閑話 雪姫(中)
※カクヨムのサポーター様限定近況ノートの「閑話 雪姫3~4」を抜粋したモノになります。
「ああ、そうだ。雪姫。俺の仲間を紹介しよう」
いつまでも雪姫の手を握っているわけにもいかない。
名残惜しみながら雪姫から手を離し、背後に控える仲間達へと振り返る。
ずっと遠巻きに俺達を見守る森羅、秘彗、廻斗。
すでに『宝貝の基礎知識』とやらで白兎のことは知っているようだから、残る3機を雪姫へと紹介。
「右から、機械種エルフロードの森羅………、機械種から昇仙した仙人でもある。一応、俺の弟子とも言えるな。真ん中の女性型は秘彗。魔法少女系、魔導士系、舞巫女系の3つを重ねたストロングタイプのトリプルだ。最後は機械種グレムリンの廻斗………まあ、混沌っぷりでは白兎に次ぐ逸材だな」
「雪姫。よろしく」
雪姫の簡潔過ぎる挨拶。
別に偉そうにしているわけではない。
これが彼女のオーソドックスな対応なのだ。
行き止まりの街では、鐘守である雪姫より目上の者は存在しなかった。
だから特に問題にはならなかったが、中央にいた頃もこんな感じだったのであろうか?
だとしたら雪姫に友達が少ないのも当然と言える………
「は、はい……森羅と申します。マスターからは内向きの仕事の取り纏めを承っております」
「ひ、秘彗です! 第2戦闘ユニットのリーダー、及び、参謀室、経理部、マスターの身の回りのお世話等を担当しています!」
雪姫の挨拶に森羅、秘彗はやや硬い反応。
緊張気味に、社交辞令に留まる程度の自己紹介と挨拶を交わす。
2機にとっては、いきなりこの場に現れた異物。
なのに、マスターである俺がこれ以上ない程の好意を向けている相手。
どのような反応を返せばよいのか戸惑っている、という所だろう。
「キィ!」
廻斗だけが変わらない様子で元気良く返す。
戦士の魂、紳士の心得を宿した小さな勇者。
その廻斗がレディに対して無作法な挨拶を返すはずがない。
そんな彼らの挨拶に、雪姫は目尻をほんの僅かだけ下げて微笑み、
機嫌が良さそうな声で一言。
「ん……、皆、行儀良い。ヒロは良い子を手に入れた」
「ああ、俺にとっては大事な仲間だ」
雪姫に仲間をほめられたことで気を良くする俺。
しかし、雪姫から発せられた次の言葉で、
そんな気分も氷解。
「本当に良い子達…………、モラ、ルフ、パサーにも負けないくらい」
「!!!」
思わず息を飲む。
目の前が真っ暗になったかと思うほどの衝撃を受ける。
モラ、ルフ、パサー
それは雪姫が大事にしていた自分の従属機械種達。
今まで雪姫と再会できたことに舞い上がり、
この3機のことを忘れていた。
かつて、面倒を見ていたチームから雪姫へと捧げられた奉納品。
今となっては、唯一残る思い出の品。
それ以上に、長く共に過ごした家族でもある。
そして、その3機は……………
俺の手で破壊した。
現実世界の雪姫の目の前で。
視界が朦朧となり眩暈がする。
腹の底から気持ち悪いモノが昇ってきて吐きそうなる。
足がガクガク震え、今にも倒れ込みそうになる。
ただ、この場にいるのが怖くて………
雪姫の表情を見るのが怖くて………
雪姫から憎悪をぶつけられるのが怖くて………
だから俺は思考加速を行い、
白と黒の世界へと逃げ込んだ。
ど、どうすれば良い?
何をすればこの場を切り抜けられる?
時間を何十倍にも引き延ばした世界の中で、
ただ、自分の罪を暴かれたくないという思いで思考をフル回転。
再び俺の前に現れてくれた雪姫に嫌われたくはない!
でも、モラ、ルフ、パサーはこの世にはいない。
俺が破壊して、その残骸は七宝袋の中だ。
修理する?
