表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第二部 王国の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/161

親方、まだまだ続ける


 俺は棟方鉄。四五歳。異世界土方だ。


 朝。目が覚めると、東の窓から朝日が射し込んでた。


 自分の家、自分の部屋、自分のベッド。


 起き上がって階段を降りた。図面室を通り過ぎて、作業場を抜けて、裏口から中庭に出た。


 コーヒーを淹れた。焚き火で湯を沸かして、自分で炒って挽いた豆を布で漉す。黒い液体が椀に落ちていく。香ばしい匂いが中庭に広がる。


 一口。


「…………くぅ」


 苦い。うまい。朝が始まる味だ。


 ガルドが起きてきた。寝癖で毛が立ってる。獣人の寝癖は一般人の三倍すごい。


「おはよう、親方。コーヒーくれ」


「自分で淹れろ」


「親方のが美味いんだよ」


「……ほら」


 結局注いでやった。こいつには甘い。


 ルッカが鍛冶場から出てきた。朝から炉に火を入れてたらしい。顔に煤が付いてる。


「おはようございます、親方。昨日の水車用の歯車、焼き入れが終わりました」


「朝飯前に焼き入れしたのかよ。飯食え」


「食べます。——おはようございます、ガルドさん」


「おう。おはよう」


 エルノが二階から降りてきた。ノートを抱えてる。寝る前にも書いてたし、起きてすぐ書いてる。こいつの頭は二十四時間回ってるのか。


「おはようございます、棟方殿。水力練り機二号の設計案をまとめました。歯車比を変えることで攪拌速度を三段階に切り替えられます」


「朝一番にそれを報告するな。まずコーヒーを飲め」


「はい。——いただきます」


 リルが中庭に出てきた。精霊たちが周りをふわふわ飛んでる。四体とも元気だ。


「おはようございます、親方さん。今日のお天気、シルフに聞きました。晴れです。風は南風で、気温は——」


「リル、天気予報はいいから飯を食え」


「はい!」


 カーラは——まだ寝てる。朝が弱い。


 六人と四匹の朝。いつもの朝だ。



    * * *



 朝飯を食って、街に出た。


 下町を歩く。コンクリートの道路。ブロック造りの家が並んでる。水盤から水が流れてる。排水溝がきちんと動いてる。


 一年半前、この道は泥だらけだった。家は傾いてて、排水は垂れ流しで、雨が降ればぬかるんだ。


 今は——普通の街だ。きれいとは言わんが、まともな街。水が出て、道が平らで、家が真っ直ぐ立ってる。当たり前のことが当たり前にある街。


 市場に寄った。フェルマンが走ってきた。


「棟方殿、ちょうど良かった! 実は、南棟の柱にひびが——!」


「見る」


 市場の南棟。二年前に建てた最初期のコンクリート建築だ。柱の一本にひびが入ってる。


 指で触った。深さ一センチ。鉄筋には届いてない。荷重のかかり方に偏りがある。隣の店舗が増築して、想定以上の重さが柱にかかってるんだ。


「フェルマン、隣の増築部分に独立した柱を追加しろ。荷重をこの柱から分散させる。ハインツに頼めば半日で終わる」


「半日で! ありがとうございます!」


「礼はいい。定期点検を怠るな。ひびは小さいうちに見つけろ」


「はい!」


 五分。五分で診断して、解決策を出して、次に移る。一年前なら半日かかってた仕事が、五分で終わる。


 上町に歩いた。レンハルト卿の屋敷の前で、見覚えのない職人が壁の補修をしてた。ハインツの弟子か。仕事を見た。コテの使い方が丁寧だ。壁面が滑らかに仕上がってる。


「いい仕事してるな」


「あ、棟方殿! ありがとうございます!」


「その角のモルタル、もう二ミリ厚くしろ。角は衝撃を受けやすいから、気持ち厚めにしとけ」


「二ミリ。分かりました!」


 二ミリの指示が通じる職人がいる。一年半前はコンクリートの「コ」の字も知らない連中ばっかりだったのに。


 城壁に登った。北面を歩く。ドワーフの噛み合わせ工法で改修した区間。一年経っても傷一つない。鉄壁だ。


 城壁の上から街を見下ろした。


 南に拱門が光ってる。その向こうに畑が広がってる。


 東に水道橋のアーチが続いてる。その先に運河が繋がってる。


 西の空に、山の上に星型の要塞が——見えないが、あることは知ってる。


 南の向こうの向こうに、港がある。灯台が夜になれば光る。


 全部、俺たちが作ったもんだ。



    * * *



 昼過ぎ。作業場に戻ったら、来客があった。


 見覚えのない若い男が三人。旅装。手に道具袋を持ってる。


「棟方殿。私たちは北の連合諸国から来ました。研修で習った技術で、自分の村に家を建てました。——見ていただきたいものがあります」


 一人が道具袋から小さな箱を取り出した。木とコンクリートでできた模型だ。


 二重壁の構造。外壁と内壁の間に空気層がある。


「これは何だ?」


「寒冷地向けの断熱壁です。棟方殿に教わったブロック工法を改良して、壁を二重にしました。間の空気層が熱を逃がさないので、冬でも室内が温かいです。うちの村では、薪の消費量が三分の一に減りました」


