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永遠の桜  作者: ふがし
第1章 生誕編
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第16話 神殺し

 とうとう朝を迎えた。自分の心臓の鼓動を強く意識した。体は発熱したように熱く、掌に汗が滲んだ。

 今日、命をかけて神の一柱と戦う。その事実は、思ったより僕に緊張を強いていた。


 決戦の場は、街の外にするつもりだった。今日でこの街を出る。どのみち、滞在権だけではそう長くはいられない。ある意味、丁度いいとも言えた。


「田中さんに挨拶しに行きましょう」


 この街で知り合いと言えるのは彼くらいだ。別れを告げておきたい。


 記憶を頼りに家を訪ねた。木造の、古めかしさを感じさせる家。家の周りには木々がまばらに植えられている。


「ごめん下さい」


 玄関口に備え付けられた大きな鈴を揺らした。ちりん、と澄んだ音が響き渡る。

 暫く待ったが、誰も来ない。りん、りん、という虫の鳴く微かな声だけが静寂に響く。留守だろうか。


「急に来てしまいましたからね。外出しているかもしれません」


 リリアさんの言葉に頷いた。夜まではまだ時間がある。また来ればいいだろう。


 そう考え、何気無く家の横、奥側の木に目を向けて。


「うわっ!?」


 思わず驚きの声を漏らしてしまった。


「む? どうし……ぬお!?」

「え……きゃあ!?」


 僕の視線の先を追った桜お姉ちゃんとリリアさんがそれぞれ驚きの声を上げた。


 視線の先、一本の木に。虫がとまっていた。黒々とした体、六本の太く逞しい脚が木をしっかり掴んでいる。背中の羽を僅かに開き、りん、と鳴いていた。体長二メートル余りの、巨大な虫。

 彼──田中さんは、こちらにぐりん、と顔を向けた。


「おや。いろはさんたちじゃありませんか。や、これは気付かず。さあ、入って入って」


 バサッ、という重い音と共に、田中さんが羽を大きく開いた。そのまま、木を力強く蹴って飛び立つ。こちらに向かってきた。黒々とした体、どこかゴキブリにも似た、その巨体に。


 桜お姉ちゃんが「ぎゃあああああ!?」と悲鳴を上げた。


**********


「腰が抜けるかと思ったわ!」


 田中さんの家に招かれた後。僕の後ろに隠れ、涙目になった桜お姉ちゃんが怒鳴った。


「や、すみません。飛んだほうが楽なもんで、つい」


 リリアさんは僕の隣に並んで座っているが、こちらも少し顔が青い。

 ローザはというと、さして動じた様子も見せず、むしろ興味深げに田中さんを眺め回している。


『ふむ。虫人種族か。我は汝らを知能発生の最初期から見てきたが、正直生き残るとは思っていなかった。繁殖能力も知能も中途半端、おまけに他種族から嫌悪の対象となりがちな汝らが、よく絶滅しなかったものだ』

「結構手厳しいですねえ。ま、正直私もそんな昔のことは分かりませんが。一言で言えば頑張ったんですよ。生きるためにね。他の種族から庇護を受けたり、同盟関係を結んだり、なんやかんや。……あとまあ、物好きというのはどこにでもいるんですな。人間にも、魔人にも、妖精にも。何度も助けられました」


 田中さんはきちち、と歯を打ち鳴らして笑った。……うん、慣れても結構怖い。人間の姿なら多分、好々爺然とした人なのだろうけれど。桜お姉ちゃんはぎゅ、と僕の背にしがみついた。


「それで、今日はどうされたのですかな?」


 問う彼に、僕は居住まいを正した。


「今日は田中さんにお別れを言いに来ました」


 僕の言葉を聞いて、田中さんはふむ……、と顎をなでた。


「そうですか……。永住する気はないだろうと思っておりましたが、存外に早いですな」


 語る言葉には、一抹の寂しさが滲んでいた。同じ日本人として、思うことがあるのだろうか。


「私も大概年ですからな。恐らく、今生の別れになってしまうのでしょうなあ」


 着物の肩口を脚の一本でいじりながら、彼は言った。

 そうか、そこまでは思い至らなかった。見た目だけだと若々しい印象を受けるので、なおさらだ。


「や、いけませんな。湿っぽくなってしまいました。飛び立つ若鳥を引き止めるべきではないでしょう。私如きには鴻鵠の志は分かりかねますからな」

「そこまで大層なものではありませんよ」


 おどける彼に、苦笑を返した。


「心の求めるまま、自由に生きることをお勧めしますよ。私は、この世界で思うまま生きてきました。前世でやり残したことは全部やってしまったと言っていいと思います。孫にも恵まれましたしね」


