閑話 雪姫(下)
「皆、紹介するぞ。新しくチームに入った感応士の雪姫だ。仲良くしてやってくれ」
「ん………、雪姫。よろしく」
車を止め、白兎に円を描いてもらい広めの隠蔽陣を展開。
メンバー全員を呼び出して、雪姫を皆へと紹介。
突然の新メンバーの紹介に一同唖然。
無理もあるまい。
何の前兆もなく、見知らぬ鐘守らしき感応士が現れたのだ。
驚くに決まっている。
まだこれが白露だったら動揺も少なく受け入れられただろう。
俺がこっそり連れてきたのだと納得した者も多かったはず。
しかし、俺の傍にいるのは、誰しもが見覚えのない鐘守。
皆の晶脳には『一体誰?』という疑問が浮かんでいるに違いない。
それでも、マスターである俺がそう宣言したのだから、
それはすでに決定事項。
腑に落ちない点はあれど、それぞれが雪姫への挨拶と自己紹介を行う。
俺も一言二言付け加えつつ、雪姫へと自慢の仲間達を紹介。
ヨシツネ、豪魔、剣風、輝煉、辰沙、玖雀、刃鐘、タキヤシャは、表面上は落ち着いた態度で挨拶を交わし、
天琉、浮楽、剣雷、虎芽は、単純に新しい仲間が増えて喜ばしいと陽気に振る舞い、
胡狛、毘蜀、トロンは、雪姫を見極めようという雰囲気を醸し出しながら探りを入れるように話しかけ、
ベリアルは機嫌が悪そうな態度を取りながらも雪姫を受け入れる様子を見せ、
ロキはニヤニヤと興味深げな笑みを見せるだけに留まった。
「ベリアルがそんなに簡単に受け入れたのは意外だな。もっと反発するかと思っていたぞ」
「我が君………、僕だって感応士の有用性は認めるさ。しかも鐘守なら感応士としては最上級。反対する理由が無いね………、僕的には面白くはないのは確かだけど」
俺の感想にベリアルが口を尖がらせて、受け入れた理由を説明。
「これまで我が君に鐘守がいないのは不思議なくらいだったからさ。どこで拾ってきたのかは知らないけれど、タイミング的にはちょうどいいんじゃない」
「ふ~ん………、そんなもんか」
一番反対すると思っていたベリアルが、雪姫の存在を大人しく受け入れてくれたのは幸い。
これまで新しい仲間……特に女性型を入れようとすると大反発……どころか、邪魔してきた過去があるから心配だったのだ。
ベリアルの中では『女性型』と『鐘守』は別カテゴリーなのだろうか……
全体的に見れば、好意的に迎え入れようとしている者がほとんど
しかしながら、一部を除けば、まだぎこちなく固い様子が見受けられる。
先に挨拶した森羅や秘彗と似た反応。
やはり突然現れたことに戸惑うものが多いのであろう。
いずれ慣れてくれると思うけど……
「よし、これで全員の紹介が終わったな。後は雪姫のサブマスター登録だな」
紹介後、俺は皆に雪姫をサブマスターに登録することを通達。
感応士は数百キロ以上という莫大な従属範囲を持つ。
これにより、白の恩寵外でメンバー達が俺の従属範囲内から離れてもレッドオーダー化を避けることができる。
流石にサブマスターでは、白の恩寵の緩和までは適用できないが、それだけでもメリットは十分。
この通達に、皆も納得した様子で頷く。
有用なのは分かりきっているのだから当然。
あのベリアルでさえ「しょうがないね」と諦め顔。
しかし、その中で唯一反対の声が上げたのがロキ。
「ええ! 僕は嫌だよ。いきなり現れた見ず知らずの人間をサブマスターにするなんて!」
目尻を吊り上げ、頬を膨らませて不満を表し、
駄々を捏ねて、俺の提案を真っ向から否定。
俺が雪姫をサブマスターにする有効性を語るも、
ロキはまともに話を聞こうともしない。
