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ヨウカイ荘へようこそ!  作者: 雨の日


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CASE1 水回りの怪音


ヨシの頭を撫でながら、これからの事に頭を悩ませていると、コンコン、と扉が叩かれた。

先ほどの男性かと思い返事をする。


しかし、扉が開かれることはなく、向こう側から遠慮気味な声が聞こえた。


「私だよ。さっきはその…すまなかったね」


お妙の声を聞き、先ほど感じた恐怖で身体がビクリと揺れた。

長い首、床に落ちる頭…。

あの光景が脳内でリプレイされる。


「蓮から聞いたんだ。今夜はここに泊まるって…それで、その…晩御飯はどうする?ここの住人は、だいたい食堂に集まって皆で食べるんだよ。ミランダも良かったら…もちろん、嫌なら部屋まで食事を運ぶよ!……どうする?」


(レン…というのは先ほどの男性のお名前かしら?オタエさんと言い、レンさんと言い…とても聞き慣れない響きの名前ですのね)


それより、晩御飯…もうそんな時間なのか。

そう認識した途端、ミランダのお腹が、また小さく悲鳴を上げた。


(お世話になるのに、お部屋まで食事を運んでもらうのは悪いですわよね…?)


「食堂へ向かいますわ」

とミランダが返事すると

「そうかい!良かったよ!食堂の場所は…」


ガチャ、と扉が開きお妙の姿が現れた。

お妙が扉を開いた訳ではないのは、その表情から見て取れる。

ドアノブを握っているのはヨシだった。

いつの間にかミランダの膝から下りて扉を開いたのだ。 


フンスッと鼻息荒く気合を入れて、ヨシはお妙の手を引いて部屋へ入れようとする。

「ちょいと、ヨシや。やめておくれ…ミランダが怖がっちまうじゃないか!」

ヨシに手を引かれるお妙がたたらを踏む。


「もしかしてヨシは、私とオタエさんに仲直りしてもらいたいのかしら?」


ミランダがそう言うと、ヨシはコクコクと頷きながら、一生懸命お妙を引っ張り続ける。

その愛らしい姿に、ミランダは認識を改める事にした。


確かに先程のお妙の姿は、身の毛のよだつほど恐ろしいものだった。

しかし、彼女がミランダに対して終始友好的であるのは言うまでもない。

小さな子供は人の悪意に敏感だと聞くが、ヨシはお妙に懐いている。


「あの…オタエさん。どうぞ、お入りになって?」


そう遠慮がちにミランダが言うと、お妙は驚いた顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。




和解したお妙と共に食堂へ向かうと、そこは板張りの広い部屋になっており、中央にある縦長のテーブル席にあの黒髪の男性レンと、このアパートの住人と思われる2人の男女がいた。


「おや、見慣れない顔だね。はじめまして、美しいお嬢さん。私の名前はジョージア・ボルソワ。どうぞ、気軽にジョンとお呼び下さい。貴方のお名前をお聞きしても?」


仕立ての良いスーツのモノクルを付けた紳士が、そう言って恭しくミランダの右手を取り手の甲に口づける。


「えっ、ちょっとジョンさん!私の時にはそんなのしなかったじゃない!差別反対!あっ、私の名前はアンジェリカ!アンって呼んでね!ってか、ウチら年近くない?私は来月17になるの!あれ?ってか名前聞いてなくない?ごめ~ん、名前なんて言うの?」


