ナフ城
現在、レープ港町は、日本の管轄化にある。
その港町で、村上義輝は、同士である7人のサムライと、現地人スタッフ4人、海上保安官4人とで、トルドネ商会に向かった。
「御用だ」
つい、そんな言葉を発して、建物に押し入った。
罪状は、過日、日本大使館員を襲った罪である。
抵抗する者は、刺又などで、相手を押さえながら逮捕する。
だが、主犯格の男が見当たらない。
村上は、裏口に回ると、案の定ヤツは居た。
裏口に回っていた、鎖鎌の佐野と対峙していたのだ。
相手も、見たことも対峙したことも無い、この鎖鎌相手に攻めあぐねていた。
そうこうする内に、剣を持つ手を鎖に絡まれた。
そして、一気に間合いを詰めた佐野の持つ鎌で、首筋が切られて相手は倒れた。
「お見事」
村上は、感嘆を込めて言った。
剣術には、腕に覚えがある村上と言えども、真剣に佐野と対峙したら、正直言って勝てるかどうか自信がないくらいだ。
宮本武蔵は、どのように戦い、勝ったのだろう。
普段無口な佐野も、初めて相手を仕留めた為か、顔が真っ赤に呼吸も荒かった。
村上の存在を知り、ようやく我に返ったように絡まった鎖を解いていた。
連合艦隊司令長官の山本大将は、カレニア派遣調査団軍事顧問である、辻本大佐と共にヘリで館に向かっていた。
今日の予定では、カレニアに現地視察する最初の日であり、館での領主との面談、その後現地本部のある領事館に行き、内地にあるナフ城攻略を見届ける事になっていた。
辻本大佐も、それに同行したいとの事で、同行を許可をしていた。
陸軍司令官阿南大将から、直々に連絡があり、辻本大佐は、今後作られるアレドニア派遣軍の参謀長になる予定なので、色々と面倒を見て欲しいと、頼まれていたから、無理に断る理由もなかったのだ。
それにしても、40歳にして、大佐と言う事は、かなりのスピード出世であり、有能な人物であることが分かる。
実際彼の顔つき、言動など、自信に溢れていた。
エリートであることを本人も自覚しているようで、山本には、それが何かしらの危惧を抱かせていた。
調査団には、政治家と役人も付いてきているが、自分は挨拶だけで、後は仕事を理由に、彼らの世話を部下に任せていた。
任された部下には可哀想だが、戦地での作戦の事で、横からあれこれ言われたりする事が、煩わしかったからである。
ヘリが館の広場に着き、山本達は降り立った。
小幡大尉が指揮する特殊作戦の1個小隊の隊員達が整列して、出迎えた。
「総員気お付け!敬礼!」
山本長官は、返礼して言った。
「休め」
さすが、特殊隊員。体格風格かして、一般隊員とは違うなと改めて思った。
そして、一通りの訓示と今回の働きに対する謝意を述べた後、館に案内された。
本来なら特殊部隊は、任務が終わったら帰等し、警護の任務は海兵隊がする予定だったが、一部計画を変更した。
特殊作戦大隊長である、村田中佐始めとした1個中隊は、本国に帰等し、残りの1個中隊は現地に残された。
何せ敵には、魔法使いなどが居ることが分かった以上、何かしらの緊急事態用に、特殊部隊を予備に取って置く必要を感じていたからだ。
そして、領主とその家族は、重要人物であり、その警護には精鋭を当てるべきだとの判断であった。
安全を期するなら、海軍の船に入れてしまえば取ってりばやいのだが、今現在、秘密保持の為、余程の事が無い限り、日本人以外が船に乗り込むこと禁じられていた。
現在日本は国策として、この世界の外国人を、貿易拠点で管理している出島以外、一人として入国を受け入れていなかった。
出国する人にも、知識や技術が一切もれないように徹底させ、簡単な教科書ですら、持ち出しを禁じていたのだった。
文明の力は、周辺国に対して、はるかに日本の方が進んでいた。
折角の優位差を手放したくないのと、下手に見せびらかして、脅威として見られる位なら、侮られていた方がましとの判断でもあった。
