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永遠の桜  作者: ふがし
第3章 強襲編
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第35話 四日目/拉致

 祭りの日の四日目、最終日の朝。僕は丸型のテーブルを囲んでフウ、フィア、シャオさんの三人と話をしていた。話題は勿論、昨日出会ったロリババア、ナルシサスのことである。


「──とまあそんなわけで、『調査』すると人間だったんです。でもロリ体型なのに八十七歳だったり、ペンダントが赤く光ったりして、少なくともただの人間ではなさそうなんですよねえ。魔族とゆかりがあるんでしょうかね?」


 僕の説明を聞き終わると、フィアはかすかに眉根を寄せた。赤いフレームの眼鏡越しに空色の瞳が細められるのが見えた。


「【……正直、それだけの情報では判断に困る】」


 氷の呪いを封じ込めるという厚手の防寒具を揺らし、髪に張り付いた霜をパリパリと落としながら、フィアは慎重に言葉を選ぶようにして言った。


「【年齢に関していえば、若返りの術というものがある。ペンダントにしても見間違いの可能性もあるし……決め手にはならない。……それに結婚という言葉を口にしたのが気になる。交配の概念を持たない魔族が口にするのは奇妙】」


 魔族と聞いて本心穏やかではなさそうだが、出てきたのは冷静な言葉だった。頬杖をついて聞いていたフウが、猫耳をだるそうに揺らしながら口を挟む。


『まあ、約束をしているなら会ってみたらいいんじゃないかにゃ? ボクたちが隠れて監視していればいいにゃ。敵対するようなら殺せばいいし、そうでなければ適当にあしらうにゃ』

「然リ」


 爬虫人のシャオさんも頷いた。三人の意見を聞いて、心を決めた。不安は残るが、逃げ回るよりは向かって行く方が性に合っている。僕の頭の上で触角を揺らすアバドンの背中を撫でてやりながら、一つ頷いた。


「では、会いに行きましょうかね」


 そんなわけで朝の十時、約束の刻限に、ナルシサスと別れた場所に向かった。僕の服装はいつも通り、和服に刀、赤い唐傘を開き、頭には猫のお面を乗せている。少し離れたところからはロリババア三人組がこそこそと後をつけてきていた。


 さて──目的の場所に近付くと、既にナルシサスがいるのが遠目に見えた。エキゾチックな褐色の肌に、大海原を思わせる情熱的な緑の瞳。中学生くらいの体には男物の貴族風衣装をまとっている。腰に提げた剣の鞘を弄りながら、そわそわと落ち着かない様子で辺りを見回していた。


 どうにも、凶悪な魔族という印象はない。油断はできないけれど──そう考えるうち、緑の瞳が僕を捉え、彼女はぱっと花が開くような笑みを浮かべた。


「【いろはっ】」


 喜色もあらわにナルシサスが駆け寄ってきて、僕の手を掴んだ。


「【会いたかった】」


 熱っぽい口調でそう呟くと、彼女は僕の手の甲に口付けをした。相変わらずキザったらしい仕草がイヤミなほど似合っている。潤んだ瞳に見つめられて、胸が高鳴った。


「ぼ、僕は別に……会いたくなんか」

「【ふふ。素直じゃないな】」


 アッシュブロンドの髪をかき上げ、彼女は甘く囁くような調子で言った。相変わらず女性とは思えないイケメンっぷりである。


「そんなことより、あなたに聞きたいことが──」


 言いかけた僕の唇を、彼女の人差し指が塞いだ。


「【まあ待ってくれ。折角のお祭りなんだ、まずは満喫しようじゃないか?】」

「……いや、あのですね」

「【いいからいいから】」


 彼女はそう言って強引に僕の腰を抱き寄せた。「ちょ、ちょっと!」と抗議する声も聞かず、そのまま僕の肩に手を置いて歩き始める。すぐ間近に彼女の吐息と爽やかな香りを感じた。結局抗えず、周囲の奇異の視線に耐えながら並んで歩き出した。


