↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/69

第2章 Act.16  美少女2人と倉庫街で現場検証



「待てやこらあぁぁ!」


「そっちに行ったぞ! 逃がすな!」


「おい、燻し煙を持ってこい! まとめてぶっ殺してやる!」


倉庫街へ近づくにつれて、あちこちから物騒な怒鳴り声が聞こえてきた。


……おかしい。


この時間帯の倉庫街って、もう少し落ち着いた場所じゃなかったか?


普段なら、夕方前には荷揚げや積み込みの忙しい時間も終わり、人足たちが荷を片付けたり、明日の準備を始めたりしている頃だ。


荷馬車の行き来も昼間より減り、聞こえてくるのは荷物を片付ける音や、人足たちの掛け声くらいのはずだった。


それが今日は、


「逃げた! そっちだ!」


「樽の裏だ!」


「いたぞ、叩きのめせ!」


どう聞いても戦場である。


「……ずいぶん治安が悪くなったな」


俺が呟くと、前を歩いていたシルヴィが振り返った。


「違うからな! あれ全部ネズミだから!」


「ネズミ相手に『ぶっ殺せ』とか言ってるのか?」


「倉庫の食い物を荒らされてみろ。みんなああなるんだよ」


シルヴィが少し疲れた顔で答える。


どうやら、ウルフスター商会だけの問題ではないらしい。ここまで来る間にも同じような怒鳴り声が何度も聞こえていたし、倉庫街全体でネズミが増えているようだ。


「こっちだ」


シルヴィの案内についてしばらく歩くと、ウルフスター商会が所有する倉庫へ到着した。


中規模の木骨煉瓦造りの倉庫が2棟並び、正面には大きな荷物用の両開き扉、その横には人が出入りするための小さな扉が付いている。軒下には荷物を吊り上げるための太い梁と滑車があり、壁際には空になった木箱や樽が整然と積まれていた。


