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MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


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第2章 Act.4   領主は今日も、領地の財布とにらめっこ



ティリアガルデンの領主、マルセル・ナ・ティリアは、朝から執務机に広げられた帳簿と報告書を見比べていた。


町の地下に発生したダンジョンは、無事に攻略された。


領兵だけでは最奥へ到達できず、結局は町の冒険者と2人の学生に頼る結果となった。


今回は全員生還できたが、次も同じとは限らない。今回の報告書をもとに、領兵の装備やダンジョン発生時の動員手順を見直す必要があるだろう。


攻略から3週間。


閉鎖されていた通りは開かれ、避難していた住民も家へ戻った。臨時警戒も解除され、調査と解呪を終えた合同先遣隊も、すでに町を離れている。


ティリアガルデンは、ようやく以前の日常を取り戻しつつあった。


では、何をそれほど悩んでいるのか。


悩みの種は、目の前にある収支報告書だった。


領兵と町兵への緊急手当。冒険者への依頼料と危険手当。食料や薬、聖印札、魔導ランプなどの消耗品。武具の修理費、住民の避難にかかった費用、負傷者の治療費、攻略後の内部調査費。


今回、ティリア領から支出される額は、攻略功労金まで含めておよそ800万コル。


迷宮災害庁や魔導省、合同先遣隊にかかった国側の費用まで含めれば、事件全体では約1,200万コルに達するという。


800万コルは、領として支払えない額ではない。


だが、領の金庫にある金は、マルセル個人の財産ではなかった。


領兵の維持、街道や橋の補修、冬に備えた食料の備蓄、魔獣などの被害を受けた村への支援。


事件が解決したからといって、後先を考えず報酬をばらまくわけにはいかない。


幸い、支出ばかりではなかった。


最奥付近で回収されたポリーリザードの皮は、予想以上に良質な素材だった。解体や洗浄、搬出を領側が担ったこともあり、査定額の6割相当をバン、レオン、ココラの共同取り分、残る4割相当を領側の取り分とすることで、冒険者ギルドとも話がまとまっている。


チーノが隠し持っていた現金や骨董品のうち、犯罪によって得られたと確認された財産も没収され、その一部が今回の費用へ充てられることになった。


そして何より価値があったのが、木造区画から回収された帳簿だ。


呪物や密輸品の取引記録が残されており、チーノが逃亡してきたバーハム領の捜査を大きく進める証拠となった。その協力に対する手配報奨金と捜査協力金も、支払われる見込みになっている。


国からの災害費補填も合わせれば、ティリア男爵家の収支は、ほんのわずかではあるが黒字になる見込みだ。


戦利品の扱いについても、おおむね整理がついている。


ダンジョン内で発見された短杖は、3人の合意を尊重し、最も適性のあるココラへ返還済みだ。


高価な魔道具ではある。


だが、領が取り上げれば目先の利益にはなっても、冒険者ギルドとの信用を損なう。正式な戦利品として認める方が、長い目で見れば領にとっても得になる。


金銭面で損失を抑え、他領へ貸しを作り、領内で起きた危機を領内の人材によって解決した。


結果だけを並べれば、十分に成功と言える。


だが、町の中にダンジョンが発生した事実まで消えるわけではない。


今回の一件をどう記録し、次にどう備えるか。


そこまで含めて、領主の責任だった。


そして、最後まで決まらなかったのが、攻略に関わった者たちへの報酬である。


領兵や町兵への手当には、これまでの災害出動を基準にできる。冒険者にも依頼期間や危険度に応じた相場があり、鍛冶師や運搬人など、攻略を支えた者たちへの支払いも請求書に従えばよい。


問題は、攻略に決定的な役割を果たした3人への功労金だった。


バンについては、まだ判断しやすい。


攻略当時は緑ランクの冒険者だったとはいえ、長い経験を持ち、危険な状況で2人を指揮しながら最奥まで行き、生還した。通常の依頼報酬とは別に功労金を与えても、異論は出ないだろう。


判断が難しいのは、レオンとココラだった。


当初、マルセルは2人を、事件に巻き込まれた学生だと考えていた。


修理や記録を手伝うために同行し、経験豊富な冒険者に守られていたのだろう、と。


だが、提出された報告書を読めば、その認識が間違っていたことは明らかだった。


レオンは前衛として戦いながら、火魔法と魔道具を使った。


ココラは水魔法で仲間を守り、防御と攻撃の両方を担った。


2人とも、ただバンに守られていたわけではない。


念のため学校へ照会したところ、その実力も裏付けられた。


レオンは片手剣と火魔法がともに同学年でも上位。ココラは水魔法が学年1位、風魔法も上位に入っている。座学についても、2人とも優秀な成績を維持しているという。


学生として見れば、確かに優秀だ。


優秀な若者が領内で育つことは、それ自体が領の財産でもある。


だが、今回評価すべきなのは将来性ではない。


実際にダンジョンの中で、何をしたかだ。


一方で、報酬は前例として残る。


高すぎてもいけない。低すぎてもいけない。


危険な仕事を成し遂げた者には、身分や年齢にかかわらず相応の報酬を払う。


それを示すことも、領内の信頼を保つためには必要だった。


文官たちが意見を交わし、冒険者ギルドとも相談した末、つい先ほど、ようやく結論が出た。


バン、レオン、ココラ。


3人を、年齢ではなく今回の攻略で果たした役割を基準に、同じ功労者として扱う。


マルセルは決裁書の最後に署名し、羽根ペンを置いた。


領主家としても、決して軽い額ではない。


だが、報酬を惜しんで有能な人材からの信頼を失う方が、よほど高くつく。


「これで納得してくれればよいが」


マルセルはそう呟き、次の書類へ手を伸ばした。

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