五色石はクールタイム中だから、こっそり藍染屋に持ち込み、
修理した後に雪姫へと何食わぬ顔で引き渡せば………
しかし、モラ、ルフ、パサーを破壊してから、七宝袋に収納するまでかかった時間は20分以上。
高位機種であれば1時間近く持つであろう記憶の保持も、低位機種でしかないあの3機であればすでに記憶は失われている可能性が高い。
いくら機体を修理したとしても、雪姫は同じモラ、ルフ、パサーとは認めないだろう。
当然、誰が………という話になるに決まっている。
俺が破壊したなんて話せるはずもない。
どうすれば誤魔化せる?
しらばっくれてみるか?
幸い、モラ、ルフ、パサーを俺が破壊したと知る者は皆無。
その存在さえ、白兎達すら知らないのだ。
唯一、当時の事情を知っている獏邪宝剣や七宝袋達に口止めをしておけば完璧。
ただ、俺は何も知らないフリをすれば良い。
また、雪姫は『モラ、ルフ、パサー』の名を口にしただけ。
『彼等はどこにいるの?』とも『どうなっている?』とも尋ねていない。
だから、俺は、このまま、雪姫には何も言わず、
もし、『モラ、ルフ、パサー』について聞かれても『知らない』と嘘を突き通せば………
【本当にそれで大丈夫か?】
ふと、頭を過る不安。
事が雪姫に関することだけに、
安易な嘘で誤魔化そうとすることに危機感を感じる。
元の世界での経験から仕事でミスをしてしまった時、最も大切なことは、その重大性とリスクを正しく認識することだ。
ミスを隠した上で、会社にバレないよう処理できるか?
その隠ぺいが見抜かれてしまう確率と、何事もなく処理できる見込み。
隠ぺいがバレた時と処理できなかった時のこちらが負う損害。
ミスを隠しきれない可能性が少しでもある、若しくは、処理できなかった時の損害が莫大なら、すぐに会社に報告すべき。
ミスを隠すということは、会社に対しての裏切り行為だ。
今まで培ってきた信頼が一瞬で崩れ去れる。
それを考えれば、上司からの叱責程度で済むなら安いモノ。
ミスの度合いによっては昇進に多少の影響が出るかもしれないが、『コイツは会社に対して嘘をつく人間だ』と思われる方はダメージがデカい。
これまで真面目に振る舞ってきた者ほど、周りからの視線は厳しくなるであろう。
その視線は相応に長く続き、一端貼られてしまったレッテルはそう簡単には覆せない。
つまり、バレる可能性のある嘘はつくべきではないということ。
そして、今回の場合、雪姫に対して『モラ、ルフ、パサー』のことを隠し通せるかについてだが………
冷静に考えるとソレは不可能。
なぜなら雪姫は俺の『宝貝』のことを把握しており、当然『打神鞭』のことも知っているであろうから。
『打神鞭』の占いは全てを暴く。
雪姫が『モラ、ルフ、パサー』のことを知りたいと願い、『打神鞭』で占ってと頼まれた場合、俺はソレを拒めない。
当たり前だ。拒む理由を説明できないからだ。
そうなれば詰み。
雪姫からの信頼は地に墜ちる。
大事な家族を殺し、それを隠そうとした卑怯者。
もう二度と笑いかけてもらえないのは間違いない。
そんなことになるくらいなら、全てを打ち明けてしまった方がマシだ。
些細な誤解からすれ違ってしまった、現実での俺と雪姫の物語。
避けられず、『モラ、ルフ、パサー』と戦闘になってしまったその一部始終を。
「これで全てだ………、雪姫」
思考加速を解いた俺は全てを雪姫へと打ち明けた。
雪姫が宝貝人間となる前の話。
行き止まりの街にて、俺を悪漢だと誤解した雪姫と戦闘状態に突入。
雪姫の従属機械種たる3機が俺へと差し向けられた。
光学迷彩で姿を消して襲い掛かってきた機械種ワーパンサーのパサー。
小さな機体ながら達人級の棍の使い手、機械種キキーモラのモラ。