ジョンの後に間髪入れずマシンガントークを繰り広げるアンに圧倒されながらミランダは自己紹介した。





「ええっ!じゃあ、昨日は野宿だったの!?ヤバくない!?」

「ふむ…中央の辺りはここより治安が良いとは聞きますが…それでもうら若き乙女には危険な行為です。何事も無かったのは奇跡ですよ、レディ」


食事中これまでの経緯を話していると、アンとジョンにそう聞かされ、ミランダは自分の運の良さを神に感謝した。


「でもでもー!ミランダも今日からココに住むんだもんね?もう安心じゃん!」

「いえ、ここに住むわけでは…仮の宿といいますか…」

「えー!もう住んじゃおうよぉ〜!ここ家賃安いよぉ?部屋も空いてるんだし!ねぇ、レンさん、いいでしょ?」


不意にアンから話をふられ、それまで黙々と食事をしていた蓮がこちらを見た。


「別に構わないと彼女には伝えてある。あと、俺の助手として働けとも」


黒曜石の瞳を向けられて、ミランダはドキリとした。


「えっ、マジ…?」

「なんと…、ではミランダ嬢は“視える”のですか?」


アンとジョンは驚愕に目を見開きミランダを見た。


「あの…視える、とは?」

「お妙とヨシだ。視えるんだろう?」


蓮の言葉に頷く。今も、お妙はキッチンに立ち料理の後片付けをしてくれているし、ヨシはミランダの横で食後のデザートを楽しんでいる。


「ウチらには見えないんだよね…その2人」

気まずそうにアンが言うと、横でジョンも深く頷いた。

「えっ?見えないとは…?」

ミランダはヨシに目を向ける。口いっぱいにアイスを頬張る愛らしい顔と目が合った。



「お妙は、ろくろ首。ヨシは、座敷わらし。共に妖怪だ。こちら風に言うと、ゴーストかもな。正確には全く別物だが…。どちらにせよ、普通の人間には姿を見ることが出来ない存在だ」


「オタエさんと、ヨシが…ゴースト…?」


衝撃を受けたが、確かにお妙のあの姿は…ゴーストと言われれば納得がいく。

しかし、ヨシは…触ることも抱きしめることも出来る普通の子供にしか見えない。


「先ほどからね、私たちには勝手に動くスプーンと、消えていくアイスしか見えていないのですよ」

モノクルを外して、残念そうな顔でヨシの方を見ながらジョンが言った。


「じゃあ、さっきオタエさんが料理を運んでくれた時も…?」

「うん。ウチらには、フワフワ浮かんで移動するお皿にしか見えなかった。もちろん、オタエさんが運んでくれてるってわかるから、ありがとう、って言ったんだけどね。見えては…いないんだぁ…」


