↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/69

第3章 Act.11  野外演習でスライムと戯れる



東門を出てから、しばらく。


俺たち四つの班は、まとまって東へ進んでいた。


朝の街道を抜け、やがてティリアガルデンの東に広がる丘陵地帯へ入る。


以前バンさんとゴブリンを討伐した森とは、町を挟んで反対側だ。


緩やかな丘と草原が続き、その間に背の低い木々や、小さな林、岩場が点在している。


森と呼ぶほど木は密集していないが、かといって、ずっと見通しのいい草原でもない。


丘の陰では視界が遮られ、低木や岩の陰へ入れば、二、三十メートル先でも見えなくなる場所がある。


野外での移動を練習するには、確かにちょうどよさそうだ。


やがて、草原の中に背の高い草や藪が目立つようになってきた。


「ここから班ごとに分かれるぞ!」


トイボル先生の声が飛ぶ。


四つの班は、低木や藪の間を抜け、それぞれ別の経路へ散っていく


目的地は同じ野営地だが、そこまでの道は別々だ。


俺たちの班は、前に俺、シルヴィ、ムート。その後ろにココラとウーナが続く。


トイボル先生とマルテ先生、それにシュリさんは、少し離れて俺たちの動きを見ている。


「先頭だからと言って、前ばかり見ないようにな」


トイボル先生から早速声が飛んできた。


「はい」


前、左右、時々後ろ。


歩きながら視線を動かす。


今回の実習では、実戦で試してみたい物もある。


スリングだ。


以前トイボル先生に教えてもらって以来、暇を見つけては練習してきた。


スキルポイントは一つも使っていない。


完全に練習だけだ。


最初は的を大きく外すことも珍しくなかったが、紐を伸びにくい素材に替え、革の受け部分も変形しにくい素材で作り直したことで、狙いが安定してきた。


今は二十メートルほどの距離なら、人間くらいの大きさの的にはそこそこ当たる。


三十メートルになると三割くらい。


……これでも、最初に比べれば随分マシになった。


「レオン」


ココラの声がした。


「ん?」


「右前。何かいる」


長い耳が斜め前へ向いている。


全員の足が止まった。


シュリさんも、すぐにそちらを見る。


「私も聞こえた。少し近づいてみようか」


声を落とし、ゆっくり進む。


丘の陰を回り込むと、少し窪んだ草地が見えた。


いた。


スライムが三体。


濃い青緑色の塊だ。


横幅は一メートルほど。高さは三十センチくらいしかなく、地面へ低く広がったアメーバ状の身体を、ゆっくり伸ばしたり縮めたりしながら進んでいる。


前世のゲームや小説でよく見た、丸くて愛嬌のあるスライムとは随分違う。


……ちょっと気持ち悪い。


一体は大きな岩の近く。


残り二体は少し離れた場所だ。


こちらにはまだ気づいていない。


「周りは?」


トイボル先生が聞く。


ココラが耳を澄ます。


シュリさんも丘の上と低木の陰を確認する。


「近くにはいないと思います」


「こっちも大丈夫そうだね」


「よし」


先生が俺たちを見る。


「最初の戦闘だ。せっかくだから、これまでに自分が練習してきたことを試してみろ。ただし無理はするな」


シルヴィが拳を握る。


「よし!」


やる気満々だ。


ムートも小型バックラーを構える。


足元ではノンちゃんまで前へ出ようとして――。


スライムを見た途端、ぴたりと止まった。


「…………」


戸惑ったように、首を傾げる。


「ノンちゃん、どうしたの?」


ココラが聞く。


ムートが困ったように笑った。


「スライム苦手なんだよぉ」


「苦手?」


「噛みつこうにも、どこ噛めばいいか分からないみたいで」


ノンちゃんはスライムをじっと見る。


一歩前へ出る。


また止まる。


「今回は待っててなぁ」


ムートがそう言うと、ノンちゃんは少し不満そうに後ろへ下がった。


……テイマーの相棒にも得意不得意はあるらしい。


「じゃあ、一体目は俺がスリングを試してもいいですか?」


「いいぞ」


トイボル先生が頷く。


「ただし二十メートルくらいまで詰めろ。今は当てることを優先しろ」


「はい」


俺はアイテムボックスからスリングを取り出した。


最初から石を一つ乗せてある。


シルヴィが横から覗き込んできた。


「普通の石?」


「最初はな」


「最初は?」


「後で別のもある」


「なんか嫌な言い方だな」


「別に爆発したりしないって」


「ならいいけど」


俺たちはゆっくり距離を縮めた。


二十メートル。


そこで止まる。


スリングを回す。


ヒュン。


ヒュン。


ヒュン。


訓練場とは違う。


相手は生きていて、少しずつ動いている。


それでもスライムは遅い。


焦る必要はない。


動きを見る。


今。


シュパッ!


石が飛んだ。


バチンッ!


一番近いスライムへまともに叩き込まれる。


身体が大きく歪み、衝撃で横へ潰れるように揺れた。


まだ倒れてはいないが、動きは明らかに鈍くなっていた。


「シルヴィ頼めるか?」


「任せろ!」


待ってましたと言わんばかりに飛び出した。


スライムが身体を伸ばす。


シルヴィは横へかわし、そのまま踏み込んだ。


「ふっ!」


金属で補強されたブーツが、スライムの身体の下へ潜り込む。


ドゴッ!


大きなボールでも蹴ったように、青緑色の身体が宙へ跳ねた。


そのまま数メートル飛び――。


ベチャッ!


