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MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


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第3章 Act.15  野営地到着



それから一時間もかからず、俺たちは最後の丘を越えた。


丘陵に囲まれた、比較的平らな草地。


端には背の低い木々がまとまって生え、少し離れた場所には焚き火に使えそうな石も転がっている。


どうやら、ここが今日の野営地らしい。


「着いたぁ」


ムートが長く息を吐く。


足元ではノンちゃんが元気よく尻尾を振り、先に丘を下りようとしていた。


「ノンちゃん、まだだよぉ」


ムートに呼ばれ、ぴたりと止まる。


こういう時はちゃんと聞くんだな。


俺も荷物を背負い直しながら、野営地を見回した。


……誰もいない。


「俺たちが一番乗りみたいだな」


「そうみたいだね」


ココラの長い耳が、草地の左右へ向く。


正確な時間は分からないが、太陽はまだかなり高い。


「二時過ぎくらいかな?」


「そのくらいだろうな」


トイボル先生が空を見上げて頷いた。


「途中の戦闘も、大きく時間を取られずに済んだからな。予定より少し早く着いたんだろ」


「じゃあ、ほかの班が来るまで休憩?」


シルヴィが期待を込めて尋ねる。


「いや」


トイボル先生が笑った。


「せっかく早く着いたんだ。先に今夜の準備を始めるぞ」


「はぁ、だと思った」


シルヴィが肩を落とす。


まずはテントを張る場所を決める。


全員で草地へ下り、周囲を確認した。木の近くは枯れ枝や根が邪魔になるし、低い場所は雨が降ると水が溜まりそうだ。


最終的に、木々から少し離れた緩い斜面を選んだ。周囲も見渡しやすく、雨水も自然に低い方へ流れてくれる。


「悪くない。ここにするぞ」


トイボル先生の許可が出る。


役割もすぐに決まった。


シルヴィは周囲の警戒。


ココラとウーナは水の準備。


ムートはトイボル先生、ノンちゃんと一緒に薪集め。


シュリさんは弓を背負い直した。


「私は近くを見てくるね。夕食に足せる物があったら獲ってくる」


「一人で大丈夫ですか?」


「普段の狩場だからね。みんなで来られる方が獲物に逃げられちゃうよ」


軽く手を振り、丘の向こうへ消えていく。


残った俺は、マルテ先生とテント予定地を土魔法で整えることになった。


目につく石や枝を取り除き、足元の土へ魔力を流す。


一度に全部動かそうとせず、狭い範囲へ分ける。高いところから土を削り、低いところへ寄せ、表面を押し固めた。


スリングを練習で習得できたおかげで、使う予定だったスキルポイントが2つ浮いた。


その2ポイントを土魔法に振ったのだが、以前より動かす土の量も、止める位置も調整しやすくなっている。


「そのまま。寝る場所の中央は、周りより少し高くして」


マルテ先生が横から声を掛ける。


「雨が入っても、下へ流れやすくなるから」


「このくらいですか?」


中央を十センチほど持ち上げる。


先生が靴で踏み、固さと傾きを確かめた。


「うん。次は外側」


テント二張り分の地面を整え、周囲に浅い排水溝を作る。


最後に溝の出口を斜面の低い方へつなげた。


ついでに焚き火予定地も整え、石を並べやすいよう中央を少し窪ませた。風上側には、風よけとなる低い土壁を作る。


「設営でここまで使えれば十分」


「はい」


マルテ先生が出来上がった地面を見回す。


広い範囲を動かしたが、魔力にはまだ余裕がある。


地面を整え終わる頃には、水の準備も終わっていた。


俺のアイテムボックスから出した小樽には、ココラとウーナが作った水が入っている。


「こっちも終わったよ」


ココラが樽の中を覗き込む。


「これだけあれば大丈夫だな」


少し離れた場所では、シルヴィが立哨を続けていた。


丘の上、木々の間、俺たちの背後と、時々見る方向を変えている。


やがて、薪を抱えたムートとトイボル先生も戻ってきた。


ノンちゃんは口に一本だけ細い枝をくわえている。


「ノンちゃんも運んだの?」


ココラが尋ねると、ムートが嬉しそうに頷いた。


「一番気に入った枝を持ってきたみたい」


「それ、薪にしていいのか?」


俺が聞いた途端、ノンちゃんが枝をくわえたまま後ろへ下がった。


「駄目みたいだねぇ」


自分用のお気に入りかな?


