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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第二部 王国の親方

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親方、世界に教える


 竜の湯が開業して一週間。毎日満員御礼だ。銅貨二枚の入浴料で、月の売上が金貨を超えた。フェルマンが「風呂がこんなに儲かるとは」と目を回してる。


 だが俺は次の仕事に取りかかってた。


 アレクシス王子から依頼が来た。


「棟方殿。各国から建築技術の研修要請が殺到している。受けてくれないか」


「各国?」


「ヴァルディア帝国。南方アシュラント王国。東の島国。北の連合諸国。全部で五カ国。『棟方殿の技術を学びたい』と」


 五カ国。俺の噂が大陸中に広まってたのか。酒場の旅商人の噂話が、いつの間にか国家レベルの外交案件になってる。


「ゲルハルト将軍からも正式に書状が来ている。『壊れない家に国境はない。あなたの言葉を皇帝に伝えたところ、技術導入の許可が降りた』と」


 あの将軍、本当に動いたのか。


「受ける。全部受ける。——出し惜しみはしねえ」



    * * *



 南区画の広場に、三百人の職人が集まった。


 レグニカ王国の職人が百五十人。第一期の卒業生と新規が半々。そしてここに——他国から百五十人。


 帝国から四十人。がっちりした体格の石工が多い。軍服っぽい統一装備。規律正しく並んでる。


 南方アシュラント王国から三十人。浅黒い肌に派手な服。アマディ船長が引率してる。


 東の島国から二十人。小柄で手先が器用そうだ。木工の道具を持ってる。


 北の連合諸国から三十人。大柄で毛皮を着てる。寒冷地の建築を求めてるらしい。


 その他の国から三十人。


 三百人。前回の百二十人の二・五倍。しかも国際。


「棟方鉄だ。土方だ。今日から十日間、お前らに俺が持ってる技術を全部教える。国も種族も関係ねえ。覚えて帰って、自分の国で使え」


 通訳がいる。アマディが南方語に、帝国の将校が帝国語に訳してくれてる。エルノがエルフ語も対応してくれた。こいつ、何カ国語喋れるんだ。


 帝国の職人の一人が手を挙げた。でかい男だ。


「質問。あんたは何故、敵国にも技術を教えるんだ。帝国とレグニカは去年まで戦争寸前だったぞ」


 通訳を通さなくても、態度で分かる質問だ。疑ってる。当然だ。


「いい質問だ。答えは簡単。ドラゴンは国境を越えて来る。地震も嵐も洪水も国境なんか知らねえ。壊れない家を作る技術に国境を引いたら、国境の向こう側で人が死ぬ。俺はそれが嫌だ。——以上」


