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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第二部 王国の親方

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親方、敵将を招く


 帝国軍が退却して三日後。


 白旗を掲げた使者が、峠道を越えてきた。


 敵国、ヴァルディア帝国の使いだ。


「ヴァルディア帝国西方軍司令、『ゲルハルト将軍』が会談を求めています。休戦の旗の下、貴砦を訪問したい……と」


 ヴォルフが眉を寄せた。


「親方殿、これは罠かもしれません」


「罠だったら、あの堀に突き落とせばいい」


 カーラが物騒なことを言った。


「休戦の旗で来た相手を堀に落としたら国際問題だ。——通せ」


 ヴォルフが渋い顔をしたが、俺の判断に従ってくれた。



    * * *



 翌日。ゲルハルト将軍がやってきた。


 五十代。白髪交じりの短髪に、深い皺。軍服の上から毛皮のマントを羽織っている。


 付き従う兵は護衛五人のみ。


 この少数……度胸があるのか、こっちを舐めてるのか。


 跳ね橋を降ろして迎えた。将軍が橋を渡りながら、足元のコンクリートを見ている。堀の湯気を見ている。壁を見上げている。


 門の前で、俺が待った。


「ゲルハルト将軍、棟方鉄です。この要塞を建てた男です」


「棟方……テツ、か。貴殿が噂の建築家か」


「建築家じゃなく『土方』です。さて——中を案内しましょう」


「案内? 敵に中を見せるのか?」


「見せますよ。全部」


 将軍の眉が動いた。



    * * *



 要塞の中を歩いた。俺が先頭で案内して、将軍が後ろに付く。ヴォルフが護衛で付き添い、カーラも剣を携えて控えてる。


 まず、壁。


「この壁は、コンクリートと鉄筋でできています。コンクリートってのは——」


「先日の攻撃で知っている……投石機の石が効かなかった。あの強靱な壁のことだな?」


「厚さ一メートル、中に鉄の棒が埋まってて、圧縮と引っ張りの両方に強い。岩盤に鉄の杭で直結してるから、押しても引いても倒れないものです」


 将軍が壁に手を当てた。


 コンコンと叩く……重い音が返ってくる。


「……硬い。石より、硬い」


「石より均質で、継ぎ目がない。一枚の岩と同じです」


 次に稜堡(りょうほ)


「この星型の突起が稜堡(りょうほ)です。どの角度から壁に取り付いても、隣の稜堡(りょうほ)から側面を射撃できる。死角がゼロになる設計です」


「先日、それで我が軍は手も足も出なかった。横から矢が飛んでくるとは思わなかったと聞いている」


「実際に、ここに立ってみてください」


 俺は将軍を稜堡(りょうほ)の先端に連れていった。


 左右の壁面が見渡せる位置だ。


「ここから見ると、壁に張り付いた敵の背中が丸見えでしょう。射り放題です」


「……射り放題か。嫌な言葉だな」


「嫌だろうなと思って、お見せしてます」


 将軍が鼻で笑った。嫌みに取ったかもしれんが、敵意はない顔だ。


 そして、堀。


「この堀の水は天然の温泉です。年中凍らない。水温は四十度近い。鎧を着て入ったら動けなくなる」


「先日、兵が何人か落ちた。帰ってきた奴が『熱湯だった』と報告したが、誰も信じなかった」


「でしょうね」


 跳ね橋。


「この橋は、一人で上げ下げできます。裏に同じ重さの錘が吊ってあって、鎖を引くだけで動く」


「一人で?」


「ええ、見てみますか」


 ガルドに鎖を引かせた。


 それだけで、二トンの橋がゆっくり上がっていく。


 将軍の目が見開かれた。


「……信じられん!」


「仕組みですよ。力じゃなく、仕組みです」


 最後に、地下壕。


 ここを見せるか一瞬迷ったが、見せた。


 ドワーフの脱出路だけは伏せて、避難所と備蓄庫を案内した。


「壁が破られた場合の最終防衛線です。地下に五十人が、三ヶ月籠城できる備蓄があります」


「三ヶ月。——つまり、壁を破ったとしても、すぐには終わらんということか」


「そういうことです。壁を破る。堀を越える。橋を渡る。城内を制圧する。地下を攻略する。全部やらなきゃ、この砦は落ちない。その間に、援軍が来る。——将軍、率直に伺いますが、これを攻略する自信はありますか?」


