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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、明日を建てる


 俺は棟方鉄。四三歳。異世界土方だ。


 朝。目が覚めると、隣でガルドがいびきをかいてた。こいつのいびきは半年経っても慣れない。獣人のいびきは重低音で腹に響く。


 起き上がって、作業場の窓を開けた。


 朝の空気が入ってくる。南区画の市場から、もう店の準備をする音が聞こえる。水盤に水が流れる音。遠くで鍛冶場の金槌の音。ルッカがもう起きて仕事してるんだろう。


 窓の外に、王都ローデンの朝が広がっている。


 一年前、この街に来た時のことを思い出す。


 加護なし。スキルなし。レベル1。銅貨の持ち合わせもろくになかった。下町の安宿で寝泊まりして、日雇いの壁修繕で食いつないでた。


 今はどうだ。


 窓から見える景色の半分は、俺が関わったもんだ。コンクリートの道路。市場の建物。浴場の煙突。水道橋のアーチ。灰色の城壁。


 ……感慨に浸ってる暇はねえ。今日も仕事だ。



    * * *



 朝飯を食いながら、ルッカが報告書を持ってきた。国中から届いた手紙の束だ。


「親方、昨日までに届いた分をまとめました」


「読んでくれ」


「はい。北部のカルデン村。ブロック工法で住宅十二軒の建設完了。研修に来た石工のベッカーさんが指揮したそうです」


「ベッカー、覚えてるぞ。でかい手のおっさんだ。ブロックの型詰めがやたら早かった」


「東部のミルト街道。橋の架け替えが完了。石造アーチ橋。研修組のタナーさんが設計と施工を担当」


「タナー、若い奴だったな。アーチの原理を一回で理解しやがった」


「南部のレーゲン港。倉庫三棟を鉄筋コンクリートで新設。港の嵐にも耐える設計だと」


「港町か。塩害対策が要るはずだが……手紙に何か書いてあるか?」


「『コンクリートの表面に石灰モルタルを厚めに塗って塩を防いでいる。棟方殿に教わった防水処理の応用です』と」


「自分で応用してるのか。大したもんだ」


 国中から届く報告。俺が教えた技術が、各地で芽を出してる。そのまま使ってる奴もいれば、自分の土地の事情に合わせてアレンジしてる奴もいる。どっちもいい。技術は使う奴が育てるもんだ。


 ガルドが飯を食い終えて立ち上がった。


「親方、今日の段取りは?」


「午前中は城壁の第三段階改修の図面引き。午後は上町の改修現場の巡回。夕方にアレクシス王子との打ち合わせ」


「忙しいな」


「いつものことだ」


 リルが精霊と一緒に入ってきた。四体の精霊がふわふわ浮いてる。土、水、火、風。最初は土精霊一匹だけだったのが、いつの間にかフルメンバーだ。


「親方さん、おはようございます。精霊たちが今日の天気を教えてくれました。午後から曇りで、夕方に少し雨が降るそうです!」


「雨か。現場の養生を確認しとく必要があるな」


 エルノが隅っこで黙々とコテの練習をしていた。壁に石灰モルタルを塗っては剥がし、塗っては剥がし。もう三日目だ。


「エルノ、手首を柔らかくしろ。力で塗るな、コテの重さで撫でる感覚だ」


「は、はい。こうですか?」


「もうちょい軽く。——そう、それだ。筋がいいじゃねえか」


 エルノの目がぱっと光った。褒められ慣れてないのか、耳まで赤くなってる。エルフってのは感情が顔に出るんだな。


 カーラが風呂から出てきた。朝風呂だ。


「おはよ。今日あたし何すればいい?」


「現場の巡回に付き合ってくれ。上町は治安がいいが、念のためだ」


「了解。——あ、朝飯残ってる?」


「ガルドが全部食った」


「またぁ?」


「すまん……」


 いつもの朝だ。



    * * *



 午前中、城壁の図面を引いた。


 第三段階。耐ドラゴン構造への本格改修。ドワーフの噛み合わせ工法と鉄筋コンクリートを組み合わせた、最強の城壁。北面と東面は既にこれで仕上がってる。残りの南面と西面を、コンクリート被覆から本工法に格上げする。


 被覆工法は応急だった。七十点の壁。だがドラゴンの衝撃波には耐えた。これを百点に引き上げる。次にドラゴンが来ても、俺が走り回らなくていい壁にする。


 建物が勝手に街を守る。それが理想だ。


 午後。上町の巡回。


 ハインツのチームが改修を進めてる。もう五十軒以上が鉄筋コンクリートに生まれ変わった。外見は大理石のまま、中身は城壁と同じ強度。


「棟方、見てくれ! この屋敷の梁、鉄筋を二段にしてみたんだ! 荷重の計算を自分でやって、必要な本数を割り出した!」


 ハインツが自慢げに梁の断面を見せた。鉄筋が上下二段に配置されてる。構造計算を自分でやった。俺が教えたのは基本の考え方だけで、実際の計算はハインツが独力でやってる。


