第23話 夜襲
ガレオンが、王都へ帰ってから、数日後のことだった。
「レインさん、緊急の依頼が入りました!」
フィンが、慌てた様子で、俺の宿の部屋に、駆け込んできた。
「フィンさん、何があったんですか」
「商人のノエルさんの、お父さんが、街の外れで、何者かに襲われたって連絡が……!」
「ノエルさんの、お父さん、ですか」
俺は、すぐに、装備を整えた。
——薬師のノエルとは、何度も、力を貸し合ってきた仲だった。
その父親が、襲われたと聞いて、放っておけるはずがなかった。
「状況は、どうなっていますか」
ギルドの前で、オリヴィアが、緊迫した表情で、説明した。
「ノエルの父親は、街道沿いで、荷馬車を引いていたところを、複数の人間に、襲われたらしいわ。今は、近くの民家に、何とか、逃げ込んでいるそうよ」
「犯人の目的は?」
「分からない。ただの強盗にしては、随分、組織立った動きだったって、目撃者が言ってる」
俺は、その言葉に、何か、嫌な予感を覚えた。
「ガロさん、レイラさんは?」
「すでに、現場に向かってる。フィンも、一緒に行ってちょうだい」
「分かりました」
現場に到着すると、すでに、ガロとレイラが、民家の周囲を、警戒していた。
「レイン、状況だ」
ガロが、低い声で、説明した。
「ノエルの父親は、無事だ。だが、襲撃者たちは、まだ、近くに潜んでいる可能性がある」
俺は、すぐに、周囲に意識を集中させた。
『周辺の状況
反応:複数。推定四名から五名
配置:民家を、遠巻きに、囲むような位置
武装の様子:訓練された動き。ただの盗賊とは思えない』
「皆さん、これは、ただの強盗ではないと思います。訓練された動きをしています」
「やはり、そうか」
ガロが、表情を、引き締めた。
「民家の周りに、五名前後の反応があります。配置から見て、退路を断つように、囲んでいる可能性が高いです」
「目的は、何だと思う?」
レイラが、緊張した様子で聞いた。
俺は、慎重に、さらに、周囲の状況を確認した。
『追加情報
民家の中に、もう一人、反応あり
その人物の状態:強い緊張、恐怖の感情』
「民家の中に、もう一人、誰かがいます。かなり、緊張している様子です」
「それが、ノエルの父親だろう」
「いえ、それとは、別の反応です。ノエルさんのお父さんは、すでに、保護されているはずですよね」
俺の言葉に、ガロとレイラの表情が、緊張した。
「フィンさん、確認に行ってもらえますか。慎重に」
「分かりました」
フィンが、剣を構えながら、民家の方へ、近づいていく。
俺は、その様子を、慎重に、見守った。
『フィンの接近に対する反応
民家内の人物:警戒している様子
ただし、敵意は、強くない』
「フィンさん、敵意は、強くないようです。慎重に、声をかけてみてください」
「分かりました」
フィンが、民家の戸を、軽く叩いた。
「すみません、ギルドの者です。中に、どなたか、いらっしゃいますか」
しばらくして、扉が、わずかに開いた。
「……あなたたちは?」
中から、若い男の声が、聞こえた。
「ラステイル冒険者ギルドの者です。襲撃の通報を受けて、来ました」
「……助かった。俺、ノエルさんの父親の、荷馬車の手伝いをしてた者です。逃げ込んで、隠れてました」
その男は、震える声で、状況を、説明した。
「これで、状況が、はっきりしました」
俺は、皆に、改めて、説明した。
「民家の中の人物は、ノエルさんのお父さんの、手伝いをしていた、無関係の人です。狙われているのは、おそらく、ノエルさんのお父さん自身です」
「なぜ、狙われたんだ?」
ガロの問いに、俺は、少し考えた。
『ノエルの父親
最近の行動:商人組合の集まりに、頻繁に出席している模様
関連する可能性:商業組合内の、何らかの対立』