 田中さんは遠くを見つめるように複眼と単眼をきらめかせながら、述懐した。


「次に生まれ変わるときは、全てを捨ててやり直したいですな。さてさて、来世はどうなることやら」


 穏やかに、そう言った。



 最後に握手を交わして、田中さん宅を後にした。握手をしているとき、田中さんを小さくしたような虫人が数人、僕の方をじっと見ていた。お孫さんだろうか。かるく微笑んで会釈してみたところ、逃げられてしまった。……ちょっとショック。前世ではそこそこ子供にも好かれていたんだけれど……。

 一方、桜お姉ちゃんは妙に懐かれていた。当人は冷や汗を流して「しっ、しっ」と追い払っていたけれど。あれか、樹木の神だからか。樹液の匂いでもするんだろうか。それとも単にリアクションが面白いからか。


 田中さんと別れて、ぶらぶら街を歩く。日はまだ高い。


 僕の横を歩く桜お姉ちゃんが不意に、僕の全身を眺めてふむ、と呟いた。どうしたんだろう?


「うーむ。戦いに赴くにはいささか貧相じゃのう。もっとこう……インパクトが欲しいな」


 インパクトて。因みに今の僕はというと、白色に花柄の着物、草履、腰に妖刀といういでたちだ。


「確かに。ハッタリを効かせるというのは重要ですね」


 リリアさんもしたり顔でうんうんと頷いた。うーん。二人が言うならそうなのだろうか。


 手を引かれて、連れて行かれたのは装飾店だった。


「髪飾りなんてどうじゃ?」

「いいですね。これがよいかと」


 リリアさんが手に取ったのは、赤を主体に白が入り混じった、花を模した髪飾りだった。桜お姉ちゃんが僕の髪を結って、花飾りをさしてくれた。


「うむ。なかなか」

「いいですね」


 僕の頭を眺め、満足そうに笑った。


『手に何か持たせるか。いささか物寂しい』

「確かにな」

「杖でも持たせますか」

「うーむ? ミスマッチじゃな」

『これは、どうか?』


 言って、ローザが手に取ったのは傘だった。唐傘を髣髴とさせる、鮮やかな赤い傘。


「傘か。うむ、いかにも、という感じでよいな」


 傘を開いて、くるくると回してみた。赤い花が舞う。うーん。いやま、日よけにもなるし便利は便利だけれど。


「このお面なんてよくないですか?」

「うむうむ」


 次に差し出されたのは猫のお面。可愛らしさよりも不気味さが目立つような奇妙なデザインだった。頭の側面に引っ掛けるようにしてかぶってみた。


「こんなもんかのう」

『あとは化粧だな』


 化粧品店に連れ込まれて、お化粧をされた。白粉は軽く、紅は鮮やかに。

最終的な僕の格好はと言うと、白色の着物に鮮やかな赤の髪飾り、同じく赤の唐傘、猫の面を引っ掛け、妖刀を佩いて、薄化粧。……うん、悪ノリしすぎだと思う。


『ううむ。なかなか、よい』

「いいな。この漂う強キャラ臭」

「これでもかって言うくらいハッタリが効いてますね」


 中身はほぼ全能力1のカタツムリ野郎ですけれどね。


 

 アホなことをやっている間に、日が落ちてきた。

 四人連れ立って、街を出る。門番の声を背に、橋を歩いた。橋を渡り終わると、来た時と同じようにリリアさんの鎧に乗って、道を行く。ローザは、翼を広げて僕たちの横を飛んでいた。

 

 日が落ちきり、夜の帳が下りるころ。僕たちは人気の無い荒地に来ていた。草木がまばらに生え、古めかしい建物の残骸が風に吹かれて物寂しく揺れている。月の光に照らされて、茫洋と虚ろな影を形作っていた。流れの穏やかな川が東から西へ走っている。


「この辺りは数十年前まで、中規模の工場があったところです。工場からの汚染マナの流出により、河川と土と大気が汚れ、人の住めない環境になってしまいました」


 気が滅入りそうな話だが、イズラ・フロウと戦う場所としては丁度いい。

 軽鎧をまとい、剣を帯びたリリアさん。着物姿の桜お姉ちゃん。薄衣を風になびかせたローザ。三人が緊張を漲らせる。


『では、儀式を始める』


 ローザが言って、地面に木の棒で図形を描き始めた。直径3メートルほどの円の中に、五芒星、周りに不可思議な文字を散りばめる。


『触媒を。頭頂は祝福された炎。右腕は殺戮の銀剣。左腕は栄光の金杯。右足は退廃の麻薬酒。左足は情欲の淫液』


 ローザの言葉に従って、五芒星の各頂点に触媒をひとつずつ置いていった。


『次にイズラ・フロウを宿らせる依りしろを』

「結局、依りしろはどうするんじゃ?」


 ローザのように、神が自ら顕現する場合と違い、神を召喚する際には召喚する側が神の容れ物となる『依りしろ』を用意する必要がある。お偉いさんを招くためにはこっちで諸々用意しろ、ということだろう。依りしろは、普通生きた人間か、あるいは牛・羊などの家畜を使うらしい。いわゆる生贄というやつだ。だが今回は違う方法をとる。