「もしかして、この鐘守、陛下が好きだった子なの? 好きだったけど、一緒にはいられなかった……」
さらにはその視線を雪姫へと向け、
意地の悪い毒蛇のような笑顔で、
俺と雪姫の関係を揶揄。
「アハッ♡ もしかしたら、僕、陛下のとんでもない弱点を見つけてしまったかもね~。フフフ、これは上手く使えば愉快なことになるかも~」
おまけに雪姫を俺の弱点と見做し、
笑いながら、雪姫を利用するような発言。
「楽しくやろうよ、雪姫……ちゃん、だったね。ククククッ、精々、僕に飽きられないようにね。つまんない玩具は壊しちゃうから。ケラケラケラッ!」
その上で雪姫に対し、脅しとも取れる脅迫めいた言葉を投げかけた。
「アウトだ、ロキ」
これには俺も堪忍袋の緒が切れた。
少々きつめのお仕置きを行い、ロキへとお灸を据える。
このままロキを処分するのかと、周りの仲間が思うほど苛烈に。
半ば、俺の中にそんな気持ちが芽生えたのは事実。
普段から俺が許す許さないの境界線ギリギリを攻めるのがロキのスタンス。
それ故に、今回はその見極めに失敗。
明らかにラインを踏み越えてしまったとも言える。
雪姫の安全は何よりも大切。
それを脅かすロキの言動は許しがたいと思うのは当然。
しかしながら、たった1回のヤラカシで仲間を見捨てる俺ではなく、
「待って、ヒロ」
「…………なんだ、雪姫」
場が静まり返る中、唯一声を上げた雪姫。
長い銀髪を流水のごとく後ろに棚引かせ、
俺の怒気など気にすることなく歩み寄り、
「その子を殺すのは待ってほしい」
と、俺に訴えてきたのを皮切りに、
その後に続く雪姫の説得にて、
俺が心変わりしていく様を皆に見せつけつつ、
「………仲間を殺すヒロは見たくない」
という雪姫の本音からの言葉を受け、
「はあ………、分かったよ。雪姫。今回のロキのオイタは大目に見るようにする」
俺は矛を収めた。
これ等の一連の流れは俺の想定通り。
従属機械種を大事に思う雪姫が俺を止めに来るのは当然。
今回の件で雪姫に恩ができたロキは、
少なくとも雪姫を巻き込むような企みを自重するであろう。
雪姫へと最上位の感謝と礼を述べるロキを見ながら、
自分の想定が間違っていなかったことを確信。
しかし、仲間達には随分心配をかけてしまった模様。
後で白兎が俺の意図を確認しにきたくらい。
パタパタ
『さっきのロキへの対処だけど………、本気でロキを処分しようと思った?』
「ああ、そのことか………」
白兎の質問に、一瞬、目線を雪姫やロキ、その他のメンバー達へと向ける。
現在、雪姫は眷属となったモラ、ルフ、パサーを皆へと紹介中。
これまた驚きを隠せないメンバー達。
半透明な霊体。
しかも雪姫の眷属と言う特殊な立場。
それでも、俺や白兎という超特殊な存在を普段から目の当たりにしているのだから、受け入れるも早い。
すぐに輪の中に迎え入れられ、その存在に興味を持ったメンバー……主に胡狛、毘蜀が雪姫やモラ達に質問を飛ばす。
嬉しそうに仲間達の質問に答えていく雪姫。
また、モラやルフ、パサーも決して説明が得意でない雪姫をフォロー。
そんな光景を視界に収め、こちらに注目していないのを確認してから、足を動かし地面に自分と白兎を囲うように円を描く。
直径1.5mの隠蔽陣を展開。
周りに声が聞こえないようにしてから、白兎の質問に対して答える。
「俺がああすれば、必ず雪姫は止めてくる。伊達に1年雪姫と付き合っていない。雪姫がロキを庇えば、ロキも少しくらいは自重するようになると思ってな」
ピコピコ
『つまり、あれはマスターの思惑通りってことだね』
