↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/69

第3章 Act.6  試験対策は取捨選択



翌日、鎧作りも進めたいところだが、学校の方にも放っておけない問題があった。


シルヴィの成績だ。


そんなわけで、授業を終えた俺とココラ、それにシルヴィの3人は、校舎2階の端にある学習室へ集まっていた。


4人掛けの机が3つに、黒板と本棚。


本当は俺の家で勉強する予定だったのだが、その話を聞いたミゲル先生が、


『だったら、放課後に学習室を使っても良いぞ』


と貸してくれた。


卒業前になると、毎年数人は成績が危なくなり、友達同士で勉強会を開くのも珍しくないらしい。


学校の本も使えるし、分からないことがあれば残っている先生にも聞ける。


工房でやるより、ずっと都合がいい。


「3人でやれば、勉強も少し楽しくなりそうだね」


ココラがシルヴィに笑いかけた。


「ああ! よろしくな!」


シルヴィも嬉しそうに答える。


……勉強が苦手なわりには、随分楽しそうだな。


「さて」


3人で1つの机を囲み、俺はノートを開いた。


「まず、シルヴィがどこまで危ないのか確認しよう」


「言い方!」


シルヴィが机を叩く。


「もっとこう……苦手なところを確認するとか言えないのか?」


「平均4以下だと卒業できないんだろ?」


「それはそうだけど!」


「だったら危ないで合ってるだろ」


「レオはもうちょっと人の気持ちを考えろ!」


隣のココラが苦笑する。


「まあまあ。まず今の成績が分からないと、何を勉強するか決められないよ」


「ココラまで……」


シルヴィが肩を落とした。


からかうために集まったわけじゃない。


まずは現状を知らないと始まらない。


「じゃあ、今の成績教えて」


「…………」


「シルヴィ?」


「……嫌だ」


即答だった。


「なんでだよ」


「恥ずかしいからに決まってるだろ!」


いや、勉強を教えてくれと言ったのはそっちなんだが。


「教えてもらわないと始まらないぞ」


「だったら、レオとココラも教えてよ」


「俺たちも?」


「そうだ!」


シルヴィが勢いよく俺を指差した。


「私だけ成績さらすのは不公平だろ。2人が教えるなら私も教える」


俺がココラを見る。


「私はいいよ」


「俺も別にいいけど」


「よし。じゃあ決まり!」


なぜかシルヴィが勝ち誇った。


……たぶん、その条件を出さない方が幸せだったと思うぞ。


俺は言わなかった。


3人それぞれ、紙に6教科の成績を書いていく。


成績は10段階で6、7取れていれば普通レベルだ。


書き終えたところで、机の真ん中へ並べた。


まず俺。


国語――8。


算術――10。


歴史――9。


修辞学――8。


神学――7。


魔法学――9。


「……は?」


シルヴィの動きが止まった。


次にココラ。


国語――10。


算術――9。


歴史――8。


修辞学――8。


神学――9。


魔法学――9。


「…………」


今度は完全に黙った。


「2人とも成績いいとは聞いてたけどさ……」


俺とココラの紙を交互に見る。


「ここまでとは聞いてないんだけど?」


「聞かれてないし」


「そういう問題じゃない!」


シルヴィが頭を抱えた。


「レオ、算術10ってなんだよ!」


「でもシルヴィも算術得意なんだろ?」


「今そこ褒められても嬉しくない!」


今度はココラの紙を見る。


「国語10……神学9……魔法学9……」


「得意なだけだよ」


「その得意で10取れるなら苦労しないだろ!」


ちなみに10というのは、今学期のテストで常に満点じゃないと貰えない評価だ。一問でも間違ったら9になる。


しばらく2人分の紙を眺めたあと、シルヴィが自分の紙をそっと伏せた。


「……やっぱり私のは見せなくていい?」


「駄目」


「まだ間に合う」


「間に合わないよ」


「ココラまで!」


観念したらしい。


シルヴィは渋々、自分の紙を机の中央へ押し出した。


国語――6。


算術――8。


歴史――4。


修辞学――3。


神学――2。


魔法学――1。


「…………」


今度は俺とココラが黙った。


「なんか言えよ!」