ゆえに、自分達からは外交使節団を送りながら、他国からの使節団は、一切受け入れない姿勢は、他国からは、別の意味で不信がられていた。
ちなみに、入国を禁じている表向きの理由は、日本は神の国であり、その子孫である日本人以外の入国と、日本の神々を信じない者達の入国を堅く禁じるとの事であった。
ドラガンの部屋に案内された山本は、初めて領主ドラガンとあった。
杖と執事の手を借りながら、椅子についたドラガンと、側には娘アレッサの姿もあった。
無骨な頑固そうな顔つきであるが、山本は決してこおゆうタイプは嫌いでは無かった。
先に来ていた鏑木大尉から、自己紹介をされる。
「こちらが海軍提督にして、日本連合艦隊司令長官、山本大将です。」
「お初にお目にかかる。山本です」
「領主のドラガンだ。今回の日本軍の手によって、我とわが家族らの命を救っていただき、誠に感謝する」
「いえ、日本は盟友の命を助けるためなら、粉骨砕身いとみません」
「盟友と呼んでくれるのはありがたい。重ねて感謝する」
「それにしても、わしが捕まってからわずか3日で開放していただけるとは。日本はそんなに近い距離でしたかな」
当然の質問だ。確か日本に行くには、一週間以上かると聞いていたからだ。(実際は、帆船なら8日以上、日本の船なら4日で付く位置にあった)
彼ら日本軍の早い展開は、前から反乱の情報を聞きつけていたか、あまり考えたくないが、最初から攻め込もうと思っていて準備していたかの、どちらかだと思っていた。
「大規模軍事演習の為、近くに来ていたのが幸いでした」
正直、ドラガンのような人物相手に、うそを付くのはしのびがたかった。
何より、山本としても、うそを付くことがなによりも苦痛でもあったのだ。
「そうですか。幸運にもそばにいましたか」
うそを言っている。こんな短時間で、すばやく館や城を手際よく落とせるものでは無い。ちゃんと準備していないと無理だ。
たが、これ以上追求しても、答えは同じであろう。
「所で、王国への手紙の件、了解して頂けますか」
「その件だが、まずは確認したおきたいのは、日本軍の滞在予定はいつまでなのか。まさかこのままカレニアを日本の保護領にするつもりではあるまいな」
「まだ内陸にあるナフ城の件があり、カレニア伯領を平定出来た訳ではありません。滞在問題も全てが片付いてからでしょう」
「また、カレニアを保護領にすると言う仮定の話しは、一軍人としは、答えられません」
カレニアどころか、アドレニア王国そのものを保護領、いや完全に植民地化しようと政治家達が考えているなどとは、口が裂けても言えなかった。
「そうかわかった。取りあえず、王国への手紙はだそう。後近隣諸侯にも同様にな」
ドラガンとて、疑念を払拭出来た訳では無いが、これ以上山本長官に聞いても無駄だと悟ったようだ。
「それはありがたい」
「所で、ちと気になるので、伺いたいが、今までいかほどの損害が出ておるのかな」
「十数名の負傷者と一名の死者が出ました」
山本長官は正直に答えた。
「まさか!今までに、それだけの損害しか出ていないのか!この館やレープ城を落としたというに!」
ドラガンは信じられない思いで言った。
仮にも、自分が率いていたカレニア兵が、そんな間抜けで、弱い存在な訳では決して無い。そう思っていただけに衝撃を受けた。
彼ら日本軍が、一騎当千のつわものだと言ううわさは、本当なのか?
それにしても、この館で我らを救出しに来た、日本の特殊部隊とやらの装備服装を見ても、自分が知る限り、ムー大陸の戦士では無い、まったくの別物だと分かる。
短剣らしき物は、持っているようだが、剣すら持ってい無い、この戦士達のどこが強いのだろうか?
あの銃とか言っている物で敵を倒すとしたなら、彼らはエルフ族のような魔法戦士なのだろか?