「合ってるか、見てくれ」


「……合ってる、完璧だ。もう俺の出番はねえな」


「そんなことはねえよ! まだまだ教わりたいことは山ほどあるのに!」


 嬉しい言葉だが、こいつはもう独り立ちできるレベルだ。


 下町も歩いた。ダグのチームが長屋の改修を続けてる。ブロック工法が下町にも広がっていて、住民が自分でブロックを積んでる家がちらほら見える。フェルゲン村と同じ光景だ。


 道端で子供がブロックのかけらで遊んでた。積み木代わりにしてる。灰色のブロックを積んでは崩し、積んでは崩し。


「おっちゃん、見てー! おうち作ったー!」


「……お、なかなか上手いな」


 五個のブロックのかけらで作った小さな家。屋根はないが、壁は一応立ってる。


 この子供が大人になる頃には、コンクリートの家が当たり前になってるんだろう。ドラゴンが来ても、壊れない家。逃げなくていい家。


 そういう国を作る。俺の仕事だ。



    * * *



 夕方。城壁の上に立った。


 南区画の市場が賑わってる。浴場から湯気が上がってる。水道橋のアーチがある。コンクリートの道路が白く伸びてる。下町の屋根の間に、ぽつぽつと灰色のブロックの壁が見える。


 城壁の外。北の方角にグラオス山脈がそびえてる。


 ドラゴンの巣。


 いつかまた来るだろう。五年後か、十年後か。


 だがこの壁があれば、この街は守れる。


 もっと先を見れば、この国の全ての村に壁がある未来が見える。フェルゲン村みたいに、ドラゴンが通過しても赤ん坊が起きない村が、国中に広がってる。


 まだ遠い。だが、一歩ずつ近づいてる。


 ガルドが城壁に登ってきた。


「親方、王子との打ち合わせの時間だぞ!」


「ああ、今行く」


「何してたんだ、こんなとこで」


「景色を見てた」


「景色? 親方がそんな悠長なことするの珍しいな」


「たまにはいいだろ」


 ガルドが隣に立って、街を見下ろした。


「……いい街になったな」


「まだまだだよ。やることだらけだ」


「でも、一年前に比べたら全然違う」


「そうだな」


「親方が来てから、この街は変わった。——俺も変わった」


「……」


「脳筋の万年Fランク冒険者が、百人の現場を仕切れるようになった。親方のおかげだ!」


「お前が頑張っただけだろ。俺は使っただけだ」


「使ってくれなきゃ頑張りようがなかったんだよ、俺は!」


 ガルドの声が少しだけ震えた。こいつ、また泣きそうだな。


「泣くなよ」


「泣いてねえ!」


「その嘘、三回目だぞ」


「……四回目だ」


 こいつ、律儀に数えてたのかよ。


 リルとルッカとカーラとエルノが、城壁の下から手を振っていた。


「親方ー! 打ち合わせー!」


「ガルド、お前も行くか?」


「おう!」


 城壁を降りた。


 アレクシス王子の打ち合わせは、西部国境の要塞建設の件だ。隣国との緊張が高まってるらしく、国境に防衛拠点を新設したいと。


 要塞。城壁より、さらにでかい仕事だ。


 面白くなってきた。



    * * *



 夜。作業場の風呂に浸かった。


 今日一日を振り返る。図面を引いて、現場を回って、報告を読んで、弟子を教えて、王子と打ち合わせした。


 一年前は、マルタさんの壁を直して銅貨四十枚もらってた。


 今は国の建築を全部任されてる。


 だが、やってることの本質は変わってない。地面を整えて、石を積んで、水を流す。壊れないものを、丁寧に作る。


 俺は棟方鉄。四三歳。異世界土方だ。


 女神の加護はない。スキルもない。レベルは1のままだ。


 だが俺には、二十五年の腕と、コンクリートと、頼れる弟子たちと、四匹の精霊がいる。


 ……まあ、風呂に入りに来るだけの姐さんも一人いるが。


 この世界の建物を全部、壊れないものに変えていく。ドラゴンが来ても、嵐が来ても、誰も家を失わない世界を作る。


 何年かかるか分からない。十年か、二十年か、一生か。


 だが——やりがいだけは、尽きそうにねえ。


 湯船から上がって、夜空を見上げた。星がきれいだ。


 明日も仕事だ。城壁の図面の続き。エルノのコテ指導。西部要塞の現地調査の準備。


 忙しい。忙しいが、充実してる。


 この世界に来て、一年と少し。俺の仕事は——まだ始まったばかりだ。


 さて。寝るか。明日も早いんだ。


いつもご愛読いただきありがとうございます!

親方の物語はまだまだ続きます。

よかったら、ブクマと評価だけでも是非お願いします!


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