↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境ギルドの何でも屋になったら、なぜか伝説扱いされてます~追放された鑑定士、噂話を聞き流せないだけなんですが~  作者: わがままな饅頭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/27

第5話 森の中で見えるもの

北の森は、思っていたより静かだった。


「レインさん、何か見えますか」


ガロが、低い声で聞いてきた。


俺は周囲に意識を向けた。


『前方50メートル以内

 反応:複数。推定8体が密集

 配置:見張りが2体、巣の入り口付近

 残り6体は巣の内部』


「前方に、ゴブリンの反応があります。見張りが二体、入り口付近に。残りは巣の中です」


「数は?」


「依頼書の予想より少し少ないです。8体程度」


レイラが、ほっとしたように息を吐いた。


「それなら、何とかなりそうね」


「ただ、見張りに気づかれると、巣の中の個体が一斉に出てきます。先に見張りを片付けるべきです」


俺の言葉に、ガロとレイラが頷いた。


「フィン、お前は見張りの片方を頼む。俺がもう片方をやる」


「分かりました!」


フィンの声には、緊張と同時に、少し自信のようなものが混じっていた。


「レインさんは、この位置から動かないでください。危険が見えたら、すぐに声をかけてください」


「分かりました。気をつけて」


俺は、少し離れた木の陰に身を潜めた。


戦闘力のない自分が、最前線に出ても、足を引っ張るだけだ。


それなら、せめて、見えるものを正確に伝えることに集中するべきだった。



戦闘は、思っていたより順調に進んだ。


ガロとレイラが見張りを素早く片付け、巣の中から飛び出してきたゴブリンたちを、四人で連携して対処していく。


「フィン、右後ろ!」


俺の声に、フィンが即座に反応する。


『フィンへの接近反応:右後方、距離3メートル

 対象の攻撃パターン:低い姿勢からの突き』


「低く来ます、フィンさん!」


フィンが言われた通りに剣を構えると、低い姿勢で突き出されたゴブリンの爪を、正確に受け止めた。


「ありがとうございます、助かりました!」


戦闘の中で、フィンの動きは確実に良くなっていった。


俺の声に反応する速度が、最初よりも明らかに早くなっている。


(成長しているんだな)