カチャカチャと、食器を洗うお妙の背中が寂しそうだとミランダは思った。





翌朝、皆で朝食を食べた後、アンとジョンはそれぞれの職場へと向かった。

ミランダもこれからの生活を見据えて、職探しと新しい家探しの為に出かける準備をしていた。


コンコンと扉がノックされる。返事をして扉を開けると、蓮がそこにいた。


「行くぞ」

「何処にですか?」

「依頼があった。現場に向かう」

「…うん?申し訳ありません。話が見えませんわ」


ハァ、と呆れた様に蓮がため息をつく。


「働かざる者食うべからず、と言う言葉を知らないのか?」

「知ってますわよ?」

「だから、行くぞと言っている。昨晩と今朝、お前は2食、この家で食べている」

「………え?」


「食べた分、きっちり労働で返してもらおうか?世間知らずのお嬢さん?」


ニヤリ、と効果音が付きそうな不遜な笑みに、ミランダは軽い寒気を覚えた。






「宗教勧誘ではなく、詐欺でしたのね!」

ガタゴトと馬車に揺られながらミランダは憤慨していた。

「人聞きの悪い事を言うな。お前が消費した食費分を返してもらうだけだ。謂わば今のお前は、俺に負債があると言えるな」

「ぐぅの音も出ませんわ!」

プイ、とミランダが顔を横に向けると、クツクツと小さな笑い声が聞こえた。


今日の蓮は、昨日の不思議な服(キモノと呼ぶらしい)ではなく、上品な仕立てのスーツを着ていた。

ネイビーのクラシカルなダブルスーツは、黒髪に涼やかな目元という、この辺りでは見かけない容姿をした蓮に不思議とマッチしていた。


ちなみに、ミランダが今日着ているのはアンがくれたお下がりである。

無一文で街を彷徨っていたミランダに着替えがないと知って、数着分けてくれたのだ。




御者の声とウマの鳴き声が聞こえ、馬車が速度を落とす。

そろそろ目的地なのかもしれない。


「今日は、これがどんな仕事か理解する為の謂わば見学と考えていい。黙って後に控えていろ」

そう言って馬車を降り、ミランダに左手を差し出す。どうやらミランダをエスコートしてくれるらしい。

無愛想な言葉とは反対の紳士な行動がチグハグで、ミランダは胸がムズムズした。




蓮とミランダが着いたのは、立派な屋敷だった。

貴族街の外れ、裕福な庶民層が暮らす一帯だ。

「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」

執事に案内され応接間に向かうと、そこに老齢の夫婦がいた。

夫婦に自己紹介をされ


「始めまして。レン・シラカワと申します」

と胡散臭い笑顔を向けて、蓮が夫婦に挨拶する。

「助手のミランダですわ」

横でミランダもカーテシーで挨拶した。



夫婦の話はこうだ。

数ヶ月前、この屋敷を購入し引っ越してきたが、水場から変な音がするという。

始めはバスルームだった。次に洗面所。最近はトイレまで…。あらゆる水場から、ネチョリネチョリと粘着質な音がするが、様子を見に行っても水漏れでもないし、もちろん誰もいない。


少し調べたら、前入居者は身体を患い入院先で亡くなったという。もしかして、この家に魂が帰ってきて音を立てているのではないか…と。



「なるほど。音がするのは水場だけですか?」

「ええ、そうです。音のする場所は日によって違うのですが…」

「何か法則などはありますか?例えば、お風呂に入った後や、手を洗った後に音がするとか…」

「えーと、そうですね……。えぇ、確かに!そう言われればそうですね。使用後、暫くしてから音がする気がします」


ふむふむ、と物知り顔でミランダは横で頷く。

実際には何の話かあまりわからないが、こうしていると“仕事している感”が出る気がするのだ。



「わかりました。おい、横でクネクネ首を揺らすな。気が散る」


そう言って蓮は立ち上がり「バスルームはどちらに?」と言って夫婦と出ていく。

クネクネさせてたつもりはないが、怒られたミランダも慌てて後についていった。




「朝に使用したので、もしかしたら…あぁ!ほら!聞こえますでしょう?」

そう言って老婦人は気味悪そうに後ずさった。


ミランダがドアに耳を近づけると、ネチョリネチョリと音がする。

コクリとミランダが頷くと、蓮はそっと扉を開けた。



壁に、小さな裸の男が張り付いていた。

頭髪は少なく、ポコリとお腹は出ているのに、妙に手足はガリガリの小男。

その小男が、異様に長い舌で壁を舐める度に、ネチョリ、ネチョリ、と粘着質な音を立てていた。


「ヒッ!」


あまりの衝撃に、ミランダは声にならない悲鳴を上げた。

後ろに下がろうとして足がもつれ、尻餅をつく。

蓮が手を差し出し、ミランダを起き上がらせる。


耳元で

「あれは、垢舐めだ」

と囁いた。

「アカナメ?」

「そうだ。垢を舐めるだけの無害な妖怪だ。危険はない」


そう言って、夫妻に振り返った。

「失礼ですが、この場所は誰が掃除を?」

「ここは、下女が担当しています」

「水回りは全てその下女が?」

「ええ。確か、そのはずです。何か…問題が?」

「そうですね…」


そこで少し間を置き、蓮は続けた。


「もう1人、掃除担当を増やすことをお勧めします。天井から床まで徹底的に清掃すれば、すぐに治まる怪異です」

「そんな…、簡単な事で?」

「えぇ、ゴーストは水場や不浄を好みます。水回りを磨き上げるだけで、その清潔な環境に恐れをなしたゴーストは消え去るでしょう」

そう言って、再び蓮は胡散臭い笑顔を夫妻に向けた。



「あのままで良かったんですの?仕事は討伐、とおっしゃっていたでしょう?」

帰りの馬車に揺られながら、ミランダは蓮に尋ねる。

帰り際に夫妻から謝礼金を渡されていたのをミランダは見ていたのだ。


「討伐もしていないのに金品を受け取って良心は痛まないのですか?」

「タダ働きはしない主義だ。それにアドバイスはしただろう?垢舐めは清潔な場所を嫌う。徹底的に清掃すれば、別の家へ移動するだろう」

「そうすれば、またその家の方が困るんじゃなくて?」

「その時は俺の所に依頼が来る。それだけだ」


そう言ってニヤリと笑う蓮。


「やっぱり、詐欺ですわ!」


ミランダが叫ぶと


「じゃあ、お前は共犯者だな」


と蓮がクツクツと笑った。





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