第15話 創造主の指先
光を感じて目を開けた。吐息を感じるほど間近に桜お姉ちゃんの寝顔があって、少し驚く。彼女を起こさないよう気を使いながら、身を起こした。
軽く、伸びをする。澄んだ空気が心地よい。しかし、腹の奥は異物を飲み込んだかのようにずっしりと重い。明日、魔炎のイズラ・フロウとの決戦だ。それを思うと、気が滅入る。
部屋を見回すと、小瓶が目に付いた。中に入っている液体は……察して欲しい。
「全く……」
顔が紅潮するのを感じた。小瓶を『荷物袋』にしまった。
寝室は、薄い網戸を隔てて庭に面している。そちらに目を向けると、ローザが庭にぽつり、と佇んでいるとが見えた。こちらに気付いて、振り返る。
「お早うございます」
『ああ。お早う』
短く挨拶を交わした。ローザは僕をじっと見つめていた。
「何か?」
『いろはには、済まないことをした』
何に対して謝っているのか理解できず、目を瞬かせた。ローザは、僅かに顔を伏せた。
『イズラ・フロウのことだ。元はと言えば、我の招いた種である。我と関わることがなければ、やつに目をつけられることもなかったであろう』
その言葉に、僕は。ローザの頬に手を当て……。むにー、と両側に軽く引っ張った。
『いふぁい!』
バッ、と僕の手を振り払い、ローザは微かに赤くなった頬を撫でた。
『いきなり何をするか』
「前言を撤回しなさい、ローザ」
抗議をする彼女に、鼻先がつくぐらいまで顔を近づけた。
「あなたは、僕に出会わなければ良かったと、そう言うのですか?」
『いや、それは……』
言いよどむローザの手をとって、微笑みかける。
「僕は、ローザに会えてとっても嬉しいですよ。ローザに髪を撫でてもらったとき、とても温かかった。抱きしめられたとき、心地よかった。ローザの話を聞いて、ローザの横顔を見て、ローザと手を繋いで、僕はこんなにも嬉しいんです。ローザは、どうですか?」
『我は……』
下唇を噛んで、彼女は囁くようにか細い声で言った。
『我も、嬉しい。汝と会えて……』
「なら、関わらなければ良かったなんてもう二度と言わないで下さい」
ローザを正面からぎゅ、と抱きしめた。彼女は僅かに身を強張らせたが、やがて僕の背中に腕を絡ませてきた。僕の肩に顎を乗せた。
『……愛している。愛している、いろは』
「僕も愛していますよ。ローザ」
僕の言葉に、ローザはしかし、首を振った。
『違う。違うのだ……』
「ローザ……?」
ローザは僕の髪をかき上げると、うなじにキスをした。そのまま、僕の首を甘がみする。
『この内で燃える火を何と呼ぼう……。愛しているのだ、いろは。いとし子としてではなく、一人の男として。愛している……。我のこの身の髪から足のつま先に至るまで、全てが汝を求めている』
ローザは僕の首をかき抱いて、僕に匂いつけでもするように、頬ずりをした。
『汝と共にいると、自分を抑えられなくなる……。汝が欲しくてたまらぬ。我のすべてをさらけ出してしまいたくなる……!』
思わぬ口調の激しさに、僕は戸惑いを感じた。ローザの真紅の瞳が燃えるような輝きを放った。
『イズラ・フロウなどには渡すものか』
独白だったのか、僕を勇気付けるための言葉だったのか。僕たちはそれきり言葉を交わさず、抱き合ったままぼんやりと明るみ始める空を眺めた。
やがて、桜お姉ちゃんとリリアさんが起き出してきた。
朝食を済ませ、卓を囲んで話し合う。
「皆には明日、魔炎のイズラ・フロウと戦ってもらいます」
僕の言葉に、三人は怪訝そうな顔をした。
「しかし……勝ち目はないですよ」
「勝つ必要は全くないです。重要じゃありませんから。命を捨てるような戦い方は絶対しないように。ただできるだけ、時間を稼いで下さい」
「ふむ……何か考えがあるのじゃな?」
「はい」
