第15話 薬師の依頼
「ラステイルの夏」が終わってから、しばらく経った頃。
以前、薬草の保存方法について相談してきた薬師のノエルが、再び、ギルドを訪ねてきた。
「レインさん、お久しぶりです」
「ノエルさん。お元気でしたか」
「ええ、おかげさまで。あの時、教えてもらった保存方法、本当に役に立ちました」
ノエルは、嬉しそうに、報告してくれた。
「今は、もっと、安定した品質で、薬を作れるようになったんです」
「それは、よかったです」
「それで、今日は、お礼に、新しい薬を、お渡ししたくて」
ノエルは、小さな瓶を、俺に手渡した。
「これ、疲労回復に効く薬です。レインさんも、いつも、いろんな依頼で、頑張っていらっしゃるみたいなので」
「ありがとうございます」
俺は、その瓶を、丁寧に受け取った。
『薬(疲労回復用)
品質:良好
効果:確かなもの』
「品質も、しっかりしていますね」
「えっ、本当ですか? よかった……」
ノエルは、心から、安心したように、息を吐いた。
「ノエルさん、最近、薬師の仕事は、どうですか」
俺が聞くと、ノエルは、少し考えてから、答えた。
「順調です。最近は、もっと、いろんな薬の研究に、挑戦してみたいと思っていて」
「それは、いいことですね」
「実は、その関係で、もう一つ、相談したいことがあるんです」
「何ですか」
「最近、街の周辺で採れる薬草の種類が、増えているみたいで。新しい種類の薬草が、ちゃんとした効果を持っているのか、確認してもらえたら、すごく助かるんですけど」
俺は、その依頼に、少し考えた。
「いいですよ。今度、一緒に、確認しに行きましょう」
「ありがとうございます!」
数日後、俺とノエルは、街の周辺の草原を、一緒に歩いていた。
「これです、最近、よく見かけるようになった薬草」
ノエルが、小さな、青い花をつけた草を、指差した。
俺は、その草に、意識を向けた。
『未知の薬草
成分:解熱効果のある成分を確認
毒性:なし
効果:従来の薬草より、効果が高い可能性』
「これ、解熱効果がある薬草みたいです。毒性もなく、むしろ、従来のものより、効果が高い可能性があります」
「本当ですか! これは、大発見です!」
ノエルは、興奮した様子で、その薬草を、丁寧に採集し始めた。
「レインさんがいてくれて、本当に、助かります」
「お役に立てて、よかったです」
俺たちは、それから、しばらく、草原で、いろいろな薬草を、確認していった。
「レインさんは、こういう、薬草の知識も、豊富なんですか」
ノエルが、ふと、聞いてきた。
「鑑定士として、基本的な知識は、持っています。でも、専門的な調合は、ノエルさんの方が、ずっと詳しいと思います」
「いえ、レインさんの鑑定があれば、私一人では、絶対に気づけないことが、たくさん分かります」
ノエルの言葉に、俺は、少し考えた。
——お互いの専門性が、組み合わさることで、一人では、できないことが、できるようになる。
それは、フィンたちとの関係でも、同じことだった。
「これからも、何か、新しい薬草を見つけたら、相談してください」
「はい、ぜひ、お願いします!」
その日の夕方、ギルドに戻ると、フィンが、心配そうに、声をかけてきた。
「レインさん、今日は、どこに行ってたんですか」
「ノエルさんと、薬草の調査をしていました」
「ノエルさんって、確か、最初の頃に、相談に来てた薬師の人ですよね」
「ええ。今でも、時々、こうして、力になっています」
「レインさんって、本当に、いろんな人と、繋がりがあるんですね」
フィンの言葉に、俺は、小さく笑った。
「最初は、こんなに、いろんな人と関わるとは、想像していませんでした」
「それも、いい変化ですよね」
「ええ、間違いなく」
その夜、俺は、宿の部屋で、今日の出来事を、振り返っていた。
王都にいた頃は、ガレオンたちのパーティ以外の人と、深く関わることは、ほとんどなかった。
今は、フィン、オリヴィア、バーバラ、ガロ、レイラ、ミーシャだけでなく、ノエルのような、街の人々とも、少しずつ、繋がりが、広がっている。
——それは、自分が、想像していたよりも、ずっと、豊かな人生だった。
「……悪くない生活だ」
俺は、小さく、そう呟いて、静かに、眠りについた。