 首を傾げて問う桜お姉ちゃんに、僕は指をかざすことで応えた。


「これから、創ります。『創造主の指先』で」


 意識を集中する。目的のものをイメージ。昨日一日潰したことで、おおよそのコツはつかめている。

 一度目、失敗。光が拡散した。二度目。三度目。四度目。五度目……。


『む』「おお」「これは……」


 三人の驚きを背に、光の奔流が収束する。やがて現れたのは、一つの体。猫耳、七本の獣の尾を生やした女の体だった。


「うーむ? 見たところ、何の変哲もない体に見えるが。猫耳と尾以外は」

「ええ。基本的には、魂の宿っていないただの獣人の体です」

「まあ、生きた人を使うわけにもいかないでしょうけれど……。それだけのために手間を? 家畜でもよかったのでは?」

「すぐ分かりますよ」


 言って、創りだした体を五芒星の中心に横たえた。ローザに続きを促す。


『一応確認しておくが。依りしろに入った状態のイズラ・フロウを殺しても全く無意味だ。神にとって肉体は器でしかない。我や桜にしても同じこと』

「ええ。分かっていますよ」

 

 ローザは僕の言葉を聞いて、唇を引き結んだ。


『ならば、よし。始めよう』


 ローザは目を閉じると、何事かを唱え始めた。頭に響く声ではなく、肉声である。流麗な、妙なる音楽にも似た美声だった。


「古代神聖言語ですね。神代の昔、数多の神々が名乗りを上げて争った時代に、神々が用いていたと言われます。神々の代替わりを経て、今では知っているものも少ないと聞きます」

「ひょっとして、リリアさんも話せます?」

「多少は」


 相変わらずバケモノじみた言語能力だ。


「ちょっと翻訳してみてもらえますか?」

「いいですよ。ええと……【おい薄汚い虫ケラ野郎、聞いてんなら返事しろハゲ】」

「……。……。……。……。……。……。……。えっ?」


 思わず聞き返して、リリアさんの顔を見る。至って真面目な顔つきだった。聞き間違いか?


「【てめぇみたいな便所虫が俺様を待たせてんじゃねーよ。線香花火の燃えカスから生まれた汚え火種の分際でよぉ。お前のケジラミにも劣る下等な名前を呼ばされる俺様の口と舌がかわいそうだろ。ああ?】」


 ……残念聞き間違いじゃなかった。


「いやいやいや! 何ですかその喧嘩売ってるヤンキーみたいな口調!? ホントにそんなこと言ってるんですか!?」

「ええ。これは火炎の眷属が同じ火炎の眷属を呼び出し、決闘を呼びかける正式な文句です」

「ええ!?」


 なおもリリアさんの翻訳は続き、しまいには、


「【てめぇの粗末な○○を○○○○○てやろうか、この○○○のまたぐらからひり出た○○○の○○○○が!】」


 といったような、口に出して読みたくない日本語状態になってしまった。


「実に趣深いですね。限りない太古の時代、神々が戦場を駆け巡り、互いの存在をかけて争う……。古きよき時代の戦場の香りを感じます」

「ええー……」


 感じ入るリリアさんの隣で、僕は全然共感できないでいた。いやだって、○○○の○○○○はないだろう……。


「蛮族が争っていたような時代じゃからな……。神の罵り合いもこんなもんじゃろ。リリアもあれじゃ、元兵士やら傭兵やらの経験者じゃし……」


 桜お姉ちゃんが僕に耳打ちをした。そういう問題かなあ? 神聖言語って一体。微妙に納得できない気持ちでローザを眺める。


 不意に、魔方陣に置かれた炎がぼう、と勢いを増して燃え上がった。炎が徐々に色を変える。鮮やかな赤から、不吉な漆黒へ。

 暗闇の中で、黒々とした炎がのたうつ。さながら、暗い衝動を抱えた肉食獣のようであった。やがて炎は魔方陣の中央、依りしろとなる体へ向かった。ぞぶり、とおよそ炎が立てるとも思えない濡れた音と共に、漆黒の炎は依りしろに入った。


『……6000年ぶりだな。イズラ・フロウ』


 告げるローザの言葉には、隠しきれない緊張が滲んでいた。

 魔方陣の中央で、人影がむくりと起き上がる。


『やあ、ローザ。愛しい友よ。壮健かな?』


 声には愉悦が溢れていた。それは断じて親友に向ける類いのものではなく、絶対的に有利な立場から相手をいたぶる強者の、残酷な喜びの表象だった。イズラ・フロウが凍りつくような冷笑を浮かべた。見下すように、胸をそらす。大きな胸が揺れ──なかった。


 その、姿に。

 ローザは、形容しがたい複雑な表情を浮かべた。

 