 断熱壁。空気層による断熱。元の世界じゃ当たり前の技術だが、俺はこの世界で教えてなかった。こいつらが自分で考え出したのか。


「お前ら、これを自分で考えたのか」


「はい。棟方殿が『自分の国の問題は自分で解決しろ』とおっしゃったので」


 言ったっけ。……言ったな。


「薪が三分の一。——これ、王国の北部でも使えるぞ。グラオス山脈の麓は冬が厳しい。フェルゲン村にも導入したい」


「本当ですか!?」


「ああ、お前らの技術を、俺が逆輸入する。——いいか、お前ら。これからフェルゲン村に行って、直接教えてこい」


「私たちが——教えるんですか」


「お前らが開発した技術だ。お前らが教えるのが一番正確だ。——胸を張れ。お前らは俺を追い越したんだぞ」


 三人の目が輝いた。


「はい! 行ってきます!」


 走っていった。北の寒冷地の若い職人が、レグニカ王国の村に技術を教えに行く。


 国境を越えて、技術が循環し始めてる。俺が教えた技術が、他国で改良されて、別の国に伝わる。


 壊れない家に国境はない。——本当に、そうなり始めた。



    * * *



 夕方。竜の湯に全員で行った。


 熱い湯に浸かった。


「くぅーーーーっ」


 この声は何百回出しても飽きない。


 ガルドが隣で沈んでる。


「親方。いい一日だったな」


「ああ。普通の一日だった」


「普通? 朝から市場の柱を直して、上町の職人を指導して、北の国から弟子が来て、水力練り機の改良もして。——これが普通か」


「普通だ。毎日こんなもんだ」


「親方の『普通』はおかしいんだよ」


 仕切りの向こうから声が聞こえた。


「親方さん。精霊たちが今日のお礼を言ってます。ノームが、水力練り機の基礎を見てくれてありがとうって」


「精霊に礼を言われる職人ってのも珍しいな」


「親方さんだけですよ、たぶん」


 ルッカの声も。


「親方、水車の歯車の二号機、明日には完成します。今度は鋳鉄で作ったので、強度が段違いです」


「楽しみだ」


「はい。——わたしも楽しみです」


 エルノの声。


「棟方殿、断熱壁の構造を標準仕様書に追加してよいですか。他国発の技術も記録すべきかと」


「追加しろ。技術に国籍はねえ」


「はい。そう書きます」


 カーラの声。


「ねえ親方。今日あたし何もしてないけど」


「いいんだよ。お前はいるだけで現場が明るくなる」


「……何よそれ。褒めてるの」


「褒めてねえ。事実だ」


「……ふん。もう一杯入ってくる」


 六人分の声が湯気の中を飛び交ってる。いつもの夕方だ。


 湯船に背を預けて、天井を見上げた。コンクリートの天井。鉄筋入り。俺が作った天井。


 この世界に来て、はや二年。


 加護なし。スキルなし。レベルは1のまま。ステータスは何一つ変わってない。


 だが——持ってるものは全然違う。


 二十五年の腕。コンクリートと鉄筋。四匹の精霊。五人の仲間。一杯のコーヒー。冷えた麦酒。勝ち飯。熱い風呂。


 帰る家がある。帰りを待つ奴がいる。明日やりたい仕事がある。



    * * *



 風呂から上がった。


 竜の湯の前に出ると、夜の王都が広がってた。


 コンクリートの道路に、水盤の水が月を映してる。市場の灯りが点いてる。浴場から湯気が上がってる。城壁のシルエットが夜空を切ってる。拱門の影が南の空に浮かんでる。


 遠くで、灯台の光が回ってるのが——見える訳はないが、回ってると知ってる。


 水の精霊が運河を流れてる。火の精霊が灯台を灯してる。土精霊がダムを見守ってる。風の精霊が要塞の上を吹いてる。


 この国の建物は——壊れない。


 ドラゴンが来ても。嵐が来ても。地震が来ても。


 壊れない建物を作った。壊れない建物を作れる人間を育てた。壊れない建物の作り方を国を越えて広めた。


 俺の仕事は——終わったか?


 いや。


 全然終わってない。


 水力工場を作る。断熱壁を広める。運河の支線を引く。港を拡張する。新しい村を建てる。隣の国の職人を育てる。もっと遠い国に技術を伝える。


 やることは山ほどある。一生かかっても終わらない。


 だが——それでいい。


 土方ってのは、そういう仕事だ。終わらない仕事を、一日ずつ、一歩ずつ、積み上げていく。コンクリートのブロックを一個ずつ積むように。


「親方。帰ろうぜ」


 ガルドの声。


「おう」


「明日も早いんだろ」


「ああ。水力練り機の二号機の据え付けだ」


「あと何か」


「北の断熱壁の検証。フェルマンの市場の増築打ち合わせ。竜の湯の排水溝の掃除」


「盛りだくさんだな」


「いつものことだ」


 五人と四匹で、作業場に帰った。自分たちの家に。


 門をくぐる時、ガルドが振り返って拱門を見た。月明かりの中、灰色の弧が空を跨いでる。


「親方」


「なんだ」


「この国に来て——よかったな」


「……」


 二年前、足場から落ちて死んだ。何もない世界に放り出された。加護もスキルも金も家も、何一つなかった。


 割栗石を担いで河原を三往復した。壁を直して銅貨四十枚もらった。


 そこから始まった。


 今は——全部ある。


「……ああ。悪くねえ人生だ」


 玄関の灯りが見えた。ルッカが点けておいてくれたんだろう。


 帰る場所がある。明日の仕事がある。仲間がいる。


 これ以上、何がいるってんだ。


「さて。寝るか。明日も早いんだ」


 棟方鉄。四五歳。異世界土方。


 仕事は——まだまだ続く。


いつもご愛読いただきありがとうございます!

これにて第二部完結です

よかったら、ブクマと評価だけでも是非お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
第二部完結おめでとうございます。 サクサク物語が進んで読みやすいです。 引き続き親方の活躍を楽しませてもらいます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