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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど
第一部 王都の親方

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親方、ダンジョンを開ける


 王都ローデンから東に歩いて小一時間。


 街道を外れて森に入ると、岩肌がむき出しになった丘がある。その麓に、ぽっかりと口を開けた洞窟——のはずだった。


「……完全に塞がってるな」


 ダンジョン「石喰いの穴蔵」。Fランクの冒険者でも潜れる初心者向けダンジョンで、中にはゴブリンやら大ネズミやらが湧く。素材の採取もできるらしく、下町の駆け出し冒険者にとっちゃ貴重な稼ぎ場だ。


 その入口が、落盤で完全に埋まっていた。


 岩と土砂が山になって、洞窟の口を塞いでる。高さはざっと三メートル。幅は五メートルほどか。見た感じ、天井部分の岩盤が割れて落ちてきたんだろう。自然崩落だ。


 入口の前には、冒険者が十人ほどたむろしていた。


 剣やら槍やらを持った若いのがほとんどだ。中には岩を蹴っ飛ばしてる奴もいる。苛立ってんだろう。稼ぎ場が塞がれたんだから気持ちは分かる。


 だが、問題はそこじゃなかった。


 瓦礫の山の手前に、二次崩落の跡があった。誰かが力任せに岩を引っ張り出そうとして、上の岩を巻き込んで崩したんだろう。引っ張り出した岩の横に、新しく落ちてきた岩が転がっている。


 ……危ねえな。下手したら死人が出るぞ。


 案の定、冒険者の一人が瓦礫に手をかけた。


「いつまでもこうしちゃいられねえよな……よし、こうなったら、でかいのを先に退かして——!」


「おい、そこの若いの。悪いことは言わねえから、今すぐやめろ」


 声をかけた。冒険者が振り向く。


「あ? ……なんだ、このおっさん?」


「それを引っ張り出したら上が崩れるぞ。――見ろ、その石の上に乗ってる岩が三つある。そいつが支えになってるんだ。下を抜いたら、全部落ちてくる」


 冒険者がきょとんとしている。見ても分からんか。まあ、分からんだろうな。


「崩落除去の依頼を受けてきた。棟方鉄だ。悪いが、ここからは俺に任せてくれ」


 ギルドカードを見せると、冒険者たちの顔が変わった。「技術職」の登録を見て首を傾げてる奴もいる。「技術職って、なんだ?」「さあ、なんかすげえ魔法でも持ってんじゃね?」大層な見当違いだが、まあいい。


 まずは瓦礫の山を観察する。


 崩落ってのは、見た目はめちゃくちゃでも構造がある。岩が落ちてきた順番、重なり方、噛み合い方——それを読めば、どこを抜けば安全に崩せるかが分かる。


 逆に言えば、読まずに手を出すのが一番危ねえ。


 瓦礫の山をぐるっと一周して、横からも上からも確認した。


 ……見えた。


 全体の構造はこうだ。天井から落ちた大岩が三つ、互いにもたれかかるように噛み合っている。そのすき間を中小の石や土砂が埋めてる。大岩が骨格で、細かい石と土砂が肉。この三つの大岩の噛み合いを崩さずに、周りの土砂と中小の石を先に抜いていけば、最後に大岩だけが残る。大岩は噛み合いが外れれば自重で転がり落ちるから、安全な方向に誘導してやればいい。


 要するに——外堀から埋める、の逆だ。外堀から抜く。


「お前ら、手を貸してくれ。ただし、俺の指示通りに動け。勝手に岩を触るな。約束できるか」


 冒険者たちが顔を見合わせた。


「……おっさんが何とかできんのか、これ?」


「できる。ただし手順を間違えたら死ぬ。だから、言うことを聞け」


 脅しじゃない。崩落現場で手順を間違えたら、本当に死ぬ。日本でもそういう事故は何度も見てきた。


 数秒の沈黙の後、冒険者の一人が「分かった」と頷いた。残りも続く。中には俺のことを気に食わなさそうに見てるやつもいたが、稼ぎ場が使えなくて困ってるのは、全員同じだ。


 ――作業開始。


 まず周辺の木を伐って丸太を確保する。ここでも支保工(しほこう)——つっかえ棒だ。崩落現場で最初にやることは、これ以上崩れないように仮の支えを入れること。昨日の井戸と同じ原理だが、規模が違う。


「お前とお前、この丸太を瓦礫の山の左側に斜めに立てかけろ。上の岩が動かないように押さえる。しっかり地面に突き立てて、角度はこのくらいだ——そう、それでいい」


 冒険者に指示を出しながら、俺は右側から土砂を掻き出していく。スコップなんざねえから、手近な板状の石をシャベル代わりにした。こういう応用は現場じゃ日常茶飯事だ。


 土砂を抜く。中小の石を一つずつ、噛み合いを確認しながら外していく。


「次。この石を真っ直ぐ手前に引け。横にずらすな、上の岩が動く」


「お、おう!」


「そっちの細長いやつは後だ。先にその横の丸い石を抜け。順番を間違えるな」


 冒険者たちが、おっかなびっくり従う。普段は魔物相手に剣を振り回してる連中だ。瓦礫の撤去なんざやったことがないんだろう。だが、指示通りに動く素直さはある。これなら使える。


