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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第二部 王国の親方

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親方、クレーンを作る


 港が繁盛してくると、別の問題が出る。


 荷揚げだ。


 船から荷を降ろすのは人力だ。重い樽や木箱を、船員と港の作業員が背中に担いで、渡り板を歩いて桟橋に降ろす。一日中、ひたすら背負って歩く。


 見てられなかった。


 朝のコーヒーを飲みながら桟橋を歩いてたら、作業員の一人が膝をついた。背中に香辛料の樽を担いでたんだが、足がもつれて崩れた。樽が転がって、中身がぶちまけられた。


「おい、大丈夫か!」


「すみません親方……腰が……」


 腰をやった。背負い仕事の職業病だ。重いもんを毎日背負ってたら、いつか腰が壊れる。


 周りの作業員を見た。みんな腰に手を当ててる。肩が曲がってる。若い奴でも動きがぎこちない。


「セドリック。荷揚げ作業で怪我した奴は、何人いる?」


「今月だけで五人です。腰が三人、足を挫いた奴が二人。先月は七人でした」


「毎月そんなに出てるのか」


「港の仕事ですから。重い荷を運ぶのが商売なんで、仕方ないかと」


 仕方ない、か。


 俺は元の世界でも、この「仕方ない」って言葉が大嫌いだった。足場から落ちるのは仕方ない。重いもんで腰を壊すのは仕方ない。危ない現場で怪我するのは仕方ない。——全部嘘だ。仕方なくない。仕組みが悪いだけだ。


「仕方なくねえよ。今から直す」


「直す? 荷揚げの方法を?」


「人間が百キロの樽を担ぐ必要がなくなる仕組みを作る」



    * * *



『クレーン』を作る。


 元の世界じゃどこの港にもあるやつだ。腕を伸ばして、先端にロープを吊るして、荷物を持ち上げる。だがこの世界にはない。滑車すら、簡単なもんしか使われてねえ。


 原理は跳ね橋と同じだ。力を仕組みで変換する。


「ガルド、丸太を一本持ってこい。できるだけ真っ直ぐで長いやつ。八メートルくらいのやつだ!」


「おう!」


「ルッカ、滑車を四つ作ってくれ。鉄の軸と木の車輪。あと鉄のフックを一つ!」


「はい、親方!」


「エルノ、桟橋の端にクレーンを据える場所を決める。荷重の計算を頼む。船と桟橋の両方に腕が届く位置だ!」


「はい!」


 設計は簡単だ。桟橋の端に太い柱を一本立てる。そこに斜めに腕木を取り付ける。腕木の先端に滑車を付けて、ロープを通す。ロープの片端にフックを付けて荷物を掛ける。もう片端を引っ張ると、荷物が持ち上がる。


 ただし、力の倍率が大事だ。


 滑車を一つだけ使うと、力は変わらねえ。


 百キロの荷物を持ち上げるのに百キロの力がいる。意味がねえ。


 だが——滑車を組み合わせると、話が変わる。


 二つの滑車を組み合わせた複滑車(ふくかっしゃ)。ロープが二回折り返されるから、引っ張る力は半分で済む。百キロが五十キロに。


 四つの滑車なら四回折り返し。百キロが二十五キロに。


「二十五キロなら、片手で引ける」


「まさか、片手で百キロの樽を持ち上げるのか!?」


 ガルドが叫んだ。お前は百キロくらい片手で持てるだろうが、普通の人間の話をしてるんだ。


 ルッカが滑車を作ってくれた。鉄の軸がなめらかに回る。ドワーフ式の軸受けで摩擦が少ない。


 組み立て。桟橋の端に柱を立てて、腕木を取り付けて、複滑車を吊るした。


 半日で完成。


「よし。試す」



    * * *



 桟橋に港の作業員が集まった。荷揚げの手を止めて、全員が見てる。腰を押さえてる奴が何人かいる。


 船から一番重い荷を選んだ。塩漬け肉の大樽だ。作業員の一人に訊いた。


「あの樽、何人で担いでた」


「十人がかりです。それでも腰に来ます……」


「あれを今から、一人で持ち上げる」


 作業員たちがざわめいた。


「一人で? あの大樽を!?」


「嘘だろ!?」


「無理に決まってる。あれは牛でも引けねえぞ!?」


 フックを大樽に掛けた。ロープの端を、さっき腰をやった作業員に渡した。


「お前が引け」


「え、俺が? でもちょっと、腰がやられてて——」


「大丈夫だ、腰に力を入れなくていい。腕だけで引け、軽いからよ」


 作業員が半信半疑でロープを握った。恐る恐る引っ張った。


 ロープが滑車を通って、大樽のフックに繋がってる。


 複滑車が回った。ロープが四回折り返されて、力が四分の一になる。


 大樽が——浮いた。


「…………え」


 作業員の手が止まった。目が点になってる。


「引け、もっと引け。上まで上げろ!」


 ロープを引く。大樽がゆっくり上がっていく。船の甲板の高さまで。腕木の高さまで。


「すげっ……!!」


 作業員の声が裏返った。腰をやった男が、片手でロープを引いてるだけで、十人がかりの大樽が宙に浮いてる。


「腕木を回せ。桟橋の方にだ!」


 柱を軸にして腕木を回した。大樽が空中を移動して、桟橋の上に来た。


「ロープを緩めろ。ゆっくり……そう、ゆっくりだ!」


 大樽が桟橋にすとんと降りた。衝撃なし。静かに着地。


 ……港中が静まり返った。


 そして——歓声が爆発した。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「一人で上げた! あの大樽を一人で上げやがった!!」


