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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第三部 世界の親方

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親方、樹の上に庭を作る



 砂防堰堤が完成して、世界樹の根元の補修に取りかかるまで二日ほど空いた。


 コンクリートの養生期間だ。堰堤が完全に固まるまで次の工事に使う分の材料を練れない。待つしかない。


「待ちの時間ができた。——じゃあ、ちょっと面白いことをやるか」


「面白いこと?」


 カーラの目が光った。こいつは「面白い」に反応する犬みたいな嗅覚がある。


「樹の上に庭を作る」


「庭……!? 木の上に……!?」


「世界樹の太い枝の上に、土を載せて、花と野菜を育てる。——空中庭園(くうちゅうていえん)だ」


 エルフたちが集まってきた。シルヴァナも。


「樹の上に庭だと? 枝の上に土を載せたら、枝が腐らないのか」


「腐らせない仕組みを作る。それが今日の仕事だ」



    * * *



 世界樹の大枝に登った。


 高さ八十メートル付近。太さ三メートルの枝が水平に伸びてる。上面がほぼ平ら。幅三メートル、長さ十メートルほどの「床」がある。


 ここに庭を作る。


「いいか。枝の上に直接土を載せたら、水が染みて木が腐る。だから層を重ねる。下から順に——」


 足元の枝の上に、材料を並べた。


「一層目。防水層(ぼうすいそう)。ルッカが鍛造した銅板を敷く。水を完全に遮断して、枝に水が触れないようにする」


 ルッカが薄く伸ばした銅板を広げた。帝国の鉄より、エルフの森で採れる銅の方が薄く叩ける。ルッカの腕で紙みたいに薄い銅板が出来上がってる。


「二層目。排水層(はいすいそう)。砂利を敷く。雨水が銅板の上を流れて、端から排水される層だ。水が溜まらないようにする」


「三層目。根止め層(ねどめそう)。エルフの繊維で作った不織布を敷く。植物の根がこの層より下に伸びないようにする。根が銅板を突き破ったら台無しだからな」


「四層目。土層(どそう)。土を載せる。厚さ三十センチ。これで花も野菜も育つ」


 図を描いて見せた。銅板→砂利→不織布→土。四層のサンドイッチ。


「この四層で、植物を育てながら木を守る。水は砂利層を通って端から排水される。根は不織布で止まる。銅板が枝を水から守る。——上は庭。下は木。互いに傷つけない」


 シルヴァナが材料を一つずつ触って確かめてる。


「銅板で水を止め……砂利で水を流し……繊維で根を止め……土で植物を育てる。四つの層が、四つの役割を持っている」


「そういうことだ。——やるぞ」


 銅板を枝の上に敷いた。ルッカが端を折り曲げて、水が漏れないように縁を立てる。


「親方。銅板の継ぎ目は蝋付け(ろうづけ)で塞ぎます。隙間から水が入らないように」


「頼む。——お前の蝋付け、帝国の蛇口で実証済みだから安心だ」


「えへへ……」


 ルッカが照れた。こいつが照れるのは珍しい。


 砂利を載せた。エルフが下から運んでくれた。高さ八十メートルまで砂利を運ぶのは重労働だが、エルフたちは軽々と木を登ってくる。


「お前ら本当に身軽だな……。砂利袋担いで八十メートル登るのに息一つ切らねえのかよ」


「エルフの体は木に馴染むようにできている。——人間には無理か?」


「無理だ。俺は足場がなきゃ登れん」


「なのに三十メートルの足場を自分で組んで登るのだから、大したものだ」


「……褒められてんのか、呆れられてんのか分かんねえな」


 不織布を敷いた。エルフの繊維加工技術で作った布。水は通すが根は通さない。絶妙な目の細かさ。


「この布、すげえな。水を垂らすと通るのに、指で押しても破れねえ」


「千年の技術だ。——人間に褒められると、悪い気はしない」


 エルフの繊維職人が少しだけ笑った。


 土を載せた。森の腐葉土。栄養たっぷりの黒い土。三十センチの厚さに均す。


「完成だ。——あとは植える」


 エルフの子供たちが花の苗を持って登ってきた。


「植えていいの!?」


「植えろ植えろ。好きなとこに植えろ」


 子供たちが歓声を上げて、空中庭園に花を植え始めた。赤い花。青い花。黄色い花。八十メートルの高さに、色が広がっていく。


 野菜の苗も植えた。エルフが普段食べてる葉物野菜。根菜は根が深いから向かないが、葉物なら三十センチの土で十分育つ。


「……嘘だろう」


 エルフの老人が呟いた。