「そんなところだ」
フリフリ
『そっか………、良かった。マスターはマスターのままだね』
「んん? ………何言っているんだ? 当たり前だろ。俺は俺のままだ」
パタパタ
『そうだね。マスターは変わっていないや』
「………なんのこっちゃ?」
そんな耳をパタパタさせる白兎の姿を見ながら、
その言葉の意味をじっと考えていると、
「ああ、そうか」
ふと、その答えに辿り着く。
『雪姫が現れたことで、俺が変わるんじゃないかと心配していたのか……』
声には出さず、心の中だけで答えを呟く。
良くも悪くも男は女で変わる。
そして、俺は白兎達のマスターであり、チームの中では絶対権力者に位置する。
そんな絶対権力者の横に、突然、親密そうな女性が現れたのだ。
しかも、全く見ず知らず。
白兎やメンバー達が困惑・警戒するのも分かる。
これが白兎達も良く知るエンジュや白露であれば、そこまで気にすることもなかったであろう。
しかし、どこの馬の骨とも分からない女性が、いきなり自分達の主の傍に侍るようになったのだ。
マスターにとって害になる存在か否か。
その寵愛によって自分達が蔑ろにされる可能性。
歴史上、いくらでも前例があったような話。
家臣とすれば、警戒するに決まっている。
もしかしたら、白兎が最初に雪姫に絡みに行ったのも、
その辺が理由なのかもしれない。
その時の俺の反応で、俺と雪姫の関係を確かめたかったとか………
まあ、雪姫が蘇った時の俺の反応はただ事じゃなかったから、
白兎が心配するのも当たり前か………
「白兎。雪姫も大事だが、俺にとってお前達も大事な仲間なんだぞ」
足元の白兎へと声をかける。
仲間が大事なのは当然。
けれども、それは言わなくても分かる、といった空気みたいなモノではない。
言葉や態度で表わして初めて伝わること。
それを疎かにしては、皆の不安を高めるだけ。
ピコピコッ♪
俺の言葉に白兎は何も言わず、
後ろ足で立ち上がり誇らしげに胸を張り、
嬉しそうにピコピコと耳を揺らした。
その後、昼食を挟み、
雪姫の感応士としての力を確認。
メンバー達に『感応術』でのバフをかけてもらって、
その効果を試してみた。
しかし、その感想は………
「ショボいッ!」
「ショボくない。私の『マテリアルアップ』はマテリアル術の威力を10%もアップさせる」
「ショボいわ! 白露でも1.25倍だったぞ!」
「ムッ………、白露は私よりもずっとベテラン。比べる方が悪い。それに私は大器晩成型。成長したら白月様より強くなる」
「本当かよ……」
正直、期待外れも甚だしいが、本人の言う通り、今後の成長に期待するしかない。
さて、感応士を成長させるのって、いったい何をさせればよいのやら………
また、モラ、ルフ、パサーの能力も確認。
未だ霊体だが、何ができるか、実体となった時の戦闘力はいか程なのかを尋ねる。
そこで新たに判明した事実が2つ。
1つ目。
パサーはヒューマノイドタイプの獣人系、機械種ワーパンサーだと思っていたが、実はそれはフェイク。
本当は魔人型、機械種インビジブル・ストーカー。
暗殺者にも使われることが多いことから、多くの街で所有が制限されている機種でもある。
そんな危険な機種をなぜ雪姫が……、とも思うが、一応、白の教会の手によって、透明化能力に制限が加えられているらしい。
それでも、相手が人間ならまず気づかれることは無く、その格闘能力もストロングタイプに準じる。
まあ、当時の自分の実力を良く分かっていなかった俺からすれば、その差でも誤差にすぎなかったのだろうけど。