「むう……」

「まさか……これは」


 桜お姉ちゃんとリリアさんが唸るような声を上げた。額には冷や汗が浮いている。


 三人の様子を目にして、怪訝そうに、イズラ・フロウは自分の体を見回した。


 その体は美しかった。褐色の髪は肩口で切り揃えられ、同色の猫耳が頭から天をついてツン、と立っている。小さな顔を彩るように、金色の瞳が爛々と輝いていた。

 豹を思わせるしなやかな体をシャツとホットパンツが覆っている。白い太ももが月に照らされて眩しい。尻からは尻尾が七本、飛び出ている。小柄な体は有り余るエネルギーを感じさせた。何より素晴らしいことに、シャツに覆われた胸はさながら大草原の如く真っ平らだった。

 要するに。

 実に完璧な、ロリ体型だったのだ。


 さんざん眺め回して、イズラ・フロウは顔をしかめた。


『何だい、この……子供?』


 猫耳の上に疑問符が躍り狂いそうなくらい、困惑に満ちた声を漏らした。

 

 その様子に。

 僕はぐ、と拳を握り、


「悪辣系ロリババア! アリだと思います!」


 力強く、宣言した。


「……」「……」『……』『……』


 ひゅう、と、一陣の風が、僕たちの間を駆け抜けた。


 ……桜お姉ちゃんの、踏み潰されたゴキブリの死骸でも見るような氷の視線が痛い。リリアさんは半笑いを漏らしている。ローザはなんだか可愛そうな子でも見るような、妙に優しい目をしていた。

 イズラ・フロウはこめかみを指で揉んでいたが、不意にああ、と頷いた。


『特性ロリババア、か……。うん、そうか。君は馬鹿なんだな』


 失礼極まる。イズラ・フロウの言葉に、桜お姉ちゃんがまなじりを吊り上げた。そうそう、何か言ってやってほしい。


「おい。訂正せんか。コイツは馬鹿ではなく、人類史上稀に見るレベルの超弩級大馬鹿じゃ」


 ……あれ、余計けなされたぞ?


イズラ・フロウはなおも頭痛をこらえるような仕草をしていた。


『何しに来たか忘れちゃったじゃないか……そうそう、決闘だよ』


 びり、と緊張が走った。桜お姉ちゃんとリリアさんが無言のまま、身構える。ローザは僕を庇うように前に出た。

 イズラ・フロウは僕に向けて微笑を浮かべた。先ほどローザに向けたのとはうって変わって、優しい──ように見せかけた、笑み。

 僕は、唾を飲み込みながら、イズラ・フロウに向けて『調査』をした。


イズラ・フロウ

種族 神霊

年齢 約1万歳


能力

筋力 202

耐久 220

敏捷 300

器用 250

知能 244

魔力 303

信仰 1

意志 409

魅力 172


技能

魔術    ランク3 Lv224

剣術    ランク3 Lv202

精神の祝福 ランク2 Lv178

房中術   ランク2 Lv150

格闘術   ランク2 Lv130

薬草学   ランク2 Lv99

神技    ランク2 Lv76


祝福

なし


特性

ロリババア

神性

神殺し

火炎の眷属

獣の本性

金剛力

絶対防御

神速

巧緻の手

叡智

マナの収束

不撓不屈

魅了



 ……強い。圧倒的に強い。信仰と魅力以外200越え、技能もランク3が二つ。まともにやり合えるような相手ではない。

 イズラ・フロウは気圧される僕を悠然と眺めやった。

 

『ねえ、いろは。前にも言ったと思うのだけど、私は君のことを結構気に入っているのさ。うん、分かってるよ。君はローザにそそのかされて、こんな真似をしているだけなんだよね? だって、それ以外に君が私を嫌う理由なんて──一切ないんだからね! そうじゃないか。

 だからねぇ、君。君が、一言だけでいいんだ、ローザの言うことは全部嘘っぱちで、ローザのことなんて嫌いだ、そう言ってくれるなら、無駄な血が流されずにすむんだよ。勿論、君のお姉ちゃんや、そこのハイエルフにも手を出さないよ? どうかな?』


 一瞬、イズラ・フロウの顔に獣じみた酷薄な表情がよぎる。

 

 尋常ならざる圧迫感だ。大気がぴりぴりと震える。精神世界の比ではない。今すぐにでも膝を屈してしまいそうになる。だが……。


「絶対に、嫌です」

『……へえ』


 声が低められた。ゾク、と背中が震える。駄目だ、気圧されるな。口を開こうとしたとき、ローザが前に進み出た。


『ん? どうしたのかな、親愛なる友よ。私は、今、いろはと、話を、しているんだよ?』


 言葉を強調するように区切って、イズラ・フロウが言う。ローザの背に隠れてイズラ・フロウの表情は見えないが、獣耳を生やした影が、歯を剥きだして笑った気がした。

 ローザは、不意に屈みこんで、足元のガラス瓶を拾った。中には、麻薬酒が満ちている。落ち着いた声で、言った。


『それに対する答えは一つだ、魔炎よ』


 バシャッ! と。水音が響く。それは、ローザが酒をイズラ・フロウの顔面にぶちまける音だった。


『人の男に手を出すな、雌猫』


 言い終わると同時だった。物質的な圧力さえ伴う強烈な殺気が、イズラ・フロウの小柄な体から迸り出た。


 ローザが素早くとびずさる。ぺろり、とイズラ・フロウは滴る酒のしずくを舐めた。


『……』


 金色の瞳が歪んだ。猫の瞳が僕を見据える。僕は胸を張って、言った。


「イズラ・フロウ、性悪の雌猫! あなたは今ロリババアだが、僕の愛するロリババアには程遠い。あなたに教えてあげます。ロリババアに必要なものは何かということを!

