第2章 Act.6 レオンはレベルアップで、お悩み中
その日の夜。
俺は自分の部屋で、過去一番と言っていいほど頭をひねっていた。
机の上には、攻略報酬の明細書とギルドの預かり証、ポリーリザードの皮の受取証。それに、ブル・グローダの魔石を預けた鑑定預かり証が並んでいる。
魔石の大きさは5cm程度だ。
大きさだけなら中級魔石の目安に近いが、正式な等級と固有効果については、まだ鑑定中だった。
フィーズの喫茶店でバンさんと話した日の帰り、俺が魔石ギルドへ直接持ち込んだのだ。
結果によっては、今後作る魔道具や装備の方向まで変わるかもしれない。
それも気になる。
さらにポリーリザードの皮を使った防具も作りたいし、遠距離攻撃についても考えたい。
だが、今の俺を一番悩ませているのは、金でも素材でもなかった。
俺は目を閉じ、意識を集中させる。
頭の中に、俺にしか見えない文字が浮かび上がった。
レベル Lv8 → Lv12
追加獲得スキルポイント 42P
残りスキルポイント 42P
一気に4つも上がっている。
Lv9で9P、Lv10で10P、Lv11で11P、Lv12で12P。
合計42P。
ブル・グローダを倒した経験値が、それだけ大きかったということだろう。
現在、ポイントが入っている基礎ステータスとスキルを確かめる。
[基礎ステータス]
VIT 体力 2
INT 知力 1
MND 精神力 1
MP 魔力量 6
MTRN 魔法変換 2
MPWR 魔法出力 4
[スキル]
片手剣 3
火魔法 10
斥候 2
鍛冶(一般) 3
魔道具製作 2
ボス戦の直前、残っていた18Pはすべて使った。
そのため、今回増えた42Pが、そのまま残っている。
不測の事態に備えて10Pを残すなら、今回使えるのは32P。
数字だけを見れば十分すぎるほど多い。
ところが、使い道を考え始めると、まったく足りないように思えてくる。
ダンジョンで露呈した問題の1つが、俺の遠距離攻撃が魔法に偏っていることだ。
MPや火魔法をさらに伸ばせば強くはなる。だが、魔力が尽きれば結局使えなくなる。
魔力を使わない遠距離攻撃なら、短弓や投擲武器が候補になる。
ただ、どちらが自分に合うのかも分からない。
接近された時の片手剣や、生き残るための体力も伸ばしたい。探索を続けるなら、斥候だって必要になる。
そして、忘れてはならないのが鍛冶と魔道具製作だ。
俺の一番の特長は何かと考えれば、やはり魔道具を作れることだろう。
だが、魔道具を作るには金と素材が要る。
金と素材を集めるには冒険を続けられる強さが必要で、そのために戦闘や探索へポイントを使えば、魔道具製作へ回せる分が減る。
魔道具を作るために冒険をする。
冒険をするために、魔道具製作以外へポイントを使う。
卵が先か、鶏が先か。
確か、卵が先だったはずだ。
だが、この場合の卵とは何だ?
「うーん……」
その時、部屋の扉が軽く叩かれた。
「さっきから何を唸ってやがる。腹でも痛ぇのか?」
扉を開けて入ってきたのは、オヤジだった。
仕事を終えたばかりなのか、まだ革の前掛けを着けている。
「腹じゃない。ポイントの使い道で悩んでる」
「ポイント?」
オヤジは机の横まで来ると、空いていた椅子へ腰を下ろした。
俺の家族や仲間の中で、経験値やレベル、スキルポイントのことを知っているのは、今のところオヤジだけだ。
「今回のダンジョンで、レベルが8から12まで上がった。使えるポイントは42」
「42か」
オヤジの眉が、わずかに動いた。
「全部使うつもりか?」
「いや。何かあった時のために10Pは残す。使うのは32Pの予定」
「で、何へ使うか決まらねぇと」
「ああ」
俺は、魔力が尽きれば遠距離攻撃を失うこと、魔法以外の攻撃手段が欲しいこと、戦闘と製作のどちらへポイントを回すか決められないことを話した。
一通り聞き終えたオヤジは、机の上にある皮の受取証を指で叩いた。
「鎧は、その皮で作るんだろ」
「うん」
「武器や道具は、今日もらった金で買える。必要なら、自分で作ってもいい」
「うん」
「なら、遠距離攻撃が欲しいからって、今すぐポイントを使う必要はねぇだろ」
「……あ」
オヤジが鼻を鳴らす。
「遠くから攻撃できる手段が欲しいなら、まず投げナイフでも何でも試してみろ。自分に合うもんが分かってから、ポイントを使えばいい」
確かに。
片手剣と一緒に持ち歩ける遠距離武器だって、いくつかある。
「まず実際に使ってみて、それから決めればいいってことか」
「そういうこった」
オヤジが椅子の背にもたれた。
「ポイントってのは、お前自身に使うもんなんだろ。なら、道具が壊れても残るものと、お前にしかできねぇことへ使え」
道具が壊れた後でも動ける体。
武器を扱うための技術。
そして、俺にしか作れない魔道具。
そう分けて考えれば、かなり整理できる。
「それと、前の戦いだけを見て全部決めるなよ」
オヤジの声が少し低くなった。
「お前が死んだのは、遠くから攻撃できなかったからだけじゃねぇだろ」
「……うん」
ココラを助けるため、自分から飛び込んだ。
魔力が残っていても、あの場面で同じことをした可能性はある。
「強くなるのは良いことだ。だが、次に同じことが起きた時、自分の命を投げ出すために使うんじゃねぇぞ」
