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ヨウカイ荘へようこそ!  作者: 雨の日


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3/9

CASE2 ①ガウル家の怪異


「いやぁ~悪いねぇ〜。今は人手が足りてるんだよ」


「うーん。いや、看板娘としては合格なんだけどね。まぁ、なんだ。お嬢さんには他の仕事の方が向いてるんじゃないか?」


「いいねぇ〜。ぜひうちの店で働いてくれよ。仕事内容?オジサンたちと楽しくお酒飲んでさ、ちょっとお触りもあるけど、別にいやらしいお店じゃないよ!若くて可愛い子にはお給料弾んじゃうからさ!」





「と、いうことですの」

「苦戦してるのねぇ~」

ヨウカイ荘に居候して1週間。ミランダは職探しに苦戦していた。

仕事から帰ってきたアンに就職活動疲れの愚痴を吐いているのだ。


話し始めは好感触の店主達も、しばらく話すとミランダを雇うことに難色を示す。

ぜひ働いてくれと乗り気なのは、夜に営業しているお店で、訪れる紳士たちに飲食を提供するものらしいのだが…


「私、夜は10時には眠くなっちゃいますの。お給料も良いし、良い条件なのですが…」

ほぅ、と悩ましげにミランダが息を吐くと

「イヤイヤイヤイヤ…それ、絶対ヤバい店じゃん!エロじじいがお尻とか触ってきてさ、2階が宿泊施設になっててさ…」

「えぇ、確かそう言ってらしたわ。部屋まで紳士方を案内するのも仕事の1つだと」

「ダメー!それミランダは絶対向いてないやつ!百戦錬磨のお姉さん達の仕事!」


全力でアンが反対するので、ミランダもその店で働くのはやめようと思った。

膝に座っていたヨシがミランダを見上げ、デザートのブドウを一粒差し出してくる。

どうやら元気づけようとしてくれているらしい。



「ふむ…ミランダ嬢は所作に気品があり、見るからに貴族令嬢ですしね。他のお店の店主も訳ありと察したのでしょうな。経営者というのは、厄介事を嫌うものです。そう気を落とさないで」


横で聞いていたジョンがミランダを慰める。

正確にはミランダはもう貴族令嬢ではないのだが…そんな事は雇う立場の人間には分かるはずもない。

ヨシから貰ったブドウを食べながら、ミランダはそう思った。


はぁ~とため息をつき、ミランダはチラリと蓮を見る。

ミランダ達がワイワイと騒いでも、我関せずと黙々と食事を食べている。


“働かざる者食うべからず”

“食べた分、きっちり労働で返してもらおうか?”


1週間前のあの日そう蓮に言われ、怪異討伐と言う名の詐欺行為に加担させられた。

あの日から計上して、14食分。着々とミランダの食費という負債が積み上がっているのだ。




「あぁ、そうだ」

とジョンが声を上げた。

「職場の上司の話なんですがね。お嬢さんのマナーの家庭教師を探しているらしいんですよ。ミランダ嬢は男爵令嬢として一通りマナーを学んでいるご様子。もしよろしければ、ご紹介しましょうか?」

「はい!ぜひご紹介お願いしますわ!」


ジョンの紹介なら間違いないだろう。ミランダは安心して紹介を頼んだ。





「初めまして。ミランダと申します」

そう言ってミランダはカーテシーをした。


ジョンに紹介してもらい、直接お宅へ伺うことになったミランダ。

そこはこの前訪れた裕福な庶民層の住む地域、ライドタウンと呼ばれる場所の端にあった。


「初めまして、ミランダ様。わたくしはメリル・ガウルと申します。こちらは娘のメグですわ」

「メグ・ガウルです。よろしくお願いします。」


ペコリ、と頭を下げる7歳くらいの少女。金の髪にブルーの瞳の可愛い子だった。

母親のメリルに促され玄関に通された時、フワリと生臭い香りを微かに感じた。

祖父母が生きていた頃、共に訪れた牧場で触れ合った牧羊犬。

その匂いを思い出す。


(犬を飼ってらっしゃるのかしら?ぜひ後でモフらせていただきたいわ!)

