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MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


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第3章 Act.13  小休憩



「よし、ここで昼休憩にするぞ」


トイボル先生が辺りを見回しながら言った。


周囲は少し開けていて、丘の向こうまで見渡しやすい。


近くには背の低い木が何本かまとまって生えており、その下には全員が座れそうな木陰もできている。


ただし、全員一緒に休めるわけではない。


「この休憩は立哨の訓練も兼ねる。レオンたち五人で、一人十分ずつ交代だ」


「「はい」」


「最初はムートからだ」


「はぁい」


ムートはノンちゃんと一緒に、少し離れた丘の方へ向かった。


俺たちは荷物を下ろし、休憩の準備を始める。


「レオンくん、火おこし手伝ってよ。火魔法使えるでしょ?」


ウーナが小さな鍋を取り出しながら声をかけてきた。


「ああ、いいぞ」


「じゃあ、私たちは薪を集めてくるね」


ココラが立ち上がると、シルヴィも一緒についていった。


その間に俺たちは焚き火に使う場所を決め、地面の枯れ草を取り除いて石を並べた。


準備がひと通り終わった頃、ココラたちが枯れ枝を抱えて戻ってきた。


「これくらいで足りる?」


「十分だ。ありがとう」


集めた枝を組み、火魔法で火をつけると、乾いた枝がぱちぱちと燃え始めた。


「ありがとう、レオンくん。あとは私がやるわ」


ウーナは鍋に水を入れ、持ってきていた生薬末を少しずつ加えて木の匙でかき混ぜる。


湯が温まるにつれて、爽やかな香りが漂ってきた。


「いい匂いだな」


「疲れた時に飲むといい薬草よ」


「へえ。どのくらい入れるんだ?」


「入れすぎると苦くなるし、お腹を壊すこともあるから、少しだけ」


湯が沸いたところで鍋を火から下ろし、ウーナは長杖を手に取った。


「少し冷ましておこうかな」


ウーナが目を閉じて集中すると、杖先に冷たい空気が集まり、小さな透明の氷が形を作った。


一つ、二つ、三つ。


ころりとした氷が鍋へ落ちる。


「おお、氷魔法か」


「すごいね! 私も練習してるんだけど、まだ氷にならないんだよね。冷たい水がちょっとできるだけ」


ココラも感心したように鍋の中を覗き込む。


学校で氷魔法を使える生徒は、今のところウーナだけだ。


水魔法から派生する中級魔法になる。


「こうやって見ると、やっぱり便利だな」


「でも、まだ小さい氷しか作れないのよねー」


ウーナは長杖を下ろした。


「氷を飛ばしたり、何かを凍らせたりはできないし」


「それでも薬師なら十分役立つんじゃないか?」


「まあね。飲み物や薬を冷ましたり、怪我したところを冷やしたりできるから」


そう言って、ウーナは少し嬉しそうに笑った。


「卒業したら、薬師のところで働くんだっけ?」


「うん。まずは見習いからだけどね」


「ウーナならすぐ一人前になれそうだな」


「レオンくんたちは冒険者になるんでしょ? 傷薬とか虫除けのお香とかも置いてあるから、買いに来てね」


ウーナは鍋の中を確かめながら続けた。


「同じ薬草でも、量や使い方を間違えたら身体に悪いこともあるから。ちゃんと使い方を教えてあげるわ」


そう言って、ウーナは木のカップに薬草茶を注いだ。


「はい、できたわよ」


「ありがとう」


受け取って、一口飲んでみる。


……うまっ!


てか、スポーツドリンクっぽいぞ、これ。


なんか懐かしい感じがする。


「うーん、私はちょっと苦手かも。薬っぽい」


隣でお茶を飲んでいたシルヴィが、カップを覗き込みながら顔をしかめた。


どうやらシルヴィの口には合わなかったらしい。


「ウーナ、その粉末欲しいんだけど。売ってくれないか?」


「えっ、いいけど。値段はないわよ、これ。私のオリジナルだし」


「なるほど。じゃあ帰ってからでいい。値段を決めたら売ってくれ」


「ええ、分かったわ。気に入ってくれたなら良かった」


ウーナが嬉しそうに笑う。


それから間もなく、シルヴィが立哨の交代に向かい、代わりにムートが戻ってきた。


「お疲れさま」


ウーナが声をかける。


「ありがとぉ。今のところ何もいなかったよぉ」


「お茶できてるわよ」


「わぁい」


ウーナが薬草茶を木のカップへ注ぎ、ムートたちにも配っていく。


ムートは一口飲むと、カップの中を覗き込んだ。


「これ、薬草いっぱい入れたら疲れってなくなる?」


「もう、お腹壊しちゃうわよ。薬草は多ければいいってものじゃないんだから!」


ウーナが妙に真面目な顔で答えた。


……もう半分くらい薬師なんじゃないだろうか。


俺はお茶を飲みながら、アイテムボックスを開いた。


昼飯用に、昨夜作っておいた蒸しパンを十六個入れてきた。俺たち五人に、トイボル先生、マルテ先生、シュリさんを合わせて八人だから、一人二個ずつだ。


「そうだ。これ、昼飯にどうぞ」


まずココラへ一個渡す。


「いつもありがとう、レオン」


「はい、ウーナ。ムートも」


「へー、レオンが作ったの? ありがと」


「ありがとぉ」


立哨中のシルヴィの分は残しておき、先生たちとシュリさんにも一つずつ渡していく。


トイボル先生が蒸しパンを受け取りながら眉を上げた。


「全員分作ってきたのか?」


「二個ずつあります。とりあえず一個ずつ。残りはまだアイテムボックスに入れておきます」


「準備がいいな、ありがたく頂くよ」


それぞれが持ってきた干し肉や果物も取り出し始める。


俺も蒸しパンを一口かじった。


出来は……まぁまぁかな?