「【祭りは好きかい、いろは?】」

「ええ、まあ」


 生返事をしながら、横目で彼女の顔をうかがった。どうにも彼女の真意は分からない。彼女の話を聞いただけだと、単純に僕に結婚を迫る道楽貴族なのだけれど──どうにも嫌な予感がする。そんな僕の疑念をよそに、ナルシサスは目を細めて語り出した。


「【私も好きだよ。ことに、異国の祭りはね。聞いたことも無い言葉で語られる喧騒、香ばしい食べ物の匂い、未知の楽器が奏でる音楽──】」

「……」


 折しも雑踏のいずこからか、緩やかな調子の弦楽器の音が聞こえ出した。僅かに哀調を帯びた曲は、涼やかな風に乗って流れて行く……。


「【珍しいもの、美しいものに惹かれるタチなんだ。若い時分には方々を旅したものさ。時に馬に乗って、時に船に乗って……。戦場に出ることもあった。野生の竜の出るとされる山に分け入ることもあった。命知らずの放蕩者だったんだな】」


 僅かに苦いものを含んだ口調でナルシサスは語った。道中、彼女は屋台で氷菓子を買って僕に手渡した。バナナに似た果物を凍らせて、チョコレートやクリームを乗せたものらしい。口に含むとひんやりとした食感とほどよい甘みがあって美味しい。


「【世界は美で溢れている。霧に囲まれた山々や無限の砂漠、地平線の彼方まで続く草原。力強く空を打つ鳥や飛竜たちの翼、野を駆ける獣の強靭な四肢。職人の技術の粋を凝らして作られた宝飾や芸術作品──。私はね、そういったものを求めていたんだ】」


 僕は眉をひそめた。なぜ今そんな話をするのか? いぶかしむ僕をちらりと見て、彼女は微笑んだ。


「【唇にチョコがついているよ】」


 そう言ってすばやく僕の唇を奪った。触れたと思ったのは一瞬で、爽やかな香りだけを残してナルシサスは口を離す。目をしろくろさせる僕の耳元で、彼女は囁く。


「【ふふ。今度のキスは甘かったな】」


 ナルシサスは褐色の肌を上気させて軽く自分の唇を手で覆った。体がカッと熱くなるのを感じた。彼女は肩を震わせて悪戯っぽく笑った。


「【あははっ。そんな怒らないでくれ】」

「……全く!」


 憤然とする僕の手をとって、彼女は再び歩き出した。屋台の立ち並ぶ道を離れ、帝城に近くやや小高い道を進む。帝都は全体的に坂の多い地形のようだ。最も高い位置にある城の近くからは、街の様子を一望できた。彼女とともに道端に腰掛ける。


「【……私は夫というものを持たなかった。結婚してしまうと自由に出歩けないというのもあるけれど──何より私の気に入る相手に出会えなかったから】」

「……」


 彼女に気取られないようにちらりと視線を脇に送った。ロリババア三人組がきちんと監視しているのを確認してから、口を開く。


「僕はお気に召したようですね」

「【ああ。貴方は美しい。これまで私があったどんな人よりも──】」


 その声音には、これまでの爽やかな調子とは違って、どこかぞっとするような陰湿な情熱が感じられた。ナルシサスは僕の手を握った。どく、どく、と心臓が脈打つ。冷や汗がぶわっと体中に噴出すのを感じる。ゆっくり噛んで含めるように彼女は続ける。


「【貴方は私のものになるべきなんだ。私は貴方に地上の全ての美しいものを与えることができる。きらめく財宝も、雄大な風景も。その気になればこの世の始まりと終わりの日を見せることだってできるし、遠く離れた宇宙の深遠を旅することだってできる。人間の限界を超越した快楽を与えることも──】」

