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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、上町に乗り込む


 王国建築総監。


 肩書きは立派だが、やることは変わらねえ。現場を見て、問題を見つけて、直すことだ。


 竜降ろしから三日後。下町の応急処置がひと段落したところで、意外な方面から依頼が来た。


 上町だ。


「棟方殿。上町の住民有志から、建物の安全調査をしてほしいとの依頼が入っております」


 ヴェルトール伯の使者がそう伝えてきた。


 上町……貴族と金持ちが住む区画だ。石造りの立派な屋敷が並んでて、下町の木造長屋とは格が違う。今まで俺に用事なんかなかった連中だ。


「竜降ろしで上町もかなりの被害が出たのですが、城壁のように棟方殿に見てもらえれば安心できる、と」


 竜降ろしの後で目が覚めたか。今まで「下町の変な親方」くらいにしか思ってなかっただろうに。


 まあ、仕事は仕事だ。


「行くぞ。ガルド、リル、ついてこい」



    * * *



 上町に足を踏み入れるのは、伯の屋敷に行った時以来だ。


 道が広い。石畳が敷いてある。建物は石造りの二階建てか三階建て。壁には彫刻が施されて、窓にはガラスが入ってる。門には鉄の柵。庭には噴水。


 金がかかってる。それは間違いない。


 最初の依頼主は、商人貴族のメーリング卿だった。上町でも有数の大きな屋敷を構えてる。


「棟方殿、ようこそ。竜降ろしの際は城壁のおかげで助かりました。ぜひ我が屋敷も見ていただきたい」


 にこやかな男だ。五十がらみ、恰幅がいい。


「被害は出ましたか?」


「壁にひび割れが数箇所と、三階の窓が全部割れました。ガラスの交換だけで銀貨百枚以上かかりまして」


 銀貨百枚……ガラスは高えな。だが問題はガラスじゃねえ、壁のひび割れだ。


 屋敷の外壁を見て回った。


 白い大理石の壁は、美しい。


 磨かれた表面に、繊細な彫刻が施されてやがる。金がかかってるのは、一目で分かる。


 だが——。


 壁を叩いた。


 コンコン。


 軽い音が返ってきた。


 大理石なのに、軽い音となると……。


「……メーリング卿」


「はい」


「この壁、()()()()()()()()()()()


「はぁ?」


「見てください。ここ、ひび割れが入ってるところ。大理石の板が剥がれかけてる。中が見えます」


 ひびの隙間を指で広げた。大理石の板の裏側に——粗悪な石と泥が詰まってる。


「この壁は、大理石の板を外側に貼り付けて、中に安い石と泥を詰めたもんです。見た目は立派ですが、構造の強度は下町の木造長屋と変わらない。いや、下町でほぞ組みで建て直した家の方が、よっぽど頑丈です」


 メーリング卿の顔色が、一瞬で変わった。


「そ、そんなはずは……! この屋敷は、一流の石工に金貨五十枚で建てさせたもので……!」


「金貨五十枚のうち、実際に構造に使われた分がいくらかは分かりませんが。大理石の装飾に金がかかって、肝心の中身に回ってない。典型的な、ハリボテです」


 きつい言い方だが、本当のことだ。


「しかも、基礎を見てください。——リル、精霊に基礎の状態を確認してもらえるか」


「はい。——ノームが言ってます。基礎石がほとんど地盤に乗ってるだけで、突き固めもしてないって。地下水で土が緩んでる場所もあるって」


「それは……どういうことですか!?」


「竜降ろしの衝撃であのひびが入ったんじゃありません。このひびは、前からあったんです。基礎が不同沈下を起こしてる――建物が傾いてるんですよ。竜降ろしの衝撃で、それが一気に表面化した」


