第11話 子羊
書きたいロリババア、書きたいシチュエーションはあるんだが、いかんせん筆が追いつかない
ローザ
種族 神霊
年齢 約400万歳
能力
筋力 76
耐久 77
敏捷 54
器用 67
知能 195
魔力 86
信仰 14
意志 295
魅力 114
技能
慈悲の光 ランク2 Lv114
意志の祝福 ランク2 Lv109
焼畑農業 ランク2 Lv99
生命の祝福 ランク2 Lv82
葬法 ランク2 Lv77
神技 ランク2 Lv77
魔術 ランク2 Lv51
祝福
なし
特性
ロリババア
神性
火炎の眷属
博識
不撓不屈
あれから。混乱する桜お姉ちゃんとリリアさんをなだめ、近場の茶店に寄って事情を説明した。その後、ローザを『調査』してみた結果が、これである。
「年の割には案外能力が高くないんじゃな。やはり力が衰えておるのか?」
『それもある。が、そもそも我はそれほど強大な神ではなかった。我は生命を生む農耕と愛の神であり、生物を弔う火葬と慈悲の神である。闘争と勝利と征服の神、魔炎のイズラ・フロウに敗北したのも故無きことではない』
それでも僕と比べると雲泥の差である。僕より弱いやつなどいるのかという話もあるが。
「……特性『ロリババア』か。いろはの転生と同時に獲得したと言ったな?」
『然り』
ローザは木椅子に座って茶を飲んでいる。今は炎の翼を引っ込めているため、外見はただの少女だ。
桜お姉ちゃんが、眉間に皺をよせて僅かに唸る。
「……いろはがその場で認定したものだけが獲得するのかと思っておったが、想定よりずっと厄介じゃな」
「ええ。イロハの転生と同時に、ロリババアの定義に当てはまる全てのものにこの特性が付与されたと考えるべきでしょう」
なんでそれが厄介なんだろう。
「特性の獲得を認識し、しかもその原因をお前だと特定できるような連中が、お前のもとに寄ってくる可能性が高いということじゃ」
なるほど。つまり。
「ロリババアが向こうからやって来てくれるというわけですか! やった!」
「……喜んでどうするアホ。寄ってくる連中が全員友好的とは限らんのじゃぞ」
億劫そうに言って、桜お姉ちゃんは盛大にため息をついた。
僕は肩を竦めて返す。
「可能性だけで見えない敵に怯えても仕方ないのでは?」
「……まあ、そうじゃがな……」
桜お姉ちゃんは心配性すぎる気がする。
それはそうと、と話題を切り替えた。
「前々から疑問だったんですが、能力の信仰値って何なんですか?」
僕が今まで『調査』した人は信仰が軒並み低く、最大でもリリアさんの36だ。僕は論外としても、他の面々まで低いとなると必要性がよく分からない。
「そうですね。いい機会ですから、少し説明しますか」
言って、リリアさんが、ぴっ、と人差し指を立てる。
「信仰とは、信者の立場から言えば、神に対する帰依の度合いです。どれだけ自分のもの、あるいは自分の時間を神に捧げられるか、それを表しています。信仰が高いほど神からの祝福の恩恵を受けやすくなります。祝福を受けたものは、たとえもとが弱小な種族であったとしても、強大な力を得ることができます。神の祝福を得て竜を斬る英雄、などというのはその典型ですね。
一方で、信仰される神の立場から言えば、信仰は祝福の授けやすさです。神は選んだ信徒に力や祝福を授けることができます。まあ、気紛れで信徒以外のものを祝福することもあるらしいですが。ローザさんがイロハに対してした祝福は、信徒以外に対する祝福ですね。ただし、信徒以外のもの、あるいは信徒でも信仰が低いものに祝福を与えるのはかなり疲れるらしいです。力や勢力を欲しがる神は、大抵自分自身を強化するよりも狂信的な信徒を多数集めて祝福を与えるという方法を好みます」
ほほう。
「特性『神性』を持っていれば、信仰を集められるのか?」
「はい。そうなりますね。だから、桜さんもやろうと思えばできるはずですよ」
「ふむ。よし、いろは。ちょっと儂を信仰してみろ」
……いや、ちょっと信仰してみろと言われても。どうすればいいのさ。
「信仰とは帰依なんじゃろ。儂に全てを捧げると誓え」
……それなんか違うくない?