「……」


 僕は震える手を胸元に伸ばした。最早疑う余地は無かった。ペンダントは血に濡れたような赤い強い光を発していた。乾いた唇を無理やりこじ開けるように、僕は尋ねた。


「……ナルシサス、あなたは魔族なのですか?」

「【いいや。私は人間だ】」


 予想に反して彼女は首を横に振った。ナルシサスは肩を抱いていた手を離すと、僕の正面に回ってじっと瞳を覗き込んできた。僕も彼女の瞳を見つめる。熱病に浮かされたような、狂気を孕んだ瞳を……。


「【私の中に魔族がいるのだ。この世界の始まりから存在する太古の血が、私の中を巡っている】」


 魔族は血液状の寄生生物、という話が頭をよぎる。彼女の中にいる、とは……つまるところ、そういうことなのだろう。


「【……かつて戦場で死に掛けた私のもとに、魔族が這い寄った。アレは私との共存を持ちかけてきた。……ふふふ、アレも万能の存在ではないのさ。肉体改造でヘマをやらかして前の肉体を失い、やむなく私に寄生しようとした……。傑作じゃないか? もしも私が拒んでいれば、私は史上初めて魔族を殺した者になっていたかもしれないんだからね。全く以って、運命の女神は気まぐれだ。ふ、ふふ、ふふふふ】」

「……でも、あなたは魔族を受け入れた」

「【……ああ……。まだ死ねなかった。出会っていなかったからね、私の求めるものに。この世で最も美しい者に──】」


 そっと彼女の掌が僕の頬を包んだ。


「【……さあいろは、この世で最も美しいと私が認めた人よ。貴方と結ばれるために、私は悪魔に魂を売り渡した。貴方の為なら、今この瞬間、時を止めて彫像になってしまってもいい……。さあ、私のものになるんだ。いい子だから……】」

「……拒んだら?」

「【拒む? 何を言っているんだ。利口になってくれ。貴方に私の夫になる以外の選択肢は無いんだよ】」


 ぎらぎらと輝く瞳から目を逸らして、僕は尋ねた。


「……ナルシサス。フィアルカという魔人の娘を知っていますか?」

「【うん? いや……魔人に知り合いはいないな】」

「……今まで人を殺したことは?」

「【戦場で何人か。……どうしてそんなことを聞くのかな?】」


 やや苛立った様子を見せる彼女をよそに、僕は考え込んだ。フィアルカに呪いをかけた魔族とは別口なのか、それとも前の宿主の方がやったのか? いずれにせよ、ナルシサスは狂気に侵されながらも、まだ人間としての理性をぎりぎり保っているようだ。それならば──。僕は意を決して言った。


「ナルシサス」

「【ん? なんだい、とうとう私と結ばれる──】」

「頭を冷やして出直しなさい。あなたのそれは愛ではなく、ただの押し付けです」


 言い捨て、彼女を突き飛ばし、駆け出した。向かうはロリババアズの方だ。


「フウ! フィア! シャオさん!」


 叫ぶや否や、三つの小さな影が一斉に飛び出した。


「ルウウウウアア!」


 獣のような声を発して、刀を手に白い影が走る。シャオさんだ。彼女は双刀を振りかぶると、打ち付けるようにしてナルシサスに振り下ろす。鈍い音がして腕が一本、空に舞った。血が吹き出る片腕を眺めながら、ナルシサスが病的に歪んだ笑いを浮かべた。


「【……そうか、これが答えか。あああ、残念だな。とても、とても残念だよ……】」


 彼女の言葉と同時、噴水のように撒き散らされていた血が渦を巻いて収束する。フィアが悲鳴を上げた。何かが光ったと思った瞬間、耳をつんざくような轟音と衝撃に襲われた。わけも分からないまま打ち倒されて地面を転がる。


「うぐ、な、何が……?」

「【……魔術よ、マナの代わりに血を媒介とする血液魔術。斬りつければ吹き出た血が膨大な魔力の塊となって襲い掛かる。かつて多くの国が剣と矢でもって魔族に打ちかかり、吹き出る血によって返り討ちにあった……】」