色々と考えが浮かぶが、はっきり決め付ける事はできなかった。
「幸運だったのでしょう」
うそだ。本来なら死者で出る予定など無かった位、圧倒的な差があったのだから。
しかし、そんな事を自慢する気もさらさら無かったので、神妙顔つきで言った。
「そうですか。何にせよ、死傷者が出たことは、お悔やみを申し上げる」
ドラガンとて、その言葉に納得できた訳では無いが、これ以上聞いてもせん無き事だとは、理解はしていた。
「実は、すでに国王宛の書などを用意して置いたので、持っていくがよかろう」
「助かります」
こおして、短い会談は終わった。
帰り際、特殊作戦の小幡大尉が聞いてきた。
「長官。我々はいつまで護衛任務に付くのでしょうか」
特殊作戦の小隊がローテーションで、この館を守っているが、本来特殊作戦部隊の任務には、要人護衛任務は入ってなかった。
「しばらくは続くと思ってくれ。軍勢来たなら我々で対処出来るが、特殊な連中が隙を突いて攻めてきたら、君達で無いと守りきれない」
「分かりました。こちらもそれに備えて罠でも張っておきますよ」
「よろしく頼む」
そう言って、別れの挨拶を交わした後、山本長官は車に乗り込み、レープの港町にある、領事館へと向かった。
領事館に着いた、山本長官達は、情報部の鏑木大尉の案内で、作戦会議室に入った。
そこには、堀領事と、海兵隊の仲原少将が待っていた。
部屋には、地図やモニター、通信機などが設置され、臨時の司令部になっていた。
ここで、港町より内陸にある、ナフ城攻略作戦を指揮する為だ。
無論、指揮は、海兵隊の仲原少将が取り、山本長官達はそれを見届けるの為にここに居るのだが。
すでに城は、海兵隊一個大隊によって包囲されていた。
「敵が降伏しなかった場合は、120ミリ迫撃砲を打ち込みます」
迫撃砲は、本来、手軽さと、速射性に優れているが、命中率は曲射の為、あまり良くなかった。
しかし、距離にして2キロ程度。しかも直接射撃なら、間違いなく命中率も上がるはずである。
これを何発か打ち込んでやれば、相手はたまらず降伏するであろうとの認識であった。
もし城から打って出れば、銃の良い的である。
まして、戦車や装甲車の相手では無い。
降伏の使者には、サムライの格好をした村上と、現地人スタッフの一人。
村上一党は、今回の戦にオブザーバーとして参加しており、今回の使者にも自ら名乗り出たのだ。
そして、白旗と日本の軍旗を掲げながら馬に乗って、城門の側まで近づいた。
門が開いたとき、村上もさすがに緊張した。いきなり突撃してきて、問答無用で切り捨てられないかという不安もあったからだ。
しかし門を出た相手も、馬に乗った二人だけだった。
お互い名乗りを上げた。
「日本軍の使者である、村上だ」
「百人隊長のガラクだ」
「諸君らの命は保障するゆえ、降伏する事を望む。」
「我らが降伏するとしても、日本軍に対してであり、前領主のドラガンや王国ではない」
「それゆえに、捕虜になったとしても、我らを彼らに引き渡さないという保障さえ得られれば、降伏しよう」
「分かった。その事大将に伝えておこう。使者の分際であるが、その事受け入れられると思う」
「だとありがたい」
こおして、大隊本部に戻った村上は映像を通じて山本長官に報告した。
「その条件を認める」
無血開城なら言うことは無い。
たとえ後でドラガンが引渡しを望もうが、彼らは日本軍に降伏した捕虜である以上、引渡しはさせない。
このことを再び、城に伝えると、今度はガラク自身が、部下2人と共に、大隊本部を訪れ、捕虜条約と、降伏する文書に著名した。
聞けばすでに、城代は側近と共に城を抜け出しており、人望の厚いガラクが代表として使者に立ったとの事であった。
帰り道、74式戦車をまじかで見た、ガラクは驚いたように言った。
「遠目では良く分からなかったが、本当に全身鋼鉄に覆われていても、動き回る代物なんだな」
「ええ、剣や槍弓などでは到底歯が立ちませんよ。それこそ伝説のドラゴンでも相手にしない限りには」
同行していた、村上は、そう述べた。
「本当に分厚そうだ」
思わずそばにより、恐る恐る、触りながら感想を述べた。
「降伏してくださって、良かったですよ。こいつらを使ったら、とんだ虐殺になっていた所ですからね」
「日本人は不思議だな。敵であった、我らの命まで気にかけてくれるとは」
「虐殺してまで、勝っても気分が良くありませんからね」
笑いながら村上は言った。
ガラクは、これを聞き、彼ら日本人を信じて降伏して事は、やはり間違いなかったと改めて思った。
こおして、ナフ城は無血開城した。




