第23話 魔の都市へ
田舎の朝は静かだ。大学に行くため都会に出てから十年余り、駅近くのボロアパートでひっきりなしの電車の騒音に慣らされた身としては、いささか物足りなさすら感じる。無意識に右手で眼鏡を探して、ああ今はかけていないんだった、と苦笑を浮かべた。
腹の上に熱を感じる。軽く撫でると、小さく「ん」と声を上げた。金色が炎のように揺らめく。一拍置いて、それがローザの髪だと気付いた。猫のように体を丸めて、僕の胸に顔を埋めている。年の離れた妹か従姉妹がいればこんな感じなのだろうか? どちらも縁がなかった身としては想像しかできなかった。
首を巡らすと、両脇を固めるように桜お姉ちゃんとリリアさんが眠っていた。両手でそれぞれの肩を抱くと、温もりを求めるように少し体を寄せてきた。四人、団子のようになって、熱を分け合う。顔だけ、外気に晒されて寒い。
フウは既に起きてどこかに行ってしまったようだ。布団が抜け殻のように残されている。昨日一番早くに寝たからな。シャオさんは──どうだろう? 自宅に戻ったのかもしれない。
つらつら考えながら、三人が起き出すまで、温もりに身を委ねた。
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数日は、旅の準備と信者たちの教育に当てることに決まった。
リリアさん主導でひらがなの書き取りから始まり、三日で文法一般と話法を叩き込むという超スパルタ教育である。一日目の夜が終わるころには、机に突っ伏して「ウウ……」「も、ムリ……」「アタマ……ハジケトブ……」と日本語で呻きを上げる信徒たちの姿が見られた。
「やはりと言うか、シシファ語の文法すら怪しかったので苦労しますね」
そう言うリリアさんの顔にも疲労の色が濃い。
かなりの信徒が苦戦する中、ジェドの成長が著しかった。発音はかなり怪しく、話すときにかなりつっかえるものの、ぎりぎり意思疎通できるレベルに達していた。
『ジェドは、存外いい拾いものだにゃ。いち早くローザに服従を表明した判断力といい、統率力といい、役立つと思うにゃ』
フウはそう評した。
とりあえず文字はひらがなだけ教える方針のようだ。高度な読み物の読解には苦労するだろうが、彼らに読ませるのはそこまで難しい本ではない。
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リリアさんが教育を行っている間、僕は書斎を借りて書き物をしていた。書くのは、四冊の本。半紙に墨で文字を書き連ねていく。
「──もりの なかに ふかく わけいり、 かれは いっぽんの きの まえで たちどまりました。あわく ひかりを はなつ そのきこそ、 かれらの まもりてである かみの やどる きなのです。かれは よびかけました──」
「精がでるのう」
声と共に桜お姉ちゃんが肩越しにひょい、と覗き込んできた。
「これが、例の本か。全ての元凶になったという」
「元凶って何ですか」
僕が今書いているのは、前世で幼いころに読んだ児童書だった。筋書きとしてはありふれたもので、一人の英雄が女神の祝福を受けて竜を倒す、といったものだった。
「祝福を与えた女神の名前が、サクラ。一千三百年の歳月を経た樹木の神にして森の守護者です」
「儂のモデルか。こそばゆいのう」
するりと僕の膝の上に乗っかり、半紙を覗き込んできた。
「よくまあ、正確に覚えているもんじゃ」
「読み返しましたからね。何度も、何度も何度も」
「そんなに好きな本じゃったのか?」
「サクラが、好きだったんですよ」
「……む。よくまあ、恥ずかしげもなく言えたもんじゃ」
「そう言ってほしかったんじゃないんですか?」
「言うようになったな」
手は止めず、囁くようにやりとりを交わす。
「最終巻を買うのが待ち遠しくてね。誕生日に、父さんに買ってもらったんですよ」
「よくまあ、そんなやっすいものを」
「大事なものなんですよ。僕にとっては」
まあこの巻でサクラが死んで大泣きしたんですけどね、と付け加える。
「非常に不満です。主人公はなぜサクラを選ばなかったんでしょう? そして敵を倒したらお姫様と結ばれてハッピーエンド。サクラのさの字も出てきません。極めて腹ただしい結末です」
「児童文学じゃろ。そこまで瑣末な、しかもドロドロした話は書かんわ」
「納得いきません」
くるり、と向きを変えて、桜お姉ちゃんは僕の鼻を突いた。
「納得いかない、で終わっていれば普通に生きられたじゃろうに。お前も仕様のない」
言い返そうとして、彼女の漆黒の瞳に浮かぶ複雑な、何とも形容しがたい感情を見て、口をつぐんだ。
自身の艶やかな唇に指を当てて、詩でも吟じるように彼女は呟いた。
「色は匂えど散りぬるを、我が世誰ぞ常ならん」
「何ですか、急に?」
「この世に永遠に咲き誇れる花など何一つない」
怪訝に思って眉をひそめる僕を前に、彼女はやれやれと首を振った。
「最初はなあ。お前の趣味を何とか矯正できんかと思っとった」
「……。それで、そんな名前に?」
永遠に留まれるものなどないから。永遠の夢を、ロリババアを捨て去って、普通の人間のような恋をしろと?