 僕と同じく地面に這い蹲ったフィアが言った。それで、あんな衝撃に襲われたのか。ガンガンと痛む頭を押さえながら辺りを見ると、シャオさんも吹き飛ばされて地面に転がっているのが見えた。


 かつ、かつ、硬い足音が響く。ぽたぽたと血を流しながら、人影が歩み寄ってくる。太陽を背にしているせいで表情は見えない。身を硬くする僕と歩み寄るナルシサスの間に、フウが割り込んだ。


『へえ! なかなか面白い魔術を使うじゃないか。魔族と殺しあうのは初めてだが……楽しませてくれたまえ』


 ぶわ、と黒い炎が彼女の体を包む。ドス黒い好戦的な笑顔を浮かべてフウが胸の前で印を切った。


「『イグニート・ソード』!」


 高らかに叫んだ瞬間、天から煌びやかな光が差し込んだ。揺らめく純白の炎をまとった剣が、ナルシサスに向かって雨あられと降り注ぐ! それに対してナルシサスは舌打ちして血の滴る腕を振った。舞い散る血が複雑な魔法陣を描いた途端、純白の炎は跡形も無く消え去る。


 どうやら魔族の魔術──血液魔術では、印や詠唱といったものが不要らしい。魔術に詳しくないのでそれがどれだけ意味があるのかわ分からないが。


 魔術をかき消されたフウは怯むどころか獰猛な笑みを浮かべてナルシサスに突撃した。あっという間に距離を詰め、首を掴んで地面に引き摺り倒す。


『クハハハハハ!』

「【ぐっ……!】」


 そのままギリギリと力をこめて首を絞め始めた。忘れがちだが、フウは速度と格闘術も相当なものだ。かつてフィアの首を素手でへし折ったこともある。勝負あったか、と思ったが、ナルシサスは足でフウの腹を蹴り飛ばした。軽く呻いてフウが距離をとる。


「【ご、ごふっ、ふ、ち、……】」

『クッ。ハハハ! 中々やる』


 フウの目がギラギラと猛獣のような輝きを帯びた。その手は次の魔術に向けて印を切り始めている。対するナルシサスは苦しげに顔を歪めて脂汗を浮かべながら、腰の剣を引き抜いた。何をするのか、と思ったら、彼女は自分の太ももを深々と切り裂いた。夥しい量の血液が噴出し、蛇のように中空でとぐろを巻いた。


「【ぐううう、ううう!】」

「『フレイム・ファランクス』!」


 ナルシサスの苦痛に満ちた咆哮とフウの声が同時に響いた。ナルシサスの撒いた血からは青い炎の矢が、フウの指先からは漆黒の炎の槍が、それぞれ放たれた。炎と炎は互いにぶつかりあい、まるで生き物のように互いを食い合いながら消滅していく。青と黒の火花が散り、辺りを凄まじい高熱が包み込む。這いずってきたフィアが抱きついて炎を和らげくれた。