 ロリババアがいないと諦めるのが三流、ロリババアを探すのが二流。ロリババアを作り出してこそ一流です!」

「何の一流なんじゃ!?」「ちょっとイロハは黙っていてください!」『話が進まぬ』


 怒られちゃった。


 アホなやり取りをしている間に、イズラ・フロウが右手を振った。桜お姉ちゃんが着物を翻して前に躍り出る。


「茶番は終わりじゃ、さがっとれ! 来るぞ!」

「『ファイアストーム』」


 頭に響く声ではなく、それは肉声だった。言葉と同時、イズラ・フロウの右手から炎が迸り出たかと思うと、瞬く間にあたり一帯を紅蓮の炎が包んだ。ぱちぱちと爆ぜる火が地面を舐め、荒野に僅かに残る雑草を焼く。

 リリアさんは退いて僕の手を掴んだ。ローザの張った結界が炎と熱の侵入を防いでいる。


 桜お姉ちゃんを眼で追う。彼女は長い髪を一房、小刀で切り落とした。……ああ、勿体無い。いや言ってる場合じゃないけれど。


「『身外身』!」


 言葉と共に、髪をふ、と吹く。途端、舞い散った髪の毛がたちまち桜お姉ちゃんと瓜二つの姿に変じた。その数、実に五十人。五十人の桜お姉ちゃんはそれぞれ胸の前で複雑な印を結んだ。炎の中、小さな体が舞う。


「『縛鎖』!」


 イズラ・フロウの体を金色の鎖が取り巻く。鎖はイズラ・フロウの体に溶け込むようにして消えた。


『ふん? 依りしろに縛り付けたか。無意味な真似を』


 鼻で笑うイズラ・フロウを前に、桜お姉ちゃんは次の印を結んでいた。


「『雷雲招来』!」


 五十人が一斉に叫んだ。途端、一天俄かに掻き曇り、たちまち月を覆い隠して黒雲が集まったかと思うと、滝のような雨が降り注いだ。炎は暫くくすぶった後、未練がましく煙を残して消え去った。


「『サモン・ファイアエレメンタル』」


 イズラ・フロウが呟くと、水溜りを割るようにして地面から純白の火柱が三本、立ち上った。火柱は揺らめきながら人型を取った。炎の人型は降りかかる雨をものともせず、むしろ勢いを増して燃え盛る。人型はイズラ・フロウの周りを取り巻いた。


「『メテオストライク』」


 イズラ・フロウの呟きに、取り巻く炎たちが唱和する。

 何かが黒雲を突き破った。みるみる迫り来るそれは、炎に包まれた巨大な隕石だった。真っ直ぐ、こちらに向かってくる!


「ぬ、ぐ……『大寒地獄』!」


 一瞬焦ったような顔を見せつつも、桜お姉ちゃんは印を結んだ。

 途端、降りしきる雨が次々と凍りついた。氷の柱は地面から天にまで登っていき、遂には隕石を捉えて空中でこれを氷漬けにしてしまった。


 息絶えるような静寂と冷気が包む中、人知を超えた攻防は続く。


「予想外に善戦していますね」

「さすが桜お姉ちゃんです」


 ローザの結界の中、身を寄せ合うようにしてリリアさんと僕は呟いた。冷えた手をこすり合わせる。結界は冷気も遮断してくれるが、強烈な緊張感が指先から熱を奪っていた。

 

『長くは、持たんぞ。地力が違いすぎる』

「はい。分かっています」


 重々しく頷いて、僕は二人の戦いを見守った。



「『化血』!」


 桜お姉ちゃんがイズラ・フロウを指差した。たちまち、イズラ・フロウの右腕が血の塊と化してはじけ飛んだ。


「『リジェネレーション』」


 失われた肩から先が、見る見るうちに再生して元通りになった。イズラ・フロウは酷薄な笑みを浮かべると、桜お姉ちゃんの方に向けて走り出した。速い! 文字通り風より速く駆け寄り──間合いに入る直前で、急制動をかけた。顔を歪ませ、イズラ・フロウが何もない空間に向かって蹴りをいれた。すると、ガン、と鉄を叩いたような音が響いた。


