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異世界土方建築無双 ~女神の加護? いらねえよ、俺にはコンクリがある~  作者: ぶらっくそーど


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親方、間に合わせる


 残り三日。壁は残り一キロ。


 三チームが同時に動いてる。ハインツの石工チームが型枠を組み、ガルドのチームがコンクリートを練って運び、ダグの大工チームが完了区間の型枠を外して次の区画に回す。


 俺は三つの現場を走り回って、全体を見てる。足が棒だ。ここ三日ほとんど寝てない。だが頭は冴えてる。こういう時に身体が動くのは、STR:Sの恩恵か。加護なしの転生者体質に、初めて心から感謝した。


 二十一日目の夕方。残り七百メートル。


 二十二日目の朝。残り四百メートル。


 ペースは予定通りだ。だが——


「親方! 第二区画、問題が出た!」


 トビーが走ってきた。


 現場に急行すると、型枠の中にコンクリートを流し込んでる最中に、内側の古い壁がぼろぼろ崩れてきていた。コンクリートの重さに耐えられず、古い石が内側に剥がれ落ちてる。


 ここだけ古い壁の劣化が特にひどい。コンクリートを流すための「内側の型枠」として使うつもりだったのに、壁自体が崩壊したら型枠がなくなる。コンクリートが流れ出てしまう。


