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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、王に会う


 王宮に呼ばれた。


 国王陛下への謁見。アレクシス王子の手配だ。フェルゲン村の成功報告と、全国展開の計画を直接説明しろと。


「親方、王宮だぞ。服はそれでいいのか」


 ガルドが俺の作業着を見て心配してる。コンクリートの染みだらけだ。


「着替えなんかねえよ」


「せめて汚れを落とすとかさ……」


「叩いたら粉が出た。これで十分だ」


「十分じゃねえだろ」


 カーラが「あたしが選んであげる」と言い出して、市場の布屋で上着を買わされた。地味な茶色の上着。まあ、作業着よりはましか。


 リルが髪を整えてくれた。ルッカが靴の泥を落としてくれた。ガルドは自分の毛並みを気にしてる。お前は獣人だから毛並みが整ってりゃそれでいい。


「棟方組、出発!」


「「「おう!!」」」


 カーラも当然のように付いてきた。もう止めない。



    * * *



 王宮。


 でかい。上町のどの屋敷よりもでかい。白い石壁に、金の装飾。門の前に甲冑の衛兵が並んでる。


 中に入ると、天井が高い。シャンデリアが何十個もぶら下がってる。床は磨かれた大理石。


 ……まあ、建物としての感想を言えば、装飾に金をかけすぎだ。上町の屋敷と同じ匂いがする。壁を叩いてみたいが、さすがに王宮でそれをやったら首が飛ぶ。


 謁見の間に通された。


 玉座に、初老の男が座っていた。銀髪に王冠。厳しい目つきだが、目の奥に品性がある。馬鹿じゃない顔だ。


 隣にアレクシス王子。ヴェルトール伯。レンハルト卿。その他、偉そうな連中が二十人ほど。大臣とか貴族とかだろう。


「近う寄れ」


 王の声が響いた。威厳がある。


 俺は前に出た。跪くのが作法らしいが、膝が硬くてうまくいかない。四三歳の膝にこの動きはきつい。


「棟方鉄と申します。遠い世界から来た……『土方』です」


「ドカタ、と申すか」


「はい、建物を作ったり直したりする職人です」


 王がじっと俺を見た。品定めしてる目だ。


「息子から報告は聞いている。城壁を直し、竜降ろしで街を守り、壊滅した村を再建したと。——だが、私は報告だけでは判断せぬ。この目で確かめたい」


「お見せします。——ガルド、持ってこい」


「おう!」


 ガルドが布にくるんだ荷物を持ってきた。謁見の間の床に置いて、布を開く。


 中身は二つの模型だ。


 一つ目。木の棒と粘土で作った小さな家。この世界の標準的な建て方を再現してある。壁は粘土、柱は釘で留めた木、屋根は薄い板。手のひらに載るサイズ。


 二つ目。コンクリートブロックで積んだ小さな家。鉄筋入り。屋根もコンクリート。同じサイズ。


「陛下。この二つの家を比べていただきます。——どなたか、この模型を踏んでいただけますか」


 大臣たちがざわついた。王の前で模型を踏む? 何を言ってるんだこの男は、って顔だ。


 アレクシス王子が進み出た。


「私がやろう」


 王子が一つ目の模型——木と粘土の家に足を載せた。軽く体重をかけた。


 ぐしゃ。


 粘土の壁が潰れ、木の柱が折れ、屋根が崩落した。ぺしゃんこだ。


「これが今の王国の建物です。人が踏んだだけで壊れる。ドラゴンの衝撃波なら、言うまでもない」


 王の表情が動いた。


「次。こちらを」


 王子が二つ目の模型に足を載せた。体重をかけた。


 模型は——びくともしなかった。


 王子が片足で全体重をかけた。踏みつけた。


 壊れない。


「こちらが、コンクリートブロックと鉄筋で作った家です。人が踏んでも壊れない。フェルゲン村では、ワイバーンが上空を通過しても、中のコップ一つ落ちませんでした」


 謁見の間が静まり返った。


 王が立ち上がった。玉座から降りてきて、模型の前にしゃがんだ。コンクリートの壁を指で叩いた。硬い音が返ってきた。


「……これを、国中に広められるのか」


「はい。材料は石灰岩と火山灰と砂と砂利と鉄。どれもこの国で手に入るものです。作り方も簡単で、農夫でも覚えられます。フェルゲン村では、住民自身が自分の家を建てました」


