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日本新世界紀行  作者: 魔王
カレニア侵攻編
7/12

さざなみ

翌朝、レープの港町では、住民が恐る恐る家から出てきた。

昨日の夜中の騒乱には、恐怖を感じ家の中で閉じこもっていたからだ。

朝の挨拶もそこそもに、聞かずにはいられなかった。

「おめんとこ、皆無事か」

「おらの所は、大丈夫だ。そっちは」

「ああ無事だ。しかし夜一体何があったんだべやさ」

「さっぱり分からん。大きな音がいっぺい響いてた。人のうめき声も聞こえたぞ」

「おい、あれを見ろ」

「何てことだ」

「いつの間に」

彼らは気づいた。町や城に掲げてあった、ドラガン家の旗では無く。日本の旗が掲げられている事を。

そう、この町も城も日本軍の手に落ちたのだ。

しかし住民達は、あまり実感がわかない。

それもそのはずで、普通戦となれば、家を焼かれたり、略奪暴行の類が起きるのに、それがまったく無かったからだ。

そして要所要所に見たことも無い、まだら模様の服を着た兵士らしきものが警備に当たっている。

さらに港町に入ってきた大きな船で、次々に兵士が上陸してくる。

しかも、馬もないのに走る四角い馬車とかを乗り回している。

それが日本軍の兵士なんだろうと住民達は理解した。

町の至る所に、ロウガンの反乱を鎮圧する為に、日本軍がこの地に介入した事。その為この地方の治世権を預かる事などが詳細に書かれた、表札が置かれていた。

そして、文字の読めない人むけに同じ事を、スピーカーの付いた車で宣伝していた事で、より知れ渡った。


町長は、血相を変え、日本領事館に駆け込んできた。

略奪をしなかったようだが、その分後で金品を寄越せと言われるかと、思っていたからである。

堀領事から、そのような要求も無いばかりか、今後も請求する気が無いとの事。さらに普段どおりの生活をするように言われた。

さらに、もし兵士による暴行略奪が万が一起きた場合は、訴えればきちんと対応すると言ったのであった。

これを聞き、さすかに、町長も多少は安堵したものの、何せ異人達の事なので、不安感は完全には拭えなかった。


町に上陸したのは、第1海兵隊旅団の一部と、第401工兵大隊である。

特に工兵大隊は、これから道や橋、陣地や兵士用の宿営所、さらに飛行場建設とフル回転で動くことになっていた。

無論、工兵だけで全ての作業をするのでは無く、日本からの作業者も連れて来ていた。

さらに現地人を雇ったり、捕虜の活用するなども計画されていた。



近くの海岸線には、海兵隊の本隊が上陸作戦を実行していた。

実際に敵が海岸線に居るわけでは無いので、実質演習になってしまうのだが、計画通りに進められていた。

今回、海兵隊創設の時から開発建造されていた、最新鋭のドック型揚陸輸送艦、薩摩が来ていた。

性能は、米のサンアントニオ級とほぼ同じで、26000トン、ホバークラフト型LCAC揚陸艇を2隻。ヘリX2機。揚陸部隊700名である。

違う点として、武装が155ミリ砲と、RAM近接防御兵器X2、30ミリ機関砲X2、なっていた。

それ以外では、揚陸輸送艦である、おおすみや、しもきたなどが参加していた。

それら輸送艦の中でも、一際目立つ巨大な船がある。

15万トン、300メートルを有に超える巨大タンカーを改造した、輸送艦神州丸だ。