そう思うと、不思議な感覚があった。


王都にいた頃、俺はガレオンたちの戦闘を「裏で支える」だけの存在だった。


誰かが成長していく様子を、こんなに近くで見たことはなかった。


「ガロさん、左に二体!」


「了解!」


ガロが、大剣を構えて、横から飛びかかってきた二体を、力強く払い落とす。


「レイラさん、巣の奥から、もう一体出てきます!」


「見えてる!」


レイラの細剣が、流れるような動きで、出てきたゴブリンを切り捨てた。


その様子を見ながら、俺は、自分の声が、確実に戦況を動かしていることを実感していた。


——一人では何もできない。


それでも、誰かと組み合わさることで、結果が生まれる。


「最後の一体!」


ガロの声で、戦闘が終わった。


巣の中を確認すると、ゴブリンの反応はもう残っていなかった。


「終わった……」


フィンが、剣を地面に突き立てて、大きく息を吐いた。


「お疲れ様です。怪我はないですか」


俺は念のため、全員を鑑定した。


『ガロ:軽い擦過傷あり。問題なし

 レイラ:問題なし

 フィン:問題なし。ただし疲労が大きい』


「フィンさん、疲労が溜まってます。今日はゆっくり休んでください」


「はい……今、それしか考えられないです」


フィンは、へろへろになりながらも、満足そうな顔をしていた。


「レインさんの声、本当に助かりました。一人で戦ってる時は、いつも、見えてない方向から不意打ちされる気がしてたんですけど、今日は全然そんな感じがなかったです」


「それは、フィンさんの動きが良かったからです」


「いやいや、絶対レインさんのおかげですって」


フィンの言葉に、ガロとレイラも、頷いた。


「俺も同じ感想だな。普段は、もっと冷や汗をかく場面が多いんだが」


「私も。今回は、随分、戦いやすかったわ」


俺は、その評価に、少し戸惑った。


——自分がやったことは、ただ見えているものを伝えただけだ。


それでも、こんなにはっきりと、効果があったと言われるのは、初めてだった。



ギルドに戻ると、依頼の完了報告と同時に、ちょっとした騒ぎが起きていた。


「おお、帰ってきたか! どうだった?」


「無事に討伐完了です」


オリヴィアが、報告書を受け取りながら、ちらりとフィンを見た。


「フィン、ちゃんと役に立った?」


「役に立ったというか……レインさんの指示がなかったら、絶対危なかったです」


フィンは、正直にそう答えた。


その言葉を聞いた周りの冒険者たちが、少しざわついた。


「あの鑑定士、ゴブリンの巣の中まで見えるのか?」


「見張りの位置まで分かるって、すごいな」


「俺も今度、依頼に同行頼んでみようかな」


(……また、噂が大きくなっている気がする)


俺は、その様子を見ながら、小さく溜息をついた。


事実としては、俺がやったのは「見えたものを伝えただけ」だ。


戦ったのは、フィンたちだ。


それなのに、なぜか俺の手柄のように話が広がっていく。


「レインさん、何でそんな顔してるんですか?」


フィンが、不思議そうに聞いてきた。


「いえ。……俺は、別に何もしてないので」


「いやいや、めちゃくちゃしてくれましたよ! 俺、レインさんがいなかったら、今日死んでたかもしれないです」


フィンは、真剣な顔で言った。


その言葉に、俺は何も返せなかった。


(……死んでたかもしれない、か)


王都にいた頃、ガレオンに対して同じことを思ったことが、何度もあった。


だが、彼は一度も、それを理解してくれなかった。


フィンは、たった一回の依頼で、それを正面から言葉にした。


(……これは、ずいぶん違うものだな)


俺は、自分の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じていた。


「あの、レインさん。今度、また依頼に同行してもらえますか」


「……それは、フィンさんが、どんな依頼を受けるかによります」


「無理なのは分かってます。でも、もし機会があったら、その時はぜひ」


「考えておきます」


俺がそう答えると、フィンは、満足そうに笑った。



夜、ギルドの食堂で、バーバラという女将が、温かいスープを出してくれた。


「お疲れさま、賢者さん」


「賢者じゃないです」


「あら、もうそう呼ばれてるって聞いたわよ」


「俺は否定してるんですけど」


「否定すればするほど、面白がられるタイプね、あなた」


バーバラは、くすくす笑いながら、隣の席に座った。


「フィンの子、最近、表情が変わったわね」


「……そうですか?」


「ええ。前はいつも、自分に自信が無さそうな顔してたの。今日は、ちょっと誇らしそうだったわ」


俺は、その言葉を聞いて、少し考えた。


俺がしたことは、危険を見抜いて、声をかけただけだ。


それでも、それがフィンの何かを変えたのなら——


(悪くないな、こういうのも)


そう思いながら、俺はスープを一口飲んだ。


王都で飲んでいたものより、ずっと味が濃く感じた。


「ねえ、レイン」


「何ですか」


「あなた、王都では、誰かに『ありがとう』って、ちゃんと言われたことあった?」


俺は、その問いに、少し考えた。


——ガレオンから、感謝の言葉を聞いたことは、ほとんどなかった。


せいぜい、戦利品の分配の時に、当然のように受け取られるだけだった。


「……あまり、なかったと思います」


「そう。じゃあ、これからは、ちゃんと言われる機会、増えるんじゃない?」


バーバラの言葉に、俺は何も言えなかった。


ただ、自分の胸の中に、何か温かいものが広がっていくのを感じていた。


その夜、俺は、宿の部屋で、ベッドに横になりながら、今日一日のことを思い返していた。


フィンの成長。仲間との連携。そして、感謝の言葉。


どれも、王都では得られなかったものだった。


(……この街は、思っていたより、悪くないかもしれない)


そう思いながら、俺は静かに目を閉じた。


明日も、きっと、いい一日になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。