頷きを返した。
「少しだけ、説明をしておきます。明日、イズラ・フロウを呼び出します。この際、イズラ・フロウを、依りしろとなる体に入れます。桜お姉ちゃんは、すぐに術を使ってイズラ・フロウが依りしろから出られないようにして下さい」
「うむ」
「次に、リリアさんは剣神の祝福、『剣の領域』を使って下さい」
「剣の領域を?」
リリアさんは不思議そうに小首を傾げた。
剣の領域。剣神の信者の中でも、特に剣神に愛されたものだけが行使できる、らしい。効果は以下の通りだ。
剣の領域
あなたは剣神の大いなる加護を受けています。あなたは祈りを捧げることで、戦場を剣が支配する領域に変えることができます。
範囲内の全ての対象の『魔力』を10分の1に、『筋力』『耐久』『器用』『敏捷』『剣術』をそれぞれ1.5倍にします。
なんと言うか、脳筋御用達みたいな祝福だ。
「それは……できますが。しかし、イズラ・フロウは体術や剣術にも長けていますよ?」
「ええ。構いません。使うタイミングはリリアさんにお任せします。
そして最後に、ローザ。当日あなたにやってもらうことは2つ、あります。1つ目は、僕を守ること。2つ目は……後で説明します。二人だけで話したいです。なるべく、イズラ・フロウに聞かれないように」
『我が鍵か。よかろう』
重々しく、ローザは首肯した。
ぐるり、と三人を見回す。
「皆は、外で動きの確認と訓練をしていてください」
「お前はどうするのじゃ?」
僕はぴ、と指を立てた。
「特訓、です」
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宿の庭先で、僕は一人、佇んでいた。石を敷いた道を囲むように、草木が整然と並んでいる。いずれの草木も地球のそれと似ているが、その実、地球には全く存在しない種だった。
意識を集中し、目的のものをイメージする。指先を中心に光の粒が舞った。光は徐々に収束し……唐突に、霧散した。
「ダメですか」
嘆息して、肩を落とした。技能『創造主の指先』。僕が鍛えようとしているのは、それだった。
既に、十回以上失敗している。特性『不屈』により、失敗するごとに成功率は2倍になるはず。つまり現状、もとの成功率は0.1%を下回っていることになる。
「やはり難しいですね。コツをつかめればすぐだと思うのですが……」
体が少し重い。技能を使用するごとに、少しずつ疲労が蓄積していくようだ。疲労が限界を超えると、気絶する。『不屈』による成功率の増加は、気絶または睡眠でリセットされるので、適度に休憩を挟む必要があった。
額に浮いた汗を軽く拭いながら、竹筒を手にし、お茶を口に含んだ。僅かにぬるくなった程度の熱さが喉に心地よい。
ほう、と息をつく。少し涼しくなった風を感じた。草の匂いが鼻腔をくすぐった。目を閉じ、石に腰掛ける。硬い感触と、冷たさが尻に伝わってくる。
その時だった。
『やあ。精が出るね』
頭の中に、声が響いた。ゾク、と背中が震える。語る声は親友に語りかけるように親しげに、しかしどこか寒々しい。僕は顔を顰めて、返事をした。
「何の用ですか? 魔炎のイズラ・フロウ」
『用というほどのことはないんだ──。ただ、君たちが面白いことをしようとしているから、興味をね。何しろ戦いを挑まれるなんてことは滅多にないものなんだよ』
やはり、見られていたか。ずっと僕のことを見ていたなら、僕が彼女を倒そうとしていることも当然知っているはずだが、それを気にした様子は見せない。歯牙にもかけないのか、あがく僕らを見て楽しんでいるのか。
「……姿を見せたらどうです? 今すぐかたをつけてもいいんですよ」
勿論はったりだ。内心冷や汗をかきながら、顔だけは涼しげに保つ。