 メーリング卿が壁を見上げた。よく見れば、確かに壁全体がわずかに傾いている。目で見て分かるレベルじゃないが、水糸を張って測れば一発だ。


「ガルド、水糸を張ってくれ」


「おう」


 ガルドが杭を打って水糸を張った。壁の面と水糸の距離を上下で測る。


「上が七センチ外に出てます、親方」


「七センチ。——メーリング卿、この壁は上部が外側に七センチ傾いてます。このまま放置すると、次の竜降ろしどころか、数年後には自重で倒壊する可能性がある」


 メーリング卿の顔が青くなった。


「直せますか……」


「直せます。ただし、大理石の装飾を一回全部剥がして、中身をやり直す必要がある。基礎も打ち直す。見た目は後から戻せますが、工事中はだいぶみすぼらしくなりますよ」


「構いません、命には代えられない。すぐにやってください!」


「工費は別途見積もりを出します」


 メーリング卿の隣人が、塀の向こうからこっちを見ていた。


「メーリング殿、何事ですか」


「うちの壁がハリボテだった。——あんたの屋敷も見てもらった方がいいぞ」


 隣人の顔も引きつっていた。



    * * *



 その日のうちに、上町の屋敷を五軒回った。


 結果、五軒中五軒がアウト。


 全部同じパターンだ。外側は大理石や高級石材で飾ってあるが、中身は粗悪な石と泥。基礎は手抜き。目地はスカスカ。見た目だけ立派で、構造はガタガタ。


 ガルドが呆れた顔で言った。


「親方、上町の家って全部こうなのか?」


「全部かは分からんが、見た限りじゃ全滅だな。金をかけてる場所が間違ってる。大理石に金かけて基礎をケチるのは、高いズボンを履いて裸足で歩くようなもんだ」


「まったく、ひどい話だ」


「ひでえ話だよ、本当に」


 五軒の調査結果を報告書にまとめた。全軒に「改修が必要」の判定を出した。


 翌日。上町の貴族たちが行列を作って依頼に来た。


「親方、うちも見てくれ!!」


「うちもだ!」


「私の屋敷も至急お願いします——!!」


 二十軒以上の依頼が、一日で来た。


 だが俺は一人だし、ガルドもリルもルッカもそれぞれ仕事を持ってる。


 全部同時には、とてもじゃねえが無理だ。


「ハインツ、お前に頼みたい仕事がある」


「何だ、棟方」


「上町の建物調査。俺のやり方を教えるから、お前が回ってくれ。壁の叩き方、基礎の見方、水糸の使い方。お前なら、もうできるだろ」


 ハインツが目を丸くした。


「俺が? 棟方の代わりに?」


「代わりじゃねえ。お前の仕事として、だ。調査に必要な技術はもう全部持ってる。足りないのは経験だが、それは数をこなせば付く」


「……やる。やらせてくれ!」


「よし。ダグにも声をかけろ。大工の目で木造部分を見てもらえると心強い。二人一組で回れば効率がいい」


 ハインツとダグ。石工と大工のコンビで、上町の調査チームを作った。


 俺が全部やらなくていい。信頼できる奴に任せればいい。親方の仕事は、全部自分でやることじゃない。やれる奴を育てて、任せることだ。



    * * *



 夕方。作業場に戻った。


 カーラが風呂から上がってきた。


「ねえ親方。上町の貴族たちが大騒ぎしてるって聞いたわよ。自分の家がハリボテだったって」


「そうだ。外見に金かけて中身がスカスカ。下町のほぞ組みの家の方がよっぽどましだ」


「あはは。貴族様にざまあみろって感じね」


「ざまあみろじゃねえよ。直す側の身にもなれ」


「それはまあ……ご愁傷様だねぇ」


「他人事か」


 ルッカが鍛冶場から出てきた。


「親方。上町の改修に使う金具、先に作っておきますか?」


「L字金具とボルトを多めに頼む。上町の石造りは釘が使えないから、金具で固定する場面が多くなる」


「了解です。——あと、親方」


「なんだ?」


「メーリング卿の屋敷、中身がハリボテだったって聞いて思ったんですけど。新しく作り直すなら、大理石の板の裏にコンクリートを流したらどうですか。装飾はそのまま残せて、中身だけ頑丈にできます」


 ……お。


「ルッカ、それいいな。大理石の板を型枠代わりにして、裏からコンクリートを流す。城壁の被覆工法と同じ原理だ」


「はい! 外見はそのまま、中身だけ入れ替えるんです」


「貴族は見た目を気にするからな。装飾を壊さずに補強できるなら、文句も出にくい」


 ルッカがにこっと笑った。


 最近こいつ、よく笑うようになった。うちに来た頃はずっとおどおどしてたのが嘘みてえだ。


「よし。メーリング卿の屋敷で試してみるか。成功すれば上町全部に使える」


 ガルドが夕飯の鍋を覗きながら言った。


「親方、上町も下町もやるんだろ。いつ寝るんだ?」


「寝なくても死なねえよ、土方はな」


「いやいや、死ぬぞ普通に」


「……なら、今日のとこは寝るか」


 久しぶりにまともに布団に入った。三秒で意識が飛んだ。


 明日は上町の一軒目の改修に入る。メーリング卿の屋敷。大理石のハリボテを、本物の城に変えてやる。


 仕事は尽きねえ。

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