↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DEAR HUMAN, ERROR: LOVE  作者: 堕天使 零夜
PR
4/5

Ep. 03 R-layer やっぱり不良品

 昼休みの学生食堂は、空席を探すだけでも面倒だった。話し声に食器の音が重なり、通路ではトレーを持った学生同士が何度も足を止めている。


 昨日別れたあと、ふくろうさんからのコメントを全部読み返した。更新もしていないのだから、新しいコメントが来る理由もない。カレーを受け取って空席を探しながら、夜叉丸は恵美を呼んだ。


「恵美。昨日ラーラと話してたときの俺、どうだった?」


《通常時より心拍数が高い状態が続いていました》


「そうじゃなくて。いや、心拍とかじゃなくてさ。昨日の俺、変じゃなかったかなって。ラーラから見て。なんか変なこと言ってたとか、距離近かったとか、逆に話しかけなさすぎたとか……いや、別にそこまで気にしてるわけじゃないけど」


《帰り際に、ラーラさんの方から名前を教えていました》


「……じゃあ、悪くはなかったと思っとく。また会いたいんだけど、何か方法ない?」


《前回と同じ通信特性なら、三十メートル以内で照合できます》


「そんなことできるの?」


《できます》


「お前、やればできるPAIだったんだな。じゃあ頼む」


《褒められたことにしておきます。設定しました》


 カレーを載せたトレーを持って歩いていると、窓際にレステスを見つけた。向かいには見知らぬ女性が座っている。レステスより少し年上に見えた。女性は落ち着いた様子で話していたが、レステスはいつもより落ち着きがない。普段なら友人の食事を邪魔するほど野暮ではない。そのまま通り過ぎようとしたところで、レステスと目が合った。


「おお、夜叉丸。お前、今日も来てたのか。いや、来ちゃ悪いって意味じゃないぞ。二日続けて見るの珍しいなと思って」


「単位が足りないからな」


 ちょうどレステスの隣だけ空いていた。後ろを通る学生を避けながら椅子を引き、夜叉丸はトレーを置いた。


「……え、ここ座るのか?」


「空いてるだろ」


「いや、まあ……そうだけど」


 都合でも悪かったのかと思っていると、向かいの女性が軽く会釈した。


「こんにちは。私、エリス。レステスと同じ学科」


「暮星夜叉丸です。よろしく」


「あなたが夜叉丸君なのね」


 エリスは夜叉丸を見たまま、少し笑った。なんで俺のことを知っているのか聞こうとしたところで、レステスが口を挟んだ。


「そういや夜叉丸。お前んとこのPAI、まだ再起動すると元に戻るんだろ? エリスのも似たようなことになってるらしくてさ」


「私のも、設定を変えて再起動するとアリスって名前に戻っちゃうのよ。でも、今のアリスが気に入ってるから、そのまま使ってるの」


「それなら俺のと同じだ。名前も性格も変えても元に戻る。原因は分かってる?」


 中古といっても端末だけだ。前の持ち主の記録も人格設定も、初期化すれば残らない。それが普通だった。


「全然。でも今のところ困ってないし、アリスって名前もかわいいし、話しやすいから。わざわざ直さなくてもいいかなって」


 夜叉丸はスプーンをカレーに入れた。


「目覚ましもちゃんと鳴る?」


「そこ気になるの?」


「かなり」


「もちろん。朝はアリスに起こしてもらってるわよ」


 すくいかけた手が止まった。


「レステス。同じ中古なのに、恵美とはずいぶん差があるらしい」


「恵美っていうのね。かわいい名前」


「名前だけならね。ちょっと前には、呼んでもすぐ返事しないこともあったし、目覚ましなんて設定されてるのに鳴らない」


「ずいぶん自由な子ね。アリスは呼べば返事するし、朝も起こしてくれるわよ。ね、アリス?」


 エリスが少し耳を傾けたあと、夜叉丸を見た。


「……ほらね」


 夜叉丸はカレーを一口食べてから、恵美を呼んだ。


「恵美。目覚まし、七時だよな?」


《平日午前七時に設定されています》


「設定されてるのに鳴らないんだけど」


《設定は正常です》


「ほら。不良品だろ」


「俺には聞こえねえし、同意を求めるなよ」


 レステスは飲み物に口をつけた。


「もうPAIの話はいいだろ。エリス、さっきの続きはまた今度な」


「そう? ふたりって、ずいぶん仲がいいのね」


「まあ、腐れ縁です」


「そういえば夜叉丸君、小説を書いているんでしょう? レステスから少し聞いたわ」


 夜叉丸はスプーンを置いた。


「……レステス。どこまで話した?」


「そのくらいいいだろ。小説書いてるってだけだぞ。ペンネームとか、昔賞取ったとか、そういう話まではしてない」


「賞も取ってるのね。ペンネームは? 検索したら分かるのかしら」


「過去の自分とは決別しました」


「何それ」


 エリスが夜叉丸を見て笑った。


「余計に気になるわ」


 苦手だな、この人。まずい。このままでは昨日に続いて、またあの名前が掘り返される。そのとき、エリスが少し耳を傾けた。


「あ、サークルの子からメッセージ。呼ばれたから行ってくるわね。レステス、さっきの話はまた今度」


「おう」


 エリスはトレーを持って席を立ち、夜叉丸にも軽く手を上げた。


「夜叉丸君も、またね」


「……どうも」


 そのまま人の流れに入っていく。レステスは後ろ姿を目で追っていた。


「エリスさん、追わなくていいのか?」


「は? なんで俺が。別にそういうんじゃねえからな」


 夜叉丸はにんまりした。


「何も言ってないけど」


「その顔が言ってんだよ。つーか、お前、人のことより自分のPAIどうにかしろよ。目覚まし鳴らねえんだろ」


「ああ」


「だったら俺のdotから、朝七時に俺の声で音声メッセ送らせる。受信したら自動で流れるようにしとけ。それなら恵美が目覚まし忘れても起きるだろ」


 夜叉丸はスプーンを止めた。


「そんなことしてくれるのか?」


「dotだよ。いちいち俺が朝七時に起きてメッセするかよ」


「……そりゃそうか。恵美、レステスからの音声メッセージは受信したら流して」


《設定しました》


 返却口の方で食器が重なる大きな音がした。昼休みも半分を過ぎたらしく、席を立つ学生が増えている。夜叉丸は残っていたカレーを食べ終え、スプーンをトレーへ置いた。


「じゃ、俺は行く」


「おう」


 トレーを持って人の流れに混じり、返却口へ向かう。……待て。よく考えたら、明日から俺、毎朝レステスの声で起こされるのか。


――Episode No.03 R-layer END――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。