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MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


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第2章 Act.10  善意だけでは、信用は守れないらしい



朝食を済ませた後、細々とした学校の宿題を片づけ、ついでに部屋の掃除も終わらせた。


机の上には、昨日完成した3本のショットナイフ。


それぞれ安全装置がかかっていることを確認してから布で包み、アイテムボックスへ収納する。


それから作っておいたラスクを、バッグへ入れた。


今日は、毎週恒例のココラと蜂蜜パイを食べる日だ。


ついでにバンさんともフィーズの喫茶店で待ち合わせている。


ショットナイフを渡すのと、3人分の防具について相談するためだ。


家を出てしばらく歩き、待ち合わせ場所でココラと合流した。


「おはよう、レオン」


「おはよう。ココラ、ちょっと食べてみるか?」


「何?」


バッグからラスクを1枚だけ取り出して渡す。


「あ、この間言ってたお菓子?」


ココラの耳がぴんと立つ。


「そう。これは野苺ジャムの方。蜂蜜のもあるから、あとでまとめて渡すよ」


「うわー、ありがとう!」


嬉しそうに受け取ると、そのまま一口。


サクッ、と軽い音がした。


ココラは何度か噛んだあと、目を輝かせる。


「美味しい!!」


……アンビーも今朝、まったく同じように目を輝かせていたはずなのに。


なぜだ。


同じ人間が作った同じ菓子を食べているだけなのに、こっちは見ているだけで幸せな気分になる。


弟と彼女の差とは、かくも残酷なものなのだろうか。


「レオン?」


「いや、なんでもない。気に入ったならよかった」


「野苺の酸っぱさがちょうどいいよ。ラスクもサクサクしてるし」


「蜂蜜の方も結構うまくできたぞ」


「ほんと! 楽しみ」


そんな話をしながら、俺たちは並んで喫茶店へ向かった。


◇


フィーズの喫茶店に入ると、バンさんはすでに来ていた。


前に3人で話した、店の奥まった窓際の席。


横には木製の衝立があり、ほかの席より少し静かに話せる場所だ。


「おう。来たか」


バンさんが片手を上げる。


今日は冒険者装備ではなく、くたびれた普段着だ。


テーブルには大きめの陶器のジョッキが置かれ、甘い香辛料の匂いが漂っている。


「それ、お酒ですよね?」


「ああ。バターとラムを入れたスパイス・エールだ。昼前から酔っ払うほど飲んじゃいねぇよ」


香りを楽しみながら、ちびちび飲んでいたらしい。


俺たちも椅子へ座り、注文する。


ココラはいつも通り蜂蜜パイとカモミールティー。


俺は今日は気分を変えて、ブルーベリータルトとリンデンティーにした。


しばらくして、注文した物が運ばれてくる。


タルトを一口食べると、甘酸っぱいブルーベリーと、少し甘さを抑えたクリームがよく合う。


「ココラ、一口食べる?」


「うん! えへへ、実はちょっと気になってたの」


皿を少しココラの方へ寄せると、ココラは自分のフォークで小さく切り分け、口へ運んだ。


「んー……これも美味しい!」


相変わらず、本当にうまそうに食べるな。


「……お前ら、オレを呼んだ理由、忘れてねぇよな?」


向かいから呆れた声が飛んできた。


「……忘れてませんよ」


「……ならいいけどよ」


バンさんがスパイス・エールを一口飲む。


「あ、そうだ。バンさん」


ココラがちょっと慌てたように、自分のバッグを膝の上へ置いた。


「これ、渡しておきたかったんです」


「ん?」


ココラがバッグから取り出したのは、細長い瓶を包んだ布だった。


俺とココラで一緒に選んだ物だ。


布を外すと、中から琥珀色の酒が入った瓶が現れる。


「青ランクへの昇格祝いです。レオンと2人で選びました」


「白ブドウから造った10年物のコニャックです」


「……お前ら、こんないい酒買ったのか?」


バンさんが少し驚いた顔で瓶を受け取った。


「青ランクのお祝いですから」


「それに、2人で出したからそこまででもないですよ」


「そういう問題じゃねぇだろ」


そう言いながらも、バンさんはラベルを眺め、少し嬉しそうに口元を緩めた。