専用の強襲揚陸艦として作られた訳では無いが、その巨体を生かして、大型ヘリX14機とホバークラフト型LCAC揚陸艇X2、掃海艇X4隻を積んでいた。

そもそもこれは輸送艦というより、新しい概念である、”洋上前方配備基地”艦と言って良い。

洋上前方配備基地とは、港湾や基地が得にくい地域、海域において、掃海部隊や、海兵隊、特殊部隊の展開と作戦基地として使われるものである。

最大で6000人近く乗せる能力があり、実際今回の作戦でも、多くの海兵隊と、特殊作戦大隊が乗っていた。


水陸両用の装甲兵員輸送車を積んだ輸送艦から、次々と、AAV7が出撃して行き、海岸に上陸する。

そして海兵隊が車両から素早く出てきて、戦闘隊形へと展開していた。

ホバークラフト型LCAC揚陸艇も海岸に上陸し、74式戦車や73式装甲車を降ろしていた。

今回の派遣では、90式や10式戦車の使用は見送られた。

出し惜しみと言う訳では無く、文明レベルが違いすぎるので、この戦車でも十分活躍出来るだろとの判断であった。

実は海兵隊には、専用の戦車部隊は持っていなかった。

必要に応じて、陸軍から派遣してもらう予定だったからである。

実際は、陸軍が戦車を手放したくなかった。というのが、実情に近い。

こうした事情もあり、海兵隊としては、現在試作車両も出来上がっている、新型で水陸両用車の155ミリ砲搭載ガンランチャー型に、期待をかけている所なのだ。


陸軍の主力装甲車は現在、96式装輪装甲車で、キャタピラ式の73式装甲車の後継として、歩兵部隊に配備されている

今回はその、96式装輪装甲車では無く、73式装甲車が送られたのは、アドレニア王国の道路が舗装されてい無い点と、戦車と同等の路外機動力を合わす為でもあった。

世間一般的に見て、タイヤを仕様の96式装輪装甲車の方が軽いイメージがあるが、実は、キャタピラの73式の方が1トンも軽いのである(96式が14.5トン。73式が13.3トン)

しかも、乗員も73式の方が多い(12名、96式は10名)

更に言えば、装輪装甲車は、機動性を保持する為には、これ以上重く出来ないが、キャタピラ式の73式装甲車は、必要に応じ、重火器や増加装甲を付けて重たくしても、作戦行動可能な機動力を有する点がある。

装輪装甲車の有利な点は、舗装道路上での機動力くらいである。

そもそも、何故キャタピラ式の装甲車の後継を、装輪式にしなければならなかったのであろうか、疑問が残る。

さすがに、国防省も情勢の変化を受け、新たな装甲車キャタピラを計画中である。


今回のカレニア派遣軍は、第1海兵隊旅団と、特殊作戦大隊、第301砲兵大隊、第401工兵大隊、そして第501機械化戦闘大隊である。

この機械化戦闘大隊は、海兵隊の支援の為に作られた、特別編成の小規模な大隊で、戦車中隊(74式戦車18両)、機械化歩兵中隊(73式装甲車18両)本部管理中隊からなる。

本部管理中隊には、大隊本部他に、通信、整備、工兵、情報小隊など支援部隊がいるが、それ以外に、偵察小隊、迫撃小隊(73式に120ミリ迫撃砲を搭載X4両)対空戦車小隊(87式対空戦車4両)も入っていた。

これらカレニア派遣軍司令官は、第1海兵隊旅団長である、仲原少将であるが、これはまだ暫定であり、今後兵力が増強された場合は、改めて司令官と本部が派遣される事になっていた。



