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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第三部 世界の親方

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親方、帝国の職人を黙らせる



 飛梁の工事は順調に進んでる。


 ヴァルターの石工が、外壁に石造アーチを架けていく。こいつらの石積みは本当にすげえ。飛梁の曲面を、型枠なしで積み上げやがる。石の噛み合わせだけで曲面を維持する技術は、俺には真似できない。


 設計は俺とエルノ。施工はヴァルター。控え柱の基礎はコンクリートで俺が打った。


 合作ってのは、こういう形が理想だ。


 だが、飛梁をかけてる間に別の仕事が回ってきた。


「棟方殿。皇帝陛下の命で、帝国各地から職人を三百人集めた。技術研修を行ってほしい」


 ゲルハルトが言う。


「三百人か。レグニカでもやったな」


「ただし——レグニカの時と事情が違うとは思う」


「何が違うんだ?」


「帝国の職人は軍の命令で来ている。自分から学びに来たわけではない者が多い。中には『よそ者に教わることなどない』と公言している者もいる」


 なるほどね。


 レグニカの研修は、テツの仕事を見て「学びたい」と志願した連中が来た。帝国は「行け」と命令されて来た連中。モチベーションが違う。


「場所は?」


「城の前の大広場を用意した。材料も揃えてある」


「じゃあ明日やる。——ヴァルター、飛梁は石工に任せて、研修に付き合ってくれ」


「儂がか? 何をすればいい」


「助手だ」


「…………儂が、助手?」


「嫌か」


「嫌ではない。——ないが、儂は帝国軍事建築総監だぞ」


「だから効くんだろ。帝国最高の石工が助手をやってる姿を見せりゃ、どんな偏屈な職人でも『何事だ』って思う」


 ヴァルターが渋い顔をした。だが断らなかった。


「……好きにしろ」


「ありがとよ、爺さん」


「爺さんって言うな」



    * * *



 翌朝。大広場。


 三百人の職人が整列してる。石工、大工、左官、鍛冶、瓦職人——帝国中から集められた専門家たち。


 だが目が死んでる奴が多い。


 腕組みして壁に寄りかかってる奴。あくびしてる奴。「さっさと終わらせて帰りてえ」って顔の奴。


 まあ、そうだろうな。軍に「行け」って言われて来ただけだもんな。


 俺は広場の中央に立った。


「俺は棟方鉄。レグニカ王国から来た土方だ。建築家でも魔法使いでもねえ。——今日は一日で、この広場にでかいもんを建てる。見ててくれ」


 反応が薄い。「何を建てるんだ」って顔はしてるが、期待はしてない。


「ヴァルター。材料を」


 ヴァルターが後ろから歩いてきた。


 三百人がざわついた。


「ヴァ、ヴァルター閣下!?」


「帝国の壁が何でここに!?」


「嘘だろ!? 閣下が手伝いをしてるのか!?」


 ヴァルターが平然と石材を運んでる。帝国軍事建築総監が、よそ者の横で荷運びしてる。


「閣下……! 何をなさってるんですか……!」


 石工の一人が駆け寄った。


「見りゃ分かるだろう。手伝いだ」


「な、何故!?」


「この男から学べることが、儂の五十年より多いからだ。——黙って見ていろ」


 三百人が凍りついた。


 帝国最高の石工が、五十年の経験より多いと言った。


 全員の目の色が変わった。



    * * *



 さて、本番だ。


 建てるのは連続アーケード(・・・・・・・)。アーチを連続で並べて、屋根付きの通路を作る。長さ三十メートル、幅五メートル、高さ四メートル。アーチが六連。


「これは要塞の技術じゃない。街の技術だ」


 石材を並べた。帝国の花崗岩。切り出し済みの迫石(せりいし)がずらっと並ぶ。


「アーチってのは、石を楔形に切って、上から順に噛み合わせる。全部の石が互いに押し合って、最後に頂上の要石(キーストーン)を入れた瞬間、全体が一つになってロックされる。——型枠を外しても、石だけで立つ」


 説明しながら、最初のアーチを積み始めた。木の型枠を組んで、その上に迫石を並べていく。


「おい、手伝え。見てるだけじゃ覚えられねえぞ」


 最初は誰も動かなかった。


 ヴァルターが黙って石を持ち上げた。俺の横に据えた。噛み合わせを確認して、コテで目地を入れた。


 それを見て——石工の一人が動いた。


「……俺も、やらせてくれ」


「来い。この石をそこに据えろ。向きに気をつけろ、楔の広い方が外だ」


「こ、こうか?」


「そうだ。うめえじゃねえか」


 二人目が動いた。三人目。十人。二十人。


 気がつけば、三百人全員が何かしらの作業をしてた。石を運ぶ奴、目地を入れる奴、型枠を支える奴。大工は木の型枠を組んでる。鍛冶が金具を叩いてる。瓦職人が排水を考えてる。