極限まで能力を高められたビーストタイプ、機械種ウルフのルフ。
いずれも当時の俺からは油断ならない敵に見えた。
モラとルフについては『俺の中の内なる咆哮』が手を下したのだが、俺が仕出かしたことには変わりはない。
俺の話を黙って聞き入る雪姫。
その顔に感情の色は見えず、冷たいようにも見える鉄面皮を保ったまま。
内心、いつ雪姫が激高するのかとビクビクしながらも、
表面上は動揺を表に出さず、事情を全て語り終えた。
「そうして………『モラ、ルフ、パサー』はこうなった………」
七宝袋の中から3機の遺骸を取り出して床に並べる。
パサーが右胸から肩部分が消失。
動力部を失い大破状態。
モラとルフは首が切り離された形。
いずれも五色石であれば修繕は可能。
しかし、失われた晶石の記憶までは回復しない。
五色石の権能は修繕であって復活ではないからだ。
完全に消失したモノの再生は不可能。
どのみちクールタイム中で1ヶ月以上経たないと使用できないのだが。
「すまない、雪姫。君の家族を殺してしまって………言い訳はしない。全ては俺の責任だ」
未だ一言も発しない雪姫へと謝罪の言葉を口にする俺。
もし、俺の目の前にいるのが、本来の雪姫であるなら、俺が謝罪する必要はなかったであろう。
トールに騙されたとはいえ、戦闘を仕掛けてきたのは向こう。
俺はただ反撃しただけ。
しかし、今の雪姫に瑕疵はない。
俺によって宝貝として蘇り、なぜか未来視の記憶を持つに至った彼女。
それは俺にとっては喜ばしいことだが、雪姫にとっては大事な家族が殺された世界に呼び出されたようなモノ。
それは間違いなく俺の責任。
俺が負わなくてはならない罪。
歯を食いしばり身を強張らせながら雪姫からの糾弾を待つ。
どれだけの憎悪を叩きつけられるのか?
どれだけの怒りをぶつけられるのか?
彼女との絆を深めた1年間。
友達以上恋人未満であったのは、俺の勘違いではあるまい。
けれども、それは家族であった『モラ、ルフ、パサー』より重いのかどうかは分からない。
自分の宝貝ではあるけれど、もしかしたらここで絶縁ということもありうる。
だが、ずっと隠したままではいられない。
だから、せめて、自分の誠意を表すために、何一つ隠し事することなく、全てを打ち明ける道を選んだ。
あとは雪姫の答えを待つのみ。
そして、雪姫の答えは………
「ヒロ。問題ない」
雪姫は目に優しい光を宿し、
俺を安心させるような静かな声で言葉を発した。
「え? それはどういう………」
雪姫の言っている意味が分からず聞き返そうとすると、
雪姫は俺の言葉を遮り、薄く微笑を浮かべて、
「モラ、ルフ、パサーは大丈夫」
「いや、でも………」
「ほら、こうすれば………」
雪姫は床に並べられた3機へと近づき手を翳す。
すると、突然、3機の残骸は白と青が混ざったような光を発し始め……
次の瞬間、溶けるように光の粒子へと変換。
掃除機に吸い込まれるかのようにそのまま雪姫の手の中へと吸い込まれていった。
「うあ! ………って! 消えた?」
「私が眷属として取り入れた」
「眷属?」
「そう。ずっと一緒にいたモラ、ルフ、パサーだからできた。これでいつでも一緒」
雪姫が機嫌良さそうにそう呟くと、
その隣にぼんやりとした姿のモラ、ルフ、パサーが出現。
まるで幽霊のような朧げな輪郭。
よく見ると向こうが僅かに透き通って見える。
しかし、ソレは間違いなくモラ、ルフ、パサーの外見。
雪姫を主と仰ぐように恭しい礼を取りながらその傍に侍る。
「ゆ、幽霊?」
「違う。今は霊体だけ。慣れたらいずれ生身になる」
「生身って………」
『機械種だから生身じゃないぞ!』とツッコミかけたが、空気を読んで飲み込む。