 ――そんなこんなで、一時間半。


 外堀を抜き終えて、骨格の大岩三つだけが残った。こいつらはもう支え合いの力が弱くなっている。


「全員下がれ。ここからは俺がやる」


 大岩の噛み合いの要になっている部分——迫石(キーストーン)みてえな役割をしてる一つの岩に手をかけた。こいつを横にずらせば、残りの二つは自重で手前に転がり出る。


 ちなみに迫石(キーストーン)ってのは、アーチの頂上にはまってる楔形の石のことだ。こいつ一つで左右の石を押さえてる。抜けば全部崩れる。今回はアーチじゃなく崩落だが、原理は同じ。噛み合いの「鍵」を見つけて外す。


 丸太で転がる方向を誘導しつつ、岩をずらす。


 ゴゴ、と低い音がして——大岩が、ゆっくりと手前に倒れ出した。


「離れてろよ」


 二つ目、三つ目が続けて転がり落ちる。地面に鈍い振動。土煙が上がった。


 煙が晴れると——洞窟の入口が、ぽっかり開いていた。


 冷たい風が奥から吹いてくる。ダンジョンの空気だ。


「……開い、たぁ!?」


「嘘だろ!? 二時間かかってねえぞ!?」


 冒険者たちが呆然としている。


 一人が洞窟の中を覗き込んで、「通れる! 完全に通れるぞ!」と叫んだ。


 それから、わっと歓声が上がった。


 俺は座り込んで息をついた。汗だくだ。水が欲しいぜ。


「お、おい、あんたすげえな! 何者だよ!」


「土方だ」


「なに……ドカタ?」


「建物を作ったり直したりする仕事だ。崩落の除去も、その一つだよ」


 冒険者たちがざわついている中、一人の男がゆっくり近づいてきた。


 でかい。俺より背が高い。犬というか、狼に近い顔立ち。尖った耳に灰色の毛並み。獣人だ。身体つきは冒険者の中でも飛び抜けて大きい。


 さっきの作業中、こいつだけは黙って指示通りに動いていた。しかも一番重い石を一人で持ち上げてた。力だけなら、ここにいる冒険者の中で頭一つ抜けてる。


 だが——こいつの名前を、他の冒険者が小声で笑いながら言ってるのが聞こえた。


「ガルドだよ、あの脳筋」


「力はあるけど、それだけだろ」


「Fランクから上がれねえ万年カスだ」


 ……言いてえ放題だな。


 ガルドと呼ばれた獣人は、そういう声が聞こえていないふりをして、俺の前に立った。


「あんた……何であんなに手順が分かるんだ。岩の噛み合いとか、どこから抜けばいいとか」


「経験だよ。二十五年やってりゃ嫌でも分かるようになる」


「二十五年……」


 ガルドは俺の手を見ていた。工具のタコだらけの、ごつい手だ。冒険者の手じゃねえ。職人の手だ。


「お前、獣人の。冒険者やってどのくらいだ」


「……三年」


「上手くいってねえ顔だな」


 ガルドが唇を噛んだ。図星か。


「力はあんだろ。さっき見てた。あの岩を一人で持ち上げてたな」


「力だけじゃ冒険者は務まらねえよ。剣技も魔法もねえ、パーティにも入れてもらえねえ。力だけあったって……」


「そうか」


 少し考えてから、こう言った。


「お前、冒険者より『こっちの方』が向いてるんじゃねえか?」


「……こっち?」


「土方だ。力がある奴は重宝する。さっきだってお前が一番使えた。指示通りに動けるし、文句も言わねえ。力仕事に向いてる体格ってのは、それだけで『才能』だぞ」


 ガルドの目が、少し泳いだ。


 何か言いかけて、結局、何も言わなかった。代わりに小さく頭を下げて、その場を離れていった。


 まあ、今日のところはこれでいい。すぐに答えが出る話じゃねえ。



    * * *



 ギルドに戻って依頼完了の報告をすると、受付の嬢ちゃんが目を丸くした。


「たった二時間で……? あの崩落を、お一人で!?」


「手伝いはいたがな。報酬は、銀貨十五枚でいいんだな」


「は、はい! あの……少々お待ちください!」


 受付の奥に引っ込んで、しばらくして白髪の大男を連れてきた。ギルドマスターだ。


「お前さんが棟方か……話は聞いとる、どうやらあちこちで耳を疑うような活躍をしとるとな」


「いやいや、俺ぁ報酬をもらいに来ただけなんだが」


「まあ聞け。——うちに登録する気はないか? 戦闘職じゃなく、技術職として。正式にギルド所属になれば、依頼の幅が広がる。報酬の等級も上がる」


 技術職か。今の日雇い登録とは待遇が変わる。依頼を優先的に回してもらえるし、ギルドの設備も使える。


 肩書きなんざどうでもいいが、仕事がしやすくなるなら悪い話じゃない。


「……いいぜ。ただし、戦闘依頼は受けねえぞ」


「分かっとる、それでかまわん」



 こうして俺は、冒険者ギルド初の「建築士」になった。


 登録証の職業欄に『建築技術士(アーキテクト)』と刻印されるのを眺めながら、なんとも言えねえ気分になった。



建築技術士(アーキテクト)』ねぇ……俺ぁただの『土方』なんだが。


 まあ、異世界に来て半年。肩書きなんざなくても飯は食えてたが——悪くない。


 ギルドの入口で、ガルドがこちらを見ているのに気づいた。


 目が合うと、慌てて顔を逸らしやがった。


 ……まあ、そのうち来るだろ。ああいう奴は。


 外に出ると、肩の辺りで土精霊がふわふわ光っていた。いつの間にか、こいつもギルドまで付いてきてたらしい。


「お前もなんか登録するか」


 精霊がふわりと跳ねた。


 意味は分からんが、嬉しそうではあった。

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