↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MADE IN ANOTHER WORLD ―この手で、異世界に残るものを。―  作者: 月河 紀零鴨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/69

第1章 Act.13 オヤジがくれた剣、前の持ち主は只者じゃなかった



翌朝。


ダンジョン発生から5日目、オヤジに「髭が似合わねえ」と言われていた役人が、領主からの依頼書を持ってうちの鍛冶場へやってきた。


前にも依頼書を持ってきた役人だと、一目で分かる程度には髭が似合っていない。


まぁ、それはさておき。


今回持ち込まれたのは、領主名義の緊急依頼だった。


内容は、前日から運用が始まったダンジョン内部の第1聖域へ修繕要員と会計・記録係を派遣し、槍や剣の研ぎ直しと、防具の簡単な修繕を行ってほしいというものだ。


毎回地上まで武器を持ち帰って研ぎ直すのは手間がかかる。領兵たちの日頃の手入れだけでは、あのぬめりによる槍の消耗に追いつかないらしい。


そこで、第1聖域の一角に簡易的な修繕所を設け、現地で応急整備を済ませることになったそうだ。


火床を置いて本格的な鍛造をするのではなく、小型の手回し砥石や工具、交換用の部品を持ち込み、研ぎ直し、柄や留め具の交換、革鎧や盾の簡単な修繕を行う。


派遣するのは修繕要員2人と、会計・記録係1人とのことだった。


第1聖域の周辺には領兵や冒険者が配置され、魔物が入り込まないよう警戒も続けられる。それでも、場所はダンジョンの中だ。


報酬には危険手当が上乗せされ、金銭的にはかなり割の良い仕事だった。


だが、万が一がないとは言い切れない。


オヤジが依頼を引き受けると、役人は明日の集合時刻を伝え、足早に鍛冶場を出ていった。


正直、行ってみたい。


ダンジョンの内部を見る機会なんて、そう何度もあるものではない。それに、現地で求められるのは俺にもできる研ぎ直しや応急修理だ。


俺は依頼書を読み返しているオヤジに声をかけた。


「オヤジ」


それだけで、何を言いたいのか分かったらしい。


オヤジは腕を組み、深いため息をついた。眉を八の字に曲げ、首を左へ傾ける。


この反応はあれだ。渋々だが許可を出す時のくせだ。


自分の部屋を作りたいと相談した時も、ミスリルを使ってキャンプ道具を作りたいと言った時もそうだった。


「仕方ねえ。無茶するんじゃねえぞ――って言おうとしてる」


「先に言うんじゃねえ、馬鹿野郎」


オヤジは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「本来なら、修繕要員は年長の弟子だけで固めるところだ。だが、地上じゃ交換用の槍穂や柵の金具を作り続けにゃならん。火床もねえ場所で、研ぎと応急修理だけなら、お前の腕でも務まるだろう」


一度俺を睨んでから、念を押すように指を向けた。


「修繕要員は2人だ。お前1人に任せるわけじゃねえ。残る1人は後で決める。それに、いずれ冒険者になるつもりなら、領兵や先輩冒険者が周りにいるうちにダンジョンを経験しておくのは悪くねえ話だ」


そこで声を低くした。


「だが、お前は探索に参加するわけじゃねえ。確保された道を輸送隊と一緒に進んで、聖域の中で武器を直すだけだ。何かあったら、道具なんざ放り出して真っ先に逃げろ」


「分かってる。ありがとう、オヤジ」


理解のある親ってのは、本当にありがたい。


「ちょっと待ってろ」


オヤジはそう言い残し、鍛冶場の奥にある倉庫へ入っていった。


しばらくして戻ってきたオヤジは、革鞘に収められた1本の片手剣と、小さな深緑色の円盾を抱えていた。


「おお、まさかオヤジ渾身の一振りか!」


「いや。昔、冒険者だった奴から買い取った剣だ」


オヤジはあっさりと答えた。


「冒険者稼業に嫌気が差したらしくてな。こいつを売って、堅気の仕事に戻ると言って持ち込んできた」


……何だろう。


夢を諦めたバンドマンが、愛用のギターを売りに来たみたいな話だ。


「もう少し格好いい由来の剣はないの? 持つ前から気持ちがへこむんだけど」


「仕方ねえだろ。ワシはメイスや斧なら得意だが、剣は今ひとつなんだ」


オヤジは剣を俺へ押しつけるように差し出した。


「由来はともかく、物は良いぞ。少なくとも、ワシより1段上の腕を持つ鍛冶師が打った剣だ。お前が学校を卒業したら渡すつもりで、柄と鞘は前から調整してあった。少し予定が早まっただけだ」


俺は両手で受け取った。


手に取ると、見た目ほどの重さは感じなかった。


重心が鍔の少し先にあるためか、構えると剣先が自然に落ち着く。


「るつぼ鋼を鍛えて作った刀身に、少量のミスリルを混ぜてある。粘りがあって欠けにくく、錆にも強い。当然、使った後の手入れは必要だが、駆け出しが持つには十分すぎる剣だ」


俺は鞘を押さえ、ゆっくりと剣を抜いた。


「うお……すげえ」


現れた刀身は、黒に近い暗い灰色だった。


光を受けると、表面にわずかな青みが浮かぶ。鋼に混ぜられたミスリルの影響だろう。


前の実地訓練で使った剣とは、明らかに格が違う。


刃は両刃で、根元から中ほどにかけてわずかに幅を増し、そこから先端へ向かって鋭く絞られている。振った時に剣先側へ重さが乗りやすく、斬撃の威力を保ちながら刺突にも使える形だ。