また、『機械種に霊体なんてあるのかよ!』のツッコミも同様。
まあ、あれだけ人間臭い機械種なのだから、人間と同じく霊や魂があっても不思議ではないが………
つまり雪姫はモラ、ルフ、パサーから霊体だけを抜き出し自分の影響下に収めたのであろう。
言わば霊媒師のような能力。
仙術で言えば『召鬼』の術と呼ぶべきか。
「ん…………、だいたいの事情は把握した。ヒロは悪くない」
モラ、ルフ、パサーを後ろに置きながら、雪姫はしばし目を瞑り、
その後、目を開けたと思ったら、何やら得心が言ったような表情で語る。
「早合点した私が悪い。ヒロの弁明も聞かず、『辺境マニュアル』通りに高圧的に出たのが原因」
「ゆ、雪姫………、何を………」
「ん………、モラ、ルフ、パサーの記憶を読んだ。晶石には残っていなかったけど、霊体には残っていたから当時の事情も分かった。抜け落ちていた記憶もある程度回収できた」
「そんなことまで………」
思っていた以上に雪姫の能力は融通が利くようだ。
『機』と『仙』を繋ぐという能力名は伊達ではない様子。
そして、雪姫はゆっくりと俺に歩み寄り、
強張った俺の頬に優しく手を当て、
真っすぐに俺の目を見つめながら口を開く。
「だから、ヒロは悪くない。ヒロは精一杯頑張ってくれた」
ずっと俺に胸に突き刺さっていた冷たい罪の刃が、
その言葉によって音もなく溶け落ちていくのを感じる。
「ああ………、ああ………」
感情の落差から思わず呆けたような声が出る。
安堵のあまり床に倒れ込みそうになるくらいの虚脱感が俺を襲う。
自然と涙が零れ出る。
口は笑顔を形作りながら鼻水を垂らした泣き笑いの表情。
外から見たら酷い顔であろう。
でも、そんなことは気にならないくらい、
今の俺は歓喜に満ち溢れている。
俺が欲しかった言葉を雪姫がくれた。
それは、本来、決して手に入るはずのない当の本人からの『許し』。
雪姫が蘇った。
しかも、俺と未来視にて1年間を共に過ごした雪姫の記憶を持って。
さらに俺が殺してしまったモラ、ルフ、パサーも雪姫の眷属として復活。
そして、俺に『許し』を与えてくれた。
これで何の後ろめたさもなく、雪姫と同じ時を過ごすことができる。
これ以上ない程に俺にとって都合の良い展開の連続。
運命は残酷で俺に優しくないと思っていたが、
ここに来て揺り戻りが来たのであろうか?
ならば、ずっと優しいままでいてくれ。
大切な仲間達と、
愛する女性と、
ずっと一緒にいられる世界でいて欲しい。
そう思わずにはいられなかった。
だから…………
俺は…………
『ホシイコトバヲクレタ? アタリマエダロ。ナゼナラソノオンナハオマエノ………』
胸の奥で呟かれた言葉を聞こえなかったことにした。
『雪姫の宝貝としての能力(機と仙を繋ぐ)』
・従属容量UP レベル1
持ち主の従属容量を増やす(現在10%UP)
・従属範囲UP レベル1
持ち主の従属範囲を広げる(現在10%UP)
・宝貝接続 レベル1
従属機械種への宝貝使用権限付与
(威力5%※)(展開個数1個)
※元々宝貝を使用できる機種は効力UP
廻斗 20→50%
森羅 10→30%
白兎 5→15%
(白兎が低いのは道具を使用する資質が少ないため)
・魂魄化 レベル?
従属機械種を霊的存在に転換させる。
対象との絆が弱いと魂魄化した瞬間に霧散する可能性がある。
・機仙合一 レベル0
従属機械種とそのマスターを一時的に融合させる。
マスターは従属機械種の能力の一部を使用できるようになる。
・機仙融合 レベル0
従属機械種と宝貝を融合させる。
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