『ち、不可視の壁か。いつの間に』

「ふん。そのままアホみたいに走りよっておったら、脳漿をぶちまけたものを」

『抜かせ、メスガキが』


 口汚く罵って、イズラ・フロウが大きく飛びのいた。寸前まで彼女がいた空間を、無数の氷の柱が刺し貫いた。


「どうした、急に小物臭くなったのう。底が見えるわ」

『調子に乗るな、虫ケラ』


 純白の火柱たちが一斉に火勢を上げた。イズラ・フロウがとびずさり、火柱たちと異なる印を結び始めた。


「『ペトロクラウド』」


 火柱が唱和した。灰色の雲が桜お姉ちゃんに襲いかかる。


「ぬぐ……!?」


 逃げ切れなかった一人が、呻きを漏らした。見るまに手足が石と化し、全身に回り……ぼん、と音を立てて髪の毛に戻った。


「『風神の吐息』!」


 桜お姉ちゃんが叫ぶと、強烈な風が吹き荒れ、灰色の雲を跡形もなく吹き飛ばした。


 難を脱したかに見えたが、印を結ぶイズラ・フロウを見やり、桜お姉ちゃんは焦りの声を上げた。


「いかん、間に合わん! 大技が来るぞ、リリア!」


 桜お姉ちゃんが叫ぶ。火柱たちの攻撃を避けながら後退すると、リリアさんに向けて印を切った。


「『阿修羅の祝福』『韋駄天の祝福』『明王の祝福』『竜王の祝福』……頼んだぞ、リリア!」


 リリアさんの体が金色の光に包まれた。補助系の術だろうか。

 リリアさんは抜剣すると、ひざまずいて剣先を天に向けた。


「この剣、この技は、私の命のあかしだて。剣の王よ、今こそ剣にかけて、大敵に挑みます。憐れみ下さい」


 それは祈りの文句だった。リリアさんが言い終わるのと、イズラ・フロウが叫ぶのはほぼ同時だった。


「『ニュークリアブラスト』!」


 イズラ・フロウの声と共に風が揺らめき……ぽすん、と間抜けな音を立てるに終わった。


 頭の中に声が響く。


 『剣の領域』に入りました。

 『魔力』が10分の1に、『筋力』『耐久』『器用』『敏捷』『剣術』が1.5倍になります。

 

 

 剣の領域が発動したらしい。魔力10分の1、ということは、もとの魔力が300でも30だ。凡人にも劣る魔力では、高等な術は繰り出せない。


『剣神か。忌々しい……な!』


 イズラ・フロウの反応は速かった。足元の銀剣を拾い上げ、八相に構えるや、術が使えず右往左往する火柱たちを尻目に、氷柱の間を縫って突進してくる。リリアさんも剣を構えたが、その動きはイズラ・フロウと比べるとひどく緩慢に見えた。

 二つの影が交錯する瞬間、──リリアさんの動きが急激に鋭さを増した。


 ずん、と重い音がした。腕が一本、宙を舞う。


『が、あ……ッ!』


 イズラ・フロウが絞り出すような苦悶の声を上げた。右肘から先を失っている。銀の剣は折れ飛んでいた。リリアさんの剣がひらめく。

 しかし敵もさるもの、折れた剣を放り投げると、這いつくばるくらい身を低くしてリリアさんの剣を逃れ、後退した。火柱に躊躇なく右腕を突っ込む。肉の焦げる嫌な音がした。一瞬で右腕が炭化する。

 荒っぽい止血だ。仮初めの体だから、躊躇いも薄いのか。だがさしものイズラ・フロウも息を荒げている。瞳は怒りに燃えていた。にぃ、と口の端を凄絶に吊り上げる。


『……いい剣だ。加速効果つきかな?』

「剣神から貰いましたからね」


 リリアさんが一陣の疾風の如く斬りかかった。イズラ・フロウは身を捻ってかわし、左手で掌打を放った。だが片腕を失ってバランスが取れないのか、リリアさんの肩を掠めるに留まった。


「ふっ……!」

『く……』


 二つの影が暴風の如く舞う。黙視できないほど高速で放たれる斬撃を、イズラ・フロウは正確に回避し、拳と蹴りで反撃を試みる。


 能力ではイズラ・フロウが遥かに上だが、剣のリーチと傷、そして剣術と格闘術の技量差が、二人の攻防を拮抗させていた。最初の一撃がかなりの効果を上げたと言える。

 だが──。


「く、う……!」

『しぃッ……!』


 次第にリリアさんが押され始めた。右腕以外ごくわずかな裂傷しか負っていないイズラ・フロウに対し、リリアさんは既に何発も打撃を体に受けていた。目に見えて、動きが鈍っている。イズラ・フロウは右腕を失いながらも、正確無比に剣を捌ききったのか。尋常の技量ではない。

 リリアさんが横薙ぎに剣を振る。イズラ・フロウは倒れこむようにこれをかわすと、左手で剣を弾き飛ばした。続く膝蹴りで腹を狙う。リリアさんはこれを転がって避けたが、完全に体勢を崩した。得物は、イズラ・フロウの足元に転がっている。


「う……」


 リリアさんの顔に怯えがよぎった。イズラ・フロウは嗜虐の笑みを浮かべて彼女に近づく。一歩。二歩。


「いや……」


座り込んだリリアさんの手が、腰の鞘を撫でた。まるで、そこにある剣でも探すかのような仕草だった。イズラ・フロウが笑みを深めた。三歩、四歩──。


 バシュ、という何かがはじけるような音と、絶叫が響き渡ったのはほぼ同時だった。


『が……あ、ああああああああッ!?』


 イズラ・フロウが左手を押さえて叫んでいた。見やると、左の掌を深々と一本の矢が貫通している。リリアさんの鞘が大きく弓状に開いて、中に弦と機械が見えた。仕込みボウガンか!