死神様から言われた言葉を思い出す。
自分が死ぬ以外の方法を、最後まで探せ。
「今度は、全員で生き残るために使う」
「ならいい」
オヤジは椅子から立ち上がった。
「明日から学校なんだろ。あんまり遅くまで唸ってんじゃねぇぞ」
「オヤジ」
「あん?」
「ありがとな」
「相談料は、今日の功労金から金貨1枚分でいいぞ」
「高すぎるわ!」
オヤジは喉の奥で笑いながら、部屋を出ていった。
再び1人になり、俺はステータスへ目を戻す。
オヤジの話で、だいぶ優先順位が見えてきた。
遠距離武器については、今すぐポイントを使わず、投擲武器を実際に試してから決めればいい。
その時に、新しく遠隔攻撃のスキルが現れる可能性もある。
そのために2Pは残しておこう。
今すぐ伸ばす候補は、体力、敏捷、技巧、片手剣、斥候。
そして、鍛冶と魔道具製作だ。
技巧は武器を扱うだけでなく、鍛冶や魔道具の細かな作業にも役立つかもしれない。戦闘と製作の両方へつながるなら、俺とは相性がいい。
さらに技能欄を見直すと、以前にはなかった項目が2つ増えていた。
鍛冶(防具製作) 0
アイテムボックス 0
「アイテムボックスが出てきたか……」
能力そのものは、ダンジョン・リワードで手に入れた物だ。
ただ、発現してから何度か実際に使ったことで、俺のポイントの力にも強化可能な項目として認識されたらしい。
今の大きさは、横幅、奥行き、高さともに約50cm。
コインロッカーといった感じだ。
生き物は入らないし時間も経過するが、中へ入れた物の重さを感じずに持ち運べる。
ただでさえ便利な能力だ。
これをポイントで広げられるなら、試す価値はある。
アイテムボックスを最大サイズで展開した。
目の前の空中に、一辺50cmほどの立方体状の収納空間が開く。
工房から持ってきていた木尺を当ててみる。
横幅、50cm。
奥行き、50cm。
高さも、50cm。
「よし」
基準はこれでいい。
最大サイズのまま、アイテムボックスへ1P振る。
アイテムボックス 0 → 1
目の前の収納空間が、ゆっくりと外側へ広がった。
変化が止まったところで、もう一度木尺を当てる。
横幅と奥行きは約54cm。
高さは約53cm。
「1Pでこれくらいか」
数cmではあるが、間違いなく広くなっている。
今度はもう1Pだけ試してみる。
アイテムボックス 1 → 2
再び収納空間が広がった。
測り直してみる。
横幅、約58cm。
奥行き、約58cm。
高さ、約56cm。
「……なるほど」
ふと、壁に立てかけていた片手剣へ目を向ける。
全長90cm。当然、横向きには入らない。
だが、収納空間の隅から反対側の隅へ向けるように、上下も使って斜めに差し込んでみると、鍔の向きを少し調整するだけで、刀身の先まで収まった。
「お、斜めなら剣もギリ入るな」
一度剣を取り出す。
今のところ、1Pごとの変化はまだ小さい。
ポイントを重ねれば拡張量そのものが大きくなるのか、それとも途中で伸び方が変わるのか。
そこは、もっとポイントを振った時に改めて調べればいい。
今日は2Pで止めておこう。
続いて、今回伸ばす候補にも1Pずつ振ってみる。
VIT、AGI、DEX。それに片手剣、斥候、鍛冶(一般)、魔道具製作、新しく現れた鍛冶(防具製作)。
体を動かし、剣を振り、細かな部品も扱ってみる。
変化の出方は、これまでポイントを振った時と同じだった。
知らない技術が突然頭へ入ってくるのではなく、すでに身につけている力や技術が、少し扱いやすくなる。
防具製作も同じだ。
これで突然知らない鎧を作れるようになったわけではなく、ゴーア兄から教わったことや、これまで経験した範囲へ補正が加わっただけだった。
それなら問題ない。
ここまでの検証で使ったのは、アイテムボックスの2Pを含めて10P。残りは32Pだ。
そこから10Pを不測の事態に備えて残し、さらに2Pを投擲武器を試した後のために取っておく。
今追加で使えるのは20P。
あとは、最初に決めたステータスへ振っていく。
[基礎ステータス]
VIT 体力 2 → 6
AGI 敏捷 0 → 4
DEX 技巧 0 → 4
[スキル]
片手剣 3 → 5
斥候 2 → 4
鍛冶(一般) 3 → 6
鍛冶(防具製作) 0 → 3
魔道具製作 2 → 8
アイテムボックス 0 → 2
使用スキルポイント 30P
残りスキルポイント 12P
残りのポイントを振り終えると、体の奥を温かな感覚が通り抜けた。
今まで身につけてきたものが、少しだけ体へ馴染んだ感覚だ。
アイテムボックスの伸び方も、ほかの能力の効果も、これから学校や工房、訓練場で確かめていけばいい。
「さて、次は……」
俺はステータスを閉じ、新しい紙を机の上へ広げた。
まず描いたのは、前衛に立つバンさんの防具。
次に、自分の片手剣を邪魔しない防具。
最後に、ココラが杖と盾を扱いやすい防具。
まだ大まかな形しか決まっていない。
オヤジやゴーア兄に見せれば、直すところを山ほど指摘されるだろう。
それでも、最初の線くらいは自分で引きたかった。
ポイントの使い道は決まった。
次は、手に入れた素材を、3人が生き残るための道具へ変える番だ。