首を捻りつつも、試しにやってみる。ふんぞり返る桜お姉ちゃんに対し、ぱんぱん、と手を合わせて、拝んでみた。
「桜お姉ちゃん、あなたに僕の全てを捧げます。どうか僕の神様になってください。僕を祝福してください」
「違う! 気持ちがこもっとらん!」
「桜お姉ちゃん、あなたが世界で一番大切です。あなたの為なら何だってしてみせます。どうか僕を愛し、受け止め、慈しんでください」
「もっと激しく!」
「桜お姉ちゃん! 僕の命の影、魂の火よ! 前世からずっと愛していました。あなたに会うためだけに、僕は全ての生涯を捧げ、異界に渡りさえしました。とうとうこうしてあなたに会えたこの僕を、どうか哀れんでください! たとえあなたに見向きもされなかったとしても、僕は僕の全てをかけてあなたに尽くすでしょう。けれどもしも僕を愛してくださるなら、僕はあなたを幸せにしてみせると誓います。あなたの微笑は僕の魂の震え、比類なき喜びなのですから!」
……いややっぱり主旨変わってるだろコレ。
などと思っていると、頭の中に声が響いた。
異界の大樹の神『桜』を信仰しました。
『信仰』の経験が一定に達しています。『信仰』が5上昇しました。
お。成功したらしい。ついでに信仰も一気に上がった。愛の力か。桜お姉ちゃんにそのことを報告すると、
「……たった5? 100ぐらい上がらんのか?」
……超絶不満そうな顔をされてしまった。僕が冷や汗を流していると、
「いや、信仰と情愛は別物ですから……」
とリリアさんからのフォローが入って、なんとか事なきを得た。
話題は、この世界の神の話に移る。
「この世界で有力な神は三柱です。向こうに」
言って、リリアさんは外を指差した。大きな公園があり、噴水を囲むようにして三体の大きな銅像が立っている。
「ある像がそうです。シシファは特に国教を定めていませんが、どれか一柱を専ら信仰している国もあります。宗教の結びつきは時に種族の結びつきよりも強いです」
言われるまま、像を観察した。
一体は、若者の像。逞しい四肢を惜しげもなく晒し、顔立ちは精悍である。左手に投網を、右手に羅針盤を手にし、大波を背負っている。
一体は、老人の像。顎に豊かな髭を蓄え、眼鏡をかけた顔は気難しげだが理性に満ちている。左手に杖を、右手に分厚い本を持ち、大樹の幹に腰を下ろしている。
一体は、女の像。豊満な体つきと酷薄な笑みが印象的で、頭に猫の耳を生やしている。左手に美麗な杯を、右手に血の滴る剣を携え、燃え盛る炎の尾を背負っている。
『航海と漁業の神、深淵のドラウ・カイ。叡智と裁きの神、法理のアルスス。そして戦争と欲望の神、魔炎のイズラ・フロウ』
ローザが憎々しげに言う。
『人間たちに悪意はないのだろうが。あの女の像に毎日見下ろされているのは耐え難い屈辱であった』
ローザの古めかしい神像は、公園に至る道の途中にあった。位置関係的には、確かに見下されているとも言える。
「ところで、気になっていたんですけれど。ローザの神像は何故あの場所に置かれているんですか? この街がローザを祀っていたクニの跡だとか?」
『否。クニが滅びて後、我を奉ずる数名の人間たちが獣人の隷属を逃れ、この地に流れ着いた。その人間たちの末が作ったのが、あの像である。だが、幾度もの戦乱と長い年月は、我が存在を忘却に葬り去ってしまった』
淡々と語る顔に、少しだけ寂しさがよぎった。
『ただ古く、由緒がありそうだという理由から、由来も不明なまま、あのように道端に祭られてきた』
像の方を見ていると、たまに老人を中心に、何人かの人間が神像の前にかがみこんで手を合わせたり、米や菓子を供えたりしているのが見えた。
『あの者たちが言うには。我は、無病息災の神らしいぞ?』
楽しげに、ローザは笑った。
『我に病魔を防ぐ力はないが、多少の癒しの力はある。ゆえに、時折祈りに来たものを癒すこともあった。多くは、老人であったな。彼らは、よく供え物をもってくる。尤も、大概は童の腹の中に収まるが』
脚をぶらぶらと揺らしながら、ローザは語る。案外、話好きのようだ。話をするためだけに僕を呼んだくらいだから、話し相手に飢えていたのだろうか。
『汝ら定命には、我ら神は理解しがたい存在かもしれぬが。我らとて心はある。頼られれば嬉しい。多くの信者に囲まれれば、気持ちも浮き立つ。汝らが笑いかければ、我もまた汝らを愛しく思うのだ』
幼げな相貌に似合わない、限りない慈悲に満ちた微笑を浮かべて、ローザは湯のみを揺らす。
その様子を見ていたリリアさんが、重苦しいため息をついた。
「……非常に珍しい、まともな感性の神様ですね。うちの剣神に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいです」
よく分からないが、神様関係で苦労しているようだ。
『時に、いろは。我を信仰する気はないか?』
ローザに言われて、首を傾げる。
「え? いやでも、僕はもう桜お姉ちゃんを信仰してますよ?」
なんだか身内を信仰してるって結構変な感じがするな。
戸惑う僕に、リリアさんが言った。
「信仰は掛け持ちもアリですよ? 信仰する神同士の仲が悪くなければ、ですが」
……掛け持ちて。信仰ってそんなサークルやバイトみたいなノリなのか?
