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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第三部 世界の親方

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親方、 地震対策をする


 貧民街に二軒目、三軒目と家が建っていく。


 帝国の石工たちが本気を出し始めた。こいつらは一回やり方を見せたらもう勝手に動く。ブロックの積み方を覚えるのに半日もかからなかった。石を積むのと理屈は同じだからな。


 四日で十軒。ヴァルターが現場を仕切ってる。俺が口を出す必要がほとんどねえ。


「棟方。三番の家の北壁、目地の厚みが一ミリ狂ってた。積み直させた」


「一ミリて。あんた、目で一ミリが分かるのか」


「当たり前だ。五十年積んでりゃ分かる」


 このジジイ、石工の腕は化け物だ。正直、積みの精度は俺より上。いや、俺が見てきた職人の中でも最高峰かもしれん。こいつが本気でコンクリートブロックを積んだら、レグニカのどの壁より正確な壁ができる。


 ただし——積み方だけだ。


 設計の引き出しが足りない。


 帝国の建築は「分厚い壁を真っ直ぐ積む」が基本。横揺れへの対策がない。控え壁の概念は星型要塞の報告書で知ったが、実物を作ったことはない。


 もっと根本的な問題がある。


 地震だ。


「ヴァルター。帝国で地震はあるか」


「ある。年に数回は揺れる。大きいのは十年に一度くらいだ」


「地震で建物が壊れたことは?」


「何度もある。石造りの建物は地震に弱い。重い石が積んであるだけだから、揺れると崩れる」


「だろうな」


 石造りは圧縮には強いが、引っ張りと横揺れに弱い。ドラゴンの衝撃波も地震みたいなもんだが、帝国は地震そのものがある。こっちの方が頻度が高い。


「地震対策、やるか」


「何か手があるのか!?」


「ある。とんでもねえやつが」



    * * *



 兵舎の食堂にでかいテーブルを借りた。


 石工たちとヴァルター、ゲルハルト、イレーネ、それからうちの連中。二十人ほどが食堂に集まってる。


 テーブルの上に、模型を二つ載せた。


 どっちもコンクリートブロックで積んだ小さな家。手のひらサイズ。王に会った時にやったのと同じだ。ただし今回は中身が違う。


「この二つの家、見た目は同じだ。だが一つだけ違う。——ルッカ、あれを」


 ルッカが布の包みを開いた。中に、薄い板が何枚も重なったものがある。


「何だそれ」


すべり支承(・・・・・)っつうもんだ。鉛の板と、油を染み込ませた革を、交互に重ねてある」


 厚さ三センチほどの円盤。ルッカが鍛造した鉛板五枚と、油脂を浸した革四枚を交互にサンドイッチにしたもの。


 一つ目の模型はテーブルの上に直接置いた。基礎と上の家がくっついてる。普通の建て方だ。


 二つ目の模型の基礎と上の家の間に、すべり支承を挟んだ。基礎と家が、鉛と革の円盤で分離されてる。


「二つの家を揺らす。——ヴァルター、テーブルを横に揺すってくれ」


「揺するだけでいいのか」


「ああ。地震だと思って、横にガタガタやってくれ」


 ヴァルターがテーブルの端を掴んだ。


 ガタガタガタッ!


 テーブルが横に揺れた。


 一つ目の模型——直接置いた家。


 壁にヒビが入って、ブロックがバラバラに崩れた。ぐしゃっと潰れて、テーブルの上に瓦礫が散らばった。


 二つ目の模型——すべり支承を挟んだ家。


 家が横に——滑った。


 テーブルは揺れてる。だが家は揺れてない。基礎の上をツルッと横に滑って、元の位置からズレただけだ。壁にヒビ一つ入ってない。


 食堂が静まり返った。


 三秒。


「——は?」


 石工の一人が素っ頓狂な声を出した。


「はあああ!? 何で!? 何で崩れてないんだ!?」


「同じ家だろ!? 同じブロックだろ!?」


「何を挟んだ!? あの円盤は何だ!?」


 石工たちが模型に殺到した。潰れた方と潰れてない方を交互に見てる。すべり支承を持ち上げて、ひっくり返して、匂いを嗅いでる奴までいる。


 ゲルハルトが腕を組んだまま、目を見開いてる。


「……棟方殿。今のは——何が起きた」


「簡単な話です。地震で壊れるのは、地面の揺れが建物に伝わるからだ。だったら、伝わらなくすりゃいい。基礎と建物の間に滑る層を挟めば、地面が揺れても建物は揺れない。地面だけが勝手に揺れて、建物は上に乗ったまま滑るだけだ」


「滑る……だけ……」


「そうだ。揺らさずに滑らせる。俺の故郷じゃ免震(めんしん)って呼ぶ。——まあ、こいつはまだ試作品だがな」


 ヴァルターがすべり支承を手に取った。鉛と革の円盤を、指で押した。ぬるり、と層がズレた。


「……鉛が滑るのか」


「ああ。鉛は柔らかくて滑りやすい。革に油を染み込ませてさらに滑りをよくしてある。この二つの組み合わせで、横方向の力をほとんど逃がす」


「だが、こんな小さな模型の話だろう。実物大の建物で同じことができるのか」


 きた。当然の疑問だ。


「できる。すべり支承の直径をでかくして、数を増やせばいい。建物の重さに応じて支承の面積を計算する。——エルノ」


「はい。仮にこの兵舎と同規模の建物の場合、支承の直径を三十センチ、建物の外周と内部に合計二十四基配置すれば、自重を支えつつ横方向の滑りを確保できます」


 エルノがノートを広げた。もう計算してあるのか。こいつの頭の回転は異常だ。耳は真っ赤になってるが。


「二十四基……」


「鉛は帝国で採れるか」


「採れる。鉛鉱山が南にある」


「なら材料は揃う。あとは作って試すだけだ」


 イレーネがものすごい勢いでノートに書き込んでる。ペンのインクが飛び散ってる。


「棟方殿! この支承の鉛板の厚さは何ミリですか!? 革の油脂の種類は!? 積層の順番に理論的な根拠はありますか!?」


「落ち着け嬢ちゃん。順番に答えるから」


「す、すみません……! でもこれ、帝国の建築を根本から変える技術です……!」


 イレーネの目が完全に据わってる。記録魔のスイッチが入った顔だ。エルノと同じ顔。


 ヴァルターが、もう一回テーブルを揺すった。


 ガタガタガタッ!