「木の上で……花が咲くのか? 野菜が育つのか?」


「土と水と日光があれば、どこでも育つ。地上だろうが空の上だろうが同じだ」


「空の上でも……」


 老人が花に触れた。八十メートルの枝の上で咲いてる花。風に揺れてる。


「……美しいものだな」


 シルヴァナが空中庭園の端に立って、森を見下ろしてる。エルフの国が一望できる。巨木の海。その中央に世界樹。


「棟方。——お前は不思議な男だ。壁を直し、橋を架け、山を止め、空に庭を作る。次は何をする気だ」


「風呂を作る」


「……は?」


「風呂だ。この木の上に」


 シルヴァナが固まった。



    * * *



 世界樹の枝の股——二本の太い枝が分かれる付け根に、天然の窪みがある。


 直径二メートル、深さ六十センチくらいの、お椀型の窪み。木が成長する過程で自然にできた凹みだ。


「ここだ。天然の浴槽。木の窪みに銅板を敷いて防水して、湯を溜める」


「こんなところに風呂を……!?」


「こんなところだからいいんだ。——リル、サラマンダーに湯を沸かしてもらえるか。ウンディーネに水を運んでもらって」


「はい! ——サラマンダー、お湯お願い! ウンディーネ、お水を下から運んで!」


 ウンディーネが地上から水を引き上げた。木の幹の中を通る水脈を使って、窪みに水が溜まっていく。サラマンダーが水を温める。


 十五分後。


 世界樹の枝の上に、湯が溜まった。


 高さ百メートル。空に浮かぶ風呂。眼下にエルフの森が広がってる。風が気持ちいい。空が近い。


「……入るか」


「入るわよ!!」


 カーラが一番乗りだった。仕切りはエルフの繊維で作った布を木の枝に巻いて即席で作った。男女別。


「——ッッッ!!!」


 カーラの声が森に響いた。


「ここ最高!! 帝国の風呂より最高!! 空が見える!! 森が見える!! 風が気持ちいい!! ——親方、ここに住みたい!!」


「住むな。降りろ」


 男湯側。俺が入った。


 ……確かに、すごい。


 百メートルの高さで湯に浸かりながら、森を見下ろしてる。木々の葉が風に揺れて、緑の波みたいに動いてる。空にはエルフの森にしかいない鳥が飛んでる。夕日が木々の間から差し込んで、湯面が金色に光ってる。


「…………悪くねえ」


 悪くねえどころじゃない。今まで作った風呂の中で、景色だけなら最高かもしれん。


 シルヴァナが女湯側にいる。カーラとルッカとリルに連行された。数百歳のエルフの長老が、生まれて初めて湯に浸かってる。


「…………」


 仕切りの向こうから、シルヴァナの声が聞こえた。


「…………何だ、これは」


「お湯ですよ、長老。気持ちいいでしょう?」


 リルが嬉しそうに言ってる。


「気持ちいいとか、そういう次元ではない。——体の力が全部抜ける。数百年生きてきて、こんな感覚は初めてだ」


「初めてなんですか!? お風呂!?」


「エルフに入浴の文化はない。水浴びはするが、温かい湯に浸かるなど——」


「じゃあ今日が長老のお風呂デビューですね!」


「デビュー……? よく分からんが……」


「長老、肩まで浸かってください! もっと気持ちよくなりますよ!」


「……こ、こうか」


 三秒の沈黙。


「…………ああ」


 シルヴァナの声から、長老の威厳が完全に消えた。ただのおばちゃん——いや、数百歳だが——の声だった。


「……人間は。こんなものを考えるのか。——悪くない」


 カーラの声が飛んだ。


「ねえ親方ーー! 長老が『悪くない』って言ったわよーー!」


「聞こえてる」


「親方と同じ語彙よ! もう親方と長老、仲良くなれるわよ!」


「……うるせえ」


 仕切りの向こうで笑い声が上がった。リルとルッカとカーラの声。たぶんシルヴァナも笑ってる。


 エルノが男湯側にいる。故郷の森を見下ろしながら、静かに湯に浸かってる。


「棟方殿」


「何だ」


「……ここから見ると、森が綺麗です」


「ああ。綺麗だな」


「追い出された時は、二度と見られないと思っていました。この景色」


「…………」


「今、見ています。棟方殿のおかげで」


「俺のおかげじゃねえよ。お前が自分で歩いてここまで来たんだ」


 エルノの耳が赤い。夕日のせいかもしれないし、湯のせいかもしれないし、もっと別の理由かもしれない。


 訊かない。野暮だからな。


 湯が気持ちいい。風が気持ちいい。森が綺麗だ。


 空に浮かぶ風呂。風呂の系譜、七番目。世界樹の枝の上。


 悪くねえ。——全然、悪くねえ。

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