と思ったが、多神教の世界ではそこまで不自然でもないのか。
ちら、と桜お姉ちゃんとローザが視線を交わす。
「……まあ、よかろ」
『うむ。異存はない』
微妙な緊張が走ったが、互いに信仰の掛け持ちは容認する方向のようだ。
「因みに、ローザを信仰するとどんな恩恵が?」
『うむ。我はロリババアを司る神であるゆえ、生命と活力関係の祝福が可能になった。具体的には老化耐性、活力充実、健康促進、精力満点、美容向上……』
なんか胡散臭い健康食品の宣伝みたくなってきた。
「……ロリババアを司る神って改めて聞くと無茶苦茶シュールじゃな……」
「……ほんとに訳わからないですよね……」
桜お姉ちゃんとリリアさんは未だにロリババアの神を受け入れるのに苦心しているようだ。
「まあ、地味だけど便利そうな祝福ですね」
信仰してみるとしよう。ローザに正対する。ぱんぱん、と手を合わせて、祈ってみた。すると、頭の中に声が響く。
ロリババアの神『ローザ』を信仰しました。
今度は一回で成功のようだ。
うむ、とローザは満足そうに頷いた。
『我がいとし子よ。我に仕え、我を愛するがよい。我を愛した以上に、我は汝を愛そう』
ローザの小さな手が、僕の髪を撫でる。仄かな温かさが心地よくて、思わず目を細める。
『時に、リリア、桜よ。汝らも我を信仰してみぬか?』
「え?」「む?」
二人の驚きが重なる。
「いや、私たちは既にロリババア……あ、なんか自分で言うと凄くイヤ……。ま、まあとにかく。ほぼ不老ですし、あなたを信仰するメリットはないですよ?」
「うむ。というかそれ以前に、神が神を信仰することは可能なのか?」
口々に言う二人に、ローザは頷きを返した。
『神が神を信仰することは可能である。双方の合意が必要ゆえ、あまり例はないが。そして我を信仰する利点としては──』
ちらり、とローズが僕の方を見やる。ん? 何故僕? と思っていると、ローザが急に桜お姉ちゃんとリリアさんの手を引いて奥に引っ込んだ。微かに、話し声が聞こえる。
『つまりだな、……』「え? そんな積極的に……」「……何度も……」『精力の充実が……』「夜の……」「……快楽付けに……」『……触れるだけで……』「大胆な……」「……啼かせて……」
……。なんか物凄く不穏な単語が聞こえるんだけど。逃げていいかな。
腰を浮かせたところで、両側からがっちり腕を取られた。言うまでもなく、桜お姉ちゃんとリリアさんである。いつの間に。
「ええと」
「いろは。儂らはローザを信仰することに決めたぞ。考えてみればロリババアであるのだからして、ロリババアの神を信仰するのはごく自然な成り行きじゃな、うむ」
「ええそうです。決して他意はありません。炎の眷属が火の神を崇めるのと同じくらい自然なことなのです、ええ」
物凄い早口でまくし立てられた。ローザのほうを見ると、サッと顔を背けられた。何だその反応。おい慈悲の神。
今夜にとてつもない不安を抱えながら、僕にできることと言えば、ローザに向かって手を合わせる二人を、哀れな子羊のようにただ黙然と見守ることだけだった……。
実家の近所の道端にも由来の分からない像が置かれています。ああいうのにロリババアが宿って見守ってくれていると想像すると非常にこう、イイですね