「いや……思ったより偏ってるな」


国語6、算術8は問題ない。


だが、そこから先が一気に落ちる。


そして――


「魔法学、1?」


「そこ読むな!」


シルヴィが勢いよく紙を取り返そうとする。


俺は先に押さえた。


「いや、ここ一番大事だろ」


「数字にして声に出すなよ! 改めて聞くと余計ひどく感じるだろ!」


「うん……これはちょっとひどいかも」


「ココラまで!?」


ココラは笑いながら、もう1度シルヴィの成績を確認した。


「合計24。平均4だね」


その瞬間。


シルヴィの尻尾が、すとんと床近くまで落ちた。


この学校では、座学6教科の平均が4以下なら留年。


つまり、今のままでは卒業できない。


「本当にぎりぎりなんだな」


「だから勉強会やろうって言ったんだろ……」


さっきまでの勢いが嘘みたいに、シルヴィが机へ突っ伏した。


「2人の成績なんか聞くんじゃなかった……」


「自分から言い出したんじゃん」


「うるさい、レオ」


まあ、落ち込んでいても仕方ない。


俺は3人分の紙を並べ直した。


「じゃあ、方針を決めよう」


「方針?」


シルヴィが顔だけ上げる。


「シルヴィの目標は、頭がよくなることじゃない」


「だから言い方!」


「卒業することだ」


「……それなら合ってる」


「だから全部の教科を同じだけ勉強するのはやめる」


「?」


「1時間勉強した時に、どこが一番点数につながるか。それを考える」


前世で高校に通っていた頃、学習塾で教わった試験対策だ。全部を完璧にするより、取れるところを確実に取る。


そして、時間ばかりかかるところは――。


俺はシルヴィの成績表を指差した。


「魔法学は捨てよう」


「えっ」


シルヴィが勢いよく顔を上げた。


「捨てていいのか!?」


さっきまで死にそうだった目が、一瞬で輝く。


「そんな嬉しそうにするなよ」


「だって一番嫌いなんだぞ!」


「だろうな」


魔法学は1。


ここから短期間で大きく伸ばそうとすれば、基礎からかなりやり直す必要がある。


だったら、その時間を他へ使った方がいい。


「国語6と算術8は維持。歴史は5、修辞学も5、神学も5。魔法学は1のまま」


俺は紙へ数字を書き足した。


合計30。


平均5。


「ここまで取れれば余裕ができる。多少失敗しても、留年にはならない」


「おお……」


シルヴィが感心したように紙を見る。


「魔法学1のままなのに卒業できる」


「そこに感動するなよ」


ココラが苦笑する。


「でも神学を2から5って、結構上げないと駄目だよ?」


「だから全部やるんじゃなくて、よく出るところから覚える」


俺はココラを見る。


「神学で毎年よく出るのって?」


「主要な神々、葬儀、アンデッドの基礎知識、宗教上の禁忌、それと教会の役割かな。この辺は先生も何度もやってるよ」


「じゃあ、まずそこ」


「そんな決め方でいいのか?」


「いいんだよ。卒業試験で神学者になるわけじゃないんだから」


「なるほど!」


シルヴィが勢いよく頷く。


こういう話は理解が早いな。


「修辞学も同じ。よく出る報告の型とか、点になりやすいところを先に覚える」


「歴史は?」


「重要な出来事と、それで何が変わったか。細かいところは後回し」


「なんか……急にできそうな気がしてきた」


シルヴィの尻尾が少しずつ持ち上がってくる。


どうやら「勉強する」と考えるより、「必要な点だけ取りにいく」と考えた方で気が楽になったようだ。


「それと、教科書を最初から何度も読むだけなのもやめよう」


「じゃあ何するんだ?」


「まず俺のノートを10分くらい読んでもらう」


俺はノートを開いた。


「そのあと本とノートを閉じて、何が書いてあったかを思い出してもらうんだ。覚えてなかったところだけ読み直して、また同じことを繰り返す」


「それで覚えられるのか?」


「少なくとも、どこを覚えてないのかは分かるだろ? そこを重点的にやればいい」


シルヴィは少し考えたあと、力強く頷いた。


「よし。それならやれそうだ」


「じゃあ始めようか」


目標は満点じゃない。必要な点を取って、卒業する。


そのための勉強会が始まった。


◇


1時間後。


「よし、一旦休憩するか」


「うん、そうだね」