 全員、自分の専門で参加してる。


 命令されたからじゃない。手が動いたからだ。職人ってのはそういう生き物だ。目の前で物ができていくのを見たら、手を出さずにいられない。


 昼過ぎ。アーチが三連立った。型枠を外す。


「……おい。立ってるぞ」


「石だけで立ってる……!」


「型枠を外しても崩れねえ! 何だこれ!」


「アーチの力学だ。全部の石が互いに押し合って、全体で支えてる。一つの石が抜けない限り崩れない。——これがアーチの強さだ」


 夕方。六連全部が立った。


 三十メートルの連続アーケード。石のアーチが六つ並んで、屋根付きの通路を作ってる。


 一日で建った。三百人の帝国職人が、一日で。



    * * *



 完成した瞬間、誰かが拍手した。


 続いて別の誰か。また一人、また一人と続いていく。


 気づけば三百人の拍手が広場に響いていた。自分たちで建てたものに、自分たちで拍手してやがる。


 だが、俺が見てたのは別のものだ。


 アーケードの下を、帝国の子供たちが走り回ってる。


 いつの間にか広場の周りに住民が集まってた。貧民街の子供が、アーケードの下に飛び込んできた。石の天井の下を走り回って、笑ってる。


「雨が降っても濡れないぞ!」


「すげえ! 屋根がある! 外なのに屋根がある!」


「ここでかくれんぼしようぜ!」


 職人たちが、その子供たちを見ている。


 さっきまで「命令だから来た」って顔をしてた連中が、子供の笑い声を聞いて——黙った。


 帝国の建築は軍事だ。要塞、城壁、砦。全部、敵を防ぐためのもの。子供が走り回るためのものじゃない。


 だがアーケードは違う。雨の日も雪の日も、この通路の下なら商売ができる。子供が遊べる。婆さんが日向ぼっこできる。


 ——こういう場所を作るのが、建築ってもんだ。


「ねえ、おっちゃんたち! これ作ったの!?」


 子供が石工の一人に駆け寄った。


「あ、ああ……俺たちが作った」


「すっげー!! ありがとう!!」


 石工が——泣いた。


 いい歳した帝国の石工が、子供に「ありがとう」と言われて、顔をくしゃくしゃにして泣いた。


「おい……泣くなよ……」


 隣の石工も目を擦ってる。


「うるせえ……目にゴミが入ったんだ……」


 ——おい、それは俺のセリフだぞ。


 ヴァルターがアーケードの柱に手を当てて、じっと見上げていた。


「棟方」


「何だ」


「儂は五十年、壁を積んできた。敵を防ぐ壁だ。一度も、子供に『ありがとう』と言われたことはなかった」


「……そうか」


「今日、初めて分かった。お前が作っているものは、壁じゃない。——場所だ」


 場所。


 ……悪くねえ言い方だな。


「ヴァルター。こういう場所を、帝国中に作れ。あんたの石工の腕なら、俺よりきれいなアーケードが建つ」


「……ああ。作る。作ってみせる」


 カーラがアーケードの下で帝国の菓子を買ってる。いつの間にか露店が出てやがる。


「親方! この菓子おいしい! 帝国の蜂蜜パン!」


「お前はどこの国でも真っ先に屋台を見つけるな……」


「だって、屋根ができたら店ができるのよ。あんたが作ったのよこれ」


 リルが精霊と話してる。


「親方さん! シルフが言ってます! このアーチの中、風が心地いいって! 通り抜ける風がちょうどいい速さになるんですって!」


「アーチのトンネル効果だな。風を加速させる。夏は涼しくなる」


「精霊もアーケードが気に入ったみたいです!」


 精霊にまで気に入られてるのか。


 ルッカがアーチの金具を点検してる。


「親方。金具の噛み合わせ、帝国の石工が自分で調整してました。わたしが指示する前に」


「覚えが速いな、帝国の連中は」


「はい。……嬉しいです。わたしの金具の使い方を、自分で考えて応用してくれるの」


 ルッカが小さく笑った。こいつが笑うと、現場の空気が柔らかくなる。


 エルノとイレーネが、三百人の職人名簿にチェックを入れてる。


「棟方殿。三百人全員が何らかの工程に参加しました。不参加者ゼロです」


「帝国語の技術マニュアル、初稿が完成しました! アーケードの施工手順、ブロック工法、床暖房、すべり支承——四種類です!」


「四種類を何日で書いた」


「三日です!」


「……お前ら、化け物だな」


「「ありがとうございます!」」


 声が揃った。もう息ぴったりだ。記録魔コンビ、完全に出来上がってやがる。


 三百人の職人が帰っていく。朝とは目の色が違う。


 最後に出ていった石工が、振り返って叫んだ。


「親方! 明日もやるのか!?」


「明日は飛梁の仕上げだ。見学したけりゃ来い」


「行く! 絶対行く!!」


 ……親方って呼ぶな。土方だっつってんだろ。


 まあ、もう慣れたけどな。


 空を見上げた。帝国の灰色の空に、六連のアーチが並んでる。一日で建った、帝国初のアーケード。


 悪くねえ。


 全然、悪くねえ。

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