動物と触れ合う機会の少なかったミランダは少し心を弾ませた。



応接間に通されたミランダは、早速メグのマナー指導を頼まれた。

ジョンの紹介なら間違いない、と即日採用されたのだ。


「ティーカップを持つ時は、指はこうすると上品に見えますわ…えぇ、そうです。置くときはそっと、音を鳴らさないように気をつけて…そう、お上手ですわね」

「………、こんなティータイム。全然楽しくないわ。全部に気を遣って、お茶もお菓子も、全部おいしく感じない!」


始めは一生懸命マナーを身につけようと力んでいたメグが、ガチャン!とカップを置いた。

まだ7歳。一気に言われて、集中力が限界を迎えたのだろう。

ミランダは微笑んで、少しの休憩を提案しようと…


「メグ!何言ってるの!貴方のためなのよ!集中しなさい!」

隣で付き添い様子を見ていたメリルが、金切り声でメグを叱責した。

先ほどまで優しく見守っていたメリルの豹変に、ミランダは息を呑む。


「ごめんなさいね、メグがワガママを言って。どうぞ、続けてくださいな」

ニコリ、とこちらに向き直り笑顔を向けるメリルに、ミランダはコクコクと頷くしかなかった。





「と、いうことでしたの」

「へぇ~、教育ママってやつ?」

その日、針のむしろ状態で2時間ほど授業を続けたミランダは疲れ切ってアンに話した。


「確か、メグ嬢は大きな商会の跡取りと婚約が内定したとか。なので、将来苦労しない様にとマナーに勉学にとお母様も必死なのでしょうか。愛ゆえの行為とは思いますが…」

ジョンがそう言ってモノクルを触った。


「えぇー!婚約者!?その子7歳なんでしょ?早すぎじゃない?私なんて、彼氏もいないのに!」

アンの言葉にミランダも頷く。

男爵令嬢であったミランダでさえ、婚約は14の時だった。

富裕層とはいえ、婚約を決めるには早すぎる気がする。


「その子は、婚約に納得してるのかねぇ…。まだほんの子供じゃないか。人生を決めるには早すぎるよ」

普段はこの時間、台所で過ごして会話に加わることのないお妙が、珍しく発言した。

「本当に…。それに、不本意な勉学では身に付くものも身に付きませんもの。」



「ガウル家といったか。ライドタウンの?」

不意に蓮が発言する。蓮はいつも、我関せず、という態度なのに話は聞いているのだ。

「えぇ、そうですわ」

ミランダが答えると、蓮は視線を彼女に向けた。

「その家から、今日依頼文が届いていた。明日は俺も同行しよう。頼んだぞ、助手殿」

黒曜石の瞳が、意地悪く輝いて見えた。





「私は、メグの家庭教師として向かうのです。詐欺行為の片棒をかつぐためではありませんわ!」

ガウル家へ向かう道中、馬車の中でミランダは宣言する。

「それなら歩いて出れば良かっただろう。この馬車は依頼主が出してくれている。乗った時点で依頼を引き受けたのと同じだ」

「ぐうの音も出ませんわ!」


ヨウカイ荘のあるダウリ地区からライドタウン地区までは徒歩で1時間程の距離である。

昨日は乗合馬車で向かったが、運賃が必要と知らなかったミランダは、担保として手元に唯一残っていた銀細工の髪飾りを御者に渡し…帰りは徒歩で帰ってきた。

帰宅してすぐお妙に泣きつき、運賃を貸してもらって乗合馬車事務所で髪飾りは再びミランダの手元に戻ってきたが…


長距離歩行を知らぬお嬢様の足の筋肉は、朝起きると悲鳴を上げていた。

ミランダが産まれたての子鹿の様な足でガウル家へ向かおうと奮闘していたら、蓮が手を差し出し馬車へ乗せてくれたのだ。


説明不足ですわ!とは責められない。前回の依頼の時に、そう説明されていたのだから。


「ところで、ガウル家からの依頼内容はどんなものですの?昨日お邪魔した時には、何も感じませんでしたが…」

「ポルターガイストだ」

「ポルター…?それって、もしかして物が勝手に浮いたりするあの…?」

