第17話 四人の遠征
「レインさん、今度、ちょっと長い依頼があるんですけど、一緒に行きませんか」
ある日、フィンが、少し興奮した様子で、依頼書を持ってきた。
「長い依頼、ですか」
「隣の街まで、護衛で行く依頼です。往復で、五日くらいかかるみたいで」
俺は、その依頼書に目を通した。
『護衛依頼:隣街への商隊護衛
依頼主:商業組合
期間:往復五日程度
報酬:高め(長距離のため)』
「ガロさんとレイラさんも、一緒に行くそうです」
「分かりました。受けましょう」
俺たちは、四人で、この依頼を受けることにした。
出発の日、朝早く、ギルドの前に、商隊の馬車が並んでいた。
「お願いします、皆さん」
商隊の代表が、深く頭を下げた。
「最近、街道で、盗賊の被害が増えてるらしくてね。今回は、いつもより、用心してもらいたいんだ」
「分かりました。できる限り、注意します」
俺は、出発前に、街道全体の情報を、ギルドの記録から、丁寧に確認した。
『街道の状況
既知の危険:複数の盗賊団の目撃情報あり
特に注意すべき区間:森を抜ける峠道』
「峠道に入る時、特に注意が必要です」
「分かった。皆、聞いたか。峠道では、より警戒を強めてくれ」
ガロが、商隊の護衛全体に、声をかけた。
商隊の代表は、その様子を見て、少し安心したように、頷いた。
「皆さんに、お願いして、本当によかった。最近は、護衛の依頼を、断られることも、多くて」
「最近、街道が、それほど、危険になっているんですか」
「ええ。盗賊だけじゃなく、野生動物の被害も、増えているみたいで」
商隊の代表の言葉に、俺は、少し気を引き締めた。
「分かりました。できる限り、慎重に進めます」
「よろしくお願いします」
俺たちは、改めて、気持ちを整えて、出発の準備を終えた。
道中、最初の三日間は、特に問題なく進んだ。
馬車に揺られながら、俺たちは、それぞれの時間を過ごしていた。
「レインさん、こうやって、長い時間一緒にいるの、初めてですね」
フィンが、馬車の隅で、ふと言った。
「そうですね。普段は、依頼が終わったら、すぐに解散することが多いので」
「俺、こういう時間、結構好きなんです。いろんな話ができるから」
「フィンさんは、何の話がしたいんですか」
「うーん、レインさんの、王都での話とか、もっと聞きたいです」
俺は、その問いに、少し考えた。
——これまでも、断片的には話してきたが、もう少し詳しく語ってみても、悪くないかもしれないと思った。
「王都にいた頃、俺は、毎日、ガレオンたちの後をついて、ダンジョンに潜っていました。鑑定だけで、戦闘には参加できないので、いつも、少し離れた場所から、皆の様子を見ていました」
「寂しくなかったですか」
「最初は、特に何も感じませんでした。ただ、自分の役割を、果たすことだけを考えていました」
「最初は、ということは、途中から、何か感じるようになったんですか」
フィンの問いに、俺は、少し考えた。
「……三年目あたりから、少しずつ、虚しさを感じるようになりました。何度も危険を伝えても、誰も、それを評価してくれない。そのことに、疲れていたんだと思います」
「それで、最後には、追放、ですか」
「ええ。今振り返ると、ある意味、必然だったのかもしれません」
俺の言葉に、フィンは、静かに頷いた。
「レインさんが、ここに来てくれて、本当によかったです」
「……ありがとうございます」
四日目、峠道に差し掛かったところで、俺は、強い警戒の反応を感じた。
『前方、山道の左右
反応:複数の人間。武装の様子
配置:街道を挟む形で、待機している模様
推定意図:商隊への襲撃』
「皆さん、止まってください!」
俺の声に、商隊全体が、一斉に止まった。
「前方の左右に、複数の武装した人間がいます。商隊を狙っている可能性が高いです」
「盗賊か」
