第12話 新しい仲間(王都side)
——王都、勇者パーティの拠点にて。
ミーシャが、パーティを抜けると伝えてから、数日が経っていた。
「本当に、抜けるのか」
ガレオンが、低い声で、ミーシャに聞いた。
「ええ。決めたことだから」
「……止めても、無駄か」
「止めても、無駄ね」
ミーシャは、はっきりと、答えた。
ガレオンは、しばらく黙っていたが、やがて、深く息を吐いた。
「分かった。お前の選択を、尊重する」
「ありがとう、ガレオン」
ミーシャは、それから、少し優しい目で、彼を見た。
「あなたも、新しいパーティ、ちゃんと立て直してね」
「……努力する」
それから、ガレオンは、新しい仲間を探すために、様々なギルドを回っていた。
「鑑定士を、探してるんだが」
ガレオンが、王都のギルドの受付で、そう尋ねた。
「鑑定士でしたら、何人か候補がいますが……正直、ガレオン様のパーティは、要求が高いと聞いておりますので」
受付の職員が、少し困ったような表情を見せた。
「要求が高い、というのは」
「以前の鑑定士の方が、随分、優秀だったという噂が、広まっておりまして。それと比較されるのを、皆さん、嫌がるようです」
ガレオンは、その言葉に、苦い顔をした。
——レインの存在が、こんな形で、自分の足を引っ張っているとは、思っていなかった。
「分かった。それでも、構わない人物がいれば、紹介してほしい」
「……分かりました。少々、お待ちください」
数日後、一人の若い鑑定士が、ガレオンの元を訪れた。
「初めまして、ガレオン様。クレアと申します」
クレアという女性は、まだ経験の浅い様子だったが、真剣な表情をしていた。
「お前、俺のパーティの噂は、聞いているか」
「はい。以前の鑑定士の方が、優秀だった、という話は」
「それでも、来てくれるのか」
「……正直、不安はあります。ですが、ガレオン様のパーティで、経験を積みたいという気持ちも、本当です」
クレアの言葉に、ガレオンは、少し考えた。
「一つ、約束してほしい。お前の鑑定を、ちゃんと聞く。それは、前の鑑定士に対して、俺がしなかったことだ」
「……ガレオン様」
「お前を、ただの道具として扱うつもりはない。ちゃんと、仲間として、扱うつもりだ」
ガレオンの言葉に、クレアは、少し驚いた様子で、それから、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。精一杯、頑張ります」
それから、ガレオンの新しいパーティは、少しずつ、形を整えていった。
「クレア、今日の依頼、何か気になることはあるか」
ダンジョンに入る前、ガレオンが、丁寧に、クレアに尋ねた。
「……はい。この依頼書の内容、少し、危険度の評価が、低めに書かれている気がします」
「具体的には?」
「過去の同種の依頼と比較すると、トラップの密度が、明らかに高い区域があります」
クレアの言葉に、ガレオンは、すぐに、慎重な姿勢を取った。
「分かった。今日は、いつもより、慎重に進もう」
「……本当に、聞いてくれるんですね」
クレアが、少し驚いたように言った。
「当然だろう。お前の意見は、貴重な情報だ」
ガレオンの態度は、以前とは、明らかに変わっていた。
その日のダンジョン攻略は、クレアの警告のおかげで、大きな怪我もなく、無事に終わった。
「ガレオン様、本当に、ありがとうございます。私の言葉を、ちゃんと聞いてくれて」
「礎を作ったのは、お前の鑑定だ。感謝するのは、俺の方だ」
ガレオンの言葉に、クレアは、深く頭を下げた。
その夜、ガレオンは、一人で、宿の部屋にいた。
——レインのことを、思い出していた。
あの時、自分は、レインの言葉を、一度も、まともに聞いてやらなかった。
それが、どれだけ、彼を傷つけていたのか、今になって、改めて分かる。
「……すまなかったな、レイン」
ガレオンは、誰もいない部屋で、小さく、そう呟いた。
それは、誰にも届かない、独り言だった。
それでも、彼にとって、確かに、必要な言葉だった。
数週間後、ガレオンの新しいパーティは、少しずつ、安定した実績を上げ始めていた。
「ガレオン様のパーティ、最近、評判いいですよね」
ギルドの職員が、そう声をかけてきた。
「クレアのおかげだ。彼女の鑑定は、本当に、優秀だ」
「ガレオン様自身も、随分、変わられましたね。以前は、もっと、強引な印象でしたが」
「……そうかもしれない」
ガレオンは、少し苦笑いした。
「大事なことを、一つ、学んだんだ。仲間の言葉を、ちゃんと聞くこと。それが、結局、自分自身を守ることに繋がる」
「いい教訓ですね」
「高い代償を払って、学んだ教訓だ」
ガレオンは、そう言って、遠い辺境の街——ラステイルの方向を、ふと、見やった。
——いつか、もう一度、ちゃんと、レインに会いに行こう。
そう思いながら、彼は、新しい一日を、始めていった。
クレアが、新しい依頼書を、丁寧に確認しながら、ガレオンの隣に立った。
「ガレオン様、次の依頼、確認しました。少し、注意が必要な区間があります」
「分かった。詳しく、教えてくれ」
ガレオンは、すぐに、クレアの方を向いて、真剣に、耳を傾けた。




