戦争経済
「何故貴重なレーザー誘導爆弾を使ったのですか。ハリアーなら通常爆弾でも、城に対してなら正確に落とせたのでは無いのですか!」
良く通る声が会議室にこだました。
日本海軍、連合艦隊司令長官、山本大将には、この地に来て以来、頭痛の種とも言える存在があった。
それが又、美しい雌豹のような女性なのだから、扱いが難しい。
今も会議で、城攻めに使った精密誘導爆弾の件で、何故通常の爆弾を使用しなかったのか。ハリアーなら出来なかったのか。パイロットの腕が悪いのか。等詰め寄られていた。
彼女の名は、丸山麗華女史。
カレニア派遣特命課長として、国防省から派遣された背広組の役人である。
省内でも有名なキャリアーウーマンと知られ、30過ぎでも独身な事から、行かず後家とも言われてたいたようだ。
しかし、眼鏡をかけ、凛としたたたずまいに、女王様のような風格さえ漂わせている美女であることから、隊内でもファンが多い。
男やもめの軍隊だから、仕方がないと言えば仕方ないが。
最初から狙ってやってるとしたら、いや狙ったのだろう。
国防省の西野事務次官も小野田官房長も、本当に性質が悪いとしか思えない。
美女の言うことなら、何でも言うことを聞いてくれると思われているとしたら、まったくもって心外だ。
しかし、今日も今日とて、美女には弱い部下達を見るたびに、ため息が出る。
「いかかでしょうか。作戦参謀の秋山大佐」
彼女の問いに、見とれていた秋山が慌てて答える。
「そ、そうかもしれません」
いい答えね。と思ったのか、彼女は微笑んだ。
それを見た秋山の表情も喜びに満ち溢れた。それはまるで憧れの女教師に褒められて有頂天になる生徒のようだった。
そのありさまを見た、山本長官は、より一層頭を抱えた。
信任を寄せる作戦参謀の秋山ですら、このざまだ。彼女に熱を上げているのが、傍目で見ていても良く分かる。
秋山の場合は、数年前に離婚して独身だから、まだ気持ちが分からんで無い。
しかしそれ以外の、いい年したおっさんが嫁もいるのに、鼻の下を伸ばしながら対応しているのは、見るに耐えない。
部下が頼り無いせいで、長官である自分が、直接弁解をしなければならない事に、疲労を感じる。
「ハリアーの高度を落とせば正確性は増すかもしれないが、危険性は高まる。正確性が落ちれば今度は、精鋭達が巻き添えになってしまう」
少し声の調子を高くしながら言った。
「どちらも、多額の金と、時間など手間暇かけている。失うわけにはいかない。以上だ」
こんな議論などまっぴらごめんだ。そうそうに話しを打ち切った。
彼女は不満そうな表情だが、これ以上かまってはいられなかった。
そもそも何故彼女が、戦地に送られて来たのか。
事の発端は、5ヶ月前、国防会議においての西野事務次官の発言から始まる。
「軍人の皆さんは、戦争経済をご存じない」
「人を動かすにも金、弾薬や燃料も金、何をするにも、金!金!金がかかるんや」
統合参謀本部から出た、アレドニア王国侵攻作戦の、主な概要の資料を見ながら検討する会議の席でもあった。
軍事作戦で勝利する基本は、兵力、火力共に相手を圧倒する物でなければならない。
投入される兵力の規模は、海兵隊や空挺旅団はもちろん、機甲師団を含む5個師団、航空機250機、艦船200隻で、アレドニア王国を制圧する予定であった。
これにさっそく噛み付いたのが事務方トップの事務次官だ。
「無理や、こんな大兵力を展開出来るほど、予算は無いで」
「ではどの位の規模なら可能なのでしょうか」
参謀の一人が言う。
「今の兵力の1/4か、1/5位で無いと無理やで」
「!」
思わず絶句してまったのは、参謀達だけでは無かった。
陸海空司令官達も顔を見合わせた位だ。