これで最初に決めた仕事は一通り終わった。


「じゃあ、次は私が見てる」


ウーナが長杖を持って立ち上がる。


シルヴィと交代して周囲の警戒に入り、その間に俺たちはテントを張ることになった。


男子用は俺とムート。


女子用はココラ、シルヴィ、ウーナ。


先生たちとシュリさんの分は、学校で用意された別のテントだ。


細かな手順は学校でも練習している。


二張りのテントを張り終えた頃、丘の向こうから人の声が聞こえてきた。


しばらくして、別の班が丘を越えてくる。


「お前ら、もうテントまで張ってるのか?」


「早く着いたからな」


その班は俺たちよりもモンスターとの遭遇が多く、途中でゴブリンの群れと二度戦ったため、予定より時間がかかったらしい。


大きな怪我人はいなかったようだが、一人だけ膝に布を巻いている生徒がいる。


「怪我したの?」


ココラが尋ねると、本人が気まずそうに目を逸らした。


「いや、その……戦ったわけじゃなくて」


隣の生徒が笑いを堪えながら続ける。


「こいつ、普通に歩いてて石につまずいたんだよ。戦闘中でも何でもなくてな」


「おい、ココラちゃんの前で言うなよ!」


膝を擦りむいただけらしい。


すでに洗って薬も塗ってあり、歩くのにも問題はないようだ。


まあ、野外じゃモンスター以外にも気をつけないとな。


さらに少し遅れて、バンさんもいる班がやってきた。


「もう出来上がってるじゃねえか」


バンさんが、俺たちのテントと排水用の溝を順番に見る。


「レオンが土魔法で整えたんですよ」


ココラが言うと、バンさんは溝の出口まで歩き、靴先で土を軽く踏んだ。


「ちゃんと低い方へ逃がしてあるな」


「まぁ、マルテ先生に教えてもらいながらですけどね。それより鎧の着心地はどうでした? 何か問題があれば、ここでも多少は調整できますけど」


一応アイテムボックスには簡単な補修道具などを入れてある。


「いや、全く問題ない。軽くて動きやすいし、良い出来だぞ」


そう言って俺の肩を一度叩くと、自分の担当班へ戻っていく。


そちらでは、テントの布と紐を前にした生徒たちが、早くも困った顔をしていた。


バンさんが休めるのは、もう少し先らしい。


最後の班も到着し、野営地は一気に賑やかになった。


全員の点呼と怪我の確認を済ませると、あちこちで設営が始まる。


テントを広げる者。


地面の石を拾う者。


水や薪を準備する者。


早く着いた俺たちは大体終わっていたので、手の足りない班を少し手伝った。


一通り作業が落ち着いた頃、ムートが俺のところへやってきた。


「レオン。あのスリング、僕もやってみていい?」


「スリング?」


「うん。鉄球のやつは怖いけど、普通のなら面白そう」


「いいぞ、練習用の木の玉もある」


俺はトイボル先生へ許可を取り、練習用のスリングと木の球をアイテムボックスから出した。


人のいない斜面側へ移動し、投げる方向に誰も入らないよう確認する。


「いきなり速く回さなくていい。まずは前に飛ばすところから」


「こう?」


「そう。手を離すんじゃなくて、こっちの紐だけ放す」


ムートが恐る恐るスリングを回す。


そして。


「えいっ」


ぱしゅっ。


木の球が飛んだ。


斜め右へ。


かなり斜め右へ。


「…………」


「…………」


二人で飛んでいった方向を見る。


「まぁ、最初は俺もそんな感じだったから」


「ほんと?」


「もっと酷かった」


これは本当だ。


最初の頃なんて、的とは全然違う方向へ何度飛ばしたか分からない。


「じゃあ、もう一回やってみるよぉ」


ムートが次の木球を手に取った。


その横で、マルテ先生が俺を呼んだ。


「レオン君。土魔法もだいぶコツを掴んできたみたいだし、そろそろ新しい魔法を一つ覚えてみる?」


「新しい魔法ですか?」


「ソイルニードルかソイルウォール。今のレオンなら、どっちでも始めてもいいと思うわ」


ソイルニードルは、土石質の鋭い礫を作って撃ち出す攻撃魔法。


ソイルウォールは、その名の通り土の壁を作る防御魔法だ。


どっちも使い道はある。


少し考えて、さっきココラが使ったウォータースプレッドを思い出した。


あの魔法を練習したのは、たぶんダンジョンでモンスターハウスに放り込まれた時のことも頭にあったんだと思う。


一体ならともかく、三十体以上に囲まれた時、ウォーターボールを一発ずつ撃っていたんじゃ間に合わない。


だから、複数を一度に崩せる魔法を覚えた。


だったら俺は――。


攻撃ならファイヤーボールもあるし、剣もスリングもある。


それより、また複数の敵に囲まれた時、間に壁を作れればどうだろう。


全部を同時に相手にしなくて済む。


敵を分けたり、近づいてくる方向を狭めたりできれば、それだけでもずっと戦いやすくなるはずだ。


「ソイルウォールにします」


「そっち? 大抵の男の子はソイルニードルを選ぶんだけど」


「はい。攻撃する方法は他にもありますから。壁を作れた方が、できることが増えそうです」


マルテ先生が納得したように笑った。


「分かった。じゃあ、まず詠唱からね」


俺たちはムートの投擲方向から離れ、斜面の端に近い場所へ移動した。