「お前がいい女をつかまえて、子供を作って、幸せに老いていくのを見守れればいいと思っておったんじゃ」
「それは!」
「じゃがなあ」
そっと僕の頬に両手を添えて、目を合わせる。
「リリアが来て、ローザが来て。お前に色目を使い出して──どうにも抑えが効かんかった。お前の体と心の隅々まで、儂の色で染め上げないと気が済まなくなってしまった……」
手を止めて、彼女の腰を抱き寄せる。
「当然ですね。あなたに愛されるためだけに僕の命の全てを捧げたんですから。たとえ拒絶されたとしても、僕の持てる知識と力の全てを振り絞って抱きしめに行きます」
ああ、と彼女は喘ぐように声を漏らした。
「そうじゃな、お前はそういう奴じゃ。どうしようもなく歪んでいて……その歪みにこそ、儂らは惹かれるのか……」
抱きしめて、唇を奪った。彼女は情熱的に応える。舌を絡め、歯と唇をなぞり、唾液を交換し合う。
口を離すと、荒い息をついて僕の首にすがりついてきた。
「このまま、時が止まってしまえばいいのにな」
「時を止めるにはまだ早すぎますよ。何のために異世界まで来たと思っているんですか? もっともっとあなたを感じさせてください。永遠の時間の全てを費やしても、僕の愛を埋めきるには足りないですよ」
「全く……がんぜない……んっ」
再び唇を重ねる。蕩けきった表情を見せる彼女に際限なく愛しさがこみ上げてくる。
この日は、結局あまり筆が進まなかった。
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フウとローザは村の様子を見て回っているようだった。
この村の多くは農民出身で、全員が元イズラ・フロウ信者らしい。僕を襲った三十人の他に、病身のものや寝たきりのもの、そして幼い子供が二十人ほど。ローザが癒しの力を使ったところ、病人の大半は元気になった。
拝火教団というのは自治的な宗教組織のことで、国からの税を免れる代わりに、他国との戦争に協力する義務を負っているようだ。
「北方教会は拝火教団の末端組織ですね。総本山である中央教会は別の大陸にあります」
とリリアさんが言っていた。
『取り敢えずは、十五名もいれば北方教会の占領には十分にゃ』
「……十五人? そんな数で大丈夫ですか?」
首を傾げる僕に、フウはにたり、と笑うと、懐から短剣を取り出した。装飾の少ない短剣で、柄に埋め込まれた宝石が禍々しい赤色を放っている。
「これは?」
『にゃあ。ジェド。魔力を込めて、空に向けて振ってみるにゃ』
『は? はあ』
突然名指しされてびくつきながらも、ジェドが短剣を振るう。途端、凄まじい爆音と共に、空を裂いて縦横無尽に炎が走った。更に漆黒の炎を背景に巨大な魔炎のイズラ・フロウの幻影が浮かび上がり、哄笑と共に手を振るうや、火炎をまとった獣が咆哮をあげながら降下し──。
『うおお!?』
使った本人が腰を抜かしそうなくらい驚いている。フウが指を鳴らすと、炎も幻影も跡形もなく消え去った。
「何ですか、ありゃ」
『ボクの魔力をこれでもかというくらい込めた逸品にゃ。振るえば上級火炎魔術が発動する。更に持ち主には火炎への耐性をもたらすにゃ』
「ははあ……」
『これほどの火炎術を使える人間なんてまずいないにゃ。地方支部の田舎者をびびらすには十分にゃ。これを十五本用意してあるにゃ。ちょっとした軍隊くらいなら力押しで圧殺できるはずにゃ』
『あの……。戦争しようという訳ではないのですが……』
冷や汗を流すジェドに、けらけらと笑いを返す。
『分かってるにゃ。極めて穏便に。にゃあ?』