山本などは、そんだったらこんな戦、止めちまえ。と思ったが、口には出さなかった。
政府がアレドニア王国を欲しがる理由も分かっているからだ。
必要な戦略物資の調達は何とか目処がたったが、まだまだ足りていない。
特に、もっと必要だと思われているのが、食料だ。
色々なものが食べられた、転移前の食料事情には、いまだ遠く及ばない。
3食たべるために、軍に入ってきた者も少なくない位だ。
肥沃な土地を多く持つと思われいるアレドニア王国を占領し、保護下に置く。
これが政府が出した決断だった。
軍人は国の決定に従うしかない。
祖国を守る為に戦う。それも今や拡大解釈が行われ、祖国の生存権を世界に確立していく為に戦う。になっていた。
転移前の、集団的自衛権の名の下、米帝の為に、よその国行って、戦って死ぬよりは、マシかもしれないが。
それにしても、兵力が少なくなればなる程、現場の兵士の負担が重くのしかかる。
それは命をもって償わなければ、ならないかもしれなかった。
結局、その後の政府との何度かの折衝によって、参加兵力は、当初の計画案の1/3までは引き上げられる位の予算は認められた。
ただ、現場では、戦闘だからと言って、戦場で派手に億単位の花火を打ち上げられても困る。
相手は中世レベルなのだから、効率よく敵を叩いて欲しい。
その為に、目付け役として、背広組みも現場に来ることになったのである。
アレドニア王国の王都バリス。毛利大使は、小早川書記官と、駐在武官の吉川中佐を連れ立って、王宮のお召しによりに参内した。
1年以上前に、カレニア伯の紹介状を持って、王都に来た。
以来、大使館を設立し、情報収集などをメインに活動していた。
今回の呼び出しは、カレニアの一件である事は、まず間違いなかった。
アンリ4世国王陛下の臨席の上で、宰相であるミゼラン枢機卿から、日本国へ通達がなされた。
「日本軍は、カレニアの地から、直ちに撤退せよ」
文章を読みながら、声高々に宣言する。
「すでに討伐軍が結成され、明日にも出撃する。わが軍が到着するまでには、日本人は一人残らずかの地より撤収するように。これは王命である」
すかさず毛利大使が反論する。
「カレニア伯を反乱から救ったのが日本軍です。感謝されど非難される筋合いはありません。そのくだりは、カレニア伯からの手紙でも書かれているはずですが」
「事の真偽は我々が行う事だ。どの道この道、日本軍の行動は、わが国に対する内政干渉に当たる。直ちに撤退せよ」
「我々日本は、名誉を大事にいたします。このような不名誉な撤退など到底受け入れがたい」
内務大臣である、クレルボン公爵は言い放った。
「よろしい、ならば戦争だ」
前の世界で、他の国から言われていたのなら、大いにあせり、まともに反論も出来なかったかもしれないが、今は違う。
きさまら、中世の軍隊が、近代化されたわが軍に勝てると本気で思っているのか。
思わず、余裕をこいて、どうぞどうぞいらして下さい。痛めに合うのはそちらですからと。言いたいのを我慢して言った。
「致しかたありません」
ここは、しぶしぶと言ったように見せかけた。
駐在武官の吉川中佐も、後で吼えずらかくなよ。と思いながら聞いていた。
アレドニア軍は、どう多く見積もっても5万位だと見られていた。
今回の出陣には、1万人が参加する情報をすでに得ていた。
現地で他の軍勢がどの位集結かまでは分からないが、それでも2万は超えないだろうと、吉川中佐は見ていた。
たとえ何万こようとも、わが軍の圧倒的な火力で粉砕されるだろう。それも虐殺に近い形で。
吉川は、これは戦争と呼ばれるかどうかですら怪しいと思っていた。
唯一、気がかりなのは、ほとんど情報がつかめてい無い、魔道師ギルドの存在であった。