マルテ先生が俺の隣に立ち、何もない草地へ手を向ける。


「地殻の神に告ぐ 揺るがぬ大地よ。


隆起し連なり 我らを守る堅牢なる壁となれ。


――阻め、土壁!(ソイルウォール!)」


先生の目の前に土が生まれ、一気に壁の形を作った。


高さは俺の身長より少し高い。


幅は二メートルほど。


厚みも十センチくらいはありそうだ。


さっき俺が地面を均した時とは違う。


周囲の土を寄せ集めたわけではなく、魔法そのものが土を作り、それを壁の形へ固めている。


マルテ先生が壁を軽く叩いた。


「ものすごく硬い壁じゃないわ。思い切り蹴られたり、棍棒で強く殴られたりすれば崩れる。でも、矢や魔法の勢いを弱めたり、敵の進路を塞いだりするには十分使える」


なるほど。


絶対に破られない盾じゃない。


時間を稼いだり、敵の動きを邪魔したりするための壁か。


「やってみます」


先生の作った壁から少し離れ、前へ手を向ける。


詠唱を思い出す。


「地殻の神に告ぐ 揺るがぬ大地よ。


隆起し連なり 我らを守る堅牢なる壁となれ。


――阻め、土壁!(ソイルウォール!)」


魔力が一気に減った。


目の前に土が生まれ、下から上へ壁の形を作っていく。


「おお……」


出来た。


ただし。


先生のものより低い。幅も少し狭く、上の方が微妙に歪んでいる。


マルテ先生が近づき、壁の端を杖で押した。


ぼろっ。


少しだけ土が落ちる。


「初めてなら十分。でも、まだ魔力の配分が均一じゃないわね」


「上の方が弱いですか?」


「そう。形を作ることに意識が行きすぎてる。壁全体へ同じように魔力を回すつもりでやってみて」


「分かりました」


もう一度だ。


一枚目から少し場所をずらす。


今度は高さだけを意識しない。


下から上まで、同じ厚みと固さになるように――。


「地殻の神に告ぐ――」


その横では。


「えいっ」


ぱしゅっ。


ムートの木球が今度はちゃんと前へ飛んだ。


ただし、かなり手前で地面へ落ちる。


今日初めて使ったにしては、いい感じだな。


こっちも負けてられん。


「――阻め、土壁! ソイルウォール!」


二枚目の壁が立ち上がった。


さっきより高い。


幅も広がり、上端の歪みもかなり減っている。


マルテ先生が何か所か手で押して確かめた。


「うん。さっきよりずっといい」


「まだ先生のより小さいですけど」


「最初から同じものを作れたら、先生の立場がないわよ」


それはそうかもしれないが……。


「実戦だと、多少形が歪んでも、必要な場所へ素早く出すことが大事になるわ。大きな壁を一枚作るだけじゃなくて、敵と味方の間に出したり、通ってほしくない場所を塞いだりね」


まだ実戦で使えるかは分からないが、これなら敵の進路を塞ぐくらいはできそうだ。


向こうでは、ムートが三度目の投擲に入っていた。


「今度こそぉ」


ぱしゅっ!


木球が飛び出し――。


大きく左へ逸れた方向へ飛んでいく。


コツン。


そこに立てていた俺のソイルウォールの端へ当たった。


「…………」


ムートがこちらを見る。


「ごめんねぇ」


「別にいいぞ。最初はそんな感じだ」


「思ったより難しいねぇ」


それを見ていたトイボル先生が、俺のところまでやってきた


「レオン、鉄球を使う方のスリングを貸してくれないか? 一度ムートにも見せておきたい」


「ええ、いいですよ」


俺はアイテムボックスから、鉄球を装填したスリングを一本取り出して渡した。


先生はその一本を手に取り、軽く回し始める。


狙うのは、三十メートルほど先にある立ち枯れた細い木だ。


シュパッ!


バキッ!


鉄球が枝の一本をへし折り、木片を散らした。


二発目。


シュパッ!


バキンッ!


今度は別の枝が根元から折れ、地面へ落ちる。


三発目。


シュパッ!


バキッ!


また枝が一本、折れ飛んだ。


「…………」


三発連続。


しかも、全部狙った枝に当てている。


俺は思わず先生の持っている物を見る。


「それ、本当に俺と同じスリングですよね?」


「同じだぞ、ちなみに身体強化も使ってない。ただこのスリングはいいな、素直に狙ったところに飛んでくれる。私も一本欲しいくらいだ」


先生が笑う。


分かってはいる。


分かってはいるんだけど、俺が三十メートルで三割くらいなのを考えると、同じ武器には見えない。


隣ではムートも感心したように頷いていた。


「すごいなぁ」


「いきなりあれを目指さなくていいから」


「うん。まず前に飛ばすところからだねぇ」


「そうしよう」


今の俺が言うと、妙に説得力がある気がした。


太陽は少しずつ西へ傾いている。


感覚では、四時を少し回った頃だろうか。


そんな時。


「ただいまー」


丘の向こうから、シュリさんの声が飛んできた。


弓を背負い直しながら戻ってくる。


ただし、手ぶらだった。


「何かありました?」


俺が尋ねると、シュリさんがにっと笑う。


「ヘラジカを一頭仕留めたよ」

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