さらに倉庫脇には、幌を外した荷馬車が1台止められている。


「倉庫2つに荷馬車1台か」


「小さい商会だと思った?」


「いや、思ってたよりずっと立派だな」


「だろ?」


シルヴィが少しだけ得意そうに胸を張る。


少なくとも、俺が思っていたより規模のある商会らしい。


倉庫へ近づくと、入口の脇にいた男がこちらへ気づいた。


40代くらいの人間族で、腰には鍵束を下げ、片手には短い棒を持っている。たぶん倉庫番だろう。


「シルヴィお嬢、お疲れさんです」


「おう」


男はシルヴィへ挨拶すると、俺とココラへ視線を移した。


「こちらの方が、話してた……」


「ああ。連れてきたぞ」


そして俺を見るなり、男の目が大きくなる。


「おお! あの飢餓迷宮でモンスターの群れをまとめて吹っ飛ばした方ですか!」


「…………」


俺は無言でシルヴィを見る。


シルヴィが目を逸らした。


「し、知らなかったんだ。しょうがないだろ」


「誰から聞いたんだ、その話」


「学校でみんな言ってたんだよ!」


「お嬢?」


倉庫番が不思議そうな顔をする。


「あ、いや。何でもない!」


シルヴィはごまかすように咳払いをすると、話をネズミへ戻した。


「それより、ネズミは相変わらずか?」


「ええ。朝から捕ってますが、減る気配がありませんね」


倉庫番が疲れた顔で倉庫街を見回した。


その時、遠くから「また逃げたぞ!」という声が聞こえてくる。


「ほかの倉庫も似たようなもんです。何軒かは冒険者まで雇ったようで、今日は一段と騒々しくなってますわ」


「そうか……」


シルヴィの肩が落ちた。


大きくため息をついてから、力なくこちらを振り返る。


「というわけで。ウチじゃもうお手上げなんだ」


「なるほど……」


思っていた以上に深刻そうだ。


ココラが倉庫を見上げる。


「とりあえず、中と外を見て回りませんか? どこから入ってるか分かるかもしれないし」


「そうだな」


俺たちは倉庫番にも断り、シルヴィと一緒に中へ入った。


◇


倉庫の中は思った以上に広かった。


太い柱と梁が何本も走り、壁際には小麦や大麦、豆類などを詰めた麻袋が何列も積まれている。出荷先や穀物の種類ごとに、置き場所を分けているらしい。


床は厚い板張りで、荷物を動かしやすいよう中央の通路は広く取られていた。天井近くには小さな窓もあり、昼間なら魔導ランプを使わなくても、中を見る程度の明るさはある。


「ネズミに食われた物は?」


俺が尋ねると、倉庫番が奥へ案内してくれた。


「こっちです」


積まれた麻袋の1つに、小さな穴が開いていた。そこからこぼれた穀物が床へ散らばり、隣の木箱の角にも細かく削られたような跡が残っている。


「昨日まではなかったんですがね」


俺はその場にしゃがみ込み、穴の周囲を確認した。


かじった跡。


小さな糞。


壁際には、細い足跡も残っている。


「確かにいるな」


「いるどころじゃねぇよ」


シルヴィが嫌そうに周囲を見回した。


「昨日なんか、箱を動かしたら下から5匹くらい――」


その時だった。


ガサッ。


すぐ近くの麻袋の陰から、灰色の塊が飛び出した。


「きゃっ!?」


ココラの耳が一瞬でぴんと立つ。


ネズミは俺たちの足元を横切り、そのまま反対側の木箱の隙間へ走った。


「わっ! ちょ、こっち来んな!」


シルヴィまで声を上げる。


そして次の瞬間。


右腕にココラ。


左腕にシルヴィ。


気づけば2人とも、ほとんど同時に俺へしがみついていた。


「…………」


最初に我に返ったのはココラだった。


「あ……」


俺の腕をつかんでいた手を見て、少し恥ずかしそうに力を緩める。


「ご、ごめん。急に出てきたから……」


「いや、別にいいけど」


なんなら、いつでも大歓迎だ。


問題は反対側だった。


シルヴィはいまだに俺の腕をつかんだまま、ネズミが消えていった木箱の隙間を睨んでいる。


「……シルヴィ?」


「な、なんだよ」


「もう行ったぞ」


「分かってる!」


「じゃあ離してくれ」


「今離そうと思ってたんだよ!」


シルヴィはぱっと腕を離した。その顔は少し赤い。


「格闘技で男子を投げ飛ばすくせに、ネズミは駄目なのか」


「うるさい!」


「いや、意外だなと思って」


「小さくて急に動くのが嫌なんだよ! 人間なら向かってくる方向くらい分かるだろ!」


なるほど。


理屈が妙に武闘派だ。


横を見ると、ココラが少しだけ笑っていた。


「シルヴィ、私もびっくりしたから大丈夫だよ」


「べ、別に怖がってないし」


「さっきレオンに抱きついてたけど」


「ココラ!」


「私もだから」


ココラがくすっと笑う。