「う、うん……頭がすっごく疲れた」


シルヴィが机へ突っ伏した。


最初にやったのは、俺の得意な歴史だ。


教えた通りの方法で4回ほど繰り返したが、シルヴィはノートを閉じるたびに「うーん……」と頭を抱えていた。


それでも、最初は答えられなかったところも、最後には少しずつ思い出せるようになってきた。


覚えたことがどれだけ残るかは、次の勉強会でも確認するつもりだ。


「私も歴史はレオンのノートにお世話になってるんだよ」


ココラが俺のノートをめくりながら言った。


「すっごく分かりやすくまとめてあるから、試験前によく読ませてもらってるの」


「うん。めちゃくちゃ分かりやすかった!」


シルヴィも勢いよく顔を上げる。


「このノート欲しいくらいだ!」


「それは困る。俺が勉強できなくなる」


「じゃあ、もう1冊書いてくれ」


「何時間かかると思ってんだよ」


コピー機があれば話は早いんだけどな。


紙に書かれた文字を、そのまま別の紙へ写す魔道具。


いやもっと簡単にカーボン用紙とか?……いつか作れないだろうか。


いや、今考えることじゃないな。


「まあ、歴史は得意な方だからな。それより――」


俺は椅子の横へ手を伸ばした。


「簡単なオヤツを作ってきたんだけど、食べないか?」


「え、ほんと!?」


ココラの耳がぴんと立つ。


「やった! レオ、何作ったんだ?」


シルヴィまで一瞬で元気になる。


俺はアイテムボックスから包みを取り出した。


中に入っているのは、一口大に切っておいたフレンチトースト。


アイテムボックスの中でも時間は普通に流れるので、朝作ったものはすっかり冷めている。


まあ、冷めても食べられるが――。


「ちょっと待ってろ」


皿にフレンチトーストを置いて、弱い火魔法で表面を軽く温める。


焦がさないように加減しながら少しずつ熱を入れていくと、卵と焼いたパンの甘い匂いがふわりと広がった。


「おー、うまそう!」


「本当においしそう」


ココラが1つ摘まもうとして――ふと止まる。


「でも、フレンチって何?」


「あ」


しまった。


つい前世の名前をそのまま使ってしまった。


「えーっと……昔どっかで聞いた名前だった気がする」


「だった気がする?」


「俺もよく知らん」


とりあえず誤魔化しておこう。


嘘ではない。


少なくとも、俺がいた世界ではそういう名前で呼ばれていた。


「へえ。よくそんな名前知ってたね」


「まあ、たまたま覚えてたんだろ」


「ふーん。それじゃ、いただきます」


「私も。いただきまーす!」


ココラが一口。


少し遅れてシルヴィも口へ放り込む。


「んっ」


ココラの耳がふわりと持ち上がった。


「おいしい。外は焼けてるのに、中は柔らかいね」


「うまっ!」


シルヴィは一口食べ終えるなり、すぐに2つ目へ手を伸ばした。


「これ、本当にレオが作ったのか?」


「本当にってなんだよ」


「いや、鍛冶とか魔道具とかなら分かるけど」


「料理も普通にするぞ」


「へえー、ますます良い」


なんだ、ますますとは?


「卵と乳を混ぜたものにパンを浸して、焼いただけだけどな」


「それでこんな感じになるんだ」


ココラが断面を眺めながら、もう一口食べる。


「蜂蜜を少しかけてもおいしそう」


「それ絶対うまいやつだな」


「次はそれにしよう!」


「お前、次も菓子が出る前提で話してないか?」


「勉強会なんだから、楽しみの1つくらい必要だろ?」


「さっきまで死にそうな顔してた奴がよく言うよ」


「へへっ。それに、3人でやった方が楽しいじゃん」


「まあ、それはそうだな」


「レオもそう思う?」


「ああ。お前がいると退屈しないしな」


「……そっか!」


シルヴィが嬉しそうに笑う。


すると、ココラがシルヴィとちらりと目を合わせ、小さく笑った。


……まあ、勉強する気になってくれるなら何よりだ。


俺たちは10分ほど休み、残ったフレンチトーストを食べ終えた。


「さて」


最後の1つを口へ入れたココラが、ぱん、と軽く手を払う。


そして机の上へ分厚い教本を置いた。


「休憩終わり。次は神学ね」


「…………」


シルヴィの動きが止まった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。