 通訳された瞬間、広場が静まり返った。


 帝国の男が何か言いかけて、口を閉じた。隣の帝国兵が小さく頷いてた。


「前置きはいい。やって見せる。——ガルド、コンクリートを練れ」


「おう!」



    * * *



 十日間のカリキュラム。前回の七日間より濃い。


 初日。コンクリートの基礎。三百人が一斉に練る。広場が灰色に染まる。


 帝国の石工が最初に驚いた。


「この灰色の泥が、石より硬くなるだと? 嘘だろう!?」


「嘘じゃねえ。明日になれば分かる」


 翌日。固まったコンクリートを帝国の男が殴った。拳が赤くなった。


「……痛え。本当に石より硬い!」


「だから言っただろ。——次はこの中に鉄を入れる」


 二日目。鉄筋。ルッカが実演した。鉄筋入りのコンクリートと、鉄筋なしのコンクリートを並べて、ガルドに蹴らせた。


 鉄筋なし。バキッと割れた。


 鉄筋あり。びくともしない。ガルドの足が痛そうだ。


「何だこりゃ! 鉄を入れただけでこんなに変わるのか!」


 三百人がざわめいた。国も言葉も違うが、驚きの顔は万国共通だ。


 三日目。ブロック工法。型枠にコンクリートを詰めて、ブロックを量産する。


 南方の職人が飲み込みが早い。手先が器用で、型の扱いが上手い。


「ブロックの精度がいいな。お前、何の職人だ」


「煉瓦職人です。煉瓦の型は使い慣れてます」


「じゃあブロックはすぐ覚えるな。——教える側に回ってくれ」


「え、俺が教える?」


「お前が一番うまい。うまい奴が教えるのが一番早い」


 南方の煉瓦職人が、帝国の石工にブロックの作り方を教え始めた。敵国同士が、建築の技術で繋がった。


 四日目。防水・防錆。ルッカの松脂コーティング。海沿いの国の職人が食いついた。


「うちの国は塩害がひどくて、鉄が使い物にならないんだ。これがあれば——!」


「松脂と獣脂を混ぜるだけだ。どこの国でも手に入る材料だろ」


「手に入る。今すぐ試したい!」


 五日目。排水路と基礎工事。勾配の取り方。


 北の連合諸国の職人が質問した。


「うちの国は冬に地面が凍る。凍ると地面が膨張して、基礎が持ち上がる。どうすればいい?」


 凍結深度の問題。日本の北海道とかの雪国と同じだ。


「基礎を凍結深度より深く打て。地面が凍る深さより下に基礎があれば、持ち上がらない。お前の国じゃ、冬に地面が何センチ凍る」


「六十センチくらいです」


「なら基礎を一メートル下に打て。そうすれば凍っても基礎は動かない」


「それだけで……」


「それだけだ。深く掘るのは手間だが、手間をかけりゃ寒い国でもコンクリートの建物が建つ」


 北の職人の目が輝いた。自分の国の問題に、答えが出た顔だ。


 六日目。消波ブロック。海のある国の連中が大興奮。


 七日目。杭基礎。砂地盤の国の連中が感動。


 八日目。閘門の原理。全員が「風呂の桶」のたとえで一発理解した。風呂は偉大だ。


 九日目。星型稜堡。帝国の連中が複雑な顔をしてた。自分たちが攻め落とせなかった壁の設計図を、目の前で教えられてる。


「これを知ったら、うちの国でも同じものが建てられるぞ」


「建ててくれ。お前の国にドラゴンが来た時、この壁が国民を守る」


「……」


 帝国の男が黙って図面をノートに写した。


 十日目。卒業制作。


 三百人が三十のチームに分かれて、一つずつ構造物を建てた。小屋、壁、橋、排水路。三十の構造物が南区画の広場に並んだ。


 どれもコンクリートと鉄筋でできてる。どれも頑丈だ。十日前にはコンクリートの「コ」の字も知らなかった連中が建てた。


「全チーム合格だ。——お前ら、今日から自分の国の親方だ。帰って、教えて、建てろ!」


 三百人から拍手が返ってきた。国も言葉も違う三百人の拍手が、南区画の空に響いた。


 帝国の、あの最初に質問した男が近づいてきた。


「棟方殿。謝りたいことがある」


「何だ?」


「初日に『何故敵国に教えるのか』と訊いた。あんたの答えは『ドラゴンは国境を越えるから』だった。——十日間で分かった。あんたの技術は、国を守るためのもんだ。攻めるためのもんじゃない。壊すためじゃなく、守るために建てる。だから国境がいらない」


「……ああ。そういうことだ」


「帰国したら、うちの国でもコンクリートを作る。鉄筋を入れる。ブロックを積む。——壊れない家を建てる」


 男が手を差し出した。でかい手だ。石工の手。ゴツゴツしてて、タコだらけの手。


 握った。


 帝国の石工と、レグニカの土方が、握手した。


 周りで見てた三百人から——もう一度、拍手が起きた。今度のはさっきより大きい。


 アマディが泣いてた。「美しい光景だ」って言ってる。大げさだ。握手しただけだ。


 だが——まあ、悪くねえ光景だ。



    * * *



 研修最終日の夜。竜の湯で打ち上げ。


 三百人の職人が全員風呂に入った。百人収容の大浴場が三交代でフル回転。帝国も南方も北方も全員、同じ湯に浸かった。


 湯から上がった帝国の男が言った。


「棟方殿。帝国に帰ったら、最初にやることがある」


「何だ?」


「風呂を建てる。こんなものが世の中にあるとは知らなかった。帝国の皇帝に入らせたい」


「皇帝が風呂に入ったら、もう戦争する気なくなるだろうな」


「ははっ……ありえる」


 笑った。冗談だが、半分本気だ。風呂に入って気持ちいい気分の時に、隣国を攻めようなんて思わないだろう。


 風呂は平和を作る。本気でそう思う。


 冷えた麦酒を一杯。風呂上がりの最高の一杯。


「ガルド。お前、明日からまた運河の現場に戻るのか」


「おう。まだ船着き場の増設が残ってるからな。——でも親方」


「なんだ」


「ときどきは帰ってこいよ。風呂が待ってるからな」


「……ああ。帰ってくる」


 帰ってくる。この街に。この風呂に。この仲間のところに。


 三百人の職人が、明日それぞれの国に帰っていく。持ち帰るのはコンクリートの作り方と、鉄筋と、ブロック工法と、防錆技術と——風呂の記憶だ。


 世界中に風呂ができる日が来るかもしれん。壊れない家と、温かい風呂がある世界。


 ……いいじゃねえか。そういう世界。

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