親方、コンクリートブロックを作る
防風壁ができた。次は家だ。
設計図通り、千鳥配置で鉄筋コンクリートの家を並べていく。一軒ずつ型枠を組んで、鉄筋を配置して、コンクリートを流して、固まるのを待って、型枠を外す。
丁寧な仕事だ。一軒一軒が頑丈にできる。
でも——これじゃ遅い。
一軒建てるのに五日かかる。作業員は七十人いるが、型枠を組むのもコンクリートを打つのも、ある程度の技術がいる。素人の避難民に任せられる工程が限られてる。
村の計画は五十軒。五日で一軒だと、全部建てるのに——
「ガルド。今のペースだと、どの程度で完成すると思う」
「えーと……だいたい、二百五十日くらいか?」
「そうだ、八ヶ月以上だ。――『冬』が来る」
冬までに屋根のある家に住めなきゃ、避難民は凍える。グラオス山脈の麓は冬が厳しい。仮設テントじゃとても持たねえ。
スピードが足りねえが、品質は落とせねえ。ドラゴンに耐える家じゃなきゃ意味がねえ。
品質を落とさず、スピードを上げる。しかも素人でもできる方法で。
……一晩考えた。
翌朝、ルッカを呼んだ。
「ルッカ、木の型枠を作ってくれ。このサイズだ」
寸法を伝えた。縦二十センチ、横四十センチ、高さ二十センチ。長方形の箱。ただし真ん中に丸い穴が二つ開いてる。
「これ、何に使うんですか」
「ブロックを作る」
「ブロック?」
「コンクリートの積み木だ」
* * *
『コンクリートブロック』。
要するに、でかいレンガだ。ただし材料がコンクリートで、中に穴が開いてる。この穴に鉄筋を通してコンクリートを流し込めば、積むだけで鉄筋コンクリートの壁ができる。
地球じゃ、途上国の住宅から先進国のビルまで、どこでも使われてる基本部材だ。安い、早い、頑丈。三拍子揃ってる。
作り方は簡単。型枠にコンクリートを詰めて、突き固めて、型から抜く。一日乾かせば使える。特別な技術は要らねえ。力があればいい。
「ガルド、こっちに来い! やり方を見せる」
型枠にコンクリートを詰めた。突き棒でぎゅっと突き固める。型をひっくり返してコンッと叩くと、コンクリートのブロックがぽこんと出てきた。
灰色の直方体。真ん中に丸い穴が二つ。
「これは——まるで積み木みたいな?」
「そうだ。こいつを積むだけで壁になる。レンガみてえに一段ずつ積んで、穴に鉄筋を通して、穴にコンクリートを流し込む。固まれば鉄筋コンクリートの壁の完成だ」
「型枠を組まなくていいのか?」
「いらねえ。ブロック自体が型枠を兼ねてる。穴にコンクリートを流すだけだ。壁の形はブロックを積んだ時点で決まってる」
ガルドが目を見開いた。
「じゃあ、型枠の組み立てと解体がゼロ——」
「そうだ、工程が丸々二つ消える! しかもブロックを積むのに特別な技術は要らね。真っ直ぐ並べるだけで水糸さえ張れば、素人でもできる!」
「素人でも!?」
「ああ、お前でもできる」
「俺は素人じゃねえ! 親方の弟子だぞ!」
「ああ、そうだったな。——じゃあ、あの避難民のおっちゃんにやらせてみよう」
避難民の中に、農夫のおっちゃんがいた。五十がらみ。建築経験ゼロ。手はゴツいが、金槌すら満足に握ったことがないらしい。
「おっちゃん、ちょっと来てくれ」
「お、俺か?」
「これを積んでくれ。水糸に沿って、一段ずつ真っ直ぐ並べるだけだ。難しく考えるな。積み木だと思ってくれりゃあいい」
おっちゃんが恐る恐るブロックを手に取った。重さは十キロくらい。
それなりに重いが、大人ならまあ持てる。
水糸を張った基礎の上に、一個目を置いた。二個目。三個目。
「ここは半分のサイズのブロックを入れてくれ。互い違いにするんだ。レンガ積みと同じだ」
「こ、こうか?」
「そうだ。うまいじゃねえか」
おっちゃんの手つきはぎこちないが、ブロックは真っ直ぐ並んでいく。水糸があるから曲がりようがない。ブロックの寸法が揃ってるから、隙間も均一。
一段目。二段目。三段目。
目地にはモルタルを薄く挟む。これもコテで塗るだけ。
二時間後。おっちゃんが一人で、高さ一メートル、長さ二メートルの壁を積み上げていた。
「……で、できた」
おっちゃんが自分の仕事を見て、呆然としている。
「ここに鉄筋を通して、穴にコンクリートを流せば完成だ」
穴にコンクリートを流し込んだ。ルッカが用意した鉄筋を穴に差し込む。
翌日。固まった壁を叩いた。ゴッ、と重い音が鳴る。