「ありがとうございます、フィア」

「【別に。それより……まずい】」

「まずい?」


 矢と槍の応酬はまだ続いている。毎秒数百発と生み出される炎が打ち消しあう様は壮観で、両者の実力は拮抗しているように見えたが──。


「【……技量的にはネコさんが上。でも魔力量で押し負ける】」


 フィアの不吉な言葉を裏付けるように、青い炎が徐々に勢いを増してきた。そして──。


「【ぐううあああああっ!】」

『ぐ、チッ……』


 青い炎がフウを捕らえた。膨大な炎の矢は彼女の小さな体を舐め尽くし、あっという間に炭の塊に変えた。少女の形をした炭が地面にどう、と倒れ付してボロボロと崩れ落ちる。


「……ふ、フウ!」


 地面を這いずって近寄ろうとした僕の前に、ナルシサスが血走った目をぎらぎらと輝かせて歩み寄ってきた。その瞳は、なぜか緑から血のような赤に変わっている。


「【……この体では、……これが限界か……】」

「何……?」


 先ほどまで狂的な情熱を見せていた彼女らしからぬ、淡々とした無機質な口調だった。違和感を覚えて眉をひそめる。


「あなた……ひょっとして魔族ですか? ナルシサスの中に寄生する……」


 声をかけながら、こっそり頭の上に乗っていたアバドンを逃がした。風邪で寝込んでいる三人や皇帝ならば、アバドンの姿を見て僕の窮地を察してくれるはずだ。彼女は血走った目で僕を一瞥するも、何も語らず僕を小脇に抱え上げた。僕に抱きついていたフィアが激しく抵抗する。非力な腕に精一杯の力を込めて、青銀の髪を振り乱しながら……。


「【どけ、呪われた娘】」

「【離して、離しなさい! この人は、この人を! あなたなんかに渡すものか! 人を、美術品や工芸品みたいに、そんな人になんかっ……!】」

「【一丁前な女の台詞を言うようになったな。お前など……いや……うん? しかしだな。……ふん。面倒だが……。それも面白い、か?】」


 唐突に独り言をぶつぶつと呟いてから、ナルシサスこと魔族はフィアの腹を蹴り飛ばした。ゴフ、と息を吐いてフィアは倒れ付す。


「フィア! フィアっ!」

「【騒ぐな、気絶させただけだ。この娘には役割がある。ナルシサスがそれを求めている】」

「何を……」


 昆虫じみた無機質な、それでいて嫌らしさを感じさせる笑みを浮かべて、魔族はフィアの体を持ち上げる。そのまま、地を蹴って駆けだした。


 フウに打ち勝ったとはいえ、魔族も満身創痍という風である。腕を一本失い、片足に切り傷を負っている。おまけに防ぎきれなかったのか、体のあちこちに軽い火傷を負っているのが分かった。血だらけの彼女の姿を見て、すれ違う人々が悲鳴を上げた。それらには一瞥もくれず、街を抜け草地を突っ走る。


「【……思ったより……消耗したか……。この体に入ってから……まだ数十年……肉体の改造が十分ではない……。人間の限界を、まだ超えていない……時期尚早だったか? しかし、しかし。ああ、そうせっつくな、分かっている。血が、血が足りない……。早く逃げなければ追ってくる? 言われなくとも気付いているさ。堕ちても神か、煩わしい……。ああ、相性が最悪だ、炎とは……。血が、大事な血が焼かれる……。せめて魔力に劣る剣神か、身体的に劣る法神の類なら楽に殺せたものを……何の因果で戦争神などと……】」


 ぶつぶつ独り言を言う彼女の頭上で、ぬう、と不気味な黒い影が姿を現した。漆黒の炎をまとった巨獣が天を駆けている。濡れたようなドス黒い瞳を炯々と輝かせ、巨獣は吼えた。


『アハハハハ! 動きが鈍いなあ、血を流しすぎたか!? 最強の生物の名が泣いているぞ! さあ、第二ラウンドといこうか!』

「【……イズラ・フロウ!】」


 魔族が奥歯をギリギリと噛み締めた。倒れたと思ったフウだが、案外ピンピンしているようでちょっと安堵する。


「【……お前に付き合う義理はない、な。目的は果たした。退散する】」

『つれないじゃあないか、ええ? 弱者をいたぶるのが好きなくせに強者の前では尻尾を巻いて逃げるか!』


 獲物を前にした肉食獣のようにフウが嗤う。漆黒の炎の中から亡者が次々と顔を出し、一斉に印を切った。


「『ファイアストーム』!」


 燃える真紅の火柱が幾本も立ち上がり、草地に燃え移ってあっという間に辺りを火の海に変えた。肺が焼かれるような息苦しさに襲われる。魔族は真紅の瞳をぎらつかせて血の滴る手を掲げた。


「【ぐうううう、ああああ!】」

『はっははっはははあ!』


 魔族の絶叫とフウの哄笑。その二つを聞きながら、煙に巻かれた僕は気を失った。


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