2つ目。
機械種キキーモラであるモラ、機械種ウルフであるルフは、
驚くべきことに下位機種でありながらベテランタイプ並みの戦闘力を持つという。
聞けば、機体を極限まで改造した上、白鐘を使った教会の秘奥で強化しているから、だそうだ。
「雪姫。それって………、もしかして、『祖霊』って奴か?」
「ん。『白鐘』に色付の『晶石』を捧げると、『祖霊珠』を生み出す。それを機体に組み込むと、機体以上の力が出せるようになる」
「『白鐘』に! やっぱりそうか……」
打神鞭の占いの通り、やはり『祖霊』得る為には白鐘を使う必要があるらしい。
「しかし、そうなると、バルトーラの街で『最上級の白鐘』を手放してしまったのは………、いや、でも、あの時はそれ以外に選択肢は無かったから………」
ふと、提供してしまった『最上級の白鐘』を思い出す。
ここに鐘守である雪姫がいるのだから、あの時、提供しなければ俺だけの『白鐘』を設置することができた………、もうどうしようもないことだけど。
「でもなあ……、確か、白鐘って地面に設置しないと使えないはずだから、今の段階だと難しい」
何しろ、現在、中央に向かって移動中。
これから中央の街々を転々としていく予定。
1つの場所に長く留まれない流浪の日々が続くはず。
『白鐘』は一度設置したらなかなか移動させられない。
流浪の身では確固たる設置場所を用意するのは困難。
『空中庭園』に設置できるならそれが一番。
でも、流石に大地から離れた『空中庭園』への設置は不可能だろう。
『白鐘』を設置したければ、中央にどこかに俺の本拠地を構える必要がある。
その上でもう一度『白鐘』を見つけることができたのなら、『祖霊珠』を作り出すこともそう難しいことではなくなるはず。
全ては中央に行ってから。
そこで俺は更なる力を手に入れる。
結局、色々試したり、相談したりしているうちに、
いつの間にか日が暮れ始め、今日の所はこの場所で夜を明かすこととなった。
「ムフゥ……、ヒロは料理上手。これからも料理や調味はヒロに任せる」
「お前は自分が料理や調味を覚えようとは思わんのか?」
潜水艇のリビングルームに戻って夕食タイム。
久しぶりに雪姫相手に料理の腕を振るい雪姫に舌鼓を打たせた。
現代物資で取り出した材料にて料理した品々に、雪姫はご満悦。
相変わらず食べる専門でいる気満々なのは頂けないが。
俺的には雪姫の手料理も味わってみたい気もするのだが、
どう考えても昭和アニメヒロインのようなメシマズが出てくるような気がしてならない。
元々、この世界では料理をするという概念がなく、味付専門の調味士がいる程度。
雪姫に料理上手を求める方が無茶とも言える。
夕食が終わると、片づけを森羅と秘彗に任せ、
俺と雪姫は2人だけで寝室へ向かう。
別に変なことをするわけではない。
寝室に置いてある衣装箪笥で雪姫の服を用意する為だ。
紅姫の巣で手に入れたこの発掘品の衣装箪笥は、何万着という膨大な数の衣服を揃えており、しかも服を選んだ者に寸法も合わせてくれるという機能付き。
白ローブしかもっていない雪姫には、他の外出用の衣装が必須。
これ以上ない程の真剣な表情で衣服を選ぶ雪姫。
やはり女の子だけあって、お洒落にも余念は無い模様。
「雪姫………、こっちのセーラー服とか、似合うと思うな」
「ヒロ。コスプレをするんじゃない。少し黙って」
「はい………」
さり気なく俺好みの衣装を勧めてみたけど、バッサリ断られた。
どうやらセーラー服はお気に召さない様子。
見たかったんだけどな~、セーラー服姿の雪姫。