 リリアさんは紫の瞳を冷徹に輝かせ、疾駆した。その顔に怯えは影も形もない。剣を拾い上げると、そのまま掬い上げるように斬撃を放った。


『舐めるッ、なあッ!』

「何!?」


 イズラ・フロウは右胸に斬撃を受けながらもリリアさんに突進し、腹に蹴りを叩き込んだ。苦悶すら漏らさず、リリアさんの小さな体が地面を転がり、やがて動かなくなった。どくり、と僕の心臓が跳ねる。


「リリアさん……!」

「出るな! 気絶しておるだけじゃ!」


 桜お姉ちゃんが僕の手を掴んで引き止めた。


『……ふー、ふー、ふー、』


 手負いの獣の如く息を荒げ、イズラ・フロウがこちらに向かってきた。倒れるリリアさんには目もくれない。


『……やってくれたね、君! ここまで、コケにされたのは、ふ、ぐ、初めてだよ!』


 金色の瞳がぎらぎらと輝いていた。明確な殺意に押し潰されそうになりながらも、僕は一歩前に進み出た。桜お姉ちゃんとローザを目で制し、僕はイズラ・フロウに向けて笑いかけた。


「滑稽ですね、イズラ・フロウ」

『何だって……?』


 イズラ・フロウが片眉を跳ね上げた。


「あなたはもう敗北しているんですよ。気付いていないんですか? ふふ」

『……ハッタリだ』


 ……はい、ハッタリです。勿論そんな内心は表に出さない。猫の仮面で顔を覆い隠した。悠然と唐傘を広げると、くるり、くるり、と回した。鮮やかな赤が舞う。

 イズラ・フロウは自分の左手をちらりと見やって、警戒した様子で僕を睨みつけている。奇襲を受けて用心しているのが仇になったか。今の僕はデコピン一発で死ねるんですけどね。足が震えそうになるのをこらえるのに必死だった。目の前にこられると威圧感が尋常ではない。大型肉食獣に牙を剥かれている気分だ。