それも無理かなぬ物で、王国お抱えの組織とは言え、彼らの存在は闇に近く、表にほとんど出てこないからである。
彼らが、我々の持つ科学力が分からないように、こちらも魔道が分からない。
今後魔道に対抗する術を持たねばならない必要性を感じていはいるが、どう対処してよいか分からない。
だからだろうか、最近思うのは、魔道師の中で、日本に協力してくれる人はい無いのだろうかと考える。
そう思い、町に出て探しても、自称魔道師の輩は、胡散臭い者ばかりで、効果が薄かったりする。
やはりちゃんとした魔道師は、ギルドに属した者しかい無いのか。
ムー大陸中を探しても、日本の協力者を見つけるべきだと、吉川中佐はその必要性を強く感じていた。
アンヌは、つい最近、見習い騎士から、正式に竜騎士になった10代の女隊員である。
女性が、竜騎士になるのは、隣国グラディウス朝帝国では珍しく無い者の、このアドレニア王国ではまれな事になる。
父親がワイバーンの世話する係りだったせいで、小さい時から慣れ親しみ、扱いも下手な竜騎士よりうまかった。
それもあり、憧れていた竜騎士隊に、特別に入隊が許され、1年の研修を終え、晴れて騎士になったのだった。
王立竜騎士団は、国王陛下直轄の近衛兵でもあるので、直接陛下より騎士の叙勲をされた感動を今も忘れていなかった。
今回、カレニアの偵察に、十竜長のクロエ隊長と、同僚のロロと一緒に任務に付いた。
しかし、出立前日になって母親の具合が悪くなり、隊長の図らいで、自分だけ出立を遅らせてもらったのである。
向かう先は、カレニア領の隣ある、ポーダン伯の城。そこを拠点に日本軍を空から偵察する予定であった。
「本当に良い天気だわ。おまえもこんな日に飛べて気持ちいいでしょう。アズライール」
自分が乗る愛獣であるアズライールに声をかけた。
アズライールは、生まれた時から面倒を見ていたメスのワイバーンで、自分にもよくなついてくれていた。
彼女を自在に操ることで、自分は騎士に成れたのだと思う。
いつかは、帝国のワルキューレの女騎士達に負けないような騎士になりたいと思っていた。
アンヌは、同じ上空に、キラリと光る物体を見つけた。
それは、思っていた以上に早く、自分達の側を通り抜け、飛び去って行った。
「何なのあれは!!」
見た事も聞いた事も無い物体だった。そう生き物で無い!!
ワイバーンよりずっと早く、そして一回り大きい割りに、羽があまり大きく無かった。
形も空飛ぶ鳥というより、魚に近い。
しかも、自分の目に間違いが無ければ、何かガラスのような物に覆われていたが、あれには確かに人が乗っていた。
アンヌは、相手の正体をさらに見極める為、必死になって追いつこうとしたが、相手の速さは尋常では無かった。
「ちぃ~、何て早さだ、追いつかない」
結局振り切られてしまった。
「こちらナイト5より戦隊本部へ、うわさに聞くワイバーンに乗った竜騎兵を発見。撃墜の許可を」
「戦隊本部よりナイト5へ、残念ながら、まだ撃墜の許可は出ていない。離れた距離から監視せよ」
「了解」
鈴木大尉の、ナイト5ことハリアー2は、スピードを加速させ、高度を上げた。
アンヌは、無理をさせた愛獣を休ませる為、陸地にに着陸した。
地図を見ながら、すでにカレニアの地に入り込んでいることを確信した後、このまま直接単独偵察をしようと決意した。
「もう、ここまで来てしまったんだもの、行ってしまえ」
偵察とはいえ、初の実戦任務だったことから、アンヌは士気高揚していた。
どうしても、早くこの目で日本軍とやらを見てみたい。
はやる気持ちを抑え切れなかったのだ。
「こちらナイト5より戦隊本部へ、目標を見失った(ロスト)どうやらステルス性がよいらしく、距離を取ったらレーダーに反応しなくなった。目視でも確認出来ない」
