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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、鉄を仕込む


 メーリング卿の屋敷の改修に入った。


 まず大理石の板を丁寧に剥がす。傷つけたら弁償もんだ。一枚一枚に番号を振って、元の位置に戻せるようにしておく。


 大理石を外した中身は予想通りひどかった。粗悪な石と泥の壁。ところどころ隙間があって、指が入る。これで三階建てを支えてたってんだから、よく今まで倒れなかったもんだ。


 中身を全部掻き出して、代わりにコンクリートを流し込む。ルッカの提案通り、大理石の板を外側の型枠として使う。城壁の被覆工法と同じ原理だ。


 作業自体は順調に進んだ。三日で一階部分のコンクリート化が完了。メーリング卿が「外観が変わらないのがいい」と喜んでる。


 だが——俺は一つ、引っかかっていた。


 二階と三階の作業に入る時、問題が出る。


 一階は壁が厚い。コンクリートを入れれば十分に強い。だが上の階に行くほど壁は薄くなる。三階の壁なんか厚さ二十センチしかない。コンクリートを入れても、この薄さじゃ限界がある。


 コンクリートは押す力——圧縮には滅法強い。壁として立ってる分には、上から荷重がかかるだけだから問題ない。


 だが引っ張る力——引張には弱い。曲がったり、たわんだりすると、引っ張られる側にひびが入る。梁や床みたいに横向きに使うと、自重で真ん中がたわんで、下面が引っ張られて割れる。


