまった子がいて…その声で他の子達も目が覚めてしまったのですわ」

その状態で部屋を出てもいいものか…?とミランダは困惑した様に蓮を見る。



その時

「おかあさん」

と1人の子供が言った。

「わぁ!」「おかあさんだ!」「きてくれた!」

「あそんでー!」

子供たちが口々に言葉にしながら、天井を見る。


寝かしつけのために暗くしていた室内は見通しが悪く、天井は暗闇しか映していない。


いや、何かが…いる?


ミランダは目を凝らして天井を見つめる。

いつの間にか隣に気配を感じチラリと見ると、蓮がそこにいた。

蓮も天井に目を凝らしている。


髪の長い女性が、天井張り付けになっていた。

顔はよく見えないが、腕に何かを抱えている。

あれはー


「赤ちゃん…ですの?」


腕に赤子を抱えた女性が天井に張り付いている異常な光景。

驚きながらも、悲鳴が出なくなった自身の成長をミランダはまだ、気づいていなかった。


女性の長い髪が揺れる。

その揺れる髪を目で追っていくと…


「グッカッ…!」


首に女の毛が巻き付き、締め付けられて息が止まりそうなジャックが目に入った。



「ジャックさん!」


ミランダが慌てて駆け寄るより早く


「クロ!」


と蓮が叫んだ。


大きな黒い影がミランダの横を通り過ぎ、女の毛を断ち切る様に飛びかかった。


ドスン、と首を開放されたジャックが座り込み咳込んでいる。

ミランダはジャックの背を擦りながら、天井を見あげた。

しかし、既にそこには何の姿もなく、薄暗い天井が広がるだけだった。


「大丈夫ですか?」

蓮がジャックに声をかけ、手を差し出す。

その手を取り立ち上がりながら、ジャックは頷いた。


「えぇ、何とか…。ありがとうございます。貴方がいなければ、今頃俺は…」

首を擦りながらジャックが力なく言う。


「先ほどの女性は…ヨウカイですの?」

ミランダが聞くと、蓮が答えるより先にトムが口を開いた。


「違うよ!!さっきのは、ぼくの…!ぼくたちの、おかあさんだよ!」

トムの声に頷く子供達の瞳は、どこまでも純粋に輝いていた。




「あの女が、貴方の言っていた女ですか?」




なんとか子供たちを落ち着かせ、再び寝かしつけてからジャックと蓮、ミランダは応接室へ戻っていた。




「えぇ、たぶん…。今までは、姿を現したり、髪の毛で顔を撫でて起こされたりだけだったんです。それが…」


血の気が引いたままの顔で、ジャックは自身の首を撫でた。


「初めて危害を加えられた?」


「はい」




そこまで話してジャックは黙り込んだ。


生命が危険に晒されたのだから無理もない、とミランダは思い蓮を見た。




子供たちを寝かせるのに席を外していたミランダには詳細がわからない。


説明を求める様に蓮を見た。




チラリとミランダを見て蓮が口を開く。




「では、話を整理します。事の始まりは数週間前、深夜に子供部屋から子供たちの笑い声が聞こえた。起きてしまった子供たちを寝かせる為に部屋へ入ると、円を描く様に座り込む子供たちの中心に大人くらいの人影を見た」


コクリ、とジャックが頷く。




「その影はすぐに消えた為、見間違いかと思ったが、それ以来、女と思われる髪の長い人影を見るようになる。夜に髪の毛が顔に触れた様な感触で目覚めたり…最近は寝ていると身体が硬直して動けなくなり目を開けると女がのぞき込んで見ている、と」


「次は、殺されるかもしれない!怪異討伐の先生!お願いします!助けてください!」




懇願するジャックに蓮は冷静に


「善処します」


とだけ答えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