「それと、そろそろ時間だ。一旦帰還する」
「了解。許可する」
アンヌは、30分位休んだ後、再び舞い上がった。
目指すは敵の拠点であると言われている、レープ港町。
得体の知れない飛行物体との遭遇を避ける為、低空飛行で飛んでいた途中、何やらテントが多数存在してる所を発見した。
それは、濃い緑色したテントであり、一部には木や葉っぱらしきもので偽装までしていた。
明らかに、上空から見ても分からないようにしてあり、高度を取っていたら見逃していたかもしれない。
「これが日本軍の野営地なの?」
陣地を旋回しながら、日本軍兵士らしき者を見た。
皆、まだら模様の服を着ていて、誰一人、煌びやかな服を着ていなかった。
そう彼は、あえて偽装して大地に溶け込み、分からなくしようとしている。
さらに見ていて気づいた事がある。馬車らしき物が沢山あるが、それを引く馬や牛などがほとんど見えない。何故なの。
他にも大きな筒のような物もあるが、何に使うか良く分からない物ばかりだった。
地上では、急な来訪者にてんやわんやしていた。
ある者は、ワイバーンに恐怖を抱き、塹壕やテントに逃げ込み、ある物は騒ぎ立て、のんきな者は手を振ってさえいた。
「馬鹿者、何をのんきに手を振って嫌がる。すぐ戦闘準備に入らんか!!」
「でもあれ偵察か何かでしょう。しかもどうやら女性ですよ、操縦しいてるのは」
「馬鹿野郎! そんな事関係あるか! ここは戦場だぞ」
「撃ち落していいんですよね」
「いやまだだ、発砲の許可が出ていない」
「まだ上からの許可がおりません」
海兵隊第1旅団長の橋本大佐は、この有様を見て、ため息をもらしたほどだ。
こんなことで戦が出来るのかと。
地上に混乱を招いた張本人であるアンヌは、素知らぬ顔で、そのまま港町まで飛んだ。
どうやら町自体には、何ら被害が無いようだ。
海を見ると、水平線に何やら見慣れない船が、沢山浮かんでいる。
なんだろうと思い。さらに海に向かって飛ぶ事にした。
それは、日の丸を掲げた大小40隻の艦隊であったことから、日本軍の船だとすぐに気づいた。
だがさらに近づいた時、少々の事では物怖じしないアンヌも度肝を抜かれた。
「何ていう大きさなの! うそでしょう!」
海に浮かぶ、あまりの大きな船を見て叫んだ。
ムー大陸では、一番大きな船と言っても、せいぜい120リー(60メートル)だというのに。
この艦隊では、小さい船でも200リー(100m)あり、多きのでは600リー(300m)もある。
しかも、帆も無いのに動く船など、見たことも聞いた事も無い。
先程と同じく、手を振る人も居たりして、敵意が無く、弓矢を射掛けられる事も無かったので、さらに近づいてみる。
そして気づいたのは、どうやら木材で船が作られたのでは無く、鋼鉄か何か非常に堅いもので出来ていることが分かった。
アンヌは驚愕しっぱなしてあった。
自分が見た事を、果たして信じてもらえるだろうか。そんな思いを胸にその場から立ち去った。
旗艦むつでは、司令官達が、ワイバーンを見る為に、艦橋の外に出で、双眼鏡で相手を確認していた。
「撃墜しなくて良いのですか。わが軍の戦力が知られてしまいますが」
海軍参謀の一人が、山本長官に言った。
「まだ正式に、アドレニア王国とは交戦状態になっておらん。こちらか宣戦布告も無しに撃つ事はできん」
山本長官は、仕方が無いように言った。
卑怯なことは出来ないと。
それは、太平洋戦争で、日本が宣戦布告無しに、卑怯な奇襲攻撃をしかけたと、後々まで言われた事が、戦後日本のトラウマになっていた事に起因する。
その事が、今の国防軍にも強く、影響を与えていた。