「最近、商人組合の集まりに、頻繁に出席されているようです。もしかすると、組合内の、何らかの対立に、巻き込まれているのかもしれません」
「組合内の対立、か」
ガロが、低く、唸った。
「とにかく、今は、襲撃者たちを、何とかしなければ。皆さん、油断しないでください」
「右手、二名、接近!」
俺の声に、ガロとレイラが、即座に、反応した。
暗がりから、覆面をした男たちが、姿を現した。
「お前ら、ギルドの連中か。邪魔をするな」
リーダー格らしき男が、低い声で、警告した。
「ノエルさんのお父さんを、狙っているんですか」
俺が、そう聞くと、男は、わずかに、動揺した様子を見せた。
——図星だった。
「黙れ。これは、お前らには、関係ないことだ」
「いえ、関係あります。彼は、俺たちの、大切な知り合いです」
俺の言葉に、男は、苛立った様子で、剣を構えた。
「フィンさん、ガロさん、レイラさん、お願いします」
「了解!」
戦闘は、緊迫したものだった。
『襲撃者の動き
リーダー格:剣の腕、中級以上
他の四名:連携を重視した動き』
「リーダー格の男、右からの斬撃に注意してください」
俺の声に、ガロが、すぐに、対応した。
「了解だ」
ガロの大剣が、男の斬撃を、しっかりと、受け止めた。
「フィンさん、左から、もう一人来ます!」
「分かってます!」
フィンの剣が、鋭く、相手の攻撃を、弾き返す。
「レイラさん、後方から、二名、接近しています!」
「任せて!」
レイラの矢が、正確に、相手の動きを、止めていく。
——三人の連携は、これまでの依頼を通じて、確かなものになっていた。
俺は、その様子を見ながら、改めて、皆の成長を、実感していた。
戦闘は、それほど、長くは続かなかった。
「降参だ……!」
リーダー格の男が、武器を、地面に落とした。
「お前ら、本当に、噂通りだな……」
「噂、ですか」
「ラステイルのギルドには、何でも見抜く鑑定士が、いるって話だ。本当に、こっちの動きが、全部、見えてるみたいだった」
男の言葉に、俺は、少し、複雑な気持ちになった。
——自分の力が、こうして、敵にまで、噂として伝わっていることに、改めて、驚かされた。
「あなたたちは、誰に、雇われたんですか」
俺の問いに、男は、しばらく、黙っていたが、やがて、観念したように、口を開いた。
「……詳しいことは、知らない。ただ、ある商人から、依頼を受けただけだ」
「その商人の、名前は」
「……ザイル、という男だ」
その名前を聞いて、俺は、改めて、警戒を強めた。
「ザイル……バーバラさんが、言っていた名前ですね」
ギルドに戻った後、俺は、皆に、改めて、状況を、報告した。
「あの男、本当に、何かを企んでいるみたいね」
オリヴィアが、深刻な表情で、呟いた。
「ノエルさんのお父さんは、無事ですか」
「ええ、無事よ。あなたたちのおかげで」
「これは、ただの個人的なトラブルでは、なさそうですね」
俺の言葉に、皆が、深く、頷いた。
「ノエルの父親が、商人組合の中で、何か、ザイルにとって、都合の悪い情報を、握っているのかもしれない」
ガロの推測に、俺も、同意した。
「もう少し、詳しく、調べる必要がありそうです」
「気をつけてね、レイン。相手は、もう、こちらの動きに、気づいているかもしれない」
オリヴィアの言葉に、俺は、強く、頷いた。
その夜、俺は、宿の部屋で、今日の出来事を、改めて、振り返っていた。
ザイルという男の、本格的な悪意。
それが、これから、自分たちの生活を、大きく、脅かしていくことになる予感が、確かにあった。
「フィンさんたちを、絶対に、守らなければ」
俺は、静かに、そう、自分に、誓った。
——この出来事が、後の、ギルドを揺るがす、大きな騒動への、最初の一歩だったことを、この時の俺は、まだ、知らなかった。