シルヴィは何か言い返そうとしたが、結局口を閉じた。そのまま少し気まずそうに俺を見る。


「……お前、平気なんだな」


「まあ、ネズミくらいなら」


「ふーん……」


なぜか少し感心したような顔をされた。


……こんなので評価が上がるのか。


男としては安上がりで助かる。


ちなみに言うまでもないが、黒くてカサカサするヤツは死ぬほど嫌いだ。


◇


さらに倉庫内を調べていくと、すでにいくつかのネズミ対策が施されているのが分かった。


最初に目についたのは、大きな樽だった。


上には細い軸が渡され、その中央に板が取り付けられている。板の端には餌らしい物が塗られていた。


「これ、何ですか?」


ココラが覗き込む。


「ネズミ捕りです。餌につられて板へ乗ると、くるっと回って下へ落ちる仕掛けでして」


倉庫番に言われて中を見ると、樽には水が入っていた。


なるほど。一匹捕まるたびに仕掛け直す必要がないから、これなら何匹も続けて捕まえられる。


「結構捕れるんですか?」


「ああ。朝になれば何匹か入ってることもあります。ただ、それ以上に増えてる感じでしてね」


罠そのものは悪くない。


捕まえても、それ以上のペースで増えているらしい。


別の場所では、灰色と白のまだら模様をした猫が木箱の上に座っていた。


俺たちが近づいても逃げず、尻尾だけをゆっくり動かしている。こちらにはほとんど興味を示さず、木箱の隙間をじっと見つめていた。


「この猫は?」


「倉庫猫ですよ」


倉庫番が答える。


「ネズミ捕り用に飼ってます。この辺の倉庫じゃ珍しくありません」


「へえ」


どうやら仕事中らしい。


「ちゃんと捕まえるんですか?」


「腕のいい奴はな。こいつも1日に何匹か持ってきますよ」


ココラが猫へ少しだけ近づく。


「かわいい……」


猫の耳がぴくっと動いた。


それにつられるように、ココラの長い耳も少し動く。


何だか耳同士で会話しているように見える。


その横で、シルヴィは倉庫番へ尋ねた。


「巣穴の方は?」


「今朝も2つ見つけましたが、埋めても別の場所から出てきます」


今度は倉庫の外へ回る。


壁際にはネズミが通れそうな細い穴があり、その近くに燃え残った炭と、刺激の強い匂いがする乾燥香草が置かれていた。


「これがさっき外で言ってた燻し煙か」


「ええ」


見つけた巣穴へ、硫黄や刺激の強い香草などを燻した煙を送り込み、中に潜んでいるネズミを追い出すらしい。


飛び出してきたところを、人や猫が仕留める。


だから倉庫街のあちこちから、『巣穴だ!』『煙を持ってこい!』なんて物騒な声が聞こえていたわけだ。


「でも、これも効いてないんですね」


ココラが穴を眺めながら言う。


「一時的には効きますよ。ただ、追い出して穴を塞いでも、しばらくするとまた別のところから出てくるんです」


倉庫番の話を聞きながら、ここまで見てきた対策を頭の中で整理する。


水を使った罠。


倉庫猫。


巣穴への燻煙と、その後の封鎖。


どれも対策としては理にかなっている。それでも、ネズミの増える勢いに追いついていない。


「単純に罠を増やせば済む話じゃなさそうだな」


俺は倉庫の外壁と、その向こうに並ぶ倉庫群を眺めた。


被害が出ているのは、ここだけではない。周囲の倉庫でも同じような騒ぎが起き、冒険者まで雇っているところがある。


となれば、考えるべきなのは別のことだ。


「問題は、なんで急にこんなに増えたのか……か」


「やっぱり、そこだよね」


ココラも頷いた。


シルヴィが腕を組む。


「だから頼んだんだよ。捕まえるだけなら、うちでもできる。でも、いくら捕っても減らないんだ」


「分かった」


原因そのものは、きちんと突き止める必要がある。


ただ、この様子じゃ、それを調べている間にも穀物の被害は増えていく。倉庫街全体でこれだけ出ているなら、原因を見つけるまで何日かかるのかも分からない。


だったら、まず数を減らす方法を作った方がいい。


一度にできるだけ多く捕まえられる罠を用意して、被害を抑える。その間に、どこから大量のネズミが来ているのかを調べる。


その方が良さそうだ。


「よし、一旦帰って作戦を練ろう」


「うん、そうだね」


「よっしゃ、頼むぞレオ」


「だからレオンだって」


倉庫を離れようとした、その時。


壁際から小さな灰色の影が飛び出した。


「うわっ!」


シルヴィが反射的に一歩下がり、そのままココラの後ろへ隠れる。


「シルヴィ、私も苦手なんだけど……」


「さ、さっきより近かったんだよ!」


「さっきも近かったよ?」


「ココラ!」


どうやら大量捕獲用の罠は、思っていた以上に急いで作った方がよさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。