「ええ、そうですね。聞き分けのない方を諭すために、極めて穏便な方法ですね」
にこにこ笑いながら返す。ジェドが胃痛を抑えるようにうずくまり、ローザがそれを気の毒そうに眺めやった。
「十五人を北方教会に送るとして。日本語教育に特化した人材がほしいですね」
『田中を頼ってみては、どうか?』
意外な名前が出た。ふむ。
「リリアさんの意見も聞いてみましょうか」
信者たちの教育現場に行って、リリアさんに相談してみた。
「なるほど。基礎的な教育だけこちらで全員に施して、その後専門の指導員を養成しつつ日本語を広めるわけですね?」
「ええ。ただ、田中さんに迷惑にならないかな、と」
「ふうむ……。彼は現在退職していますし、時間的な問題はそこまでないかと。謝礼としては……」
自分の荷物袋をあさって、彼女は宝石を一つ、取り出した。
「これは?」
「琥珀です。それほど高価なものではないですが、中に蜂が閉じ込められていましてね」
言われて覗き込むと、確かに二匹の蜂が太古の姿を留めおいて、琥珀の中で眠りについている。化石の一種で、地球でも博物館などで目にしたことがある。
「以前見せたら、欲しがっていたので。これをいくつかと、あとはまあ事後報酬ですかね。断られたらその時はその時です。取り敢えず三人ほど送り込んで、頼み込んでみましょう」
「そうですね」
その場で語学と知能に長けた三人を選出して、三日間の教育終了後、アイルの田中さんを訪ねるよう伝えた。
『どんな方ですか?』
『多分、見覚えがあるはずですよ』
信徒の問に答えて、創造主の指先で田中さんファンネルを創り出すと、信徒の一人が泡を吹いて倒れた。……うーむ。こっちの方が心配だな。
残る二人に僕が書いた本を託す。
『これはあなた方の聖書となる本です。今はまだ読めないでしょうが、日本語をよく勉強し、読解し、ロリババアの素晴らしさを悟りなさい』
『は……』
おっかなびっくりといった仕草で本を受け取り、胸に抱く。本すらまともに読んだことがなく、語学に長けているといっても口語のみといった有様の彼らだが、さてどうなることやら。
『あとは、人が減る分の労働力の補充だな。信徒とて、農民だ。生活もあろう』
『にゃあ。ゴーレムでも作っとけばいいにゃ』
言って、フウが指を鳴らす。傍らの岩が凄まじい勢いで削られ、精巧な石細工の人型となった。そのまま、滑らかに動き出す。信徒たちがおお、とどよめいた。
「攻撃特化の火炎専門かと思ったら、案外小技も使えるんですね」
『そりゃま、仮にも神だったからにゃ』
答える彼女は結構得意そうだ。
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そんなこんなで、一通り準備も終わり、出発の日になった。僕に同行するのは桜お姉ちゃん、リリアさん、ローザ、フウに、シャオさんを加えた計五人だ。
『ジェドよ。それがしは行く。後を頼む』
『お任せください』
頭を垂れるジェドに対し、シャオは背伸びして抱きついた。
『帰ってくるときには、お兄ちゃんだな』
『……。く、くれぐれも自重下さい。くれぐれも!』
『はっはっは』
ジェドさんの胃痛がマッハで進みそうだ。流石に気の毒になって、その肩にポン、と手を置く。
『イロハ殿?』
『ジェドさん』
にっこり笑う。
『お義父さんと呼んでくれてもいいんですよ?』
『ぬがあああああ!』
……あれ? なんか頭を抱えて絶叫しだした。
「トドメをさしてどうするんじゃ……」
「胃痛+頭痛のコンボですかねー……」
桜お姉ちゃんとリリアさんが哀れみたっぷりの声で言った。あれえ?
