衝撃、二度目
結構いいペースですね
校舎の裏に走る。背後を訓練用の人工崖に囲まれ、前に校舎が置かれたあの部分は一部の人間しか知らない隠れ家のようになっている。この前倉庫の窓から見つけた場所だった。
「ありゃ?」
しかしそこには先客がいた。小学生並みの小さな少女……いや、少年?だった。
「どなた?」
「おお、牧野の友人かな? 大変美しい……」
「知らねえよ。あの、編入生? 見てない顔だけど」
少年は困ったような顔で、
「あ……あの……」
と詰まった。
「どうした? どなたかな? どこから来た? 何学部? 文学か? それとも政法? 航空軍事? 海上軍事? それとも陸上?」
その後も続きそうだったので、文豪を止める。
「アホか文豪のくせに……大丈夫? こいつは気にするなよ」
「いや、失敬。しかしかなり口数が少ない御仁だな。言わんと意志は伝わりませんぞ」
彼は困った。対人コミニュケーション経験が異常に少ない彼は、このようなときどう対処すればよいかわかっていない。彼の任務は対人諜報ではなかった。人間の振りをして侵入、中枢部に近づき、あくまでも受動的な電波収集などを行うことだったから、コミュニケーション用のプログラムなどもあまり高性能なものはインストールされていなかったのだ。
しかし、その会話を<彼>の上位システムが観測していることには、<彼>にすらわかっていなかった。常時接続された戦略・戦術特殊リンクによって、この会話情報は聞こえ続けていたのだ。
本来想定されていなかったSR-1の<人間>との接触。高度なコミュニケーションプログラムを搭載していないSR-1を対人交流を行わせるわけにはいかない、とその上位システムは判断。目標を無力化することを指示した。
「了解……」
彼は服の中から、二挺の自動拳銃を取り出そうと……。
なんだ? 例の彼(?)は懐に手を伸ばし、なにか角ばったシルエットの物体を取り出そうとしている。なにやら古い記憶が呼びさまされる。記憶の沼の中から、幼い記憶の断片が拾いあげられた。と同時に、無意識に体が動き出していた。
「うああああ!」
飛びかかり、彼の腕をつかんで倒そうとする。しかし、思わぬ腕力に押し返されて倒れなかったため、ずるずると二人でくっついたまま後退することとなった。とにかく、横にある倉庫へと引き込む。あっけにとられる二人を横目に、スライドドアを閉めた。
『デルタリーダーより全機。アタック地点突入に備えよ。繰り返す……』
地球と他の惑星との重力が釣り合った地点で待機中の多数のマルチロール戦闘機が動き出す。大量のミサイルと爆弾を搭載したそれらは、間違えなく地球を攻撃するためのものだった。
高速で大気圏へ飛び込む。<AFS-12、ドラゴン>は可変翼を装備。一組の全動尾翼が後方にあり、その中央に重ねて装備されたエンジン。インテークは両側と機体上部に装備され、その中に固形燃料を使用する化学レーザー砲が内蔵されていた。
『イーグル、ドラゴン、ホーネット、ホーク各隊は直ちに敵対し、敵仮想部隊、アロー、ロメオ、シーカーを迎撃せよ。繰り返す……』
対して地球側も決して無能ではなかった。すぐに国連軍所属の航空母艦、飛行隊がピックアップされ、数分以内に大量の迎撃隊を形成、迎撃体制を整えた。
国連軍日本支部こと、航空自衛隊のSOCでは航空幕僚長、防衛大臣がすでに待機しており、敵のマーカーによって真っ赤に染まるモニターをにらんでいた。
幕僚長が防衛大臣に小走りで駆けより、耳打ちした
「おそらく30ノイドが敵中枢かと……。他はこちら……地球の反乱分子が一部」
「30、か……」
30ノイド。30年代に宇宙移民を行った30人。彼らは火星に試験移民したものの、到着した数年後に火星へ隕石群が衝突。
40年完全に消息を絶ったが、44年、つまり昨年、突然ISS、国際宇宙ステーションに通信があった。
『われわれは、生きている』
30ノイドは、われわれを見捨てた地球を決して許したりはしない。近々大きな花火を打ち上げることになるだろう、と。その代表と思われる壮年の男性は言った。
「それが、今回の攻撃か……」
「技術力としては、われわれより上かと」
ふう、と息を吐いて、言った。
「関係ない。全機必ず撃墜せよ。そして全機帰還させるんだ、必ずな」
わかりました、と下がった幕僚長を見やり、また視線を前に移した。
「辞表を出そうかな? もう遅い?」
彼の眼前には大学を卒業する息子、入れ替わりに入学する娘、それに寄り添う妻の姿があった。今、戦士はだれもが自分の家族を思い浮かべているだろう。