「農夫が、自分で家を……」


「はい。コンクリートブロックの型に材料を詰めて固めるだけです。積み方は水糸を張れば真っ直ぐ並びます。特別な技術は要りません」


 王が俺を見た。さっきまでの品定めの目じゃない。


「棟方鉄。お前は、何を望む」


「望むことは一つだけです。――この国の人間が、ドラゴンを怖がらなくていい世界を作りたい」


 ……言ってしまった。


 格好つけすぎた、柄にもねえ。


 でも、これは俺の本音だ。


 フェルゲン村のおっちゃんが「もう逃げなくていいのか」と訊いた時、「逃げなくていい」と答えた。あの言葉を、この国全体に広げたい。ドラゴンが来ても、家にいれば安全な世界を。


「陛下、具体的な計画をお見せします」


 図面を広げた。ルッカが鉄筋の見本を持ってきた。リルが精霊の協力体制について説明した。ガルドが作業工程の実績データを並べた。カーラは——横で腕を組んで立ってた。まあ、いるだけで見栄えがするからいい。Bランク冒険者の迫力ってやつだ。


「全国展開は三段階で考えています。第一段階は国境沿いの集落。ドラゴンの被害が最も大きい地域を優先します。第二段階は主要都市の城壁と公共施設の改修。第三段階は一般住宅へのブロック工法の普及」


「期間は?」


「第一段階に二年。第二段階に三年。第三段階は——終わりがありません。一軒ずつ、建て替えの時期が来た家から順に、新しい工法に切り替えていく。十年、二十年かけて、国全体の建物が変わっていきます」


「二十年か」


「ですが二十年後には、この国のどの村でも、ドラゴンが通過しても誰も死なない、そういう国になります」


 王がしばらく黙っていた。


 大臣の一人が口を開きかけたが、王が手で制した。


「……棟方鉄。聞きたいことがある」


「はい」


「お前はなぜ、この国のためにそこまでやる。遠い世界から来たと言ったが……そのような者が、なぜこの国の民のために命を削る」


 命を削る。


 大げさだが、まあ、三日寝てないとかしょっちゅうだから、あながち間違いでもねえ。


「俺は『土方』で、建物を作るのが仕事です。壊れない建物を作るのが、一番いい仕事です。それをやれる場所が、単にここだっただけっていう話ですよ」


 王はしばし沈黙して、それから……笑った。


 きさくに、かかっと笑う。初めて見る王の笑顔だ。


「気に入った。——全権を預ける。予算は国庫から出す。必要な人員、資材、土地、全て手配する。棟方鉄、この国の建物を全て、お前の手で作り変えろ!」


「……はい!」


 こうして、俺は『王国建築総監』として、正式に国家事業の全権を手にした。



    * * *



 王宮を出た。


 門の外で、ガルドが拳を突き上げた。


「やったぞ親方! 国のお墨付きだ!」


「落ち着け、落ち着け。ただ仕事が増えただけだぞ?」


「でもすごいじゃねえか! 王様に『気に入った』って言われたんだぞ!」


「気に入られるのと仕事が楽になるのは別の話だ」


「そりゃあそうだけどよ……!!」


 リルが嬉しそうに精霊と話してる、ルッカも笑ってる。


 カーラが横に並んで歩きながら言った。


「ねえ親方。あんた、王様の前でも全然変わんなかったわね」


「何がだぁ?」


「しゃべり方も、態度も、普段と全く同じ。王宮でコンクリートの模型を踏ませるとか、普通やらないわよ」


「伝わりゃいいんだよ。言葉じゃなくてモノで見せる。それが現場の流儀だ」


「あははっ、あんたらしいわね」


 王都の夕暮れ。


 城壁がコンクリートの灰色で光ってる。南区画の市場に灯りが点き始めてる。水道橋のアーチがある。


 全部、俺たちが作ったもんだ。


 そしてこれから、この規模を国全体に広げる。


 二年、五年、十年、二十年。気の遠くなるような仕事だ。


 だが——俺は『土方』だ。でかいもんを、コツコツ作るのが仕事なんだ。


「さて、帰って飯にするか!」


「賛成。腹減った!」


「あたしは先に風呂!」


「俺も飯!」


「精霊たちもお腹すいたって!」


 精霊も腹が減るのか。まあいい。


 全員で、作業場に帰った。


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