第3章 Act.9 ココラの誕生日
翌日の放課後。
俺はココラを連れて、昨日の服屋へもう一度向かうことになった。
昨日の時点でココラには、
「誕生日プレゼントの調整で、ちょっと来てほしい」
とだけ説明してある。
案の定、何を買うのかまでは聞いてこなかった。たぶん、ある程度察しているのだろう。
そして、なぜか――。
「私も行ってみたい!」
シルヴィまでついてくることになった。
「なんでお前まで来るんだ?」
「いいだろ、別に。服屋なんて最近行ってないし」
「お前、人の彼女の誕生日プレゼントの採寸にまでついて来るのか?」
「ココラがいいって言ったぞ」
見ると、ココラが笑いながら頷いた。
「私は別にいいよ。3人で行った方が楽しそうだし」
「……ならいいか」
ココラが楽しそうなら問題ない……でも、彼女の誕生日プレゼントの採寸に、別の女の子まで一緒ってのは、ちょっと変な気もするけど。
◇
「いらっしゃいませ。あ、待ってたわよ」
店へ入ると、昨日のお姉さんがすぐに気づいて声を掛けてきた。
その視線が俺からココラへ移る。
「あら。この子が昨日言ってた彼女さん?」
「あ、はい」
「へえ……可愛いじゃない。あのローブ、似合いそうね」
「ありがとうございます。ココラです。今日はよろしくお願いします」
ココラが少し照れたように頭を下げる。
長い耳も、わずかに内側へ寄った。
そこで、お姉さんの視線がシルヴィへ移った。
「で、こっちの可愛い子は?」
「シルヴィです。学校の友達で――」
「私も見てみたくてついてきました」
「へえ……」
お姉さんがココラを見て、シルヴィを見て、最後に俺を見る。
口元が少しだけ持ち上がった。
「モテるねぇ、キミ」
「いやいやいや」
何だその意味ありげな目は。
「違いますからね? シルヴィはただの友達ですから」
「分かってる、分かってる」
絶対分かってないだろ。
横を見ると、ココラは楽しそうに笑っている。
シルヴィに至っては、
「レオってモテるのか?」
とか言い出した。
「お前は黙ってろ」
「なんでだよ」
これ以上話を広げないでくれ。
「はいはい。それじゃあ彼女さん、採寸しましょうか」
お姉さんが手を叩く。
助かった。
ココラが採寸を始めると、シルヴィは店内の服を見て回ると言って、奥の棚へ向かった。
まずは身長や肩幅、胸周りなどを測っていく。
「まだ成長するだろうから、少し余裕を持たせましょうね」
「はい。お願いします」
「それと、耳も測らせてもらっていい?」
「大丈夫です」
ココラが少し頭を下げると、お姉さんは耳の付け根の位置や左右の間隔、長さなどを丁寧に測り始めた。
物差しが耳に触れるたび、ココラの耳がぴくりと動く。
「ごめんね。くすぐったかった?」
「少しだけ」
「ふふっ。もうちょっとだからね」
その後、昨日選んだセージ色のローブを作業台へ広げ、丈や肩幅を確認する。
ココラの目が少し大きくなった。
「わあ……綺麗な色」
どうやら気に入ってくれたようだ。
少し安心した。
「普段着だけじゃなくて、防具の上からも着るんでしょう?」
「はい。ココラ用の軽いレザーアーマーを作ってるんです」
「それなら肩と胸周りに余裕を残して、腰紐で調整できるようにしましょう」
「それいいですね」
普段は腰を絞り、防具を着る時は緩めればいい。
成長して多少身体つきが変わっても使えるし、なかなか便利そうだ。
「どう? ココラ」
「うん。私もそれがいいと思う」
「じゃあ、それでお願いします」
「ええ、任せて」
これでローブの調整内容も決まった。
あとは完成を待つだけだ。
――そう思っていたのだが。
店の奥から、シルヴィの声が聞こえてきた。
「なあレオ! これどう思う?」
振り返る。
そこには、つばのやたら広い帽子を被り、大人向けの濃い色のジャケットを身体へ当てたシルヴィが立っていた。
「…………」
どう答えるのが正解なんだ、これ。
「……何か言ってよ」
「うーんと、似合ってないというか、服に失礼かな?」
「どういう意味!? というか私に失礼! ちょっと大人っぽい服を着てみたっていいだろ!」
「いや、だってさ。それ男物じゃないのか?」
「……ええっ、男物だったの!?」
「まぁ、男装としてオシャレするのは良いと思うけど、大きさとか色とかちょっとシルヴィには合ってない気がするぞ?」
何というか、子供が大人の服を借りて着ているようにしか見えない。
すると、隣で見ていたココラが小さく笑った。
「シルヴィには、もう少し明るい色の方が似合うと思うな」
「そうか?」
「うん。それに、その帽子はちょっと大きすぎるかも」
「むう……」
シルヴィは鏡の前へ戻り、帽子の角度を変えながら首を傾げる。
……いや、角度の問題じゃないと思うが。
「…………」
どうやら自分でも似合っていないと思ったらしく、シルヴィは少し恥ずかしそうに帽子とジャケットを棚へ戻した。
「……服って難しいな」
「お前が適当に選びすぎなんだよ」
「レオにだけは言われたくない!」
……まあ、それはちょっと反論しづらいな。
俺だって昨日、散々悩んでお姉さんに助けてもらったわけだし。
その後、ローブの注文内容と受け取りの日を確認し、俺たちは店を後にした。
完成は誕生日の前日になるそうだ。
これで一安心である。
◇
そして5日後。
ココラ様、14歳のお誕生日である。
というわけで、俺たちは毎年恒例のフィーズの喫茶店へ来ていた。今日に限ってはシルヴィも遠慮してきていない。
「ココラ、誕生日おめでとう」
「えへへ、ありがとう!」
テーブルには、いつもの蜂蜜パイとカモミールティー。
そこで、俺から一つお知らせがある。
「ちなみに、今日の蜂蜜パイは誕生日のお祝いなので、例の100枚には含まれません」
「えっ! 本当!?」
ココラの長い耳がぴんと立った。
「もちろん。誕生日特別サービスでございます」
「やったー!」
……相変わらず、蜂蜜パイには弱いウサギさんである。
それから2人で学校の話などをしながらお茶を楽しみ、ココラが蜂蜜パイを食べ終えたところで、俺は持ってきた包みを差し出した。
「さて、こっちが本命のプレゼントだ」
「あっ、ローブ!」
ココラが嬉しそうに包みを開く。
中から出てきたのは、先日注文したセージ色のローブだ。
耳を通すための穴とカバーも綺麗に仕上がっている。
「わあ! ちゃんとできてる!」
「昨日、受け取ってきたんだ。せっかくだし、着てみる?」
「うん!」
喫茶店の会計を済ませて外へ出ると、ココラはオーニングの下で早速ローブを羽織った。
腰紐を軽く結び、くるりと俺の方へ振り返る。
「どうかな、レオン?」
「おお。いいじゃないか! すごく似合ってるよ」
白い髪に淡い緑色がよく映える。
自分で選んでおいてなんだが、思っていた以上にいい感じだ。
「えへへ……ありがとう、レオン!」
ココラは嬉しそうにローブの裾を揺らすと、俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。
「大事にするね!」
……うん。あの予算オーバーも、この顔が見られたなら安いもんだ。
……しかし、来年はどうしたものかな。
まあ、それは来年の俺に頑張ってもらおう。
その頃には、冒険者として少しは稼げるようになってるといいな……。