「まあ、ともかく。信徒たちの馬車を貸してもらえたので、これで行きましょう」
リリアさんの言葉につられて見やると、馬車が……馬車?
「馬車ですか、これ?」
「木を組んで布を被せただけにしか見えんが……そもそも馬がおらんぞ」
『馬がいないなら、作ればいいのにゃ』
フウが言って指を鳴らすと、漆黒の獣が二頭、鋭い嘶きをあげながらぞろり、と現れいでる。
『まあ、馬ではないがな』
『贅沢は言わないにゃ。さすがにそこまでの小技は使えないにゃ』
獣がむんず、と木枠を引っつかんで神輿でも担ぐように肩に乗せる。……いややっぱりどうあがいても馬車じゃないなこれ。すれ違う人に変な顔されないかな。
ともあれ、リリアさんの鎧をはじめ、荷物もろもろを運び入れ、馬車は出発した。
布の隙間から遠ざかる同志たちに手を振ると、笑いながら振り返してきた。誤解があったとはいえ、つい先日殺しに来た相手とは思えないなごやかさだ。
馬車は思ったより揺れず、段差の多い崖道でも滑るように進む。やはり尋常の獣ではないのだろう。
馬車の中ではリリアさんがシャオさんに日本語教育を施している。ジェドほどではないが、彼女もそこそこ習得が早い。文書を読むのは厳しいだろうが、単語の羅列でぎりぎり意思疎通できるレベルだ。フウとローザは馬車の前側に陣取っている。会話はないが、前ほどピリピリした空気も感じない。表面上でも、フウがローザに服従しているという体裁を取り繕っているのだろうか。
僕はというと、桜お姉ちゃんに後ろから抱きしめられたまま、一緒に外の景色を見ていた。
馬車から見える景色は、緑がかなり多いが、日本の田舎からさほどかけ離れているわけでもない。目に付いたのは多様な生物だ。五メートル余りにもなる巨体を揺らしながら木々を掻き分けるクマ、恐竜じみた巨大トカゲの群れ。
全体的に地球と比べて生き物のスケールが大きい気がする。重力や大気の成分が異なるのか、それとも人間が支配的な種族ではないために乱獲されずに生き残っているのか、はたまたマナなる謎物質か何かの影響なのか。想像は尽きない。
途中で馬車が一度立ち止まった。行き止まりか、と思って前方を見やると、白っぽいボールが跳ね回りながら目の前を通過していく。……何だあれ。
「タビクワイ、と呼ばれる植物の一種です。柔軟な体を持つタネはある程度の知能を持ち、自立して群れを作って集団移動します」
「えらくアグレッシブな植物ですね」
馬車の上から覗き込むと、一匹──一体? と目があった。そもそも目があること自体驚きだが、それは首でもかしげるように体を揺らした。つぶらな瞳とあいまって結構可愛い。
「それは野生種ですが、愛玩動物として品種改良を施されたイエクワイというのもいます」
「へえ」
飛び跳ねながら進む行列に癒されながらも、わざわざ立ち止まるあたり獣も律儀だな、と思う。ひょっとしたら、フウの指示なのだろうか? そう思って彼女を見るも、明後日の方を向いていて表情が窺えない。以前の彼女なら容赦なく踏み潰して進ませそうだけれど、心境の変化でもあったのだろうか?