「ありがとな。これは宿でゆっくり飲ませてもらう」


「一気に飲んじゃ駄目ですよ」


「ココラ、オレを何だと思ってんだ」


「お酒好きのバンさんです」


「まぁ、間違っちゃいねぇな」


バンさんが苦笑する。


「あと、こっちもあります」


俺もバッグを開き、ラスクの包みを取り出した。


蜂蜜入りと野苺ジャム入りを何枚かずつまとめてある。


「さっきココラにも食べてもらったんですけど、俺が作ったラスクです。バンさんの分もあります」


「へえ、お前が作ったのか」


「はい。日持ちするように焼いてあるから、仕事の時にも持っていけると思います」


「そりゃ助かるな。ありがたくもらっとく」


バンさんへ包みを渡し、もう1つをココラへ差し出す。


「こっちはココラの分」


「えへへ。ありがとう、レオン」


ココラが嬉しそうに受け取り、自分のバッグへ大事そうにしまった。


バンさんもコニャックの瓶とラスクを、足元の荷物へまとめて入れた。


「それじゃ、今度こそ本題だな」


「はい」


俺は一度周囲を確認し、衝立側へ少し体を寄せる。


手元で小さくアイテムボックスを開き、中から布包みを取り出した。


「まず、これ。2人に渡したかった物です」


「私にも?」


「ああ」


衝立の陰になるよう、手元で布を開く。


中には、完成した3本のショットナイフが収められていた。


俺用、バンさん用、ココラ用。


「これ、この前作ってたナイフ?」


ココラが興味深そうに覗き込む。


「そう。普通のナイフとしても使えるけど、安全装置を外して作動させると、刃だけが10mくらい飛ぶ。一発式の緊急用だ」


「……刃が飛ぶの?」


バンさんも、布の上に並んだナイフへ視線を落とす。


「ほう、すごいな! 投げなくても飛ぶのか?」


「はい。狙って作動させるだけだから、投げ方を覚える必要もありません」


ココラが自分用の1本を慎重に持ち上げる。


「じゃあ、私でも使える?」


「ああ。そのつもりで作った。練習は必要だけど、投げ方を一から覚えるよりはずっと簡単だと思う」


「私のだけ細い?」


「ココラの手に合わせて、ほかの2本より少し軽くしてある」


「ありがとう、レオン。大事に使うね」


「使わないで済むのが一番だけどな」


「うん」


ココラは嬉しそうに笑い、安全装置がかかっていることを確認してから、そっと布の上へ戻した。


次にバンさん用を渡す。


「こっちはバンさん用です。魔力式の安全装置は使えないから、全部物理式にしてあります」


「どう使う?」


金具を外し、スイッチを押し込みながら前へスライドさせる手順を一通り説明する。


「なるほどな」


バンさんは何度か安全装置を動かし、握り心地を確かめる。


しばらく嬉しそうに眺めていたが、やがて眉を寄せた。


「……レオン」


「はい?」


「これ、暗器だよな?」


「え?」


「いや、考えてみろよ」


バンさんが声を抑えながら、手の中のショットナイフを見る。


「見た目はちょっと変わったナイフだ。それが、握ったまま10m先まで刃を飛ばせるんだろ?」


「…………」


「で、発射する時の音は?」


「……かなり小さいです」


「お前、しれっと恐ろしいもん作ってるぞ」


言われてみれば。


ナイフにしか見えない物から、突然刃が飛んでくる。


しかも発射音はかなり小さい。


「こんなの人前で得意げに見せて回ってみろ。そのうち『鍛冶屋の息子が暗殺用の武器を作ってる』とか噂されかねんぞ?」


俺の頭に、学校で妙な噂を立てられた時の光景が蘇る。


魔物の群れを魔道具で吹き飛ばしたとか、そんな話になっていた。


あれに加えて、


――レオンは人知れず刃を飛ばす暗器まで作っている。


……駄目だ。


完全に危険人物だ。


「これ、人前では出さないことにしましょう」


「それがいい」


バンさんが即答した。


「私も、その方がいいと思う……」


ココラまで真顔で頷いている。


なんでだろう。


仲間の生存率を上げるための装備を作っただけなのに、社会的な生存率が下がりそうになっている。


とりあえず、ショットナイフについては必要な時以外、人前では見せない。


これ以上、むやみに他人へ話さないことになった。


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