「腰の悪いヨルクが片手で!!」


「何だあの仕組み! 何がどうなってんだぁ!!?」


 ヨルクと呼ばれた腰の悪い作業員が、自分の手を見つめてる。


 ロープを握った手。この手だけで、十人分の仕事をしたんだ。


「親方……俺、片手で引いただけなのに……」


「滑車が力を変えてくれてるんだ。お前が二十五の力を出せば、滑車が百の力に変えてくれる。お前の腰は使ってねえ。腕だけだ」


「腰を使わなくていい……」


 ヨルクの目から涙がこぼれた。


「腰を使わなくていいんですか。もう、腰を壊さなくていいんですか」


「ああ、もう樽を背負わなくていい。ロープを引け。あとは仕組みがやってくれる」


 ヨルクが涙を流しながら膝をついた。


 周りの作業員たちも黙ってねえ。


「俺にもやらせてくれ!!」


「俺も引きたい!!」


 次々にロープを引きたがる奴が出てきた。全員が試して、全員が同じ顔になった。「軽い」って顔。今まで背中に乗ってた重さが、嘘みたいに消えた顔。


「親方! もう一台作ってくれ! いや、三台! 五台!」


「作る。桟橋に五台据える。船ごとに一台ずつ使えるようにする」


 歓声、拍手、口笛――港中が沸いてるな。


 セドリックが走ってきた。


「棟方殿! このクレーンが五台あったら、荷揚げの時間がどのくらい短縮されますか!?」


「今まで十人で丸一日かかってた荷揚げが、二人で半日に縮まる。船の回転が倍以上になる。停泊料も、荷揚げ料も、倍はとれるわな」


 セドリックの目に銀貨のマークが浮かんだ。商人の顔だ。


「五台と言わず、十台お願いします!!」


「……十台か。まあ、構造は単純だからな。ルッカ、滑車をあと四十個——」


「もう二十個作り始めてます!」


 先読みしてやがる。頼もしい弟子だ。



    * * *



 その日のうちにクレーンを三台増設した。


 夕方には、港の荷揚げ作業が別世界になっていた。ロープ一本で大樽が宙を飛ぶ。重い木箱が軽々と船から桟橋に移動する。作業員たちが笑ってる。背中を曲げてない。腰を押さえてない。


 アマディ船長が、クレーンを見て興奮してた。


「これは素晴らしい! 我々の国にも、是非持ち帰りたい!!」


「持ち帰ってくれ、図面を渡す。滑車の作り方も教える」


「また出し惜しみなしですか!?」


「当たり前だ。世界中の港で荷揚げ人夫が腰を壊してる。一台のクレーンで何人の腰が救えると思う」


 アマディが豪快に笑った。


「あなたは商人ではないのに、商人より世界を変えますね」


「商人じゃねえよ。『土方』だ」


 ったく、このセリフ何回言わせるんだ。


 カーラが桟橋の上でクレーンを眺めてた。


「ねえ親方。これ、冒険者ギルドにも欲しいわ。ダンジョンから素材を運び出すのに使えそう」


「ダンジョンに据え付けるのは難しいが、地上の集積所に一台置けば使えるな」


「提案しとくわ。ギルドマスターに」


 この姐さん、たまに有能なことを言う。たまに、だが。


 夜。港の酒場。


 作業員たちが飯を奢ってくれた。銀尾鯛の刺身。大海老の塩焼き。蟹。冷やした酒。


 ヨルクが杯を持ってきた。


「親方。乾杯させてくれ!」


「おう!」


「俺、十五年この港で荷揚げやってた。腰は三回壊した。もう若い頃みたいには働けねえと思ってた……でも今日、あのロープを引いた時——十五年前の自分に戻った気がしたんだ!」


「ははっ、大げさだな」


「大げさじゃねえよ! 親方のおかげで、俺はまだ働ける。腰を壊さずに。——それが、どんだけ嬉しいことか!」


 杯を合わせた。酒がうまい。


「ヨルク。クレーンの操作、お前が一番うまかった。担当になれ」


「え、俺が!?」


「ロープの引き加減が丁寧だった。荷を揺らさないで下ろしてた。あれは、才能だ」


 ヨルクの顔がくしゃっとなった。


 泣きそうだ。でも、今は泣くな。酒がまずくなる。


「……ありがとうございます、親方」


「礼はいい。明日から五台全部の操作を覚えろ。新人にも教えてくれ」


「はい!」


 いい返事だ。


 窓の外で灯台の光が回ってる。クレーンの腕木が夜空にシルエットで浮かんでる。港の風景が、また一つ変わった。


 二ヶ月前はぼろぼろの漁港だった。今は消波ブロック、灯台、ドック、クレーン。どれもこの世界にはなかったもんだ。


 だが一番変わったのは、設備じゃなくて——人の顔だ。


 腰を押さえてた奴が笑ってる。船をなくすのが怖かった漁師が安心してる。船長が「この港に入れてよかった」と言ってくれる。


 それが全部だ。それが俺の仕事の全部だ。


「さて。もう一杯飲んで寝るか」


「親方、今日くらいもう一杯くらい——」


「三杯目は明日に取っとけ。明日も仕事だ」


「……はい」


 ガルドの耳がちょっとだけ垂れた。分かりやすい奴。


 まあ——今日だけは四杯目まで許してやるか。


 内緒だけどな。

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