その後、お互いベッドに腰かけて会話。
主に俺がここまで来られた道のりを説明。
行き止まりの街を白兎とヨシツネだけを連れて出立。
途中、エンジュという少女を拾い、ユティアさんを引き受け、
安全な所を探して街から街を転々と。
ミランカさんを野賊の手から救い、その妹のミレニケを助ける為、
野賊の本拠地へと乗り込んだ。
ミレニケと一緒に助け出した女性達とルトレックの街で3ヶ月過ごし、
エンジュに送り出されてバルトーラの街に向けて旅立つ。
そんな旅の最中に次々と仲間を増やし、
バルトーラの街に辿り着いてからも戦力を増強。
ついには『空の守護者』を倒すに至り、
空飛ぶお城『空中庭園』を手に入れた。
白の教会とは一定の距離を保ちながらも、
白露と仲良くなり、色々と便宜を図ってもらったことを話す。
「白露は良い子だな。雪姫のお願い通り、白露には優しくしておいて良かった」
「む、当然。白露は良い子。だって、私の先生だった」
「…………雪姫。少し聞くけど、お前、今、何歳?」
「ヒロ。女性に年齢を聞くのは大変失礼。反省する」
「ご、ごめんなさい。もう二度と聞きません」
ふと気になったので尋ねてみたら真顔で怒られた。
間違いなく俺が悪いので全力で謝罪。
いや、別に雪姫が何歳であろうと、俺は気にしないのだが……
外見は少女でも中身が超年上のヒロインって、漫画やアニメでは珍しくない。
でも、雪姫の普段の言動から、俺より年上という感じはしない。
どっちかというと、俺よりもずっと年下のような気が………
「ふぁ……」
欠伸をかみ殺し、目尻に溜まった涙を指で拭う雪姫。
話題が尽きぬまま話し込むこと2時間強。
夜も更けてきたことから、雪姫がだんだん眠そうな雰囲気を醸し出す。
「すまん。そろそろ寝る時間だったな」
時計を見れば夜の11時半。
俺にとってはまだまだ起きている時間帯だが、お子様時間な雪姫にとってはもうお眠な様子。
「寝室はここを使ってくれ。俺はリビングの方で寝るから……」
この寝室にはベッドが3つ。
だが、流石にこの年頃の女の子と同じ部屋で寝るのはNG。
まさか雪姫にリビングのソファで寝ろとも言えまい。
どうせ、近々、手に入れたVIP車両を運行する予定なのだ。
少しくらいの間ならソファで寝るのも我慢できる。
しかし、俺がベッドから立ち上がろうとすると、
「待って、ヒロ。出ていく必要は無い」
雪姫から制止の声。
「ヒロはここで寝る」
「何を言っているんだ、雪姫。じゃあ、お前はどこで寝るんだよ?」
「ここで寝る」
雪姫は俺を指さし、そう言った。
「は?」
俺は一瞬、意味が分からず呆けたような声で返すと、
「私の寝る場所はここだけ」
雪姫は俺へと手を翳しながら、そっと近づいてくる。
その顔に微かな笑みを浮かべながら、
ベッドの上を猫のようにしなやかに移動。
「ゆ、雪姫?」
俺は気圧されるように後ろへと後ずさる。
だが、広いとはいえ、所詮ベッドの上だ。
すぐにそれ以上後ろに下がれなくなる。
「ヒロ。そのまま動かないで」
「ど、どういう……」
俺へと覆いかぶさるように四つん這いの雪姫が迫る。
雪姫の青い瞳は俺を真っすぐに見つめ、
その長い銀髪は枝垂れのようにベッドの上に広がる。
服の胸元から決して豊かとはいえない胸の谷間が垣間見える。
思わず目を上に逸らすと、そこには視界いっぱいに広がる雪姫の顔が……
確かに俺はこうなることを望んでいた。
いつかは雪姫とそんなことをしたいと思っていた。
だが、いきなりとなると心の準備ができていない。
俺にとって大事な人であるが故に、するならするで、