『それは難しいな。何しろ君のお姉ちゃん達が結界を張っているからね。こうやって声を届けるだけしかできそうにないのさ。第一、私のような良識ある神は、おいそれと下界に顕現しないんだよ。誰かさんと違ってね』
声には明らかな揶揄が含まれていた。ローザのことを暗に示しているのだろう。怒りを覚えたが、睨みつける対象はいない。
一方で、少しだけ安堵も覚える。イズラ・フロウは今、僕の心を読むだけの余力はないようだ。心を読まれたら、計画の内容が全てばれてしまう。
僕の心中を知ってか知らずか、イズラ・フロウは相変わらず不自然なほど親しみ深い口調で語りかけてきた。
『ところで、私からの贈り物は気に入ってくれたかな?』
「あの能力ですか? 使うわけ無いでしょう。廃人にはなりたくないですからね」
不快もあらわに、僕は吐き捨てた。
『廃人だって? 彼女──何と言ったかな、──そう、ローザだ。彼女がそう言ったのかい?』
イズラ・フロウは心底から驚いたように言った。
『君、違うよ。全然違う。あの力は確かに使い続ければ廃人になるけれど、そんなことは──オマケみたいなものさ! そんなことは全くもってどうだっていいんだよ。あの力の本当に重要な点は、ただ心を読むというその一点、それ自体にあるんだからね』
意味が分からず、僕は眉をひそめた。
『そうだねえ。……うんそうだ、昔話をしてあげよう。昔々のそのまた昔、まだ術理論やマナ工学が浸透するよりずっと以前、私が炎の神の座を勝ち取ったばかり、ヒトが原始的な金属性の槍でいくさをしていたくらい昔の話さ。
とある部族に、新緑の萌えいづるような鮮やかな髪と、気高いエメラルドの瞳を持った少女がいたんだ。君はもう、会っているはずだね?』
思い返すのは、精神の世界で出会った少女。数言、会話を交わしただけの相手。
『彼女はね、私の信者だったんだよ。今は既に滅んでしまったけれど、人間種族のさる部族の族長でね。若くして族長になってしまったもので、それは苦労が絶えなかったんだ』
「……」
じっと耳を傾ける。イズラ・フロウはまるで、親戚の子供に世間話でもするような調子で続けた。
『私も哀れに思ったんだ。だからね、力をあげたのさ。君と同じく、心を読む力をね』
「そうして、どうなったんですか?」
『彼女はとても喜んでくれたよ! これで皆の不満を理解できる。皆自分に遠慮して、至らないところを指摘してくれないから、と言ってね。私も勿論嬉しく思ったよ』
イズラ・フロウはくすくすと忍び笑いを漏らした。僕は、掌にじっとりと汗が滲むのを感じた。いつの間にか、爪が食い込むほどに強く、拳を握っていた。
『じっさい、彼女はうまくやったよ。瞬く間に部族をまとめあげて、人心を掴んだ。けれど、ね』
「……」
『悲しいことに、彼女の部族には裏切りものがいたんだよ』
声を潜めるようにして、イズラ・フロウは言った。
『それを悟ったときの彼女の苦しみと言ったらなかったね。何しろ……裏切りものと言うのは……彼女の最愛の恋人、幼馴染みの青年だったんだから! 彼は他の部族と内通していてね、そこに本当の恋人を持っていたんだよ。少女に向ける微笑、交わした言葉、共に過ごした夜でさえ、青年にとっては偽りの固まりでしかなかったんだ。それに気付いたとき、哀れ少女は心を病んでしまった。
少女は青年を殺した。それはそれはひどい殺し方だったものだよ。原型をとどめないくらい壊された人間の体というものを君は見たことがあるかな? ……おや……。大丈夫かい、君は随分と顔色が悪いようだよ。少しばかり休んだほうがいいかもしれないね?』
あまりにも白々しい物言いに、怒りの余り目の前が真っ白になりそうだった。イズラ・フロウは構わず続ける。
