脱出
初めて彼女視点で物語が動きます。お楽しみに。
少年は涙を拭きながら階段を駆け下りる。
あの時、ここ、技術学部は別棟だったことを思い出し、さまざまなものを開発しているここならば、もしかしたらなにか移動できるものが残っているかもしてないと思い、やってきた。
しかし、一向に探していたものは見つからない。代わりに、アンドロイドの巣窟になっていた。軍用アンドロイドというやつは、基本女性の形をしているらしい。唯はその中でも例外だったらしいが。それはどうでもいい、問題はその後だ。
『お前の望みはなんだ』
『お前の優しさは素晴らしい。』
『私にはやらなければいけないことがある』
『その子を大切にな……』
出会ったのは、真田先輩だった。姫の学部へ遊びに行くたびにお世話になって、毎回弟のように接してくれていた。最期まで、優しい人だった……。自分から影がそっと這い出して肩を揺らし、悲しみの渦中へ引き込もうとする。振り払い、振り払い、振り払い……。だんだん輪郭があらわになってくる先輩の顔が正面で笑っていた。
なぜこんなに悲しまなければならない。なぜ、死ななければならなかった……。正体の見えない敵と、突然現実にねじりこまれた戦いという非・日常。今少年の精神は、均衡を保つのが精いっぱいだった。
あの後、三階で例のブーツを発見。一見ただのブーツだったが(編み上げというやつか?)中にはロケットエンジンが内蔵されていて、一人限定で飛べるらしかった。しかしこれでは二人は使えない。どうしよう、と思案していると、敵が来た。あのアンドロイド兵だ。すると彼女は、
『私が、これの試験運転も兼ねて奴らをひきつけましょう。その間に一階へ。後で迎えに行きますよ』
そして彼女は、ふと思い出したように付け加えた。
『五分以内に、ね。脱出してください』
あの後黙々と降りていたが、どうも思い出してしまったようで、また泣き出してしまった。そんな中で気が付くと、涙が止まって歩けるようになるまで、泣けばいいさね、と今まで会ってきたすべての人が現れ、慰めてくれた。人間の精神保護機能のようなものが動いたのだろうか。突然、本当に突然、幸せな気分になった。そんな感覚の中で、前へ足を動かすのはなみなみならぬ努力がいることだった。やっとの思いで階下に降りる。
接近してきた数体を破壊した後、ブーツを装着。奪ったライフル―おそらくM16自動小銃だろう―を構える。私のこの体、SR-1は元々試作機で、性能が高すぎたために量産型では性能にリミッタを搭載して生産された、と聞いた覚えがある。もっとも、先刻のシステム改変によってほとんど記憶は抜け落ちたけれど。
自分を作り、運用した勢力のことを彼女は忘れていた。でも今は関係ない。現在私の存在理由は、ご主人様を守ることにある。それを忠実に守るだけだ。
「えっと、このペダルを……」
中に装備されたペダルを軽く踏み込むと、高性能固形燃料が燃焼を始める。体が軽く浮上。
「え、ちょっと、え?」
彼女の重心移動を敏感すぎるセンサーがキャッチ。かなりの速度で前進を開始する。
「きゃっ」
ドアを突き破り、壁を蹴り、なんとか着地。何度かのフライトでなんとか操縦を体得する。意外と行けそうだ。
人間は大泣きをするとその反動で、やけに寡黙、冷静になるものだ。さすがに泣き止み、一階に降りると、巨大な箱……列車の貨物車両を一回り大きくしたようなものが置いてあった。中に入る。
「これは……」
そこにあったのは巨大な戦闘機だった。
「まさか、真田先輩が言ってたのって……」
さすがに呆れる。これを操縦しろっていうのか?
機体の周りを小走りに移動し、形状を確認する。
非常に長大な機首と、キャノピーを持っていた。その両側に、小さな小翼が付いている。横に伸びたストレーキの横側には、いつか映画で見たB-52などの戦略爆撃機を連想させる巨大な主翼が搭載されているが、彼女らのようにただの直線翼ではなく、疾走感を連想させる後退角の付いた翼だった。
V字の尾翼は水平、垂直の区別は無いようで、一組しかなかった。ノズルは角張り、近未来的なものを感じさせる。
どう見ても自分に扱える代物ではない。真田さん、無茶苦茶だよ……。