隣を見ると、ココラも蒸しパンを小さくちぎって食べていた。


「どう?」


「うん、甘くておいしい。レオン、冒険者辞めてもお菓子屋さんで食べていけるかも?」


それだけ言って、また一口食べる。


まぁ、おじいちゃんになったら考えてみるか?


その時、ムートの足元で何かがもぞもぞと動いた。


ノンちゃんだ。


明るい茶色の毛並みに、胴長で短い四本の脚。前世で見たミニチュアダックスフントを思わせる、小さな犬だ。


ノンちゃんはココラのところへ駆け寄ると、尻尾をぶんぶん振りながら足元にまとわりついた。


ココラがしゃがむと、今度は鼻先を手に押しつけ、もっと撫でてほしそうに甘えてくる。


「わあ、かわいい!」


ココラがそっと頭を撫でると、ノンちゃんはその場にころんと寝転がり、お腹を見せた。


短い脚を投げ出し、尻尾をものすごい勢いで左右へ振り始める。


ココラがお腹を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


……ずいぶんムートと扱いが違わないか?


今朝なんて、ムートの脚に噛みついていたぞ。


「ノンちゃん。楽しそうだねぇ」


飼い主のムートが近づくと、ノンちゃんがむくりと起き上がった。


ムートを見る。


そして、噛みつき対策に布を巻いたブーツへ――


がぶっ。


「ノンちゃん、どうしてなのぉ?」


ムートはただ困った顔で、自分の足元を見下ろしている。


「ココラには?」


「噛まないねぇ」


「シルヴィは?」


「一度もないねぇ」


飼い主とは。


ムートが足を軽く動かすと、ノンちゃんは素直に口を離した。


そして何事もなかったようにココラの隣へ戻り、また腹を出す。


「……お前、本当にムートのこと好きなんだよな?」


尻尾だけが元気よく動いた。


まあ、嫌いなら一緒についてこないか。


たぶん。


しばらくして、立哨を終えたシルヴィが戻ってきた。


「ココラ、次はお前だぞ」


「うん、分かった」


「ほら。昼飯」


俺は取っておいた蒸しパンを渡す。


「おっ、ありがと。これレオが作ったのか?」


「昨日な。全員二個ずつあるぞ」


「いいじゃん、ありがと」


シルヴィはその場で一口かじり、満足そうに頷いた。


シルヴィと交代したココラが立哨位置へ向かうのを見送ってから、俺たちは木陰で昼食を続けた。


「ムートは卒業した後も、ノンちゃんとこうして外を回るのか?」


ふと思いついて尋ねると、ムートは蒸しパンを飲み込んでから答えた。


「最初は配達員かなぁ」


「配達員?」


「うん。領地の村を回る仕事」


「ずっと配達員になるの?」


「ううん。その後は学校の先生になりたい」


少し意外だった。


「先生になりたいのに、先に配達員なんだ?」


ムートがのんびりと空を見上げる。


「前に先生から、卒業した後どうするんだって聞かれてねぇ。二人でゆっくり話したことがあるんだ」


「へえ」


「その時に先生になりたいって話したら、先生になる前に、何か別の仕事をしてみるのもいいぞって言われてねぇ」


「別の仕事?」


「色んな仕事や暮らしを知ってた方が、生徒に教えられることも増えるだろって」


「なるほど」


「それで、色んな村を見てみたいなぁって思ったんだ」


「村?」


「学校って、町の子だけじゃなくて、村から来る子もいるでしょぉ?」


「ああ」


少し離れた場所で立哨しているココラを見る。


ココラも近くの村から推薦されて、学校へ通うため町の寮で暮らしている。


「いつか先生になるなら、その子たちがどんなところで暮らしてるのか、少しくらい知ってた方がいいかなぁって」


「それはありそうだな」


この世界なら、水の取り方も仕事も、魔道具の普及具合も村によって違う。


「先生が『普通はこうだよ』って言っても、その子の村にその普通がなかったら困るでしょぉ?」


「なるほどな」


「まあ、色んなところ見て回るのも楽しそうだしねぇ」


「そっちも結構大きそうだな」


「半分くらい?」


「半分もあるのかよ」


「ノンちゃんも連れていくの?」


近くにいたシルヴィが尋ねた。


ムートが頷く。


「連れていけたらいいなぁ」


まぁ、ダメって話は聞かないし大丈夫だろう。


やがて、立哨していたココラがこちらへ戻ってきた。


「レオン、交代だよ」


「ああ。今のところ異常は?」


「うん。何もいなかったよ。でも、向こうの低木の陰はちょっと見えにくいから気をつけてね」


「分かった。ありがとう」


俺は立ち上がり、腰の装備を確かめる。


ココラが俺の隣を通り過ぎる時、少しだけ笑った。


「頑張ってね、レオン」


「おう」


背後では、みんなの楽しそうな声がまだ聞こえていた。


……さて。


俺もしっかり見張るとするか。

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