『それから、少女は男を囲い込むようになった。それも、……君のような、いたいけな美少年を好んでいたね。心を病んだ彼女の愛し方はたいそう凄惨なものだったな。あ、は、は。何しろ心が読めるからね。相手の最も嫌がることも、好むことも、簡単に分かるんだ』
「お前は……!」
思わず僕は叫んでいた。地面を蹴って立ち上がり、激情の高まりに任せて、天に向かって吼える。
「知っていたんでしょう! 青年の本意を……! 結末がどうなるかを……! 知らないはずがない。それなのに……いや、それだからそんな力を……!」
『心外だな、そんなことを言われるなんて』
平然と答えるイズラ・フロウに、胸の奥が煮えたぎるような怒りを感じた。ぎり、と奥歯をかみ締める。
「信者だったんでしょう……! あなたを信じていたのに……! あなたを愛していたのに! 何も、何も感じなかったんですか!? 一片の愛すら、抱かなかったんですか!?」
『愛していたとも。少女を筆頭に、あの部族は本当に熱心に信仰してくれてね。自分達の生活が苦しい時でさえ、欠かさず供物を捧げてくれたものだよ。いつだか食べた山菜の雑煮は本当に美味しかった……』
そこだけは真実と思えるような、ひどく穏やかな声音だった。それだけになおさら、怒らずにはいられない。
「なら……!」
『愛していたからこそ』
僕の言葉にかぶせるように、イズラ・フロウは言う。
『抱き締めるように、滅ぼしたかったんだ』
……。
僕は。口をつぐんだ。
唐突に、悟ってしまった。イズラ・フロウは子供なのだ。何万年生きようが、どれほどの経験を積もうが、変わらない。楽しいから人を弄び、気に入っているから徹底的にいじって壊してしまう。
僕は、目を閉じた。
瞼の奥に浮かぶのは、精神の世界で会った、緑色の髪の少女。ほんの少し話しただけだが、彼女の実直さは伝わってきた。あの時は、突き放すことしか僕には出来なかったけれど──。
「僕はあなたを絶対に許さない。あの少女の心を踏みにじったあなたを。彼女は、彼女は……。あの素直さ、大人びた雰囲気。絶対に、よいロリババアに成り得る逸材だったのに……!」
『うん……うん?』
イズラ・フロウの声に僅かに不審そうな響きが混じった。
『……ごめん、今なんか怒るポイントおかしくなかっ──』
「絶対に許しません! 絶対にです!」
『え、あ、うん……』
僕は天に向かって指を突きつけた。
「イズラ・フロウ。あなたは僕の最大の敵です。僕の信念に対する敵対者です」
『信念?』
「ええ。年取ったものは、多くの経験を得て老成しなければならない。愛と慈悲を知らなければならない。これが僕の信念です」
桜お姉ちゃん。リリアさん。ローザ。僕の大好きなロリババア。形は異なっても、三人に共通するのは人を愛し、慈しむ包容力だ。イズラ・フロウにはそれがない。
「イズラ・フロウ。首を洗って待っていなさい。明日、あなたを打ち倒します。僕の信念のために。あなたに弄ばれたものたちの魂の安息のために。僕の大事な人達のために!」
僕の宣言に。イズラ・フロウは笑い声を返した。
『楽しみに待っているとしよう。……そうだ、君に心底から忠告するのだけれど……君は女性というものに対して多くを求めすぎているんじゃないかな? ハイエルフ、神霊の類と言っても、果たして彼女たちはそんなに強く誇り高く創られているものだろうか? 歳月が人を丸くするだなんて、君は本当にそんな愚にもつかない考えを信じているのかい? 一度、彼女たちの心の中をのぞいてみることをお勧めするよ』
「去れ、悪魔め! 僕を惑わせるな!」
僕の発した絶叫はほとんど悲鳴に近かった。
『あ、は、は、は! じゃあね、君。明日は誰が死ぬかな? ああ、安心して欲しいな。君が死ぬことはないから。何しろ私は君を気に入っているからね。あ、は、は、は!』
イズラ・フロウの高笑いが頭の中に響き渡る。