 元の世界じゃ、この問題をどう解決したか。


 答えは簡単だ。鉄を入れた。


「ルッカ」


「はい、親方!」


「鉄の棒を作ってくれ。直径一センチ、長さ二メートル。表面にぶつぶつした凸凹を付けてくれ。できるか」


「棒ですか。一センチの鉄棒なら叩いて伸ばせば作れますけど……凸凹ってのは、何のためです?」


「コンクリートに埋め込んだ時に、コンクリートと鉄が噛み合うようにだ。つるつるだと抜けやすい。凸凹があると、引っかかって一体化する」


 ルッカの目が光った。


「鉄を、コンクリートの中に入れるんですか!?」


「そうだ。コンクリートが圧縮を受け持って、鉄が引っ張りを受け持つ。二つの材料の弱点を、互いに補い合う――『鉄筋(てっきん)コンクリート』だ」


 ルッカが鍛冶場に走っていった。


 鉄の棒を作るのにどのくらいかかるか分からんが、あいつなら早い。



    * * *



 四時間後。


 ルッカが鉄の棒を十本持ってきた。


 手に取ってみる。直径は均一。表面にはノミで刻んだ細かい凸凹がびっしり付いてる。


「親方、凸凹の間隔を二通り作りました! 細かい方と粗い方。どっちがいいか、試してみてください!」


 気が利くな、両方試せるように二種類用意してきたのか。


 この子は言われたことをやるだけじゃなくなった。元来の職人気質だな、こりゃ。


「よし。まず実験する」


 作業場の裏で、小さな型枠を二つ作った。どちらも同じサイズ。幅十センチ、高さ十センチ、長さ一メートルの四角い棒の形だ。


 一つ目には、コンクリートだけを流し込む。普通のコンクリート。


 二つ目には、鉄の棒を二本入れてから、コンクリートを流し込む。鉄筋入り。


 二日後。型枠を外した。見た目は同じ灰色の四角棒だ。外からじゃ違いが分からない。


「さて、実験だ。——全員集まれ!」


 作業員たちが集まってきた。ハインツもダグもいる。メーリング卿まで見物に来てる。


 二つのコンクリートの四角棒を、レンガの台に渡した。両端にレンガを載せて、真ん中が宙に浮いた状態。橋みたいな形だ。


「まず、鉄の入ってない方。——ガルド、真ん中に乗ってみろ!」


「おう!」


 ガルドがコンクリートの四角棒の真ん中に足を載せた。そっと体重をかける。


 パキン。


 音がして、四角棒が真ん中から折れた。ガルドが慌てて飛び降りる。


「あ、折れた……!?」


「コンクリートの弱点だ。圧縮には強いが、引っ張りに弱い。四角棒の下面が引っ張られて、そこからひびが入って折れた」


 断面を見せた。下面からひびが走って、きれいに割れてる。


「次。鉄の入ってる方。——ガルド、もう一回乗れ」


「今度は大丈夫なのか?」


「大丈夫だ、乗れ」


 ガルドが恐る恐る二本目の四角棒に乗った。体重をかける。


 四角棒は——たわんだ。少し曲がったが、折れない。


「もっと体重かけていいぞ」


「まじか——おりゃ!」


 ガルドが両足で四角棒の上に立った。全体重が真ん中に集中してる。STR:Sの獣人の全体重だ。百キロは軽く超えてるだろう。


 四角棒はたわんでいるが——折れない。


「折れねえ!? さっきと同じもんだろ!?」


「同じじゃねえ。中に鉄の棒が入ってる。コンクリートの下面が引っ張られた時、鉄が代わりに引っ張りを受け止めてる。だから、折れない」


 ガルドが四角棒の上で足踏みした。びくともしない。


「ほら、降りてみろ」


 ガルドが降りた。たわんでいた四角棒が、ゆっくり元の形に戻った。


「曲がっても戻るのか!?」


「鉄には弾性がある。曲がっても元に戻る力がある。コンクリートだけだとパキンと割れるが、鉄が入ってればしなって耐える」


 作業員たちがざわついてる。


「ちょっと待て、これすげえぞ」


「コンクリートの弱点が消えたってことか?」


「梁にも床にも使えるってことだろ!?」


「今まで石か木で作るしかなかった梁が、コンクリートで作れる!」


 ハインツが四角棒の断面を覗き込んだ。コンクリートの中に鉄の棒が二本、きれいに埋まってる。


「棟方……こいつはとんでもねえぞ。これが使えたら、何階建てでもいけるんじゃねえか」


「理屈上はな。鉄筋の太さと本数を増やせば、もっと大きな荷重にも耐えられる。五階建て、十階建ても不可能じゃない」


「十階建て……?」


 メーリング卿が口をぽかんと開けてる。


 この世界の建物は三階が限度だ。石造りでも木造でも、それ以上の高さは構造的に無理。それが、鉄筋コンクリートなら十階建てが可能だと言われたら——そりゃ呆然とする。


「ルッカ。この鉄筋、量産できるか」


「できます。炉の温度を上げて、型に流し込めばもっと早く作れます。凸凹も型で付けられます!」


「頼む。大量に要る」


「はい、親方!」


 ルッカの鍛冶があって初めて成り立つ技術だ。いい鉄を作れる鍛冶師がいなけりゃ、鉄筋コンクリートは絵に描いた餅。あの時、あのドワーフの少女を拾ったのは——まあ、運が良かったんだろう。運だけじゃないと思いたいが。



    * * *



 メーリング卿の屋敷の二階と三階を、鉄筋コンクリートで改修した。


 壁の中にコンクリートを流す時、鉄筋を配置してから流し込む。梁にも鉄筋を入れた。床にも薄い鉄筋コンクリートの板を打った。


 完成した屋敷は、外見が全く変わってない。大理石の壁、彫刻、ガラスの窓。優雅な貴族の屋敷。


 だが、中身は別物だ。


 ガルドに壁を叩かせた。前回と同じ場所を。


 ゴッ、と重い音が返ってきた。


「前は軽い音だったのに……全然違うぞ」


「中身が違うからな。大理石の裏側が全部コンクリートと鉄筋で固まってる。今のこの壁は、城壁と同じ強度がある」


 メーリング卿が三階に上がって、床を踏んだ。


「揺れない。以前は歩くとギシギシ言っていたのに、全く揺れない」


「鉄筋コンクリートの床ですから。荷馬車が走っても揺れませんよ」


「三階に荷馬車は走らせませんが……これは素晴らしい」


 メーリング卿が興奮して隣の貴族を呼びに行った。隣の貴族がまた隣を呼んで、夕方には上町の名士が十人以上、メーリング卿の屋敷に集まっていた。


 全員が壁を叩いて、床を踏んで、天井を見上げて、同じことを言った。


「おい、うちもこれにしてくれ!!」


「うちも!!」


「うちもだ!!」


「待ってちょうだい、私が先だよ!」


「こら、順番を抜かすな! 先に俺んちだろ!」


 おぞましいほどの注文が殺到した。


 ガルドがぼやいた。


「親方、また仕事が増えたぞ……」


「仕事が増えるのはいいことだ」


「寝る時間が減るのは悪いことだぞ」


「そりゃ……まあ、否定できねえが、だからこそやりがいがあるのさ」


「うーむ。やりがい、か」



 夜。作業場で図面を引いていた。


 上町の改修計画。鉄筋コンクリートの量産体制。ルッカの鍛冶場の拡張。


 そこにアレクシス王子からの書簡が届いた。


『棟方殿。フェルゲン村の跡地に、新たな開拓拠点を建設したい。ドラゴンに耐えうる要塞村の設計を依頼する。ご検討いただきたい』


 要塞村。ドラゴンに耐える村。


 鉄筋コンクリートがあれば——できる。城壁並みの強度を持つ家を、村ごと建てられる。


「……面白くなってきやがった」


 コテを置いて、新しい板を取り出した。


 フェルゲン村の設計図を描き始めた。

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