 一分。二分。睨み合いが続く。にやり、とイズラ・フロウが笑った。


『ふん。やっぱりハッタリじゃあないか。君、虫ケラのようなその細腕でどうやって私を倒すと言うのかな?』


 冷や汗が頬をつたう。

 まだか? まだなのか? 駄目なのか? 焦燥が胸の中で膨れ上がった。イズラ・フロウが邪悪に笑う。その手が僕に伸びて──。


『……え?』


 がくん、と、唐突にイズラ・フロウが膝を折った。左腕で体を抱きしめるように抱え、地面にうずくまる。


『何だ……? 熱い……熱い……腹が……く、ふ、……これ、は……?』


 体を震わせながら、イズラ・フロウが熱に浮かされたように呟く。


「ああ、ようやく効いてきたんですね。効かないのかと思ってヒヤヒヤしましたよ。あれだけ動き回っても、中々効かないものですね」

『何の、話、……』

「薬ですよ」


 うずくまるイズラ・フロウの耳元に口を寄せ、僕は言った。


『薬……?』

「ええ。ロリババアの神、ローザの魔力を練りこんだ薬。強烈無比な──媚薬、です」


 イズラ・フロウが驚愕に目を見開いた。


『馬鹿な! いつ……。ぐ、あの酒か!』


 ローザがイズラ・フロウに浴びせかけた麻薬酒。あれに媚薬を混ぜ込んでいた。一滴飲んだだけでも発情が止まらなくなる、凶悪な媚薬を。


「ふふ」


 猫耳をさわさわ撫でると、イズラ・フロウは感電したように体を震わせた。


『やめろ……!』

「やめて欲しいんですか? 本当に?」


 尻尾を優しく撫でると、イズラ・フロウは『はう……』と呻いて、体を震わせる。


『何故だ、何故こんなに……!』

「気持ちいいか、ですか?」


 ぐ、とイズラ・フロウが僕を睨みつける。だが、その瞳は情欲に負けて、敵意が霞んでしまっている。イズラ・フロウはもじもじと膝を擦り合わせた。

 はみ、と耳をくわえ込んで、僕は言う。


「簡単ですよ。それはあなたがロリババアだからです」

『何を……』

「今、僕のこと。愛しくて愛しくて仕方ないでしょう? 僕の魂に惹かれているから」

『まさか……!』


 固有特性『異形の魂』。ロリババアだけに異常に好かれるという、非常に有難い特性だ。ロリババアにとっては、僕はいるだけで心を惑わせる麻薬のような存在なのだ。


『嘘だ! 私が、この私が、お前なんかに……!』

「ええ。僕なんかに。力もなく魔力もなく、技も知恵もない、虫ケラのようなこの僕に。惚れてしまった気分はどうですか?」

『嘘だ! 嘘だ、嘘……』


 言葉は力なく途切れる。

 ……実のところ、いくらなんでもそんなに早く惚れないと思う。だが実際問題として、イズラ・フロウは薬で判断力を失っている。特性がある、という事実に惑わされ、薬による情欲を僕への恋心と勘違いしているだけだろう。

 けれど、実際どうであるかは重要ではない。嘘八百を並べ立てて、信じ込ませればいい。

 傷を負っていない左胸をつつ、と指でなぞると、イズラ・フロウは甘えるような声を漏らして身を摺り寄せてきた。


『こんな……こんな……薬なんかに……こんなヤツに……』

「イズラ・フロウ。あなたは人間を見誤った。人間の弱さを見誤った。ねえ、イズラ・フロウ。人間というのは、そんなに強く誇り高く創られてはいないんですよ。精神は電気の伝導と神経伝達物質の拡散に過ぎない。どんなに強い意志を持っていても、薬に勝てはしないんです。あなたは仮初の体だと思って油断した。だから……こうやって敗れる」


 イヤイヤ涙目でと首を振るイズラ・フロウに、僕はにっこりと微笑みかけた。後ろで桜お姉ちゃんが「どっちが悪魔だか分からんな……」と呟いたが、気にしない。


『うあ、あ、出られない……出られない……』

「逃げようとしても無駄ですよ? 桜お姉ちゃんが依りしろに縛り付けましたから。魔力30では術も使えないでしょう?」


 這いつくばってもがくイズラ・フロウに覆いかぶさり、優しく囁く。


「さあ、聞かせてください。あなたの魂のきしむ音」

『あ、ああああああああああああああああああああ!?』


**********


 ……にゃおーん。


**********


 六つの瞳が、呆れもあらわに僕たちを見つめていた。


「さあ、自己紹介しなさい」


 僕の言葉に、少女が一人、体を震わせながら進み出る。


『うう……わ、わたしは……』

「一人称はボク、でしょう?」

『ぼ、ボクは! フウ、だ』

「語尾は何でしたっけ?」

『うううう……フウだ、にゃ!』


 言い終わるや、彼女は元通りに修復された両手で、顔を覆ってしまった。


「と、言うわけで。魔炎のイズラ・フロウ改めフウです。名前は『自分から』捨てて、炎の神の座は返上。今はただの獣人のフウ。今までの悪行を償い、完全なロリババアとなるため、三人の下で下積みをしてもらいます。よろしくお願いしますね」


 三人の反応は様々だった。


『イズラ・フロウが……あの魔炎のイズラ・フロウが……十把一絡の量産型萌えキャラのように……』


 ローザは虚ろな目でぶつぶつと呟いている。


「要するに何か、時間稼いで薬キメて篭絡したのか。策と言うから何かと思えば、なんちゅー頭の悪い勝ち方じゃ……」


 桜お姉ちゃんは呆れきった様子でぼやいた。


 リリアさんはというと、腕組みをして何かを考えるような仕草をしていた。彼女もフウと剣を交えただけあって何か思うところあるのだろうか──。と、リリアさんが不意に目を見開き、拳をぎゅっと握って叫んだ。


「ドS小悪魔系ショタ! アリだと思います!」


 ……。この人も順調に僕に毒されてるんだなあ。



 そんなこんなで。

 戦闘も終わり、朝日を眺める。


「長く、苦しい戦いでした……」

「一週間も経っておらんじゃろ」

「数多くの犠牲を払い」

「誰一人死んでないんですが」

「愛の力で、ついに強敵を打ち倒しました……」

『媚薬の力だろう』


 背後から突っ込みが浴びせかけられるが、気にしない。


「さあ! 新たな旅立ちの朝です! 新世界へ! 参りましょう!」


 とびっきりの笑みを浮かべる僕に。四人はうんざりした表情を見せた。


「……なんですかその顔」

「……お前なんでそんな元気なんじゃ。徹夜明けじゃろ……」

「朝ですから! テンションも否応なしに上がりますよ! さあさあ出発です!」


 四人はそれぞれ天を仰いだ。

 桜お姉ちゃんは長く、長く、ため息をつくと、その場に座り込んでしまった。


「年寄りは、いたわるもんじゃ……」


 呟きは風に流されて遠く消えていった……。


 こんなノリですみません。多分これからもこんなノリです。

 どう考えても一般受けしない内容だと思っているので、多少なりと読んで下さる方がいて嬉しく思います。

 そろそろ人物紹介でもやろうかと思います。

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