 すべり支承の模型が、また滑った。そして——止まった。ヒビなし。


「もう一回揺すっていいか」


「好きなだけやってくれ」


 ガタガタガタガタッ!!


 滑る。止まる。無傷。


 ガッタガッタガッタ!!!


 三回目。ヴァルターが本気で揺すった。テーブルが軋んだ。直接置いた方の瓦礫が床に落ちた。


 すべり支承の模型は——ズレた。大きくズレた。テーブルの端まで滑った。


 だが、壊れてない。


「…………」


 ヴァルターの手が止まった。テーブルの端でぎりぎり踏みとどまってる模型を見つめてる。


「——五十年だ」


「え?」


「五十年、地震のたびに壁が崩れた。何度も積み直した。何度も。石を分厚くすれば耐えると思った。目地を強くすれば持つと思った。——違った。そもそも揺れを伝えなければよかったのか」


「そうだ。揺れと戦うんじゃなくて、揺れを受け流す。——あんたの壁は十分に強い。だが強い壁は揺れに硬く抵抗するから、限界を超えた瞬間にバキッと折れる。すべり支承はその力をぬるっと逃がす。硬いだけじゃダメなんだ、柔らかさがいる」


「柔らかさ……」


 ヴァルターが、すべり支承の円盤をもう一度指で押した。ぬるり。鉛と革が滑る感触を、職人の指が確かめてる。


「棟方。これを——帝国の全ての建物に入れられるか」


「入れられる。新築なら基礎を作る時に仕込むだけだ。既存の建物でも、根継ぎと同じ要領で後から入れられる。——出し惜しみはしねえよ」


 石工の一人が叫んだ。


「ヴァルター閣下! この技術がありゃ、地震で家が潰れなくなるってことですよね!?」


「……ああ」


「帝国中の建物に!?」


「……ああ」


「すげえ……すげえぞこの親方……!!」


 親方と呼ばれた。帝国の石工に。


「親方じゃねえ。土方だ」


「ドカタ!? 何だそりゃ!」


「建物を作ったり直したりする仕事だ」


「それ親方と何が違うんだ!?」


「……細けえことはいいんだよ」


 ツッコミが追いつかねえ。言葉の壁もあるし、勘弁してくれ。


 カーラが壁に寄りかかって笑ってる。


「ねえ親方。帝国でも親方って呼ばれてるわよ」


「うるせえ」


「どこ行っても同じね」


「うるせえっつってんだろ」


 リルが精霊と何か話してる。


「親方さん! ノームが怒ってます! さっきのテーブル揺らし、地面まで響いたって! 何事かと思ったって!」


「……ヴァルターに言え。あのジジイが全力で揺すったせいだ」


「儂のせいか」


「あんたの握力がおかしいんだよ。テーブルにヒビ入ってるぞ」


「……すまん」


 ルッカがすべり支承を回収して、丁寧に布に包んだ。


「親方。この支承、実物大を作るなら鍛造に三日ください。鉛の純度を上げて、滑りをもっと良くします」


「頼む。——あと、帝国の鉛を使ってみてくれ。レグニカの鉛と質が違うかもしれん」


「はい。……楽しみです」


 ルッカの目が光ってる。新しい素材をいじれる時のこいつは、本当にいい顔をする。


 イレーネとエルノが隅っこで頭を突き合わせてる。ノートを見比べて、何か議論してる。帝国語とレグニカ語が混ざった会話。たまにエルフ語が入る。記録魔同士は国境を越えるらしい。


「棟方殿!」


 イレーネが顔を上げた。


「すべり支承の標準仕様書、一週間で初稿を作ります! 帝国語とレグニカ語の二カ国語版で!」


「エルノと二人でか」


「はい! エルノ殿の構造計算と、私の帝国の建築基準を組み合わせれば、帝国のどの現場でも使える仕様書になります!」


 エルノが横で頷いてる。耳が赤い。いつものことだが、いつもよりだいぶ赤い。


「……棟方殿。イレーネ殿は、非常に優秀です」


「そうか」


「はい。記録と整理の能力が、私と同等かそれ以上です」


 エルノが他人を褒めるのは珍しい。よっぽどだな。


「じゃあ二人で頼む。——仕様書ができたら、帝国中に配れ。この技術は独り占めするもんじゃない」


「「はい!」」


 声が揃った。二人とも同時にノートを開いた。動きまで揃ってる。


 ……類は友を呼ぶってやつか。


 ヴァルターがコーヒー——いや、帝国には麦茶しかないんだった。麦茶を持ってきた。


「棟方。飲め」


「……ありがとう」


「礼はいらん。——明日から、実物大の支承を兵舎でテストするぞ。場所は儂が手配する」


「助かる」


「帝国の建物は、儂が責任を持つ。だが設計はお前に任せる。——いいな」


「ああ、最初からそのつもりだ」


 麦茶を飲んだ。苦くはないが、物足りない。やっぱコーヒーが恋しいな。


 だが——悪くねえ一日だった。

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