「建築経験ゼロのおっちゃんが、一人で、二時間で積んだ壁だ。叩いてみろ」
おっちゃんが壁を叩いた。
ゴッゴッ……。
硬い音、丈夫な音だ。
「……俺が作ったのか、これ」
「お前が作った。正真正銘、お前の壁だ」
おっちゃんの目が赤くなった。
「ワイバーンに家を壊されて、もう一生まともな家には住めねえと思ってた。自分で家を建てるなんて、夢にも——」
「夢じゃねえよ。それにブロックを積むだけだ。やり方さえ覚えれば、お前にも家が建てられる」
「ありがとう……本当にありがとう、親方ぁ!!」
「俺だけの力じゃねえよ。ほら、そこで見てる奴らも、一緒に手を動かすぞ」
「「「はい!!」」」
* * *
ブロックの量産を始めた。
型枠を十個作って、避難民たちに配った。コンクリートの練り方と型への詰め方を教える。一時間もあれば覚える。
一人が一日に作れるブロックは約五十個。二十人が作れば一日千個。一軒の家に使うブロックは約四百個。つまり二日ちょいで、一軒分のブロックが揃う。
積むのは素人でもできる。水糸の張り方だけ教えれば、あとは真っ直ぐ並べるだけ。
鉄筋の配置とコンクリートの流し込みは、ルッカとハインツのチームが巡回して指導する。ここだけはちょっと技術が要るが、同時に何軒もの工事を回せる。
結果。
一軒の家が、ブロック製造込みで一週間で建つようになった。しかも熟練工は鉄筋の配置にしか要らない。基本作業は全部、避難民自身がやれる。
「一週間で五軒!? さっきまで、五日で一軒って言ってたのに!?」
ガルドがえらく驚いてるな。
五日で一軒は型枠工法の場合だったが、このブロック工法なら、一軒あたりの熟練工の拘束時間が激減するから、同時に何軒も並行で進められるってわけよ。
「同時施工を五軒並行で回せば、一週間で五軒にもなる」
「五軒……!!」
「五十軒の村なら、十週間。二ヶ月半で完成する。冬までには、余裕で間に合う」
作業員たちから歓声が上がった。
ハインツが腕を組んで唸った。
「棟方……お前さん、また常識をぶっ壊したな。家を建てるのは職人の仕事だと思ってたが、こいつは農夫でも建てられる!」
「また職人の仕事がなくなると思うか?」
「いや、ブロックを積むのは誰でもできるが、鉄筋の配置は俺たちにしかできん。水道の配管も、排水路の設計も、基礎の判断も。職人の仕事は減るんじゃなく——変わるんだな」
「そういうことだ。積む仕事は住む奴に任せて、俺たちは設計と監督に回る。一人の職人が十軒の現場を見て回れりゃ、十倍の速さで街ができる」
ハインツがらいらくに笑った。
「面白え時代になったもんだ」
* * *
日が暮れて、村の造成地を見渡した。
あちこちで壁が立ち上がっている。避難民たちが、自分の手で自分の家を建てている。
子供が親の手伝いをして、ブロックを運んでる。婆さんがモルタルを練ってる。若い男が壁を積んでる。腕は素人だが、顔つきが全然違う。誰かに建ててもらうんじゃない。自分の手で建ててる。その実績が、こいつらの背筋を伸ばしてる。
ガルドが横に立った。
「親方。いい光景だな」
「ああ……」
「親方が作ったのは、家じゃなくて——家の作り方だな」
「……お前、たまにいいこと言うな」
「たまにって何だよ」
リルが精霊と一緒にブロックの乾燥状態をチェックして回ってる。ルッカは鍛冶場で鉄筋を量産しながら、避難民の若者に鉄の打ち方を教えてる。カーラは見張りの合間に、ブロック積みを手伝ってる。あの姐さん、やっぱり力仕事は得意らしい。
「ねえ親方。これ楽しいわね、積み木みたいで」
「おう、楽しいならもっと積め」
「あたし、今日だけで百個積んだわよ。ガルドより多いわ」
「嘘つけ! 俺は百二十個積んだぞ!」
「あら、負けてたわ。——明日は二百積むから」
「いいぞ、受けて立とう!」
……こいつら、いつの間にか張り合ってんな。まあ、現場は活気がある方がいい。
焚き火の前で、図面を眺めた。
五十軒の村。防風壁と千鳥配置。鉄筋コンクリートのブロック造り。排水路と水道も引く。鍛冶場も作る。
この村が完成したら、同じ設計を他の村にも展開できる。ブロックの作り方と積み方を教えれば、どの村でも自分たちの手で耐ドラゴン住宅が建てられる。
俺一人じゃ国中の家は建てられない。だがやり方を作って広げれば、国中の人間が自分の家を建てられる。
俺が作ったのは、家じゃなくて、家の作り方……か。
……ガルドの受け売りだが、悪くねえ言葉だ。