「打設を止めろ! これ以上流すな!」


 作業員が手を止めた。


 考えろ、時間はない。この区画を飛ばすわけにはいかない。壁は全周が繋がってないと意味がない。一箇所でも弱い場所があれば、そこからドラゴンの衝撃で一気に割れる。


「ガルド、丸太を五本持ってこい! 急げ!」


「おう!」


 ガルドが丸太を担いで走ってきた。


「この丸太を壁の内側に突っ張れ。崩れてくる石を押さえる、支保工だ」


 支保工。一番最初にやった技術だ。井戸を直した時にも、ダンジョンの崩落を除去した時にも使った。崩れかけてる場所を、丸太で突っ張って支える。基本中の基本。


 だが、今回は規模が違う。高さ六メートルの壁を、内側から丸太で押さえる。


「ガルド、お前が丸太を支えろ。コンクリートが固まるまで離すな」


「何時間だ?」


「最低三時間」


「三時間丸太を押さえ続けるのか。——やろう」


 ガルドが丸太を壁に押し当てた。崩れかけた石が押し戻される。古い壁が安定した。


 その間にコンクリートの打設を再開。古い壁の崩れた部分にもコンクリートが回り込んで、隙間を埋めていく。固まれば古い壁を包み込んで一体化する。


 三時間。ガルドが丸太を支え続けた。腕が震えてたが、一度も離さなかった。


「……固まったか、親方!」


「もういいぞ、手を離せ」


 ガルドがゆっくり丸太を降ろした。壁は動かない。コンクリートが古い壁と一体化して、崩壊を止めてる。


「ナイスだ、ガルド」


「おう……もう腕の感覚がねえ……」


「休め、あとは任せろ」


 ガルドがその場に座り込んだ。他の作業員が肩を叩いていた。



    * * *



 二十三日目。


 最後の区画。


 残り百メートル。ここを被覆すれば、全周八キロの城壁改修が完了する。


 朝から全チームがこの区画に集中した。百人が一箇所に集まって、一斉に動く。型枠を立てる者、コンクリートを練る者、運ぶ者、流し込む者、養生する者。


 昼過ぎ。残り五十メートル。


 夕方。残り二十メートル。


 日が傾いてきた。西の空が橙色に染まっていく。


 残り十メートル。


 五メートル。


 最後の型枠にコンクリートが流し込まれた。表面をコテで均す。左官の手が自然に動く。滑らかに、丁寧に。急いでいても仕上げは手を抜かない。これが、職人ってもんだ。


 そして遂に、その時は来た。


「全周——終わった」


 俺は目の前の城壁を見上げた。


 あんなにボロボロでガタガタだった全ての壁が――綺麗に補強されている。


 それから百人分の歓声が、王都の空に響いた。


「終わったぞーーー!!」


「俺たち、本当に……!」


「全周完了だーーー!!」


 作業員たちが抱き合ってる。泣いてる奴もいる。二十五日——いや、改修全体で言えば三ヶ月以上。ずっと走り続けた日々が、今終わった。


 ハインツが俺の前に来て、握手を求めた。


「棟方、やり遂げたな!」


「だが、俺ひとりのおかげじゃねえ。お前らのおかげだ」


「謙遜するな。お前がいなけりゃ、この壁は存在しなかった」


 ダグが後ろから肩を叩いた。


「棟方、打ち上げだ! 酒は俺が出すぞ!」


「……ありがてえが、その前にやることがある」



    * * *



 一人で壁を歩いた。


 全周八キロ。北面から時計回りに、壁の上を歩いて回る。最終点検だ。


 北面。ドワーフの噛み合わせ工法で積み直した区間。石と石が溝で噛み合い、コンクリートで固定されている。叩くと、重く低い音。完璧だ。


 東面。同じくドワーフ工法。夜襲の夜に応急で塞いだ区間は、後から積み直して仕上げてある。あの夜のガタガタの壁は、今はもう跡形もない。


 南面。コンクリート被覆工法。古い壁の外側を三十センチのコンクリートが包んでいる。灰色の表面が夕日を受けて、鈍く光ってる。


 西面。同じくコンクリート被覆。最後に完成した区間。コンクリートはまだ完全には固まってないが、一週間もすればカチカチだ。


 八キロ。二時間かけて歩き通した。


 異常なし。ひび割れなし。傾きなし。


 壁の上から王都を見下ろした。夕暮れの街。下町の長屋、市場の灯り、浴場から立ち上る湯気。


 今日から、この壁が守る。


「……よし!」


 壁から降りた。


 作業場に戻ると、全員が待っていた。ダグが約束通り酒を持ってきてる。ガルドがでかい鍋で汁物を煮てる。リルが精霊たちと楽しそうに話してる。ルッカが壁を歩いてきた俺の靴を見て「また靴底が減ってる、直します」と言ってる。カーラが一番いい場所に陣取って既に飲んでる。


「親方、お疲れさん!」


「ああ、お前らもな」


 杯をもらった。この世界の酒は正直あんまりうまくないが、今日は——うまい。


 ガルドが立ち上がった。



「親方に乾杯だ! 城壁を作り直した男に!!」


「「「親方に!!」」」


「「「乾杯!!」」」



 それから、宴が始まった。


 これまでの苦悩を分かち合いながら、酒を飲み、笑みをこぼし、好き放題騒いでやがる。


 ……くそ。目にゴミが入りやがった。


 でっけえ仕事を終えた後の打ち上げは、なんでこんなに良いもんなんだか。



「あ? ……なんだありゃ」


 杯を空けて、空を見上げた。


 星が出てる。北の空に——


 赤い光?


 さっきまでなかった光が、北の空の低い位置に見えた。


 星じゃない。もっと大きい。もっと近い。


 そして——音が来た。


「おい、なんだ!?」


「この声……いったい何のモンスターだ!?」


 空気を引き裂くような、低い咆哮。


 グラオス山脈の方角から。遠いが——はっきり聞こえた。


 全員の動きが止まった。杯を持ったまま、北の空を見上げてる。


 カーラが立ち上がった。酒の入った杯をそっと置いて、剣に手をかけた。


「……来たわね」


 ガルドの耳がぴんと立った。獣人の聴覚が、俺たちに聞こえない音を拾ってる。


「親方……でかい。ワイバーンじゃねえ、もっとでかい」


 大型ドラゴン。


『竜降ろし』。


 四年ぶりの——本物が来る。


 俺は城壁を見た。今日完成したばかりの壁。コンクリートと石灰岩とドワーフの知恵で作り直した壁。


 持つか。


 持たせる。


「全員聞け、打ち上げは中止だ!」


 この場にいる全員が俺を見た。


「これから、この壁の上で一番でっけえ仕事が始まる。——準備しろ!」


「「「はい!!」」」

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