不意に、風が強さを増して吹き荒れた。庭の木々が悲鳴を上げるように揺れ、木の葉が風に舞う。
風が収まるころには、イズラ・フロウの笑い声は聞こえなくなっていた。ふう、と息を吐く。額にびっしり浮いた汗を拭った。
少しだけ目を閉じて休んだ後、僕は再び、意識を集中し始めた。皮肉にも、イズラ・フロウと会話したせいでモチベーションは高い。指先を中心に光が収束していく。
不意に、自分の中で何かがカチリ、とはまるような感じがした。今度は、光が霧散しない。強い閃光が目を焼いた。
始めに生じたのは、一頭の蝶。白い体、白い羽、墨を垂らしたような黒が一点、鮮やかだ。何の変哲も無い、モンシロチョウである。
だがそれだけでは終わらない。光が次々に収束していく。形作ったのは植物だった。タンポポ、ナズナ、セリ。ヨモギ、オオイヌノフグリ。地球であれば馴染み深い、けれどこの世界にあっては異質な生物たち。
更に、僕はイメージする。地を這うアリの群れ。茎にしがみつくアブラムシ。花にとまるミツバチ。身を潜めるように草の影にうずくまるハツカネズミ。土から顔を出すモグラ。寝そべる三毛猫──。
『見事なものだ』
不意に、頭の中に声が響いた。振り返ると、金の炎がふわりと舞った。風が仄かに香る。僕の隣に、ローザが立っていた。薄い衣が風に揺らめいていた。
同じく頭に響く声でも、イズラ・フロウの欺瞞と虚飾に満ちた声とは大違いだ。ローザの声は温かで、優しい。
ローザが屈みこんで、寝そべった猫の腹を撫でる。猫はぴくりとも動かなかった。
『魂が宿っていないな』
「はい。そういうふうに創っていますから。途方もなく精巧な模型みたいなものですね」
『これが、イズラ・フロウを倒すのに必要なのか?』
「いえ。これはただの練習です。もっと複雑で面倒なものを創る必要がありますから」
話しているうちに、創りだした生き物たちが徐々に燐光を発し始める。ぽつぽつと光の粒になり、やがて完全に消滅してしまった。
ローザはその様子を、目を細めてじっと見つめていた。まるでそれらを通して僕の世界を見ようとしているようだった。
光が消え去ったころ、彼女は僕に向き直った。
『それで、我に話というのは?』
「ああ、そうでした」
ローザに来てくれるよう頼んでいたんだった。耳元に口を寄せて、話をする。
「ローザにやって欲しいことというのはですね……」
『うむ』
話しているうちに、徐々にローザの顔が驚きに染まり、次いで酸っぱいものでも食べたかのような渋面に至った。
「できますよね?」
『できる……が。本当にやるのか……?』
声には途方にくれたような響きが混じっていた。
「まあ正直、僕もあまり気乗りはしないですが。やらなければ殺される。しかも周りを巻き込んで、です」
『それは、確かにそうだがな……』
「できるだけ、イズラ・フロウの怒りを煽るようにやってください。そのほうが都合がいいですから」
『むう……やむをえんか……』
しぶしぶ、と言った感じだったが、ローザは了承してくれた。
二人並んで、部屋に戻る。部屋には、既に桜お姉ちゃんとリリアさんが戻ってきていた。
「首尾はどうだ?」
桜お姉ちゃんの問いに、僕は上々です、と答えた。
「おおよそ、コツはつかめました。後は明日ですね」
「何を考えとるか知らんが、無理をするでないぞ」
不安げに眉根を寄せる彼女を安心させるように、僕は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。僕はあんな女には負けません」
そう。僕は絶対に負けるわけにはいかない。胸の奥の不吉なざわめきを押し殺して、僕は自分自身にそう、誓う。
……決戦は、明日だ。
次で多分第一部・完です。
誤字等すこーしずつ訂正していきたいと思います。