ガロが、すぐに、剣を構えた。
「人数は?」
「正確には分かりませんが、左右合わせて、十人以上はいると思います」
「十人以上……」
レイラが、緊張した様子で、弓を構えた。
「これは、商隊の護衛だけで、対処できる人数ではないかもしれません」
俺は、慎重に、状況を分析した。
「フィンさん、ガロさん、レイラさん。少し、考えがあります」
「何ですか」
「商隊を、一旦、後退させて、安全な場所に隠れさせます。その間に、こちらから、囮を出して、相手の数を分散させるのはどうでしょうか」
「囮、ですか」
「ええ。俺が、目立つように動いて、相手の一部を引き寄せます。その間に、皆さんで、残りの相手に対処してもらいたいです」
「いや、それは危険すぎる!」
フィンが、即座に反対した。
「レインさんが、戦闘に巻き込まれたら、危険です」
「分かっています。だから、走って逃げることに集中します。直接、戦うつもりはありません」
俺の言葉に、ガロが、しばらく考えた。
「……分かった。だが、無茶はしないでくれ」
「約束します」
俺は、商隊から少し離れた場所で、わざと、大きな音を立てて、自分の存在を、盗賊たちに知らせた。
「おい、何かいるぞ!」
「一人だけか? 行け!」
盗賊の数人が、俺の方へと、向かってきた。
『追跡者:四名
接近速度:中程度
俺自身の逃走可能性:高い(地形を利用すれば)』
俺は、その情報を頼りに、地形を利用しながら、慎重に、彼らを誘導していった。
——本当に怖かった。
それでも、フィンたちが、残りの盗賊に対処してくれていると思うと、不思議な落ち着きがあった。
「もう、追いつかれそうだな……」
俺は、息を切らしながら、後方を確認した。
『追跡者との距離:縮まっている
ただし、前方に、複雑な地形あり。利用可能』
俺は、その地形を利用して、追跡者たちを、一時的に振り切ることができた。
しばらくして、俺は、商隊のもとへ戻った。
「レインさん! 大丈夫でしたか!」
フィンが、すぐに駆け寄ってきた。
「ええ、何とか。皆さんは?」
「全員、無事です。レインさんが、囮になってくれたおかげで、数が減って、十分に対処できました」
ガロが、満足そうに言った。
「商隊にも、被害はありません」
レイラの言葉に、俺は、安心した。
「よかったです」
「レインさん、本当に、無茶しましたね」
フィンが、少し怒ったような、それでも心配そうな表情で言った。
「すみません。でも、これが、最善の方法だと思いました」
「分かってます。でも、心配したんですよ、本当に」
フィンの言葉に、俺は、少し申し訳ない気持ちになった。
「次は、もう少し、安全な方法を考えます」
「約束ですよ」
それから一日かけて、俺たちは、無事に、隣の街に到着した。
「皆さん、本当にありがとうございました」
商隊の代表が、深く頭を下げた。
「無事に届けられて、よかったです」
俺がそう答えると、代表は、追加の報酬を、皆に手渡してくれた。
「これは、危険な状況に対処してくれたことへの、感謝の気持ちです」
「ありがとうございます」
俺たちは、それぞれ、報酬を受け取った。
帰り道、馬車の中で、フィンが、ふと、言った。
「レインさん、今回の遠征、楽しかったです」
「危険な場面も、ありましたけどね」
「それも含めて、です。みんなで、力を合わせて、一つの仕事を、やり遂げられた感じがして」
フィンの言葉に、ガロとレイラも、頷いた。
「俺も、同じ気持ちだ。お前たちと組んで、よかったと思ってる」
「私も。こんなに、安心して任せられる仲間、初めてかもしれない」
俺は、その言葉に、深く、頷いた。
——王都にいた頃には、感じられなかった、確かな繋がりが、ここにあった。
帰りの馬車に揺られながら、俺は、改めて、この街での生活が、自分にとって、どれだけ大切なものになっているかを、実感していた。




