第21話 聖女、再びの来訪
ガレオンが訪れてから、十日ほどが経った頃。
再び、ギルドの扉が開いて、見覚えのある女性が入ってきた。
「ミーシャ……また来たんですか」
「ええ。ガレオンから、ここに来た時のこと、詳しく聞いて。気になって、また来てしまったわ」
ミーシャは、少し気恥ずかしそうに笑った。
「ガレオンさん、何か言っていましたか」
「『お前がいてくれた頃の方が、よっぽど楽だった』って、何度も言ってたわよ」
「それは……今さらですね」
「本当に、今さらよね」
ミーシャは、苦笑いした。
「でも、彼、本当に変わったと思うわ。少なくとも、誰かの力を、素直に認められるようになった」
「それは、いいことだと思います」
俺たちは、食堂の席に座って、改めて話を始めた。
「レイン、今日は、もう一つ、伝えたいことがあって来たの」
「何ですか」
「私、王都のパーティを、抜けようかと思ってるの」
俺は、その言葉に、少し驚いた。
「……理由を、聞いてもいいですか」
「ガレオンたちは、今、新しいパーティの形を、模索してる。私がいなくても、何とかやれると思う」
ミーシャは、静かに、話を続けた。
「それより、私自身、もっと、自分のやりたいことを、考えてみたいと思って」
「やりたいこと、というのは」
「治癒術師として、もっと色々な場所で、経験を積みたいの。王都だけじゃなく、辺境の方が、むしろ、いろんな症例に出会えるんじゃないかって」
「それは……つまり」
「ええ。もし、迷惑じゃなければ、しばらく、この街で、活動してみたいの」
ミーシャの言葉に、俺は、少し戸惑った。
——それは、想像していなかった申し出だった。
「フィンさん、どう思いますか」
俺は、ちょうどそこに居合わせたフィンに、聞いてみた。
「俺は、いいと思います! 聖女様がいてくれたら、心強いですし」
フィンは、すぐに、賛同の意を示した。
「オリヴィアさんにも、相談してみないと」
「もちろんよ。正式な手続きは、ちゃんと、ギルドを通してするつもりだから」
ミーシャは、しっかりとした様子で言った。
——彼女が、ただの思いつきで来たわけではないことが、その言葉から伝わってきた。
「オリヴィアさん、こちら、ミーシャさんです。治癒術師として、この街での活動を、検討しているそうです」
俺は、オリヴィアに、ミーシャを紹介した。
「あら、聖女様、わざわざこんな辺境まで。歓迎するわ」
オリヴィアは、いつもの調子で、にこやかに迎えた。
「優秀な治癒術師は、いつでも必要だもの。ぜひ、力を貸してほしいわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ミーシャは、深く頭を下げた。
その日の夜、ギルドの食堂で、フィン、オリヴィア、バーバラ、ミーシャ、そして俺が、改めて、顔を合わせた。
「ミーシャさんが、これから、この街にいてくれるのは、嬉しいです」
フィンが、素直な言葉で言った。
「ありがとう、フィン君。あなたのことは、レインから、よく聞いてるわ。剣の腕、随分上がったそうね」
「えっ、レインさん、そんなことまで言ってたんですか」
「言いましたけど、何か問題でも?」
「いえ、嬉しいだけです!」
フィンの反応に、皆が、小さく笑った。
「バーバラさんのスープ、本当に美味しいですね」
ミーシャが、出されたスープを一口飲んで、感心したように言った。
「ありがとうね、聖女様。これからも、たくさん食べていってちょうだい」
バーバラの言葉に、ミーシャは、嬉しそうに笑った。
「レイン、改めて、ありがとう」
その日の終わり、ミーシャが、俺に向かって、静かに言った。
「何のことですか」
「あなたが、ここで、こんなにいい関係を築けてること。それを、間近で見られて、本当に嬉しいの」
「……俺は、特に何も」
「またそれ言うの?」
ミーシャが、くすりと笑った。
「フィン君から、聞いたわよ。あなたの口癖、らしいわね」
「……皆さんに、随分、知られているみたいですね」
俺は、少し気恥ずかしくなって、頭をかいた。
「これから、よろしくお願いします、ミーシャさん」
「ええ、よろしくお願いします。レイン」
ミーシャは、改めて、深く頭を下げた。
その夜、俺は、宿の部屋で、今日の出来事を、改めて振り返っていた。
王都での仲間が、こうして、自分の意志で、ラステイルに来てくれたこと。
それは、自分が思っていたより、ずっと大きな意味を持っていた。
——王都での三年間が、決して、無駄ではなかったのだと、改めて感じることができた。
ミーシャとの出会いも、ガレオンとの確執も、全てが、今の自分を形作っている。
(過去は、過去のままでいい。でも、それが、今の自分と、繋がっていることも、忘れずにいたい)
俺は、そう思いながら、静かに、眠りについた。