大きな事件と呼べるほどのことはなく、馬車は進む。野生の獣にでも襲われるかと思ったが、馬車を担ぐ獣にびびったのか、特にそういったことはなかった。仮に襲われたところで、僕以外の五人なら容易く返り討ちにしてしまえるだろうけれど。
することもないので、雑談をしてみる。
「人も増えてきたことですし、改めて考えたいんですけれど……。僕にもできる金稼ぎって何かないでしょうかね?」
五人は首を捻る。
「お前の取り柄と言えば、意志と魅力ぐらいじゃろ」
「……定住して客商売でもするにはよさそうですが、ぱっと稼ぐとなると……」
しばらく悩んで、シャオさんが口を開いた。
「ゲイシャ?」
「……芸者?」
「チガウ、か。ゲイ? ドウケ……」
「ああ、大道芸人ですか」
存外、いい案かもしれない。
「芸なんてできたか、お前?」
「これがあるでしょう?」
ぴ、と指先を立てて、念じる。ふわり、と光が集まり、指先に一頭のアゲハチョウが生じた。
「ああ、なるほど」
得心したように桜お姉ちゃんが頷く。
「生物ばかり作っていますけれど、それ以外は創れないんですか?」
「……ちょっと厳しいですね。解剖した経験があるマウスや昆虫、それと植物なんかは細部まで作りこめますけれど、猫なんかはほとんど外側しか創れないですし」
「人間を創っていなかったか?」
「昔、人類学の実習で解剖をちょっと。まあ細部は多分、フウの側で調整したんでしょうけれど。他には──」
斧を強くイメージしながら創造主の指先を使ってみる。連続十五回失敗した。
「僕にとって馴染みの薄いものは見ながら、触れながらじゃないとたぶん創れません。シシファ純金貨みたいな材質が一様なものは比較的創りやすいですね」
「使いづらいのう」
「まあ、大道芸に使うくらいなら十分でしょう」
指先で光に戻る蝶を眺めながら呟く。
『直接硬貨を作った方が楽だし、稼げるだろうに』
『人間の考えることはよく分からないにゃ』
いやあ、一応働いているという感じだけでも欲しいんですよ。悪銭身につかずっていいますしね。
話しているうちに、シャオさんの目が腰の刀に向かった。
「……カタナ」
「ああ、これですか」
すっと手が伸びて、柄を撫でる。
「イキテイル、な」
「分かりますか」
暫く撫でた後、手を放した。
『生きている武器か。使いづらいもの持ってるにゃ』
「使いづらいですか?」
『使用者の意思を無視して斬りかかるなんて武器としてはゴミ以下にゃ』
ひどい言われようだ。
『一般的には、生き血を啜ることで成長すると言われる。成長させれば、最終的には高い知能を得て人間体を取れるらしいが、ごくごく稀だな』
「生き血ですか……」
生き血と言われても、戦闘経験すら全くないからねえ。
「シャオさん、使ってみますか?」
いい案だと思ったが、首を振られた。
「イシ、フソク」
あー。洗脳を跳ね返せるレベルの意志がないのか。うまくいかないものだ。果たして妖刀に日の目が当たる日は来るのか。
昼食は火をおこすために、馬車から降りて取ることになった。見晴らしのいい丘で、昼食の準備をする。
「干し飯が多少。漬物もあるが、野菜はその辺で摘んでくるか」
「肉が欲しいですね」
「カル、か?」
にたりとシャオさんが笑う。この人が言うとなぜかかなり怖い。片言がなおさら恐怖を煽る。
「まあそうじゃな。適当に頼む」
「リョウカイ、した」
地を蹴ってシャオさんが走り出す。あっという間にその背中は見えなくなった。
「……ちゃんと通じているのでしょうか……ここら一体の野生動物を狩りつくしてこないか不安ですね」
「まあ、大丈夫じゃろ……多分」
若干不安交じりにリリアさんと桜お姉ちゃんが言葉を交わした。
僕とローザ、フウの三人でその辺の食べられる野草を摘んできた。
帰ってきたときには、巨大な生き物の牙や毛皮が整然と並べられ、シャオさんが肉を捌いていた。
「……何を狩ってきたんですか?」
「猪ですね。取り敢えず絞めて血抜きして解体しました。余った分は干し肉にしましょうか」
猪かー。ワイルドな。
鍋でじっくり煮込んで食べてみると、柔らかくて案外美味しかった。
「うーむ。私がやると臭みが強く出るのですが……腕の違いでしょうか」
リリアさんは腕組みをして唸っている。