きちんと段取りを踏んでからだと思っていたのだが、
まさか、再会したその日に………
「雪姫………」
「ヒロ………」
互いに名前を呼び合う俺と雪姫。
俺の言葉に込められた熱は、
今にも燃え上がりそうな程の熱さ。
雪姫の声もいつもよりほんのり温かみを感じる。
いつものクールさ全開の冷たい声の中に、
僅かながら湿ったような感情が見え隠れする。
雪姫の白い繊手が俺の胸元に伸ばされる。
俺はそれを受け入れようと両手を広げる。
そして、ベッドの上で抱擁を交わすタイミングで………
「じゃあ、ヒロ。おやすみ」
雪姫は俺に『おやすみ』の言葉を投げかけ、
俺のパーカーの胸ポケットに手を突っ込んだと思ったら、
そのまま吸い込まれるようにポケットの中へと消えていった。
ベッドの上で残されたのは俺一人。
「へ?」
少しの間、ホケッとベッドの上で呆けていた俺だったが………
「あ、そうか。七宝袋の中に戻ったのか」
偶に白兎がやるヤツだ。
俺の胸ポケットの中の七宝袋に直接ダイブ。
雪姫は宝貝なのだから、自分の寝場所は七宝袋の中と決めているのだろう。
思わせぶりな態度だったから、俺もつい逆上せてしまった。
いや、雪姫に他意があったわけじゃない。
雪姫の言葉足らずは今に始まったことではなく、
俺がただ早合点してしまっただけ。
「ハハハハ………」
ベッドに仰向けに倒れ込み、
天井に向かって乾いた笑い声を上げる。
「そりゃあ、そうか。そんなに上手くいくわけないよなあ~」
気になっていた女の子から突然迫られてゴールイン。
男の子の夢全開な展開だが、世の中そんなに甘くはない仕様。
「まあ、これからたくさん時間はある。じっくりと仲を深めていけば良いさ」
聞きようによっては悔し紛れにでも取れる発言だが俺の本音。
今、これから、俺と雪姫の物語が始まるのだ。
いきなりゴールしてしまってはつまらないだろ?
だから、まずは手を握るところから始めて、
デートを重ね、お互いの意思を確認して、
ムードがある場所でキスを交わし、
それから………………
「大丈夫だ。上手くやる。失敗なんてしない。だって、俺と雪姫は好き合っているんだから………」
あの未来視の最後の場面。
確かに俺と雪姫は思いが通じ合っていた。
だから、きっと、絶対に…………
『雪姫の個人技能』
整備技能
・青学 レベル2
青指(獣型と亜人型は得意。それ以外は苦手)
・緑学 レベル4
緑手(そこそこ。うっかりミス癖あり。注意が必要)
・黄学 レベル2
黄指(小物専門。重火器を触らせると高確率で暴発させる)
・白学 レベル6
白腕(白鐘「中級」までを安全に扱える。それ以上は判定有)
家事技能
・掃除 レベル▲3(掃除させると余計に散らかせてしまう)
・調味 レベル▲5(メシマズの極致)
・洗濯 レベル1 (自分の下着くらいは洗える)
・裁縫 レベル2 (繕いができる程度)
戦闘技能
・小型銃 レベル▲4(味方を誤射する可能性大)
・格闘 レベル▲2(攻撃しようとすると自分で転ぶ)
・剣 レベル▲3(攻撃しようとするすっぽ抜ける)
・杖 レベル2 (護身術程度)
趣味技能
・踊り レベル4 (社交場でも見苦しくない程度)
・歌 レベル2 (女子高生のカラオケレベル)
・ピアノ レベル6 (プロ初級レベル)
・賭け事 レベル3 (ポーカーフェイスが強い)
・スキー レベル7 (運動ができないのにこれだけは上手)
・釣り レベル4 (慣れた手つきで釣り針に餌をつける)
※▲はマイナス技能。0から遠い程苦手。