岩へ叩きつけられる。


ずるりと地面へ落ち、そのまま動かなくなった。


「よし!」


シルヴィが嬉しそうに振り返る。


「今の結構よかっただろ!」


「追撃はな」


「なんで一言余計なんだよ!」


「まだ戦闘中だぞ?」


その横では、二体目のスライムが近づいてきていた。


ムートが前へ出る。


ショートソードには手を掛けない。


「剣使わないの?」


ウーナが聞く。


「うん」


スライムが身体を伸ばす。


ムートが半歩横へ動いてかわす。


右脚を大きく持ち上げる。


「えいっ」


ドスン!!


振り下ろされたブーツが、スライムを真上から踏み潰した。


一度ぶるりと震えた後、青緑色の身体が一気に平たく広がり、そのまま動かなくなった。


「…………」


「このくらいなら踏んだ方が早いからねぇ」


シルヴィがムートを見る。


「それ下手したら足に絡みついてこないの?」


「うーんと、その時は全体重かけると潰れて死んじゃうよぉ?」


百キロ近くありそうな身体で全体重を乗せて踏んだんだ。そりゃ死ぬか。


残る一体。


仲間が二体倒れたことを理解しているのかどうかは分からないが、向きを変えてこちらへ這ってくる。


「ウーナ、やってみる?」


マルテ先生が言った。


「はい」


ウーナが長杖を構える。


水魔法はかなり得意だ。


学校の実技では、ココラに次いで学年二位。


「清流の神に告ぐ――」


詠唱が始まる。


その間にもスライムはゆっくり動いている。


直径二十センチほどの水球が、杖先に形を作った。


「――打ち砕け、水球!(ウォーターボール)」


バシュッ!


水球がスライムへ向かって飛ぶ。


バシャッ!


だが、スライムの少し後ろで地面へぶつかって弾けた。


「…………」


「…………」


ウーナが黙る。


スライムも止まった。


いや。


たまたま止まっただけだろう。


「今、こいつに見られた気がする」


ウーナが真顔で言った。


「目ないぞ?」


「そういう問題じゃない」


ちょっと不機嫌そうだ。


マルテ先生は叱るでもなく、静かに言った。


「惜しかったね。動く相手は、やっぱり難しい?」


「はい……」


どうも動く相手は苦手らしい。


マルテ先生がココラに目を向けた。


「ココラさん、お願いできる?」


「はい」


ココラが前へ出た。


短杖を向ける。


「ウォーターボール!」


こちらは詠唱破棄。


水球がほとんど間を置かずに飛び出す。


バァンッ!


スライムの中央へ直撃した。


水の塊に押し潰されるように身体が大きく変形し、そのまま地面へ広がる。


少し震えた後、動かなくなった。


ウーナが難しい顔をした。


「私、止まってる相手なら当たるんだけどなぁ……」


「動いてると、ちょっと違うよね」


「明日までに何とかする」


「よし。全員止まれ。そのまま周囲確認」


トイボル先生の声が飛ぶ。


俺もすぐに気持ちを切り替えた。


丘の上、低木、岩陰、後ろ。


ココラも耳を立てる。


シュリさんは少し離れた場所まで確認した。


「問題なさそう」


「よし。じゃあ近づこう」


倒した三体を確認する。


スライムには売れる素材がない。


討伐証明になる核だけ回収する。


作業をしている途中、トイボル先生が俺たちを順番に見た。


「最初にしては悪くなかったな」


シルヴィが嬉しそうにする。


「レオンは、スリングで仕留められなかったことを気にする必要はない。動きを鈍らせて、シルヴィが安全に詰められた。それで十分だ」


「はい」


「シルヴィも追撃は早かった。ただ、倒した後にすぐ振り返って喋るな」


「はい……」


シルヴィが少し気まずそうな顔をする。


「ムートはいい判断だった。相手を見て、無理に剣を使わなかったのもいい」


「ありがとうございます」


「ウーナは……」


ウーナが肩を落とす。


「動く標的だな」


「そうですね」


「魔法そのものは問題ない。狙い方はこれから練習すればいい」


「はい」


「ココラは安定してる。その調子でいい」


「はい、ありがとうございます」


「レオン」


トイボル先生が俺を見る。


「さっき、後で別の弾もあるって言ってたな?」


「あ、はい」


俺はアイテムボックスから、鉄球を載せたスリングを取り出した。


用意してきたのは、二百グラムの鉄球が三個と、百グラムの鉄球が十個。それぞれ受け部分に載せた状態で、アイテムボックスに収納してある。


シルヴィがまた覗き込む。


「……でかくない?」


「大きい方は四センチ弱ある」


「重さは?」


「二百グラムくらい」


シルヴィが一歩離れた。


「絶対こっち飛ばすなよ」


「飛ばさないって」


「さっき普通の石だっただろ。なんで急に殺意上がったんだよ」


「威力を確かめたいだけだよ!」


トイボル先生が鉄球を手に取る。


重さを確かめるように何度か上下させた。


「これをスリングで飛ばすのか」


「訓練場では飛ばせました」


「命中は?」


「二十メートルなら、まあ……」


先生が少し考える。


「よし、次に安全に試せる相手がいたらやってみろ」


「はい」


鉄球を俺へ返す。


「人には絶対向けるなよ」


「もちろんです」


横でシルヴィが何度も頷いていた。


「本当にな!」


「なんでお前が先生側なんだよ」


「だって二百グラムだぞ!」


「分かったって」


トイボル先生が笑う。


「まあ、そのくらい慎重でちょうどいい」


「じゃあ進もうか」


シュリさんの声で、俺たちは再び丘陵地帯の奥へ向かって歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。