食後、小休止も兼ねて寝そべっていると、不意に巨大な影がよぎった。
仰ぎ見ると、上空に一頭、翼の生えた恐竜のような生物が悠然と飛行していた。
「あれは……」
「竜ですね」
「竜」
あれが、竜か。
「何て雄大な……」
目を細めて細部まで観察する。脚部は筋骨隆々として力に満ち、大地を踏みしめればそれだけで地震を起こせそうだ。逞しい堂々たる体躯を純白の鱗が覆い、輝く眼差しには限りない知性のきらめきが見て取れる。風を切って進む翼は太く長く、戦闘機を連想させた。
「アルダンイール白竜公爵です。七代前のシシファ皇帝の治世時代に皇女を娶り、それ以来帝国に仕えています」
『ふん? 皇女とやら、さぞかしガバガバだったようにゃ』
「いや、術を使えば人間の姿を取ることもできますから……」
リリアさんとフウのやり取りも耳に入らない。まさしく空の王者といった風格で旋回する竜の姿を食い入るように眺めた。
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夕方近くに国境に着いた。国境付近は谷が多く、僅かに残る平野部は石の壁で囲まれている。街に入るときと同じ要領で門番の調査を受けた。
「馬車は、どうするんじゃ?」
『このまま帰らせるにゃ』
フウの言葉に従って、漆黒の獣が空になった馬車を担いで村へ帰っていった。
「シシファは三つの国と国境を接していますが、これから向かう魔人種族連邦はシシファと同盟関係にある国です」
リリアさんに付き従い、暗くなった道を歩く。道はかなり良好に整備されていて、マナ灯が煌々と照らしている。
「その名の通り魔人種族を中心とした国家ですが、他の種族も住むことができます。ただ、魔人種族の生態上、多種族にとっては住みにくい国ですね」
「魔人の特徴は何ですか?」
「五種族の中で最も魔力と術の行使に優れています。一方で身体能力は低く、日の光を厭うため多くは地下生活を営みます。概して小柄で、色素が薄く、視力が薄弱です。外見的な特徴として頭部に角状の器官を持ち、これを用いて魔力を感知できるそうです」
十分そこらで、魔人種族連邦側の城壁が近づいてきた。
「国教は暗黒と魔術の神ヴェルテル」
『根暗男にゃ』
ふん、とフウが鼻を鳴らした。
「……まあ、このように魔炎のイズラ・フロウと仲が悪いです。地下、それも洞窟生活が長いですから種族の本能として火を苦手とし、彼ら自身も火の神を信仰することはまれです。まあ魔術が発達した近年は、多少その傾向も薄れつつありますが」
「なるほど。身を隠すには確かにいいですね」
門の前で魔族と思われる兵士の調査を受ける。鎧を着ているので風貌は分からないが、兜から角が一本張り出ていた。
そこそこ時間は掛かったが、最終的に問題はないと判断されたのか、門が開く。
門の先には、険しい山々が連なっていた。
「……これから山登りですか?」
「違いますよ」
言って、リリアさんが足元を指差す。下を見やると、地面に何かしらの紋様が描かれているのだと知れた。
「これは?」
「転移します。つかまって」
わけも分からないまま、彼女の手を取る。他の皆もつかまったのを確認して、彼女は何事か呟いた。
「わ……」
不意に何とも言いがたい虚脱感に襲われる。
驚いたのは一瞬で、すぐに正常な感覚を取り戻した。
辺りを見回すと、目の前に広がるのは山々などではなかった。まず目に付いたのは、天井──といっても、数十メートルの高さがあるが──近くを浮遊する幾つもの光球だった。ぼんやりとした光が照らす先には、喧騒に満ちた石造りの街並みが広がっている。道行く人はゆったりとした服をまとい、眼鏡をかけている人が多かった。一様に額から角が伸び、体は概して小柄で、色素が抜け落ちたような白い肌と、雪のような銀髪や目の覚めるような青銀の髪が印象的だった。
「魔人種族の地下都市。魔術によって作られた無数の太陽が照らす、眠らない街です」
ドラゴンと言えば絶対的強者。昨今のドラゴンは雑魚扱いで泣けてくる。
ところで竜系ロリババアといえばFEのチ○ですが、検索してみたら最近のは成長してるんですね……。暗黒竜しかやったことないから知らなかった。なぜロリ体型を保たなかったのかと小一時間(ry