刀身の中央には、浅く太い溝が通っていた。余分な重量を落としながらも、強度を保つための厚みは残されている。


鍔は、両端がわずかに下がった緩いV字型で、装飾は一切ない。先端は丸みを持たせつつ厚く作られており、接近戦では相手を殴りつけても簡単には曲がらないだろう。


革紐を巻いた柄の先には、多面体に削られた鉄製の柄頭が付いている。こちらも重量調整だけでなく、いざという時には鈍器として使える。


飾るためではない。


敵を斬り、刺し、殴り、最後まで壊れずに使うための剣だ。


「うわー、100%実用性重視の剣だな」


装飾のない鍔、殴ることまで考えられた柄頭。


そして、黒い刀身。


これ、前の持ち主はあまり表立って言えない仕事もしていたんじゃないだろうか。


「わあ……レオン、すごそうだね、その剣」


帳場で依頼書を整理していたココラも、気になったのか隣へ寄ってきた。


「オヤジ……これを使ってた冒険者って、どんな仕事をしてたの?」


「ああ。そいつは紫ランクまで上がった冒険者でな。うちでも、防具の修繕を何度も引き受けたことがある男だった」


オヤジは腕を組み、記憶を探るように天井を見上げた。


「最後の方は、主に賞金首を追う依頼を受けてたな。貴族から直接頼まれることもあって、断りにくい仕事も多かったらしい」


「……なるほど」


見た目どおり、かなり実戦的な経歴を持つ剣だった。


少しだけ、手に伝わる重みが増した気がする。


「まあ、呪われてるわけじゃないならいいか」


「当たり前だ。買い取る時に教会で確認してある」


オヤジはそう言うと、剣を持つ俺の腕を軽く叩いた。


「道具が良くても、使う奴が馬鹿なら意味はねえ。抜く前に逃げられるなら逃げろ。それでも駄目な時だけ使え」


「了解」


俺は剣を鞘へ戻した。


乾いた音とともに、鍔が鞘口へ収まる。


剣を腰へ下げ、鞘の位置を確かめていると、隣でココラがじっとこちらを見ていた。


「それで、ココラちゃんもコイツと一緒に行くつもりか?」


オヤジが尋ねる。


「はい。私も行きます。帳場の仕事にも慣れましたし、向こうでも記録や会計なら手伝えます」


聖域内へ持ち込める道具や資材には限りがある。


誰の武器を預かり、どこを直し、いつ返したのか。どの部品や材料をどれだけ使い、修繕にいくらかかったのか。そうした記録を付けて費用を計算する人間がいなければ、すぐに混乱する。


この数日、帳場を任されていたココラなら適任だった。


それに、ココラは水魔法が使える。飲み水はもちろん、ぬめりを拭き取った後の洗浄や、刃を研ぐ時にも水が必要になる。


俺も一応、水魔法は使えるが、ココラがいてくれるのはありがたかった。


「やっぱりな。そう言うと思ってたよ」


オヤジは、さっきから脇に置いていた円盾を持ち上げた。


「なら、前の盾よりこっちを持っていけ」


「えっ、私にもですか?」


オヤジは、小さな深緑色の円盾をココラへ差し出した。


直径は50cmほど。木製の本体は表面の要所を薄い鉄板で補強され、縁には黒く焼いた鉄帯が巻かれている。


中央には、黒く塗られた半球状のシールドボスが取り付けられていた。剣筋をそらすだけでなく、接近した相手を殴ることもできる作りになっている。


「コイツはワシのお手製だ。軽くて粘りのあるティリアの木を使ってあるから、見た目ほど重くねえ。攻撃を受けても割れにくいぞ」


オヤジは、盾の縁と中央を指で叩いた。


「鉄帯とシールドボスには、ミスリルを少量混ぜた合金を使ってある。頑丈さを保ちながら、できるだけ軽く仕上げた」


ココラが受け取り、腕を通して何度か構えた。


「わっ、本当に軽い……」


「小柄な奴向けのスモール・ロテッラだ。攻撃を正面から受け止めるんじゃなく、角度をつけてそらすように使え」


オヤジは盾を裏返した。


「それと、裏側の外縁寄りには、小型ナイフを2本収められるようにしてある。得物を失った時や、相手に近づかれた時の予備武器だ」


オヤジは盾の裏側にある革帯を、ココラの腕に合わせて締め直した。


「でも、こんな良い物をもらっていいんですか?」


「構わねえよ。レオンの奴に付き合わされて、森だのダンジョンだのに行くことになった迷惑料だ」


「ちょっと待て。俺が迷惑をかけてるみたいに言うなよ」


「違うのか?」


「……」


ココラが盾の陰で小さく笑った。


「ありがとうございます。大切に使います」


「大切にするのは結構だが、危なくなったら盾ごと放り出して逃げろ。盾も剣も消耗品だ。装備は作り直せるが、お前らはそうはいかねえからな」


オヤジはそう言うと、今度は俺とココラを交互に指差した。


「現地では勝手に聖域から出るな。領兵の指示には必ず従え。特にレオン、お前は珍しい物を見つけても、ふらふら近づくんじゃねえぞ」


「俺を何だと思ってるんだよ」


「珍しい物を見つけたら、触って調べる馬鹿だ」


「……」


ココラまで、そっと俺から目をそらした。


「……ココラは否定してくれないの?」


「レオン、変な物を見つけた時だけ行動が早いから」


「ひどい」


オヤジは鼻で笑うと、作業台の上に依頼書を広げた。


出発は明日。


朝、町兵詰所で荷物の確認を受けた後、町兵の輸送隊と一緒に留置房に開いた入口からダンジョンへ入り、第1聖域まで移動する。


そこで2泊し、3日目の夕方に交代部隊と一緒に地上へ戻る予定だ。


腰に下げた剣の重みを確かめると、期待と不安が一緒になって、腹の奥へ沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。