山本書記官と鏑木大尉達は、車で館に入った。

もう馬車で誤魔化すことも無くなったからである。

早くアレッサに会って無事を確かめたかった。

ゆえに、隊員から案内されて、アレッサに会った時は、人目もはばからず、思わず抱きしめてしまった。

「アレッサ!無事だったか!」

「拓也!」

妹であるエレンや、同伴した鏑木大尉は、ニヤニヤして眺めており、事情も知らない特殊隊員達は、あっけに取られていた。

救い出した俺達にはご褒美のキスも無かったのに、とか、このにぃーちゃん、うまいことやりやがって、と見ていたかもしれない。

一人だけ渋い顔をしていたのは、ベッドに横たわる領主ドラガンだけであった。

互いに見詰め合っている二人を置いといて、鏑木大尉が言った。

「ドラガン様と御家族も無事で何よりです」

「うむ」

救出されて間もなく、まだ具合が良くなかった。

そして、すでに任務を忘れている山本を差し置いて言った。

「閣下、具合が良くない所で申し訳ありませんが、わが軍が領内に入っている以上、その許可書を得なければなりません」

「又、その旨、アドレニア王国向けに、文書を作ってもらえないといけません」

「分かった。その二通を至急欲しいのだな」

「察していただき、誠にありがとうございます」

「いや、こちらこそ、助けてもらった恩があるからな」

「ただ、今回の件で、そちらの最高責任者である、日本軍司令官と直接会って礼を申したい」

「山本司令長官とですか」

思わず名を言ってしまった。

ドラガンは、それ名が山本書記官と同じ苗字であることに気づいた。親類かもしれないと。

「もしかして、山本書記官と親類縁者か」

「あっ、はい。そうです親戚にあたります」

皆の前で、アレッサと抱き合ってしまったことに対する恥ずかしさがあって、ままならない言い方なってしまった。

「それと謀反を起こした者の首を検分したいのだが」

「わが日本も昔は首を取っていましたが、今は遺体は丁重に葬っております」

鏑木大尉は神妙な顔つきでそう言う。

幾ら首を求められても、死者の首を切って持ってきて欲しいなどと、とてもでは無いが司令部に報告出来ない。

自分だって、死者の首を刎ねるのは、御免こうむりたい。

「なんぞや、相手は謀反人だぞ」

「武士の情けというか、死者にムチを打っても仕方がありません。それが今の日本のやり方であります」

「奴の首を見られんのは残念だ。だが戦ったのはその方達だからな。仕方がないか」

いかにも残念そうに、ドラガンが言った。

「取りあえず今は、領地内での滞在をわしの名で許す事を布告する」

「ですが、王国内にも、すぐここでの出来事が伝わります。彼らは、日本軍が介入した事を決して快く思わないでしょう。トラブルを回避する為にも、両方今書いてもらえませんか」

あわてて鏑木は言った。すんなり書いてくれると思っていただけに、肩透かしを食らった感じだ。

「王国への手紙は、そちらの最高責任者と話し会ってからとする」

ドラガンは、決して譲らなかった。

彼とて、助けてもらったとはいえ、日本軍を全面的に信じては居なかったのだ。

「アレッサ、代筆を頼む」

「はい、お父様」

ようやく我に返ったアレッサは、多少顔を赤らめながら返事をして、紙と筆を用意した。

「わかりました」

残念そうに、鏑木は言った。

自分は外交官で無いのに、つい差し出がましいことをしてしまったから、こんなことになったと反省した。

もっとも、肝心の外交官である、山本が色恋沙汰であまり使えなかった事もあるが、だからと言って、自分が話しを進めたのが、そもそもの間違いだった。

(まったく、人様の恋愛ごととは言え、困ったことだ)

嬉しい表情がいまだに消えない山本を見ながら、苦笑しながら鏑木はそう思った。



旗艦陸奥の作戦会議室では、各部署の司令官達が、特殊作戦大隊長である、村田中佐が言う、一連のナバロン作戦の結果報告を聞いていた。

負傷者14名。これは敵を捕虜しようとした際、相手に抵抗されて負傷した事が、主な原因であるとの事であった。

これは予想されていた事でもあった。幾ら相手が弱いと言っても、まったく無傷で事は済まないと、皆見ていたからである。

問題は、死者が1名出たことである。

しかも、特殊隊員が、よりにもよって、首を絞められて殺害されるとは、皆ショックを隠しきれない。

村田中佐も、忌々しく報告する。

相手は、魔法使いであることは、ほぼ断定していた。

何せ人とは思えぬ、身のこなし、武器は持ってなくとも技を使える点などでだ。

山本長官始め、日本軍の司令官達が、魔法使いの存在が、今後何を進めるにしても、厄介な存在になるであろう事を、初めて理解した瞬間でもあった。

山本長官は思った。魔法使いが、どの程度の力を持つ存在なのかをなのか、もっと良く知らないと、思わぬ被害が今後も出るかもしれないと。

今はただ、漠然とした不安感が残った。


なお、特殊作戦大隊に属する人の存在は、公式には明らかにされていない為、今回の死者は、訓練中の死亡に取って代わっていた。

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