瓦礫の街で<次>
なかなかシリアスな展開から抜け出せません……
あの時俺が刺したのは、アンドロイド用インストールデバイスだったと彼女は語った。そして、自分はここを攻撃した人間の手先だったとも……。
MAID-i SYSTEMはアンドロイド用のオペレーティングシステムだったらしい。攻撃した彼らの存在を知っていた国連側が、予測される敵アンドロイドの機能抑制のためのシステムとして開発したものだろう。メイドにしたのは、抑制する立場としてはそれがよかっただろう、と俺は推測したが、真相はわからない。なぜあそこにおいてあったかも。倉庫はあそこでつぶれてしまったからだ。
あれから文豪や姫にも会えていない。唯は場所を察知しているようだが、結論から言えばその場所は、とても遠いらしい。足が歩きではさすがに……。その時、彼は気づいた。もしかすると……
それは、絶望を抱えてきた。
かんかんかんかん。鉄の階段を駆け上がる。あの時、別棟の技術煉でたくさんの<女性>に襲われた。UH-60は、アメリカで採用後、対潜哨戒、救難、さまざまなバリエーションが開発されたこの汎用ヘリだ。ここから、一見戦闘服姿の空挺部隊のような一団が舞い降りてきた。救援か、とも思ったが、全く違った。彼らは降りるなり小銃を向け、打ちまくってきた。水平に襲ってきた弾の雨を避けつつ、一瞬顔を見ると……みんな同じ顔をしていたのだ。女性の顔。少女のような童顔だった。
真田守は、この高校―三年生を過ぎると<大学校>と呼ばれる―の六年生だった。21歳だが、とてもそうとはおもえないようなずっしりとした態度と、冷静さ。そして威厳、何より面倒見の良さで、下級生に好評だった。
彼は腹部に傷を負っていた。弾丸が命中した後追いすがってきた敵にナイフで抉られ、先ほどは死ぬよりもつらい苦しみにさいなまれた。が、アドレナリンが全開になっているのかどうか知らないが、痛みがふっと遠ざかり、ついには痛みなく歩けるようになった。さすがに腹を見る勇気はない。骨が折れ、むき出しになっているかもしれないし、中身が漏れているのではないか、とも思ったのだ。ぞっとする。しみこんだ血液で服が重い。
そんなとき、上から人の声が聞こえた気がする。幻覚か、ついに脳へ回す血がなくなったのかもしれない。
「真田先ぱいっ! 大丈夫ですか!!」
顔を上げる。そこには、今年の新入生がいた。
「まきの……」
牧野隆、ついこの間まで中学生だったものだ……頭が回らない。技術学科に美女……たしか、姫という友人がいたようで、時々遊びに来ていた。人懐っこくて、かわいいやつだった。
「何がしたい……」
唐突に声が出た。もう声が出せるのが自分でも不思議なぐらいだし、出すという意思を脳が発することができたことも彼には不思議だった。
「え?」
「なにか、望みは……」
何か最後にしてやろうと思って俺は言ったのだろうが、しかし、牧野はやさしかった。
「しゃべっちゃダメです。止血します。でも医者もいないんですから、どうすればいいか……」
「うるさい!!」
渾身の力で叫ぶ。
「俺にはいかねばならんところがある。お前の優しさは素晴らしい。だが、俺はもう助かりはせん。血がもう数分分しかのこっていないのだ。時間の無駄だ。さあ、なにか望みがあれば言え。なんでも、できることならかなえてやる」
本当はこんなにすらすらとしゃべってはいない。半分も聞き取れないような乾いた声だったが、しかし、彼には伝わったようだった。
「姫を、文豪を……」
「うん?」
「二人と会いたいんです。大切な仲間と。ただ、そのためには移動手段が……」
ふと合点し、真田はうなずいた。
「これを……これを持って行け」
彼の手には、白い、いや、血糊が張り付き、深紅に染まった箱が包まれていた。
「三階の箱を……そこからブーツを取り出せ……見ればわかる」
そして、震える手で下を指した。
「一番下に、いけ……行け!」
そうすれば、なんとかなる。なんとか……。
「これをなくすんじゃ、ないぞ。この箱を。そして……五分以内に脱出しろ。必ず」
そう言い終わった後、ほとんど見えなくなっていた視界に、初めて一人の少女が入ってきた。
「その子を大切に、な……」
さらばだ! 若き少年少女よ! 最期にであった人たちよ! お父さんお母さん、私はかろうじてバトンを渡せましたよ。牧野に、後輩たちに! 苦しくてとても短かったけれど、素晴らしい人生でありました、ありがとう、有り難う!
胸中でそう叫び、気が付くと彼は巨大な燃料タンクの前にいた。ここらへん一帯の非常用エネルギー供給拠点として運用されてきたものだ。
もう意識も耐えるぎりぎりだったが、直前までやろうとしていたことに対する義務感は残っていた。この施設にはあの女どもがたくさんいるはずだった。いてくれたほうが好都合、というより、いなければこれをやる意味がないのだが、早く見つかる前にやらないと……。空っぽの頭で腰の拳銃を抜き、まっすぐに照準する。そして、自分を傷つけ、仲間を殺した悪鬼に向かって宣言した。
「さらばだ……」
引き金を引くと、発射された信号弾が大蛇のようにタンクへまとわりついたパイプにめり込み、燃料を誘爆させる。それはすぐにタンク全体に広がり、タンクを一瞬膨張させた後、四方八方へ暴れまわった。




