↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第二部 王国の親方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/161

親方、帰り道を歩く


 防衛壁の補修を終えて、南に下った。


 まっすぐ王都に帰ってもよかったが、足が東に向いた。ダムだ。ガルドの現場を見に行きたい。手紙で「やった」と聞いたが、自分の目で見なきゃ気が済まない。職業病だ。


「親方、東に行くの? 王都は西よ」


「寄り道だ」


「寄り道って、東部まで二日かかるじゃない」


「二日くらいいいだろ」


 カーラが呆れた顔をしたが、付いてきた。リルも精霊も一緒だ。



    * * *



 二日後。穀倉地帯に入った。


 景色が違う。


 前に来た時は、畑が黄色く干からびてた。


 土が割れて、苗が枯れかけてた。農夫たちの顔が土色だった。


 今は——緑だ。


 見渡す限りの緑。麦が穂を出してる。野菜畑が青々としてる。果樹園に実が付き始めてる。水路にさらさらと水が流れてる。ダムの水が畑に届いてる。


「すげえな……」


 カーラが馬車の窓から身を乗り出した。


「前に来た時と全然違うわ。畑がいっぱい」


「水があるからな。水さえあれば、畑は応えてくれる」


 道沿いの農夫が馬車に気づいて手を振った。


「親方だ! 親方が来たぞ!」


「親方ーーー! 畑見てくれ! 麦がこんなに育ったぞ!」


 馬車を止めた。農夫たちが集まってきた。


「見てくれ親方、今年は二期作に挑戦してるんだ。水が年中あるから、春の麦と秋の芋を両方作れる」


「二期作か。いいじゃねえか」


「去年まで一期作で足りなかったのが、今年は倍以上だ。子供に腹いっぱい食わせてやれる」


 農夫のおばちゃんが籠いっぱいの野菜を持ってきた。


「親方、これ持ってって。うちの畑でとれたんだ。ダムの水で育てた野菜だ」


「……ありがとう。もらう」


「ありがとうはこっちの台詞だよ。あんたのおかげで畑が生き返ったんだから」


 籠の中に、みずみずしい葉物と、赤い実の果物と、太い芋が入ってる。ダムの水で育った作物。


 こいつで勝ち飯を作ったら、うまいだろうな。



    * * *



 ミュール峡谷に着いた。


 ダムが見えた。灰色の壁が峡谷を横切ってる。前に見た時は建設中だったが、今は——完成してる。堂々と立ってる。ヒビの補修跡がいくつかあるが、それは勲章だ。ドラゴンの衝撃波を受けて、持ちこたえた証。