 将軍がしばらくの間、黙った。


 地下壕の石壁を見つめて、考えてる顔だ。


「……ない」


 短い言葉だった。


「兵を一万連れてきても、この砦を落とすには半年かかる。その間の損害は計り知れん。——棟方殿、あなたの勝ちだ」


「いやいや、俺ぁ戦ってませんよ」


「戦わずに勝った。それが一番の勝利だ」



    * * *



 案内を終えて、要塞の中央広場に戻った。


 テーブルを出して、茶を淹れた。


 コーヒーもあったが、将軍の口に合うか分からないから、こっちの世界の薬草茶にした。


「将軍、一つ訊きたいことがあります」


「何だ?」


「ヴァルディア帝国でも、ドラゴンの被害はありますか」


 将軍の目つきが険しいものに変わった。


「……ある。グラオス山脈は帝国側にも面している。北東部の都市が三年前に大型ドラゴンの通過で壊滅した。……今も復興中だ」


「それを聞いて、提案があるんですが……」


「提案?」


「この要塞を建てた技術——コンクリート、鉄筋、星型の壁。全部、あんたの国の職人にも教えます」


 将軍の目が丸くなった。ヴォルフも相当、驚いてる。


「何を言っている!? 我々は敵国だぞ!?」


「だが、()()()()()()()()()()()。あんたの国で街が壊れて人が死ぬのと、こっちの国で街が壊れて人が死ぬのは同じことです。壊れない建物を作る技術を、敵だからって隠す理由がどこにあるんでしょうか」


 将軍は押し黙った。


 俺の言葉を待っているみたいだ。俺は説得を続けた。


「俺は軍人じゃなくて、『土方』です。土方にとって、壊れない家を作ることが一番の仕事だ。その家に住むのが、味方だろうが、敵だろうが、関係ねえ。家ってのは、人を守るためにあるんです。間違っても、国境で区切るもんじゃない」


 静かな広場に、風が吹いた。


 将軍が茶を一口飲んだ。そして、ゆっくり言った。


「……棟方殿。あんたは、変わった男だ」


「ははっ、よく言われます」


「この砦を見て、正直に言う。帝国がここを攻める意味は、もうない。この要塞がある限り、峠は越えられん」


「そうでしょうね」


「だが——あんたの提案は、私の権限では答えられん。一度、皇帝に持ち帰る」


「構いません。急ぎもしません。ただ、考えておいてください。ドラゴンが来た時に壊れない街を、あんたの国の人間も望んでるはずです」


 将軍が立ち上がった。敬礼——帝国式の胸に拳を当てる礼をした。


「棟方殿。あんたのような男が敵でなければ、と心から思うよ」


「敵じゃねえですよ。俺はただの『土方』で、あんたとは最初から戦っちゃいない」


 将軍が少し笑って、峠道を引き返していった。



    * * *



 夕方。


 壁の上で、ヴォルフと並んで夕日を見ていた。


「棟方殿。本気で、帝国に技術を渡すのか……」


「ああ、俺ぁ本気だ」


「軍事的には、この技術はうちの最大の優位だ。渡したら、せっかくの優位が消えてしまう」


「――消えねえよ。相手が同じ壁を持ったら、そもそも攻めてこなくなる。互いに攻め落とせない壁を持てば、戦争する意味がなくなる。それが、一番の平和ってもんだろ」


 ヴォルフが考え込んだ。


「……軍人としては複雑だが、一理ある」


「お前さんにも、温泉付きの砦を守る仕事が残る。そして、仮にこの技術を知ったところで、実際に実現させるには、何年か何十年か……相応の時間がかかるだろう。その間に、こっちはもっとすげえ砦を作る。どうあがいても、向こうがこっちに追い付くことはできねえ」


「確かに……この要塞は、親方殿の力あってこそか」


「知識として知ることと、実際に作ってみるのとじゃ、雲泥の差がある。――どうだ、なかなか悪くねえ話だろ」


「ああ、悪くないな。——親方殿、麦酒はどうだ」


「一杯もらおう」


 冷えた麦酒で乾杯した


 帝国の将軍は、帰り道に何を考えてるだろう。


 温泉の堀に落ちた兵士の報告書を、どう書くつもりだろう。


 まあ、どう書いても面白い報告書になるだろうな。


 ガルドが下から叫んだ。


「親方ー! 飯できたぞー! 今日の『勝ち飯』は特別だー!」


「何が特別なんだぁ?」


「猪の肉がでっかい!」


「……肉がでかけりゃ特別なのか」


「そうだ!」


 まあいい。でかい肉のカツは、確かにうまい。


 壁を降りた。飯を食おう。明日はこの要塞の引き渡し準備だ。


 ヴォルフの守備隊に要塞の管理を引き継いで、俺たちは王都に帰る。次の現場が待ってる。


 南の港町。海の建築。山の次は海だ。


 また知らないもんに出会える。また新しい問題にぶつかれる。


 ……わくわくしてる。四四歳にもなって、わくわくしてる。土方ってのは、いい仕事だ。

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