「それもある。今回は異音がメインだ。夜になると異音が続いて気味が悪いと」

「まぁ、そうでしたのね。それはお気の毒だわ」

夜に怪音がするなど、睡眠の邪魔以外の何物でもない。

夜10時から朝6時まで、キッチリ8時間睡眠のミランダには睡眠を妨げる怪異は死活問題に思えた。





「初めまして。レン・シラカワと申します」

蓮が胡散臭い笑顔で挨拶をする。

「初めまして。メリル・ガウルと申します。……あの、どうしてミランダ様と一緒に…?」

困惑した表情でメリルがミランダを見た。


「レンさんは、私の住む家の大家さんなのですわ。目的地が同じなので同行させてもらいましたの。本日はレンさんの助手もさせていただく予定ですのよ」

不本意ながら、助手として自己紹介する。

「まぁ、そうでしたの。では、こちらへ。応接室で詳しくお話させてください」

そう言って、メリルが背を向け先導した。


「獣臭いな…」

ポツリと蓮が呟く。

「そういえば…犬を飼っているのかしら?とお尋ねするのを、忘れていましたわ」

ミランダはそう答えた。




「その異音はいつ頃から?」

「確か、2週間ほど前から。メグの…娘の婚約が決まって少しバタバタしていたので、気づいたのはその頃です。もしかしたら、それより前からしていたかもしれませんが」

「いつからこの家にお住まいに?」

「もう10年近くなります」

「これまでは、何もなかった?」

「えぇ、何も気になりませんでした。あの、今日中に解決出来ますか?煩くて眠れませんの。私は昼間に睡眠を取れますが、主人は昼間は仕事でしょう?夜に眠れないと仕事に支障をきたしますので…」

「善処します」


一通り話を聞き、蓮とミランダはメグの部屋へ向かう。

もうすぐ勉学の時間が終わるので、彼女の話も聞くためだ。

2階のメグの部屋へ向かう道中、徐々に獣臭い匂いが強くなった。

昨日のマナーレッスンは応接室だったので気づかなかったが、どうやら犬は2階にいる様子だ。 

それにしても、かなり強く臭う。

あまりシャンプーなどの手入れには力を入れていないのかもしれない。


「どんな種類のワンちゃんを飼ってらっしゃるのですか?」

前を歩くメリルに聞くと

「ワンちゃん…?犬は飼っておりませんが…」

と返された。


えっ?と聞き返そうとした時、目の前の扉が開いて一人の女性が出てくる。

途端に、うっ、とミランダは息がつまった。

鼻を両手で覆いたい衝動をグッと抑える。

家庭教師と思われる女性が軽く会釈して出ていき、見送る為にメリルも部屋を後にした。


部屋の中には、メグとミランダとレンの3人。

「あれ?先生来るの早いね。その人は?」

可愛らしい笑顔でメグが聞く。

「この人はね。この家の変な音を消すためにやって来たのですわ。私は今日は、そのお手伝いもしますのよ」

「変な音?」

コテン、と首を傾げるメグ。

「夜に変な音がして、お父様もお母様も眠れないって…メグは、その音聞いていませんの?」

「うん。聞いたことないよ?」


大人が目覚めるほどの大きな音に気付かないなんて事があるのだろうか。

小さな子供は眠りが深いのかもしれないが…



そこで、蓮がやけに静かなのにミランダは気づいた。

「レンさん?何かありまして…?」

そう言って蓮を見ると、部屋の一角、天井の辺りを蓮がじっと見つめていた。

ミランダもつられてそちらを見る。


そこに、白い大きな犬が座っていた。

いや、オスワリの姿勢で浮いていた、の方が正しいかもしれない。

その姿勢のまま、静かにこちらを見つめている。


「厄介だな…」

と蓮が呟く。

「あれは…狗神だ」

そう蓮が続けると、狗神と呼ばれた白い犬が、退屈そうに欠伸をした。






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