 ダムの天端に人影が見えた。


 でかい影。狼の耳。


「——親方ーーーーー!!!」


 ガルドの声が峡谷に反響した。


 でっけえ声。山が揺れたのかと思った。


 ガルドがダムの天端から駆け下りてきた。全速力。土埃を巻き上げながら。


 俺の前で止まった。息が荒い。目が赤い。泥だらけの顔がくしゃくしゃだ。


「親方……! 無事だったか……!」


「無事だ。お前こそ」


「俺も無事だ。ダムも無事だ。運河も——」


 ガルドが振り返って、峡谷の向こうを指さした。


 運河が見えた。


 ダムの下流から南に向かって、コンクリートの水路が真っ直ぐ伸びてる。幅十メートルの立派な運河。途中に——閘門が見える。コンクリートの箱型の構造物が何基か並んでる。


「十基の閘門、全部完成した。運河の全長百五十キロ、全線開通してる。——昨日、最初の船が王都まで登っていった」


「昨日。——俺がいない間に全部やったのか」


「やったぞ。エルノが測量と閘門の設計を全部やって、ルッカが水門を十基分鍛造して、俺が掘削と打設を指揮した。農夫たちも手伝ってくれた。二ヶ月で全線通した」


 二ヶ月で百五十キロの運河と十基の閘門。


 俺がいなくても。


「……お前」


「なんだ」


「お前、もう一人前の現場監督になったな」


 ガルドの目がさらに赤くなった。


「当たり前だ。親方の弟子だからな」


「弟子じゃねえよ。もう」


「え?」


「お前は弟子じゃねえ、仲間だ。——棟方組の現場監督、ガルド。俺の名刺に書いてやりてえくらいだ」


 ガルドが固まった。口をぱくぱくさせてる。何か言おうとして、言えない。


「泣くなよ」


「泣いてねえ」


「嘘つけ。いったい何回泣いてんだ」


「数えるのはやめたって言っただろ」


 二人で笑った。


 ルッカとエルノが走ってきた。


「親方!」


「棟方殿!」


 ルッカが駆け寄ってきた。ちょっと背が伸びた気がする。


「親方、水門十基、全部わたしが作りました。一基も水漏れしてません!」


「十基。全部か」


「はい。錫合金の防錆加工も全基に施しました。十年は持ちます!」


「……大したもんだ」


 エルノが測量ノートの束を抱えてた。分厚い。


「棟方殿。運河の全線測量データと閘門の設計図をまとめました。同じ規格の運河を他の場所にも引けるように、標準仕様書にしてあります!」


「標準仕様書。——お前、頼んでないのにそこまでやったのか?」


「次に同じものを作る時、棟方殿がいなくても作れるようにすべきだと判断しました!」


 俺がいなくても作れるように。


 こいつら——三人とも、もう俺がいなくても仕事ができる。運河を設計して、水門を作って、百人の現場を回して、百五十キロの水路を二ヶ月で通した。俺抜きで。


「……お前ら、立派になりやがって」


「親方が育てたんでしょ」


 カーラが横から言った。


「俺は使っただけだ」


「また言ってる。使ってくれなきゃ育たなかったのよ、この子たちは」


 ガルドが前にも同じことを言ってたな。使ってくれなきゃ頑張りようがなかった、って。


 ……まあ、そうかもしれん。



    * * *



 夜。ダムの天端で飯を食った。


 農夫のおばちゃんにもらった野菜で勝ち飯を作った。野菜のカツだ。芋と葉物を薄切りにして、衣をつけて揚げた。卵でとじて、粟飯に載せる。


 ダムの水で育った野菜で作る勝ち飯。これ以上の縁起物はねえ。


 ガルドが四皿食った。カーラの記録を抜いた。


「新記録だぞ、ガルド」


「うめえんだもん。久しぶりの親方の飯だ。二ヶ月ぶりだぞ」


「お前、自分で作ってなかったのか」


「作ったけど、親方の味にならねえんだ。揚げ加減が分からん」


「教えてやるから明日覚えろ。俺がいない時でも食えるように」


「おう!」


 冷やした麦酒で乾杯した。ダムの上で。六人と四匹。


 夜空に星が出てた。


 空の星と、湖の星。二つの空に挟まれて飲む麦酒は、格別だった。


「なあ、親方」


「なんだ、ガルド」


「運河の最初の船が王都に着いた時、船頭が言ってたぞ。『この国は川で繋がった。山の水がダムに溜まって、運河を通って王都に届いて、港に繋がる。一本の水路で国が一つになった』って」


「船頭がそんなこと言ったのか。詩人だな」


「いい言葉だなと思って覚えてた」


「……ああ。いい言葉だ」


 山の水が、ダムに溜まって、運河を流れて、王都を通って、港に届く。水が国を繋いでる。


 壁が国を守って、水が国を繋ぐ。


 俺がやったのは——壁を建てて、水路を掘っただけだ。


 だが、その壁と水路が、国の形を変えた。


「さて。明日は王都に帰るぞ。船で」


「船で?」


「運河が通ったんだろ。船で帰る。自分たちが作った運河を通って」


「おお! いいな! 自分で掘った運河に船を浮かべるのか!」


 ガルドが目を輝かせてる。エルノも珍しく嬉しそうだ。ルッカが「わたしの水門を通るんですね」と小さく笑ってる。


 カーラは「船酔いしないかしら」と心配してる。この姐さん、馬車でも酔わないくせに。


 リルの精霊たちが水面をふわふわ飛んでる。水の精霊が嬉しそうだ。明日は運河で泳げるからか。


 明日。自分たちが作った運河を船で下って、自分たちが建てた城壁の街に帰る。


 いい帰り道だ。


 もう一杯だけ飲んで、寝よう。明日は——久しぶりに、仕事じゃない一日になりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。